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デート㊁

 ●


「大丈夫か?」

「うん……大丈夫……」

「いや……全然大丈夫じゃないだろ……」


 商店街に休憩するために置かれてあるベンチに夢を座らたものはいいものの、夢の顔は青白く、額からは汗が流れ、かなりぐったりしていた。


「夢、今日はもう帰ろう。今の状態でデートをするのはあまりにも危なすぎる」

「大丈夫だよ……お兄ちゃん……少し休めば、元気になる……から……」


 そう言って僕を安心させようと苦し紛れに笑顔を見せる。

 しかしそれが余計に不安を煽る。

 やっぱり夢が街に出るのはまだリスクがあったんだ。それなのにどうして夢がデートを誘った時、僕は止めてやるとことができなかったのだろうか。

 自分の愚かさが嫌になる。

 僕は一番近くにいたはずなのに夢の何を見ていたのだろうか。

 本当ならば今すぐにでも自動販売機で水でも買ってのませてあげたいのだが、残念なことにここは魔法が発達している異世界。そんな場所に自動販売機なんて便利な機械は存在しない。

 どうする?水を探しに行くか?幸いにもここ商店街。水を売っている所はあるだろうし、この商店街にいる人の中には水属性魔法が使える人だっているはずだ。だけど今の状態の夢から離れるわけにはいかない。

 僕がごちゃごちゃと考えていると声をかけられる。

「あら、あなた達こんなところで奇遇ね。どうしたの?」

 それはこの異世界の神園先生であるシャーロック先生だった。

 いつも魔法図書室にいる人がこんなところにいるなんてとても不思議なことだった。


「どうして先生がここに?」

「少し用事があってね。それよりもユメちゃん、具合悪そうなだけど何かあったの?」

「はい……少しだけ体調を崩してしまって……」


 僕は夢の症状のことはシャーロックさんには言わなかった。『ワースト』という組織から命を狙われていることを知った時、そのことは二人だけの秘密にしているのだ。


「そうなの……ならこの水をあげるわ。夢ちゃんに飲ませてあげて」


 シャーロックさんはそう言うと懐から銀色の水筒を取り出つと、僕にくれた。


「すいません、ありがとうございます」

「いえ、別に構わないわよ。それじゃあ私は急がなきゃいけないから行くわね」


 そしてシャーロックさんは足早に去っていった。

 一体何の用事でこの商店街にきたのか気になったが、しかし今は夢に水を飲ませてあげることを優先しよう。

 僕は水筒の蓋を開けて「ほら夢、水だぞ」と言って俯いている夢の顔を上げさせ飲ませようとする。夢はごくごくと美味しいそうに水を飲み始めた。

 そして数分ぐらい休憩した後、夢は言う。


「ありがとう……お兄ちゃん……少し良くなったよ」

「それはよかったよ、本当に」

「今、シャーロック先生の声が聞こえたような気がしたけど……」

「ああこの水、偶然通りかかったシャーロック先生zがくれた水なんだ」

「そうなの?でもシャーロック先生は?」


 そう言って辺りを見渡し、先生がいないことを確認する。


「先生はもう行っちゃったよ。なんか用事があるらしい」

「そっか……お礼言いたかったんだけどな……」


 夢は寂しそうに言う。

 そんな夢の頭を撫でて僕は言う。


「また今度、会った時必ずお礼しような」


 すると夢は「うん……」と小さく頷いた。

 シャーロッ先生にはかなりお世話になってるな。今回も先生がたまたま通りかかってくれなかったら、僕一人では何もできなかっただろう。


「さてそれよりも夢、今日はもう宿屋に帰るぞ」

「えっ?どうしてお兄ちゃん、だってタイムリミットだってまだのはず……」

「こんなことになった以上、デートを続けることはできない。宿屋に戻って今すぐ休むべきだ」

「でも、私はもう大丈夫だよ。ほら」

「ダメだ」


 ベンチから立ち上がり元気そうに振る舞う夢に僕は強めに言う。

 いくら妹に甘々な僕でも、こればかりは夢が何と言おうともダメなものはダメだった。


「ほら、帰るぞ。宿屋までお兄ちゃんがおんぶしてやる」


 これは別にどさくさに紛れて妹のお尻を触ろうと考えているわけではなく、純粋に心配しているからこそおんぶしようとしていることを一応記載しておこう。それに体調を崩している今の状態では夢は魔法を使って宿屋にワープすることもできない。

 だからこそ僕は夢をおんぶしようとしているのだ。

 わかってくれただろうか?誰に向かってこんなこんなことを言っているのかわからないけど、わかってくれたら嬉しい。

 僕の名誉のためにも。


「うう……そんな……まだプレゼントも買えてないのに……」


 夢がうなだれながらそう言った


「プレゼント?なんだ?誰かにプレゼントを渡したい相手でもいるのだろうか」

「あっいや、そんなことないよ」

「いや、でも今そう言っただろ」

「まだプレステ5も買えてないのにて言ったんだよ」

「絶対にそんなこと言ってなかったぞ。いくらなんでも誤魔化し方に無理がありすぎるだろ。最初の二文字しかあってねーじゃねえか。それにこの異世界にプレステなんてないし、プレステ5なんてまだ売ってねーぞ」

「えーそうなの?私はもうてっきり発売してたと思ってたのに」


 いや、もしかしたらこの作品が発売された時にはもう売ってるのかも知れないけど。

 まあ、あまりメタ発言はするのはやめとこう。

 それよりも夢が言ったプレゼントのことだ。

 僕をデートに誘ったのも、誰かに渡すためのプレゼントを探すためだったのかもしれない。それなら僕に隠さず早く言ってくれたらいいのに。恥ずかしかったのだろうか?

 ともかく。


「そういうことなら仕方がないな……そのプレゼントを探そう」

「えっいいの?」

「ああ、本当は今すぐにでも帰るべきなんだろうけどな……」

「ありがとう!お兄ちゃん」


 そしてギュッと夢に抱きしめられる。

 思わず照れてしまいそうになるが、しかし僕はできるだけ平静を装いながら言う。


「でもそのプレゼントを買ったらすぐに帰るからな」

「うん、わかった」


 夢は嬉しいそうに笑う。

 それから僕達は何かいいプレゼントがないか商店街を歩き回った。

 本当は体調が優れていない夢をおんぶしながら商店街を歩き回るべきなのだろうけど、恥ずかしいからという理由で夢には断られてしまった。それにこんな人が多い商店街で夢をおんぶしていたら目立ってしまう。

 まったく僕はいつのなったら夢をおんぶすることができるのだろうかと、思わず嘆息してしまうが、しかしおんぶしない代わりに夢と手をつなぐことになったのでそれで良しとしよう。

 僕は歩きながら夢に聞く。


「それでそのプレゼントは誰に渡す予定なんだ?」

「それはお兄ちゃんには内緒だよ」


 夢はいじらしく笑った。

 うーん、やっぱりそうなるか。

 一番ありえそうなのは日頃からお世話になっているシャーロック先生で、一番考えたくない可能性は夢の恋人だった。確か前にいないことを言ってような気がするが、隠していることだってありえる。

 それは本当に考えたくない可能性だが、そういう時に限ってその予想が当たってしまったりするものだ。

 ……どうしよう。もしそうだとしたら。

 恋人にプレゼントを渡すということは、それは本気で好きだということだ。

 僕は夢が本気で好きなった人なら認めるよと言ってはいるが、しかしいざそうなると思うとやはり認めたくない。せめて、そいつが誰かどんな奴でしっかり夢を守ることができるのか確認してから認めたい。

 もはやここまで来ると兄ではなく、手塩にかけた娘が結婚してしまう父親でしかなかったが、父さんだって今の僕と同じ気持ちになっているはずだ。

 夢が結婚か……。夢のウエディングドレス姿は見てみたいが、やっぱり想像したくはなかった。てか想像したけで泣きそうになる。


「あっお兄ちゃんあの店はどうかな?」


 と思っていると夢はお祭りの屋台みたいなテントを指さして言った。そのテントは露店というヤツで、近づいてみるとその露店はネックレスを売っていた。


「いらっしゃい」


 露店の老婆は僕達を見て「キヒヒヒ……」と不気味に笑いながら言う。

 すると夢は僕の背後に隠れてしまったが老婆の顔を数秒間見た後、何かを決心するかのように深呼吸すぐに出てきた。

 そしてテーブルに並べられてある様々なネックレスを見ながら聞いてくる。


「お兄ちゃん、どのネックレスが良いと思う?」

「うーん、これがいいじゃないのか」


 僕はそう言うと禍々しいオーラを放ってる髑髏のネックレスを手に取った。

 すると、老婆は「お客さん、そいつはとてもいい商品ですよ」と説明を始める。


「そいつは遥か昔、好きだった男を親友に取られそれで嫉妬に狂った魔女がその親友に復讐するために作った『呪いのネックレス』と言って、一度装備したら死ぬまで外れなくってその人には正体不明の病にかかったり様々な不幸が訪れます。使い道としては嫌いな人物に渡すのが一番いいでしょうな。キヒヒヒ……」

「なるほど………………よし、これにします」

「しないって!お兄ちゃん、本当にそんなのがいいと思ってるの⁉」

「じょ、冗談だって」


 プレゼントを渡す相手が夢の恋人かもしれないと思ったらついつい変なものを選んでしまった。夢のためにもしっかり選んでやらないと。


「夢はどんなネックレスが良いと思うだ?」

「……私はこれかな?」


 そう言って夢が手に取ったものはネックレス部分を組み合わせるとハートの形になるという少し凝ってるペアネックレスだった。

 ……これは絶対に恋人に渡す奴では?


「こういうの憧れるんだよね。お兄ちゃんはどう思う?」

「そうだな──」


 これはなんて答えるべきなのだろうかと迷う。

 僕的には別のネックレスにして欲しかったが、夢が気に入っているのだったらこのネックレスにするべきかもしれない。でも夢の恋人が夢と同じネックレスをつけていると思うとすごい嫌な気持ちになる──やっぱり、こっちの『呪いのネックレス』にするべきではないだろうか。

 と迷っていると老婆が言う。


「お客さん、その商品はカップルがつけると必ず別れるという不思議なネックレスなんですよ。キヒヒヒ……」

「この店にはまともな商品はないんですか?」

「……別のネックレスにした方が良さそうだね」

「てか別の店に行くべきだろ」


 僕は的確に突っ込む。

 この店じゃ絶対にプレゼントなんて見つからないようなかがしてきた。

 僕達は他の店に行こうとするが「待ちなされお客さん」と止められる。

 そして「このネックレスなんてどうでしょうか」と老婆が選んだヤツはどっちも同じ星形をしている白と黒のペアネックレスだった。

 僕は細目で疑いながら老婆に聞く。


「最初に聞いておきますけど、これは別に呪われたネックレスじゃないですよね」

「そんなことはないですよ。このネックレスをつけていると願い事が叶うかもしれないそんなネックレスなんですよ。言わばおまじないみたいなものですね」


 ふーん、思ったよりもまともの商品だった。


「それは素敵な商品ですね、おばあちゃん。試しにつけてもいいでしょうか?」

「はい、大丈夫ですよ。キヒヒヒ……」


 そう言うと夢は老婆からネックレスを受け取る。

 そして夢は僕の方に黒い星のネックレスを渡し、夢は白い星のネックレスをつけ始める。僕もそんな夢を見習ってネックレスをつける。僕は弥一みたいにチャラついた奴ではないので、むしろ地味な奴なのでネックレスをつけるのはこれが初めてだった。

 つけてみたがなんか首元がとても変な感じがする。


「うん、似合ってるよお兄ちゃん」

「そうか?」


 自分では似合ってないような気がしてならなかったのだが、まあこのネックレスは僕がつけるものではなく夢の恋人がつけるものなので、僕が似合っているかは問題ではなかった。


「おばあちゃん、私これ買います。いくらですか?」

「一万ウールになります。キヒヒヒ……」


 すると夢は斜め掛けのバックを開けて財布をとするが。



「あれお財布がない?」



 と夢は言った。

 夢は必死にバックをの中を漁るがやはり見つからなかった。


「どこかに落としたのか?」

「でもそれはないと思う。バックはちゃんと閉まってたし、それにここまで来るにまだお金使ってないし……」


 確かにそうだった。僕達は武器屋、洋服屋、そしてこの露店と見てきたが、まだ物を買ったことがなかった。

 だから落とすことはありえないことだった。

 ではどうして夢のバックから財布が消えてしまったのか?


「もしかして……」


 ギルドから出た時、ボロボロな少年とぶつかったことをふと思い出す。

 そして僕達から逃げるように去ったあの少年。

 それは何の根拠も証拠もないし、人を見た目で判断してはいけないのだろうが、しかしいくら善人ぶっても人は見た目で判断してしまうものだし、それに疑われるような見た目をしている方が悪かった。

 だから僕は容赦なくあの少年を疑う。

 きっとぶつかった時に財布を盗まれたのだろう。

 最強の魔法使いの財布を盗むなんていい度胸じゃないか。

 僕達はそう思った。

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