第10話 レイの体験談
モンスターの襲撃を退けた私達は、冒険者の街へ帰還した。
「で。それはいったい何なのですか?」
宿に戻った瞬間、アリアが私に迫って来た。今まで以上に強い圧を感じる。
「えっとですね。――なんて説明すればいいのやら……」
「長くなってもいいので、全部話してください」
同年代の子から叱られてるのに、まるで親に叱られている気分。
「分かった。全部話す」
私が奴らの毒で倒れた後、私は変な場所に飛ばされた。
地面が真っ平らで、水が張っていて、青空が広がってる――どこまでも広がっていそうな、よく分からない空間。
訳がわからず、しばらくたたずんでたら、骨だけしかなさそうな、変な人型の生き物が、私の隣に来て。
「アナタハナニニナリタイデスカ?」
ギリギリ聞き取れるぐらいの籠もった声で話しかけてきた。
なぜそれを聞いてきたのかは分からなかったけど、敵意はなさそうだったから、質問に答えた。
「分からない。今はただ、アリアと旅をしながら、自分を知れたらいいなと思ってる」
「デハ、アナタハジブンノコトヲ、ドレクライシッテイルトオモイマスカ?」
「――七〜八割以下かな。自分のことを全て知ることは、本人ですら難しいと思う」
「ナゼ、ソウオモウノデスカ?」
「――自分が無意識にやってることは、他人から教えてもらわないと、自分が知ることはない。かといって、他人が自分の考えなどを完全に理解することも難しい。だから、自分のことを一番理解しているのは自分であっても、それは全てではない。っていう、私の考え」
「デハ、ワタシカラアナタニ、アナタノコトヲオシエマショウ。アナタハ、『ムノマリョクツカイ』デハアリマセン。アナタノナカニハ、フウインガホドコサレテイマス。ソレハアナタニシカトケマセン。ソシテ、ソレヲトクコトガデキタナラ。アナタハ、アナタヲシルコトガデキマス。」
「ありがとう。しばらく考えてみるよ」
「カンガエルノデハナク、カンジテミテクダサイ。イシキノムクホウコウヲ、マワリカラジブンニカエテミテクダサイ」
「分かった」
その言葉を聞いた人型の生き物は、ゆっくりと歩み始めた。
彼? は一体どこに行こうとしているのだろうか?
考えるのではなく、感じろ。
この言葉の通り、私は自分の中に意識を集中させた。最初は難しかったが、だんだんと慣れてきた。
呼吸するたび、肺が膨らむのが分かる。肺の横で、心臓が鼓動するのが分かる。血と一緒に、魔力が全身に流れているのが分かる。
ふと、私は臍のあたりに、違和感を覚えた。
異様に魔力が溜まっていて、何かボールのようなものが入っているように感じる。
私は臍のあたりに手を置き、それを取ろうと、腹に押し付けてみた。
すると手は、何かスライムのようなの物の中を突き進む感覚と共に、どんどん奥に入っていった。
腹に痛みはないが、かなりくすぐったい。
腕の4分の1が入ったぐらいの頃、手のひらに何かが当たる感覚がした。鉄で作られているような、堅い鎖。
私はそれを掴み、引き出してみた。
身体を抉られるような感覚と共に、その場所から魔力が溢れ出した。今までの数百倍ぐらいの量を感じる。また、その魔力は少し禍々しく感じる。
「そして私は元の砂浜に戻ったの。で、なぜか毒が消えてたから、こっちでも同じことをしてみようと思ってしてみたら――」
「成功して、膨大な闇の魔力を手に入れたと」
「そのとおり」
「まさか、闇の魔力を持っていたとは……」
「え。闇の魔力ってそんなに危ないの?」
「いえ。かなり強力な属性で、無の魔力の次に強いと言われてます。……なんか、あなたがよく分からなくなってきた」
「大丈夫。私も分かってない」
その言葉を聞いたアリアは、大きなため息をついた。
「それと、一つ気になったことが……」
「何?」
「その……痛くなかったのですか? 自分の中に手を入れて」
「痛いと言うより、くすぐったい感じ。――やってみる?」
「え、できるんですか?」
私はアリアのお腹に手を当てた。
すると、あの時のように、指先がお腹の中に入った。
アリアはなんとも言えない表情をしている。
「何ですかこの感覚。くすぐったいと言うのが一番なんでしょうけど……」
私は、そのまま手をお腹の中に入れた。鎖などは特にない。
突然、アリアが私の腕をつかんだ。
「早く、抜いてください」
アリアの顔が赤くなっている。
私は試しに指を動かしてみた。私の指が動く度に、アリアがビクリと動いている。
「早く!」
「ごめん、ごめん」
私はアリアのお腹から手を抜いた。
アリアはぐったりとしながら、私のことをにらんだ。
「――これ、私もできませんかね」
アリアは私のお腹に手を当てた。入っていく様子はない。
私が安心したような表情を見せると。アリアは私の手を掴み、自分の手と一緒に私のお腹に手を当てた。すると、どちらの手も中に入った。
アリアは不敵な笑みを浮かべた。
「あの、他のことで許してくれるとか……」
「だめです」
アリアは満面の笑みで答えた。




