幕間-勇者の独白5
商人を名乗る男から、妙な薬を貰った翌日。男が再びやって来て、金と装備を置いていった。
私はパーティに昨日の出来事を伝え、装備を身につけるよう指示する。
皆、納得してくれて身につけてくれた。
アーカル伯爵から紹介してもらった、アクセルという名の新しい魔術師を加え。私達のパーティはまた五人になった。
金と装備も何とかなった。後は依頼さえ達成できれば私達は前に進むことができる。
漠然とした不安を振り払うように頭を振り、私達は再び依頼を受けた――。
「――くそっ。ライデン、そっちのデカいのは任せるぞ!」
「分かったが、長くは持たん。援護はまだか!」
レッドグリズリーの群を相手に奮戦をする。良い装備を身につけたおかげなのか、敵の攻撃を何とか受けることができていた。
そうして、耐える間に魔術による援護が間に合う。
今回の依頼では、私達は何とか魔物を倒すことができていた。
はやる気持ちを抑え、一歩一歩、進んでいく。
そうして、辿りついた討伐対象。
リザードマンの群との戦いに挑む。
ミレーユが抜けたとはいえ、パーティの構成は変わっていない。いつもと同じ戦法で戦う。それぞれが役割をこなし、一匹、一匹とリザードマンを倒していく。
久しぶりの勝利が見えた時、絶望がやってきた。
魔術師二人の魔力が切れたのだ。
リザードマンと戦うまでに魔術を使い過ぎたことが原因だった。
後衛の援護が無くなり、一気に私達は不利になった。息切れする二人を庇いながら、リザードマンを倒す力は私達には無かった。
ナターシャも必死に回復してくれるが間に合っていない。このままでは全滅してしまう。
何か、手はないか。必死に考えた時に思い出す。あの男が置いていった特殊な妙薬を。
肉体を更に強くする、と言っていた。
胡散臭いこと、この上無いが。もし、仮に。男の言っていたことが本当であれば、この場を切り抜けられる力が身につくかもしれない。
どっちみちこのままでは全滅してしまう。迷っている暇は無かった。
私は懐から瓶を取り出し、一気に飲み干した。
味は普通の水と変わらない。やはり嘘だったか。
そう思った時、異変は生じた。
暑い。体の奥から熱が発生しているかのようだ。
リザードマンが迫り来る。動きが鮮明に見える。私はその一撃を躱すと、剣を振るい切りつけた。
まるで、バターを切りつけるが如く、刃が通る。リザードマンの胴体が二つに別れた。
周りで皆が何かを言っているが、耳に入ってこない。気分が高揚したまま、私は残りのリザードマンへと襲い掛かった。
切っては躱し、受けては切る。次々とリザードマンを屠っていく。
気づいたら、敵は居なくなっていた
私達は久しぶりに依頼を成功させたのだ。
☆
それからの私達は、依頼を連続で成功させることとなる。
薬は暫く経つと、その効力を失うため。商人の男に頼み、大量に分けてもらった。
強力な魔物と戦う際に、薬を飲む。それだけで力が湧き、魔物を狩ることができた。
依頼を成功する達成感に酔いしれる。これがあれば、私は何者にも負けない。
「――おい、ルノアール。お前、最近変だぞ」
そんな私の気分に水を差したのは、ライデンだった。
Bランクの依頼を達成した夜。皆で酒を飲んでいる場での一言。何故、こんな気分の良い時にそんなことを言うのか。
「私は別に変では無いさ」
「いいや、変だ。なんというか、今のお前は、お前じゃないみたいだ」
こいつは何を言っている?
「私は私だ。変なことを言うな。そんなことより、今は気分が良いんだ。飲もうじゃないか! なあ、皆?」
「いえ、ライデンの言う通りです。最近のルノアール様はおかしいです。それに……あの薬は何ですか?」
ナターシャも私を変だと言う。一体、何が変だと言うのか。教えて欲しいものだ。
「あの薬? あぁ、あれはあの男から貰ったのだよ。素晴らしい薬だ。あれのおかげで、魔物を狩ることができるのだからな」
「それがおかしいんすよ。飲むだけで強くなるなんて聞いたことが無いっす。絶対に怪しいっす。あの男は何なんすか?」
ユーゴまでもが、おかしいと訴えてきた。どうやら皆、既に酔っているようだな。
「あの男は商人だよ。私達に援助をしてくれているのさ」
「どこの商人だ? 店の名は? どこにある?」
どこの商人だと? そんなもの。決まっているではないか。
「あの男は、あれだよ。……何だ? そう、あれだ」
答えようとしたが思い出せない。あれ、何だ。……まあ、いいか。今はそんなことどうでもいい。
「……まあ、良いじゃないか。それより皆、飲もう! 今夜は気分が良いんだ」
「ルノアール……お前……」
笑いながら酒を飲む。ふと気づいて周りを見れば。
いつの間にか、皆が私を変な目で見ていた。
何だ? 気分が悪くなるじゃないか。
「……ルノアール様。これ以上、あの薬を飲んではいけません」
「何を言っているんだ? あれが無ければ、魔物を狩れないじゃないか。あれは、私達に必要なんだよ」
「しかし、どうみたっておかし――」
「おかしくなんかない!」
持っていたコップで机を叩く。一言、怒鳴ると皆が押し黙る。
何なのだ。こいつらは。楽しく酒を飲んでいたというのに。全く、気に食わない。
「そこまで、文句を言うなら。もう知らん。勝手にするが良いさ。私も好きにさせて貰う」
「なっ。おい、ルノアール――」
「装備はくれてやる。何処へなりと行くがいいさ」
私は席を立つと、金だけ置いて、その場を後にした。
うるさい連中と手を切れて清々する。
何、あのエルヴェですら一人で冒険者をやれていたのだ。私にだってできるさ。何せ、私にはこの薬があるのだからな。




