26 学園での騒ぎ
叙勲式の翌日、俺は学園へと向かった。
課外活動で魔物に遭遇した学生達は、精神的に不安定な状態にあったため。大事を取って、授業は休みとなっていた。それが、明日から再開するとのことで、その準備をするための出勤だった。
学生達のいない廊下を通り、職員室へ入る。
「おはようございます」
挨拶をする。違和感は数秒後にやってきた。
何か、静かだ。
いつもなら、挨拶をしたら。何処からともなく、挨拶が返ってくるのに、今日は来ない。
気になって、周りを見ると。視線とぶつかった。
皆が、じっと俺を見ている。
「えーと。どうしました? 皆さ――」
「カノンちゃん! おはよう!」
困惑して、尋ねようとした瞬間。体全体に衝撃がきた。次いで、何かに抱きしめられる。
その声から、抱きついてきた人に目星がつく。柔らかな膨らみが顔に当たっていることに、焦りながらもがくと。その人は意外とすんなり、俺を離してくれた。
「カノンちゃん。聞いたよ! 魔族、やっつけたんだってね」
体を離して、そう告げた人を見る。予想通り、ニア先生だった。
「やっつけたんじゃないですよ。足止めしただけです」
「そうなの? それでも凄いね!」
「――カノンさん、おはよう」
ニア先生の言葉を訂正していると、クレア先生が会話に混ざってきた。それを皮切りに次々と他の先生が集まり、挨拶してくれる。急な変化に戸惑っていると、皆が魔族と戦ったことを労ってくれた。
どうやら、先程は俺に話しかける機を窺っていたようだ。普段、話をするのはニア先生やウィルソン先生、それにクレア先生くらいだったので、いきなり話しかけることに躊躇していたらしい。
特にクレア先生から、念入りにお礼を言われたため、俺も丁寧に答える。それ以外の人は好奇心から話しかけてくる人が多かったので、程々に返事をしつつ。明日からの授業の準備を進めた。
暫く仕事をしていると、学園長から呼び出しがかかった。
今まで会ったことも無い、学園長との面会。
魔族の件での呼び出しかと想像しながら、学園長室へと向かう。
学園長室は学園の中でも一際、豪華な部屋だった。床一面に敷かれた絨毯。家具は執務机と壁際の棚のみとシンプルだが、どれも高級感が漂っている。
その机の奥に座る学園長は、単眼鏡をかけたお爺さんだった。白い口髭を貯え、眼光が鋭い。
呼び出しの理由はやはり、魔族のことだった。
学生達を守ってくれたことについて、お礼を言われる。その後、臨時講師ではなく、正式な講師として働かないかと尋ねられた。
俺の目的は学園の図書室で、元の体に戻るための手掛かりを探すことだ。
そのための臨時講師であり、講師になりたいわけではない。断って、今後の仕事がやりにくくなっても嫌だったので、考えさせてくれと言い、退出した。
そのまま、職員室へと戻り、仕事を続ける。やるべきことを終えた後、図書室で少し、調べてから帰宅した。
次の日、授業が再開し。
俺は大勢の学生から絡まれた。
俺が魔族と戦ったことを、何故か皆が知っていた。直接見ていた学生はまだ分かる。だが、何故見てない学生達まで知っているのか。
揉みくちゃにされながら、俺は学生達に情報が伝わる速さに恐怖した。
流石に授業は、真面目に聞いてくれたが。休み時間になる度に突撃される。
辟易した俺は、今日の担当する授業を全て終えた後、学園の図書室へと逃げ込んだ。
ここなら、利用者は少ないので、見つかりにくい。万が一見つかっても、図書室では静かにしなければならない、というルールが俺を守ってくれる。残っている仕事は、学生達が帰った後にやればいい。完璧な作戦だ。
「お、英雄さんじゃないか」
「こんにちは、シャルナークさん」
部屋に入るとシャルナーク先生が声をかけてきたため挨拶を返す。彼は以前と変わらず俺と接してくれる、貴重な人だ。
「今日も魔術書を読ませてもらいますね」
「はいよ。読みふけりすぎて、帰るのが遅くならないようにな」
「はい。まだ仕事が残ってるんで、程々で戻ります」
いつものやり取りをして、魔術書が収められた三の区画に入る。
今日はこの棚の続きからだ。魔術書を手に取り、読書スペースに腰掛ける。杖は机の横に立て掛けた。
図書室に収められた魔術書には、様々な物がある。
よく知っている魔術について書かれた物、実用性皆無の魔術を集めた趣味に類する物、過去の偉人が作り出したとかいう眉唾な物。この中でも趣味の本と眉唾物な本を集中して確認していく。
それらの本には、えてして興味深い魔術について書いてあったりする。空を飛ぶ魔術や、治癒師でも無い人間が回復の魔術を使う方法。
そういうのを見つける度、興味が湧き、読み進めるのだが。消費魔力が高すぎて使えなかったり、魔法陣の構成の段階で出鱈目だったりする。
そんな訳で、色々と目移りしながら読むため、一冊一冊にかかる時間は長くなる。仕方ない。面白そうな魔術があれば興味を引かれるのは魔術師の性なのだ。
そんな言い訳を自分にしながら手元の本を読み終える。本を閉じながらため息を吐いた。
この本にも手掛かりは載ってなかった。
気を取り直して、新たな本を手に取ろうとした時。真向かいの席に人が座っていることに気づいた。
「やっと気付いてくれましたね、カノン先生」
そこには腕を机に乗せ、俺を見て微笑んでいるアイリス様がいた。




