第4話 家出
転生して1日目。
森に転生した私は、とある国の王女の護衛役になり、その王女と共に国から逃げていたら、宿泊先の宿であっけなく捕まった。
それからどれくらい経ったかは分からないが、私は気づけば牢の中にいた。――浴衣姿で。
「何でぇ?」
監獄に私の声が響いた。かなり反射してるし、おそらく地下なのだろう。
牢は石作の部屋で、かなりジメジメしている。だからなのか、たまに天井から水滴が落ちてくる。
自分が浴衣だと言うこともあって、牢の中はかなり寒い。水滴が当たった時なんて、小さく悲鳴を上げてしまう。
私は自由にのびのびと暮らすことを望んでいたのに、なんでこんなことに。
幽鬼も奪われた今、私にできることなんて牢の壁であみだくじをすることぐらい。壁がかなりでこぼこだから、これが意外と楽しい。
ふと、静かな地下牢に話し声が響く。その後、足音がこちらに近づいてきた。
「これ、おまえさんの持ち物かい?」
そう声をかけられ、私は後ろを振り向く。
そこに居たのは、幽鬼を握った老人。老人は――軽装だが――かなり豪華な鎧を着て、腰のベルト部分には、外見だけでも高価だと分かるぐらいの剣を一本挿している。
「そうですけど。……どちら様ですか?」
「儂は剣豪と言う二つ名で世界に知られている、ガウルという剣士だ。早速本題に入るが――この剣を儂にくれぬか?」
かなり真剣な表情で見つめてくる。
そこまで真剣なら、あげてもいいけど――かなり大切なものだし、ただであげるのはなぁ――。
言葉には出さなかったが、顔にはでていたらしく。何かを悟った老人は、腕輪のようなものを取り出した。
「何ですかそれ?」
「『空間の輪』。魔道具の一種で、使い方は幽鬼と同じような感じだ――性能は全く違うがな。それに、これは『無の魔力』を使えるものにしか使うことができない上に、魔力量によって性能が変わる。空間移動だけ使えるものもいれば、空間自体を操れるものもいる」
「へぇ。……私ならそれを使いこなせるの?」
老人は大きくうなずく。
魔力の量が多いのは分かるけど、私の魔力が無の魔力っていうのは心当たりが――あった。
キャラ設定の時、魔力の相性とかを考えるのが面倒くさくて、バランスのいい無属性にしたっけ。
「それに、これはアリアの意思でもある。あの子はおまえさんと旅をすることを望んでいる」
「アリアが? まだそんな事考えてたんだ。――はぁ。仕方ないから、王様ぶっ飛ばして連れてくか」
「ぶっ飛ばす工程は必要なのか?」
「なんとなく自分がしたいから」
「そうか……一応、娘を除いて民からの信頼は熱いから、敵対はするなよ」
「それはぶっ飛ばすなと言っているのと同じでは?」
「確かにそうなるな。ま、後はおまえさんしだいだな」
老人は笑いながら、その場を去った。――てか、確認は? まだ私承認してないんだけど。渡すけどさぁ。
私は老人から渡された腕輪を右腕にはめた。確かに、肌に触れたときの感覚が幽鬼と似ている。
「これで、魔法が使えるわけだけど。……多分自由に使えるよね、多分。とりあえず抜け出したいから――」
私はアリアの魔力を頼りに、アリアのいる場所までワープした。
意外にもあっさりと成功。移動先は玉座がある、王の間だった。
なんかの式典の方最中らしく、大勢の人が集まっている。そんな中突然、部屋の真ん中に捕らえたはずの私が現れたとなると、大騒ぎになるに違いない。実際、そうなったけど。
そんな事は気にせず、私はアリアの方を向いて手を振った。
「迎えにきたよ、アリア」
「……レイ……どうして」
――おそらく驚きと感動で――アリアの目から涙が溢れている。
「罪人! 貴様どうやって――」
「うるさいなぁ。今はアリアと話してるんだけど」
私は勢いよく腕を振り上げた。その瞬間、床が生き物のように動き、牢のようなものを作り出した。
なんとなくでやってみたが、まさか成功するとは――。
「……空間の輪、か。どこでそれを手に入れた?」
私が現れて、驚いたり、慌てたりしている皆と違って、全く動じていなかった王が口を開いた。
「儂が渡した」
突然、後ろの大きなドアが開き、先程の老人が現れた。
速くない? 牢からここまでかなりの距離なかったっけ?
剣豪だというのは本当らしく、その場にいる私以外の全員が動揺している。
「父上、一体どういうことだ?」
「孫の願いを叶えたまでだ。そうだろ? アリア」
アリアは何かを言いたそうだが、なかなか言い出せずにいる。おそらく、父である王の圧が凄いのだろう。ならば――。
「――いきなりどうした? 罪人。なぜ我に刃を向けた?」
隙を突いたつもりだったが、私の攻撃は見事に受け止められた。流石は王なだけある。
「私がここにきた理由の二つ目が、あなたを思いっきりぶっ飛ばすことだから」
剣豪登場時以上の動揺が走る。その場にいる王、剣豪、私以外の全員が固まった。剣豪は下を向き、クスクスと笑っている。
「我をぶっ飛ばすだと? 面白い。やってみるがいい!」
王から覇気のようなものが溢れる。かなりの圧が私にかかる。しかし、私はその圧には屈することなく攻撃を仕掛ける。
「なるほど、普通の人間なら屈する我の覇気を耐えるか」
「そうやって恐怖や力で他人を支配しようとする人の、本気で何かを恐れたりしている姿を見るのが大好きだから。私」
「それを満面の笑みで言うほどの狂人に、大切な娘は預けられんな。この戦い、必ず勝つ」
一進一退の戦い。剣豪が親なだけあって、剣の腕はかなり高い。距離を取ってもすぐに詰めてくる。それに、一太刀の威力がかなり大きい。床や柱などに当たる度に、その部分が砕けている。
それに対し、今の私の服装は浴衣名上に、魔法しか使えない。かなり動きづらいし、まだ使い慣れない。――正直、せめて浴衣を脱ぎ捨てたい。
そのまま数時間戦い続けた。勝敗の決め手となったのは私の一撃。
力の使い方に慣れてきた私が放った、次元刀。「できるかなぁ」ぐらいの気持ちで放った一撃が、周りの柱ごと、王の剣を一刀両断した。
「……我の負けか。分かった。娘の意思を尊重しよう。――アリアよ。そなたは何がしたい?」
圧の無い、かなり優しい言葉。おそらく、王としてではなく、親としての質問なのだろう。
「……私は、レイと世界を見たいです。許可なんていりません。勝手にここを出させていただきます」
「分かった。勝手にするが良い。だが――」
王がアリアに耳打ちした。その言葉を聞いたアリアは必死に頷いている。何言われたのか凄い気になる。
「レイ、行きましょう」
「了解」
王と剣豪以外の全員がアリアを必死に止めようとしているが、アリアはそんなの気にせず、颯爽とその場を去った。王は最後まで何も言わずに佇んでいた。
「家出再開……なのかな?」
「許可を取っていないので家出です。――準備完了! 行きましょう、レイ」
冒険者用の装備を身にまとったアリアが、何かを見つけて興奮する子供のように手を引っ張ってきた。