第3話 精霊の町
あれからしばらく森を歩き、辺りがすっかり暗くなった頃。私達は森の中にある、大きな町に着いた。
この世界に来て、初めての町。夜の森に比べて、かなり明るい。それに、人もかなり行き交っている。
「精霊の町。あるとは聞いていましたが、本当にあったとは」
「そんなに珍しいの?」
「別に普通です。私の場合は、一度も国の外に出ていないので」
そういうことか。――まぁ、王女ともなれば、それぐらい大切にされるのは当たり前だろう。
目の前に広がる綺麗な町並みに見とれて、入り口でたたずむ二人。すると、近くを通りかかった女性――おそらく精霊――が話しかけてきた。
「ようこそ、精霊の町へ。良ければ宿まで案内しましょうか?」
「ありがとうございます。よろしくお願いします」
そうして案内されたのは、木の上にある木製の大きな宿。中にはいろんな種族の客がいた。かなり有名な宿なのだろうか。
「いらっしゃいませ。何泊されますか?」
「明日まで一泊、一部屋お願いします」
「1000ゴールドです」
私はアリアをじっと見つめた。
その視線で察したのか、アリアは呆れた顔をしながら、きっちり1000ゴールド払ってくれた。
部屋の中は二人で使うのはもったいないぐらい広く、旅館のような内装だ。窓からは町の様子が一望できる。町はランタンの明かりでライトアップされていて、クリスマスなどのイルミネーションのように綺麗だった。
私は部屋中を探索した。一人用の小さなお風呂、お湯の入ったポットと茶葉の入った袋、浴衣の入ったクローゼット。――浴衣。
「よし、お風呂入るか!」
私は浴衣とタオルを持ち、大浴場に向かった。
アリアは、私のあまりの突然な行動に驚きながらも、急いで準備をして後を追ってきた。
大浴場は宿を支える木とはまた別の木の上にあり、そこからは湯気が空高く立ちこめている。
私達は脱衣所で服を脱ぎ、浴場に向かった。浴場はサッカーコートぐらい広く、露天風呂になっていて綺麗な夜空が見える。それに、多種多様な種族が大人数いる。
それを見て緊張したのか、アリアは私の後ろにぴったりとくっついている。
自分が元男だということもあって、かなり落ち着かない。
「体を洗えないんですけど」
「じゃあ、洗わないでください」
「なんでよ。洗わせてよ。――てか、いつもあんな偉そうなのに、どうしたの?」
「こういうお風呂は初めで………。皆様は恥ずかしくないのですか?」
「そういう場所って分かってるから、皆。恥ずかしいなら、部屋のお風呂使ったら?」
「それならあなたもそうしてください。護衛役なのですから」
「それは嫌だ」
私はきっぱりと答えた。
しばらくそのままにしていたが、なかなか離れなかったので、仕方なく無理やり引き剥がした。
見た目は自分と同じくらいの歳なのに、中身は子供みたい。
体を洗い終えた私達は、浴場の中で一番大きい浴槽に入った。
久しぶりのお風呂。かなりの距離を移動した後だから、お湯が身体に染み渡る。
「……これが宿のお風呂。城のものと違少し違う気がします」
アリアがお湯を手ですくい上げながら言った。
「そりゃ、場所によってはお湯に何かしらの工夫をしてるところもあるから」
「なるほど……他の所も行ってみたかなってきました」
出会ってから数時間、初めて笑顔を見せてくれた。この世界にカメラがあったら良かったのに。
私達はしばらく温泉につかった後、浴衣に着替えて外に出た。
久しぶりの温泉で、頭がふわふわしてる。幸せ。
――しかし、その幸せな時間も長くは続かなかった。
「見つけたぞ、アリア」
「お父様………」
まさかの出待ち。
アリアの父だと思われる人物は、鎧姿で、1人で廊下のベンチに座っていた。一見するといい人みたいだけど………。今は幽鬼も無いし、あってもこの場では、周りに被害が出かねない。それに、こんな所に王が1人で来るわけがない。おそらく外に兵士がいる。
もう少し距離を取るべきだったか。
そんな事を考えていると、王が立ち上がり。
「帰るぞ」
そう言って王は、私達の背後に回った。私は後ろを振り向こうとしたが、いつの間にか意識を失っていた。