幕間-勇者の独白4
ナターシャとの会話で自信を取り戻しはしたものの。
翌日以降の依頼は相変わらず酷いものであった。
何とかCランクの依頼をこなす毎日。Bランクの依頼を受けようと提案すると必ず、ミレーユが前衛をもう一人入れろと訴えてくる。
そんなこと、できるはずがない。
結果、Bランクに挑むことすらままならなくなった。
「――私達が、降格だと?」
ついには、今日。ギルドからBランクへの降格を言い渡された。
「はい。Aランク以上の任務を一定期間、達成されておりませんので。ルノアール様はBランクの任務も最近は達成されておりませんので、このままではCランクへ降格となります」
もはや、一刻の猶予もない。Bランクの依頼を受けなければ。
しかし、ミレーユは絶対に反対するはずだ。
ここは、しっかりと話し合わなければならない。
私は酒場にて、もう一度話し合いの場を設けた。
「改まって話しをさせてもらう。皆、Bランクの依頼を受けよう」
「受けるなら前衛がもう一人いる。何度も言ってる」
私が提案すると、ミレーユが間髪入れず否定してきた。
「だから、何度も言っているが。前衛はこれ以上必要ないんだよ。なぜ、それを理解してくれない?」
「ルノアールこそ理解してない。エルヴェがフォローしてい――」
「エルヴェ、エルヴェとうるさいな! あいつはもう居ないんだよ。そんな奴のこと、いつまでも口にするんじゃ無い!」
我に返ったのは、怒鳴った後だった。慌てて、周りを見る。皆が驚いた表情を見せていた。
ただ一人、無表情でこちらを見つめるミレーユ以外。
「そう。あくまで認めないの」
ミレーユが静かに話す。
「いや、すまない。つい感情的になってしまった。もう落ち着いたから改めて話し合おうじゃないか」
「必要ない」
ミレーユが立ち上がる。
「パーティを抜ける」
帽子を被りながら、ミレーユが言った。
「なっ。何故だ。別に君がこれまで失敗してきたわけではないだろう」
「このパーティではこれ以上やれない」
「しかし、ここを抜けても行く当てなんかないんじゃないのか? 君は冒険者になってから、ずっとこのパーティでやってきたじゃないか」
「昔の伝ぐらいある」
引き留めようとしたが、意志は固そうだ。
「しかし、今君に抜けられると私達が困る。もう一回だ。もう一回、一緒にやってみないか? それで駄目なら――」
「何回、そのもう一回を繰り返すの? 悪いけど、私はまだ死にたくない」
普段、言葉少なめな彼女が今日は良く喋る。
これ以上の説得は厳しそうだ。周りを見ても、誰も仲裁に入ろうとしない。その態度に苛立つがどうしようもなかった。
「私は邪魔でしょ? 居なくなるからBランクでも好きに受ければいい」
結局、ミレーユはパーティを抜けた。
だが、これはこれで良かったのかもしれない。本人も言うとおり、Bランクへの挑戦を最も拒んでいたのはミレーユだ。その彼女が居なくなったのなら、Bランク挑戦へのハードルはぐっと下がる。
念のため、他のメンバーにもどうするか尋ねる。
ライデンには、脱退の意志は無かった。あいつとは子供の頃からの付き合いだ。この先も付き合ってくれるようだ。
ナターシャは、勇者を支えるのが自分の役目だと言った。回復役の彼女がいれば何とかなるだろう。
ユーゴは、紹介してくれた伯爵の顔に泥を塗れないから、抜けないと言った。嫌ならば抜けろ、と言いたかったが、抜けてしまうと更に戦力が下がってしまう。利用できるだけ、利用しよう。
ひとまずは減ったメンバーを補充しなくてはならない。
私はアーカル伯爵の元へと出向いた。
「良いだろう。魔術師をもう一人紹介すれば良いのだな?」
「ありがとうございます。仰る通り、魔術師を紹介頂きたいです」
「分かった。前と同様、追って合流させる」
「お心遣い、感謝します」
伯爵は直ぐに協力を約束してくれた。併せて、資金の援助を依頼する。何せ最近はCランクの依頼ばかりを受けていて、入る金が少なかったのだ。
「分かった。だが、これ以上Bランクの依頼にも手こずるようであれば。次回は無いと思ってくれ」
「はっ? あ、いえ。しかし――」
「言い訳は良い。援助が必要であれば、結果で示してくれれば良い」
「は、はっ。必ずや次回は」
何とか、援助は取り付けられたものの、次は無いと釘を刺されてしまった。
くそ、これも全てミレーユが悪い。
夜、一人で酒を飲む。
金は無い。が、酒を飲む量は増えた。ままならない状況が嫌になり、酔いに逃げる。
とにかく、次だ。次の依頼を確実に成功しなければならない。
「もし、貴方は勇者様ではないですか?」
私に一人の男が問いかけてきた。へらへらと笑いながら近づいてきたそいつは非常に胡散臭かった。
「何だ、冷やかしなら帰れ」
「いえいえ、冷やかしなんかじゃありません。かの有名な勇者様に用があって出向いてきたのです」
そう言うと、男は酒を二つ頼み、一つを私に寄越してきた。
受け取るか迷ったが、話だけは聞くことにする。男は商人だと名乗った。
「商人が私に何の用だ」
「本日は勇者様にご提案がありましてね」
「提案だと?」
「はい、勇者様方には私共の広告塔になって頂けないかと」
「広告塔? どういうことだ」
男は言った。金と装備をパーティの代わりに工面すると。要は援助をしようと言うのだ。
「……条件は何だ?」
「何、大したことではございません。提供させて頂くのは私共が販売している装備なのです。ですから……」
「その装備を宣伝しろということか」
「流石は勇者様。察しが良くて助かります。声に出さずとも、装備して頂くだけで宣伝になるので構いません。それさえ守って頂ければ、我々が最大限援助させて頂きます」
男が言ったことについて落ち着いて考える。
条件は男の店で販売している装備を身につけ、宣伝するだけ。それだけで金を援助して貰える。
悪い話では無い。
アーカル伯爵からの援助が途絶えそうな今、別な資金提供口は喉から手が出るほどに欲しい。
気づけば、男が寄越した酒を口に運んでいた。美味い。久しぶりに酒を美味く感じた。
俺は口の中で味わっていた酒を飲み干すと、男に告げた。
「いいだろう。その話、のろう」
「ありがとうございます。勇者様なら必ず、英断して頂けると信じておりました」
男が破顔する。そして、懐に手を差し入れると、一つの瓶を取り出した。
「では、早速。勇者様だけにお渡ししておきたい、特殊な薬が御座います」
「薬だと?」
「はい、私共が極秘に開発した妙薬です」
「どういう物なのだ?」
「これを飲めば立ち所に傷が回復し。加えて、肉体を強化し更に強くする効果があるのです」
傷を即座に回復し、肉体を強化する薬だと? 何とも胡散臭い話だ。
「信じられんな」
「そのお気持ちは分かります。ですが事実なのです。
傷ついた肉体には回復する時、より強い肉体になろうとする力が働きます。私共は超回復と呼んでいるのですが。この妙薬はそれを人為的に発生させられるのです」
損になるものではないので、持っておいて下さいと、テーブルに置き男は去っていった。
胡散臭いが、話としては筋が通っていた。使うかどうかはともかく、あの男の言う通り、持っている分には構わないだろう。俺は瓶を懐にしまうと、酒を飲み干した。




