ギルド立てこもり事件 その2
ギルドと言う場所が一体何なのか知らない人の為に簡単に説明すると、ギルドというものは要するにハローワークみたいなところだ。冒険者はギルドで仕事を受けて、報酬もらう。
さてそんなギルドで立てこもり事件が起こるなんて大変なことである。
これでは次のクエストなんて受けられないし、猫を捕まえた報酬だって受け取れない。あれだけ走り回ったのにただ働きなんてあまりにも嫌なことだった。
「犯人は何人いるんだ?」
僕はまるで犬みたいな獣族の兵士に詳しく聞く。
「なんだ貴様?」
「うん、僕か?僕は最強の魔法使いの兄、夢野望だ」
「お前がか?笑わせるな、最強の魔法使い様の兄はイケメンだと聞いているぞ」
おい、それはどういう意味だ。いや、確かに僕はイケメンではないけれど。
僕は怒りたくなったが堪えて聞く。
「で犯人は何人いるんだ?」
「部外者の奴にそんなこと教えるわけがないだろ。邪魔だからあっちに言ってろ」
「……」
まあそうなるよな。うーん、どうしたものか。
と悩んでいると「お兄ちゃんもしかして行くつもりなの?」と夢は僕の背後からひょっこり出てきて「だったら私もついてくよ。お兄ちゃん」と言う。
その様子を見ていた獣族の兵士は僕を押しのけて「ああ、あ、貴方様は⁉」と驚く。
「も、もしかして最強の魔法使い様でいらっしゃいますか⁉」
「は、はい……そうです……」
夢は獣族の兵士にそう詰め寄られて僕の背中に隠れる。しかしそれでもその兵士は彼女が本物の最強の魔法使いなのか確かめるために顔を見ようと近づいてくる。
「僕の妹に近づくな。怯えているだろ」
「こ、これは失礼しました!」
注意すると兵士は素直に謝る。
まったく……夢の可愛い顔を見たい気持ちはわかるが……。
「それで犯人は何人いるんだ?」
僕は兵士に同じ質問をすると今度は答えてくれた。
「かろうじて逃げることができた冒険者の証言によると剣や銃を武装した十人組だったそうで、最上階に人質を取って立てこもっているようです」
「人質は何人だ?」
「おそらく十人以上だと思われます」
「おそらくって……把握できてないのか」
「ええ、そうなんです」
侵入するためにも人質が何人いるのかハッキリさせたかったが、いきなりの出来事だったのだろうしこればっかりは仕方がないできないだろうと思っていると夢は右手で輪っかを作り双眼鏡のように覗きながら建物を見上げ「イチ、ニ、サン」と何か数えていた。
「なにしてるんだ?」
「うん?人質が何人いるか数えてるんだよ」
「えっ見えるの?」
「うん」
マジで?そんなこともできるの?
「そういえばこの魔法、お兄ちゃんの前では一度も使ったことがなかったね。魔法は視覚系魔法『スコープ』て言って透視ができる魔法なんだ」
「へーそれも魔法なのか。そんな便利なことができるとは……」
「お兄ちゃん……今いやらしいこと考えてたでしょ」
「べ、別に何も考えてないけど?この魔法が使えたら妹がお風呂に入っているところを覗けるとか考えてないから」
「……」
おっと、夢が冷めた目で僕のことを見ている。
「いや本当だって、それに僕が魔法を使えないことは夢だって知ってるだろ?」
「うん知ってる。お兄ちゃんが魔法を使えなくって本当に良かったと改めて思ったよ」
「そんなひどいこと言うなよ」
どうやら僕の身体には魔法を使うためのマナがないらしく、魔法を一切使えることができないのだ。せっかく異世界にいるというのに魔法が使えないなんて不幸である。
「僕だって魔法が使えるようになれば人のために使うさ」
妹の風呂は覗くけど。
さて、そんな話は後にして僕は「それで」と話を切り替える。今は時間がないのだ。
「人質は何人いたんだ?」
「人質は女性が三人。男性が二人。計五人だね。全員、手足をロープ縛られていて目隠しをされいて、犯人も人質も全員、最上階にいるみたい」
「五人か、まあ妥当なところだな」
人質が多すぎると反撃を食らう可能性がある。先ほど、かろうじて逃げた人がいたと言っていたが、それは必要がないから逃がしただけなのだろう。
と考えていると「あの」と兵士が聞いてくる。
「もしかして私たちに手を貸してくださるのですか?」
「はい、私たちでよければぜひ協力させてください」
夢はもう獣族の兵士にだいぶ慣れたなしく平然とそう返答すると、獣族の兵士は夢の手を取り「ありがとうございます‼」と夢に感謝した。
……一応僕もいるんだが。