第15話 船
冒険者の街を出てからしばらく歩くと、商人の方と出会った。何でも私達の行こうとしている港町に住んでいるらしい。
港町まで運んでくれるというので、私達はその人の馬車に乗った。
「乗せていただき、ありがとうございます」
私は商人の方を向きながら、深々と頭を下げた。
「いやいや、気にしなくていいよ。たまにしてるから、副業みたいなものさ。ところで、女の子2人で旅をしてるのかい?」
「はい。良ければ、港町の名所とか教えて頂けませんか?」
「そうだね……やっぱ、漁港かな。あそこはいろんな魚が買える。後は、火山島かな。あそこには結構有名な温泉がある」
「レイ! 温泉ですよ! 温泉! 行きましょう!」
温泉という単語を聞いた途端、アリアが子供のようにはしゃぎ始めた。ーーまあ、まだ子供なんだけど。
「行く、行く。とりあえず落ち着いて」
アリアは、一度は落ち着いたが、すぐにそわそわし始めた。
そんなに好きなのか、温泉。
しばらくして、港町に着いた。
そこは町と言うよりも、一つの国のように思えるぐらい広く、たくさんの人が行き来していた。
「火山島に行くなら――――あの灯台の方に港があるから、そこから行くといい」
「ありがとうございます」
私達が頭を下げると、商人は「頑張ってね」と言って、すぐにどこかに行ってしまった。
「じゃあ、行きましょうか!」
そう言いながら、私の手をぐいぐいと引っ張るアリア。いつも以上に、歩くのが速い気がする。
温泉がそんなに待ち遠しいのか。わからなくもないけど。
港にはかなりの数の船が泊まっていて、人が先程よりもかなり多い。手を繋いで無ければ、すぐにはぐれてしまいそうだ。
「あれが船ですか。――あれで沈んでいないなんて不思議ですね」
「船、初めて見るの?」
アリアは静かにうなずいた。その間も、ずっと船を見つめていた。初めて見る船に、釘付けになっている。
私はアリアの手をしっかりと掴み、ゆっくりと歩き始めた。
しばらく歩いていると、ずらっと並ぶ船の中で、ひときわ大きな船の前に来た。
船の前には建物があり、看板に「火山島行き連絡船」と書かれている。
私達は中で乗船券を買い、船の真横まで来た。
船に乗ろうとした瞬間、アリアの足が止まった。
「どうしたの?」
「いえ、その――――本当に乗るんですか?」
「乗るよ? 乗らないと火山島行けないし。――怖いの?」
「いえ、そういうわけでは……」
アリアの声がだんだん小さくなっていった。足も少し震えている。
私はアリアの手を思いっきり引っ張った。アリアは体勢を崩し、私の方に倒れ込んできたが、私はそれを、難なく受け止めた。
「っ! 何をするんですか! 馬鹿、馬鹿、馬鹿、」
アリアが私の胸を何度も叩いた。
「痛い、痛い。急に引っ張ったのは悪かったって。でも、船に乗れたじゃん」
アリアは殴るのをやめ、足下に視線を落とした。アリアの足は、確かに船の甲板にある。
「……これに関しては、ありがとうございます。でも、これはこれ、それはそれ。と言うことで、向こうに着いたら、私が満足するまで観光に付き合ってもらいます」
「嫌だって言っても連れ回すつもりでしょ」
アリアはただただ満面の笑みを浮かべるだけだった。
ああ、たまには街を自由に回りたい。




