第2話 出会い
森の中腹辺り。気づけば辺りは暗くなり始めていた。
ふと、少しの明かりと、そこから煙が上り始める。誰かが焚き火でも始めたのかな?
私は進路を変え、その場に向かった。
そこでは、金髪碧目で、この森には不釣り合いな服を着た女の子が、焚き火をしていた。――どういう状況?
「あのー。遭難でもされたんですか?」
「いいえ。――あなたはこの森についてどれぐらい知っていますか?」
「この森? ……全く。でも、どっちに行けば町に行けるかは分かります」
「その町には城がある?」
「ありますね」
「なら別の町を探してださいます? 報酬ならいくらでも出しますので」
「探すぐらいなら……報酬もいらないですよ」
探しに行くためその場を動こうとすると、女性が立ち上がり。
「あなたを護衛役に任命します。私も連れていってください」
まるで召使いに命令するように言った。
あまりの偉そうな態度に不満そうな表情を浮かべる。
「なんです? その表情は。私が誰か分かった上での表情?」
「知らない。だから、私の気分次第でどうとでもできる。……知っててもするけど……」
女の子は高らかに笑った。
そんなに有名人なのか、この子は。
「まさかこんな所で、こんなに面白い方と出会うとは」
「面白いって……どこが。てか、結局誰なの?」
「我が名はアリア・アルバード。あなたが行こうとしていた国『アース』の王女よ」
「へぇ。で、その王女が何でこんな所に?」
「アリア様、ここに居ましたか。さあ、戻りましょう」
突然、木の陰から甲冑を着た――おそらく例の国の騎士が現れた。
「何度も言わせないで、あんなやつの居るところになど戻りません。あなた、全員蹴散らしてくださいます?」
「私には――レイって名前があります。それに、私はあなたがどうなろうと、別に何の影響もないですし」
「……なら、私専属の召使いにしてあげますから」
「遠慮します」
「アリア様、そろそろ……」
「あなたは下がっていてください、今はこの方と話しています」
「はい……。」
渋々その場に座る騎士。なんだかかわいそうになってきた。
「そもそも、何で逃げてるんですか?」
「あんな分からず屋の下に居たくないからです」
今までで一番力のこもった発言。
そんなに嫌なんだ、あの国にいるの。
「あら、ここに居たのですね。さあアリア様、帰りましょう。王がお待ちです」
次から次へと人が増える。
今度現れたのは、空を飛んでいる女性。おそらく魔法使いなのだろう。その下には見えるだけでも数十人の騎士が居る。
「何度も言わせないで。私はあそこには帰りません」
「あなたがそうでも、王はそれを望んでいません。私は王から『無理矢理にでも連れ帰れ』と言われているので。お許しください」
そう言って彼女は本を取り出した。本はひとりでに開き、パラパラとページがめくられている。おそらく魔導書だろう。
「レイ、と言いましたね。あなたの望みなら何でも叶えます。お願いです、私を助けてください」
「……最初からそう言えばいいのに。別に見返りはいらない」
私は幽鬼を握った。
「刃の無い剣で、どうやって私を倒すのですか?」
「そうだね――こうやって倒す。幻灯・烈風」
私は思いっきり幽鬼を振り下ろした。
その瞬間、魔導書は無数の刃に襲われたかのように、バラバラになった。
その場にいた私以外の全員が、その事実に唖然としていた。
「――どんな方法でもかまいません。あの女を捕らえなさい!」
その場にいた騎士全員が私に襲い掛かった。
「幻灯・乱れ咲き・峰打ち」
騎士全員がその場に倒れた。
残るは彼女のみ、そう思った瞬間――無数の鎖が私に絡みついてきた。
「魔導書がなくとも、術式を使えば魔法が使えます。さあ、観念しておとなしく――」
「幻灯・烈風・円激」
鎖は一瞬にして粉々になった。
「っ! 一体何おっ」
「はい、終わり。で、どうするの? この人たち」
「――別に放置しておいてもいいです。それより――何をしたんですか? その柄は?」
「幻灯『幽鬼』。魔力を元に刃を作るから、柄と魔力がつながっていれば、どこでも刃を作れる。魔力の量によって堅さを変えたり、魔力を操って刃の形を自由自在に変えたりできる。それに魔力は普通見えないから、結果的に広い範囲を見えない刃で同時に攻撃できる」
「今私の知る中で、世界最強ですよ、それ。……使いこなしていればの話ですが」
「そう……なんだ」
確かに。
ゲームだと決まったことしかできないから、あまり強くなかったけど。この世界だと自由に刃を作れるから、ゲームの時よりかなり使いやすい。
「で、これからどうするの?」
「逃げるに決まっています。――できれば……レイにも、一緒に来てもらいたいです」
「何で」
「私を護衛しながら……できれば剣術などを教えてください。自分の身は自分で守れるようになりたいので」
先程の態度とは一変して、彼女は深々と頭を下げた。私は深くため息をついた。
「分かった、いいよ」
その日から、転生少女と家出王女の、目的のない2人旅が始まった。