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さようならの意味

作者: ユリシオン

その人には二年間片思いだった。


僕の初恋の相手。


「恋」という感情を教えてくれた相手。


初めてなことばかりで全然上手くいかなかった。


誰とでも仲がいい彼女。


そんなことわかってるのに


でも僕だけであってほしい。


何とも表現できないこの気持ち


学校で会うだけでもうれしい。


胸が高鳴る。


でも、


同時に胸が痛い。


初恋とは、


「呪い」だ。

明日は卒業式だ。何があってもみんなとは、お別れ…

なんてことはなくほぼみんな近くの公立中学校に進学するだろう。

いつもよく遊ぶやつらはみんなそう言っていたし、周りもほとんど勉強している、というやつもいなかった。

私立を受験する人は何度も学校を休んだりしているからもうお別れなのかな、と思っている人は分かっていた。そのつもりだった。


「じゃあな、また明日」


これがいつも学校の帰りにみんなが言うセリフだ。特に男子。

女子は「ばいばい」とか、「またね」とかだ。

今日もHRが終わりいつも通りな挨拶で終わった。


僕の家の方向には友達が多く、いつも男女数人で帰っていた。

その中には…僕の「初恋の人」もいた。

誰とでも仲がいい明るい子。すこしバカっぽいとこもあるけどそれがまた可愛いんだ。

今日もみんなと一緒に帰る。

一度くらい二人で帰りたかったものだ。


「ばいばい!また明日ね!」


いつもその子がみんなと別れる時はこの言葉。

少し他の女子より高く透き通ったその子の声は、僕の心を揺さぶる。


…まだ一緒にいたい。


でも、明日があるから大丈夫、我慢できる。


いつもそう思っている。今日もそう思っていた。


卒業式当日、中学の制服や持っていたブレザー、袴や着物を着てくる人と、いろいろな人がいた。僕は友達と一緒に袴を着てきた。


「今日は袴なんだ! 似合ってるね!」


赤い生地に色とりどりの花が刺繍された美しい着物を着た人が声をかけてきた。

でも声だけで分かった。あの子だ。

その姿を見ただけで照れてしまうのに、そんな言葉をかけられたら顔真っ赤になって顔なんて見れない。

ありがとう、と返事をしながら僕も


「あっ、あの…すっごく似合ってる。かわいい…」


「ホント!? うれしい! 着てきてよかった~」


手を広げて一回転しながら僕に向かって言ってきた。

そしてそれに続くように、でも、すこし悲しいような顔をして


「あのね、私、中学校はね...」


運悪く話をしている途中、放送がかかった。

どうやらもう式が始まるらしい。

あの子は何を言おうとしていたのだろうか。



式が終わって僕たちはいつも一緒に帰っていたみんなと集まって卒業アルバムに一言づつ書いていた。

そのあとはほかの人とも同じことをやっていた。

そんな中、僕はある決心をしていた。



――今日、僕はあの子に好きと伝える――



五年生の新学期からずっと片思いをしていて、卒業は節目だから言うには今日しかない、と思っていた。


どうにかして二人きりになれるタイミングを探ってたが、全くなれるようなときは来なかった。

式の前のあの時に言っておけばよかった、そう軽く思っていた。


何時間も式が終わった後いるものだから先生たちがもう帰るように言ってきた。僕らはそれを機にいつものメンバーで帰ることにした。


いつもと変わらない風景。小学生としては最後だけど、中学生になったらまたこんな感じに帰れるのかな、と思っていた。



そしていつものようにあの子と別れる場所に来た。


「さよならぁーー!」


いつもみたいに「ばいばい」とは言わなかった。

小学生としては確かに最後だからそういったのかな、と思っていたが、すごく違和感が残っていた。


「…結局言えなかったぁ」


小さな声でボソッと言った。



一人、またひとりと別れていき、俺と女の子の二人になった。二人で歩いていると、何かに気づいたようで、僕に話しかけてきた。


「あ!忘れてた、さっき借りたペン、あの子に返すの忘れてたわ! 返してこないと」




「...俺が行く」




無意識に言葉が出ていた。

でも、これを逃したら言えない。行くしかない。


「俺が行ってくるよ」


そう言って僕はペンを握りしめ、あの子のところまで走った。

まだあの子の家は近いからみんなとは別れたけど、あの子にはすぐに追いついた。


「あのさ!」


「ひえっ!?」


「あ、ごめん驚かしちゃったね、これ、返し忘れてたらしいから届けに来たんだよ」


「そうなんだ!ありがと!」




「あとさ...あの、一つ言っとくことがあってさ...」


「うん、なに?」


「おっ、俺さ...えっとあの...」

「...」

「...」




「やっぱなんでもないや!ごめん、じゃあな!」


長い沈黙の後、そう言って僕は後ろを振り向いて歩き始めた。


「さようなら」


後ろから声が聞こえた。あの子の声が。


「さようならっ!!」


僕が振り向いたら、また大きな声でもう一回行った。

少し悲しそうな顔をしながら。


僕は何が何だかわからず、「さようなら」とだけ返した。


「まあ、言えなかったけど、中学でもう一回リベンジでもしようかな」


そう思っていた。








長かったように感じた春休みも終わり、やっとみんなに会える。

久しぶりに新しい友達と出会えること、そしてあの子にまた会えることにわくわくしながら中学校に行った。


しかし、配られたクラス表をみて困惑した。

どこにもあの子の名前が載っていない。


「ねぇ、あの子の名前載ってないけど、なんかのミスだよな?」


少し笑い気味に友人に話しかけた。するととんでもない返事が返ってきた。


「何言ってるの?あの子私立受験したからこの学校じゃないよ」



…は?

頭が真っ白になった。

何を言っているのだろう、こいつは。


「嘘だろ…? 嘘だと言ってくれよ! なあ、おい!」


そのあと先生にも聞いてみたがそんな名前の生徒は今年入ってきてないと言ってきた。


そしてあの子は卒業と同時に、引っ越しまでしたらしい。


絶望した。


あの時の「さようなら」の意味がやっと理解できた。


言えなかった。


何も言うことができずに終わってしまった。


この気持ちを伝えることができずに終わってしまった。



『告白なんていつでもできる』



こんな中途半端な考えを持っていた僕自身が嫌いになった。そして恨んだ。


今まで生きてきた中でこんなにも自分を恨んだことがあっただろうか。






6年経って高校を卒業した今でさえ、まだ一度もあの子には会えてない。


あの日、告白できなかった卒業式のあの日ほど、後悔した日は今でもない。

中途半端な決意が生んだ少年に起きた後悔はつらいですよね。


時間は無限にはないのだから。




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