空人(カラヒト)
カチッカチッ
カチッカチッ————
時計の音が部屋に鳴り響く。
今は朝の7時。
そろそろ起きなくては。
部屋の扉が開く。女の人、トリステスさんが
入って来た。
「おはよう」と私に挨拶すると
今日することを云った。
・算数の勉強
・読書
・運動
何時も通りだ。
朝食をトリステスさんと男の人、トラオリヒさんと
一緒に食べた。
トリステスさんは「よく眠れたか」と聞いた。
何時も通りと伝えた。
トラオリヒさんがそうか…と云った。
私が何時も通りと云うと二人はガッカリしたような
顔をする。
逆に何か良い事を云うと喜ぶ。
昔から此れが不思議だ。
算数の時間
算数の勉強は何時もトリステスさんが見てくれる。
12÷6=2
40×5=200
16×8=128 ————
トリステスさんによると私は頭も運動神経も
良いらしい。
問題を解きながら私は、親はどんな人かを聞いた。
(親は遠いとこに住んでいるらしい)
とても賢く、優しい人だったと云った。
その後私は今は何処に居るかと聞いた。
そうしたら、トリステスさんは黙ってしまった。
数分、いや1分か2分したら「そろそろ終わろう」
と云った。
…トリステスさんは何を知っているのだろう。
算数が終わり、読書をする。
今日は歴史書を読む。
少し遠くの国では3年間戦争をしていたらしい。
どうも、強かったらしい。その国には
最強と呼ばれる
戦士が居た。その戦士は幼いが冷血で肉親を殺した
らしく、かなり恐れられていたらしい。
その国は勝利まであと一歩のとこで負けた。
丁度1年前の話だ。
その戦士は戦犯。所謂戦争犯罪人とされ、
今現在は———
其処で文字が途切れている?
いや、塗りつぶされている。
その戦士は今は如何なったのだろう。
後でトラオリヒさんに聞いてみよう。
運動の時間。バトミントンをした。
トラオリヒさんのスマッシュが来た。
私は其れをトラオリヒさんに向けて
高く飛び上がり力を込めて返した。
シャトルは床に落ちた。
ゲームセット。勝利した。
ゲームが終わり、休憩している時に私は
トラオリヒさんに遠い国に居た最強と呼ばれた
戦士は今は如何している、如何なったかと聞いた。
トラオリヒさんは一瞬驚いた顔をしたが、
すぐに何時もの優しい顔になり、
いきなり如何したかと言われ、少し気になったから
と返した。そうか。と少し安心したような
顔をした。トラオリヒさんはその後、戦士は
戦犯であるから、処刑されたらしい。
そう。と私は軽く返した。
……そろそろ昼食だ。
昼食。何時もと変わらない。
この部屋は白く、広く、ベッドと机と椅子しかない
殺風景な場所だ。
…昔から変わらない。
そういえば、私はこの部屋から一歩も外に
出たことがない。いや、出させてもらったことが
ない。何か理由があるのだろうか。
私はあまり物欲がない。…今此処で自分の中にある
たった1つの欲望を口にしよう。
私はコップを両手で持ち、お茶を飲んだ後、
トリステスさんとトラオリヒさんに
外に出たい。と伝えた。
そうしたら二人は何故か酷く驚いた。
いや、酷く怯えた。
其の目は目の前に居る大きな獣に恐れ慄いている
小さな生き物の目だった。
10分ぐらいして二人は震えた声で
「今日は早く寝なさい」と云った。
…如何したのだろう。
私は昼食を食べた数時間後にベッドに入った。
ベッドの中で二人は何故あのような感じの反応を
したのだろう。何か秘密があるのだろうか。
そう思った途端、この部屋とあの二人の事で
可笑しな点が数珠つなぎに出てきた。
・この部屋には重いもの、鋭利なものがない。
・食器が全てプラスチック製。
・扉の近くに来させないようにしている。
・あの戦士について書かれた本が読めないように
塗りつぶされている。
・私の家族について話そうとしない
・何時も何処か怯えたような顔をしている。
…可笑しい。
何かが可笑しい。あの二人、そしてこの部屋が
謎に包まれている。
——調べよう。
朝。今は6時半。
この時間にはまだトリステスさんが来ない。
トリステスさんが来て、扉が開いた時に
扉の外の様子を見よう。
…朝の7時。
扉が開く。私はすぐに扉の方へ目を向ける。
扉の向こうは、白衣を着た職員?が数人居て、
少し遠くで作業をしていた。
扉が閉まる。
トリステスさんが私の側に来て、
おはようと挨拶をした。
…何時もと同じ優しくて何処か怯えている顔で。
——嗚呼…嫌だなぁ。
朝食。食べながら私は部屋の隅から隅、
目を動かした。
……あった。やはりあった。監視カメラが。
此れで私を24時間、365日ずっと見ているんだ。
……汚らしい。
算数。
運動。
読書。
そんな事よりも調査だ。
この部屋、この場所について、だ。
秘密を…探さなければ。
1日、いや1時間、1分、1秒…
兎に角、早く。
夕飯の時。私はトリステスさんとトラオリヒさんに
愛してる?と聞いた。
そうすると二人は勿論と言った。
嘘だ。
普通そういう時は抱きしめて言うんだ。
ウソをつくな。
二人はやはり怯えた目をしている。
…愛していないんでしょう?
この、私を。
調査しながら私はとある言葉をふと思い出した。
「罪と罰はトモダチ、仲良し」
確かに。と思う。
その理論だったら私は何か罪を犯した?
幼い、9歳の罪人?
罪人であったら、処罰というのが付けられる。
私が罪人であったら何かしら覚えているはずだ。
でも、私は何も覚えていない。
…何故?
今日も調査が終わり、ベッドに入る。
すると、トリステスさんとトラオリヒさんの
話し声が聞こえた。
「アレ、もう怖くて目を合わせられない」
とトリステスさんが怯えた声で言った。
「大丈夫だ。アレが病気になって死んだらもう
この場所は要らなくなる」とトラオリヒさんが。
「何時病気になるかわからないじゃない!
…もう嫌よ…」
…やっぱり嫌われている。
二人は私の死を望んでいる。
多分、あの白衣の人達もそうだ。
…居づらい。
辛い
…何もかも苦しい。辛い。
此処に居たくない。
でも出られない。
まるで、トリカゴの中の鳥。
トリステスさんとトラオリヒさんが心配している。
けど内心喜んでいる。
もう嫌だ。
何もしたくない。
空気が重苦しい。
呼吸が苦しい。
…嗚呼……
苦しいよ。
今日、初めて涙を流した。
しょっぱい。
昨日、紙で手を切って血が出た。
何故かはわからないが、久しぶりに
見た気がする。
…
流しに何かがあった。
果物ナイフ…
其れを持った瞬間、身体がゾッとした。
それと同時に懐かしくも感じた。
そう思っている時、身体が勝手に動いた。
そして、私は、
トリステスさんの
心臓を目掛けて
少し飛び
力を込めて
ソレを突き刺した。
赤く、生暖かいものが私にかかった。
私は、トリステスさんの胸に
刺さっているモノを両手を使って抜いた。
そして、今度は座っているトラオリヒさんの
頭を掴み、
ソレをまた刺した。
また赤くて、生暖かいものがかかった。
とても、懐かしい。
私はまたソレを抜き、ソレを持って
扉の外に出、丁度其処に居た白衣の職員の人達を
また刺した。
何人も刺した。
何も考えずにやってゆく。
事務作業のように。
刺し終わった後、私は資料室に入った。
気になるものを探した。
…研究資料?
私は其れを少し背伸びをし、
資料を手に取り、読み始めた。
其れはアノ戦士のその後の話だ。
戦士は戦後に戦犯とされ、戦士を国外に
連れてゆき、記憶を消し、施設に入れ、
普通の人間として再教育をしている。
教育者は
トリステス研究員とトラオリヒ研究員。
その名を聞いた時、私はショックだった。
自分がその戦士であったこと。
新たな人として作られていること。
そう思った途端。
私の中で何かが壊れた。
私は本当に嫌われていた。
私は本当に罪人であった。
そして私は記憶を消され、
空っぽの人。
『空人』とされた。
…武装した人達が来た。
私はソイツらを刺していった。
一撃も私に当たってない。
私は刺していく。
力じゃ敵わないよ。キミたち。
さようなら、トリステス
さようなら、トラオリヒ
私はコレを使っていくよ。
だって私の名前は
エクションシーアだから。
—————おや、また会ったね。
今日はとある幼い戦士の話だったね。
あの子…5つの時に肉親を殺したのだよ。
理由?其れは君が考え給え。
〈彼がペラリと本の頁を捲る〉
ん?此れかい?
此れは我が好きな作家、坂口安吾の『堕落論』だ。
彼の文章は豪快で好きだ。
人が思っているであろうということをしっかりと
書いている。
君も読んで見給え。面白いよ。
人が堕落していくのが理解出来る。
…嗚呼、そのビスコッティ食べても構わないよ。
〈ビスコッティを手に取り、
サクッと音を立て食す〉
安物ですまないね。
我は高級なのが合わないんだ。
所謂、「庶民派」なんだ。
…おっと、そろそろお別れの時だ。
では。また会おう。
2作目です。
今回はかなり頑張りました。
また新作書くのでまたまたお願いします。




