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異世界 夢野夢

 異世界 シープ王国。

 六月二十二日。


「ゆめ──!」


 眠気から覚めた僕は涙を流しながらそう言って夢に抱きついた。

 柔らかい感触と花のようないい香りがする。


「本当、無事でよかったよ!あの後どうなったのかお兄ちゃん、心配で!心配で!仕方がなかったんだそ!ごめんな!あの状況の中に一人取り残して!寂しかっただろ!」

「ちょっとお兄ちゃん、いきなり抱きつかないでよ!お兄ちゃん今裸なんだよ?」

「えっ?」


 赤面している夢にそう指摘され、自分の体を見る。

 確かに僕は全裸だった。パンツすらも穿いていない。

 そういえばこの異世界で死ぬと着ていた装備が強制的に外され、その場に放置されてしまう。そしてこの世界に再び蘇った時、全裸になってしまうのだ。

 早く服を着なければ。さすがの僕も妹の前で全裸になる趣味はない。

 僕はシスコン変態ではあるが、露出狂ではなのだ。

「すまん」と謝って僕は「僕の服はどこにある?」と夢に聞く。

 すると夢は「そこにあるよ」とできるだけ僕の全裸を見ないように手で自分の目を隠しながらテーブルに置かれてある服を指す。

 そこには服が綺麗にたたまれていて積まれていて、その横は僕の武器である短剣が置かれていた。短剣はきっと夢があの後拾ってくれたのだろう。

 僕はパンツ、Tシャツ、ズボン、靴下の順に服を着始める。


「そういえば僕が前回、着ていた服はどこにある?」


 撃たれたことでかなり血だらけになっているはず。僕は現実世界でもこの異世界でもあまり服を持っていないのでどうなったのか不安だ。それに他に気にあることだってあるし。もしかして捨てられてしまったのだろうか?

 そんなことを思っていると夢は答える。


「あれなら血だらけだったから洗濯して、外に干してるよ」

「マジか!わざわざ洗濯までしてくれたのか!ありがとう。お前はきっといいお嫁さんになるよ。いや、僕のお嫁さんになってくれ!」

「もう、私たち兄妹でしょ?そんな冗談言ったらダメだよ」


 別に冗談じゃないんだけどな。

 夢がいいお嫁さんになれることも。

 僕のお嫁さんになってほしいことも。

 まあ後半の僕の願望は絶対に叶わないけど、夢はきっといいお嫁さんになれることだけは確かなことだった。


「そうだ。洗濯した時、なんかおかしなところはなかったか?」

「うん?いや別におかしなところなんてなかったよ。なんか気になるでもあるの?」

「いや、ないんなら別にそれでいいんだ」


 やはり、あの時僕が見たのは気のせいだったのだろう。


「それよりも僕が死んで消えた後、どうなったんだ?」

「あっうん、そうだよね。そのことお兄ちゃんにも教えないとね。私が眠らせた犯人達は全員捕まえることはできたけど、お兄ちゃんを撃ったあの女の人には逃げられちゃった」


 申し訳なさそうに言う。


「お前が逃がすなんて珍しいな。相手、そんなに手練れだったのか?」

「私、お兄ちゃんがいきなり撃たれたことでかなり動揺しちゃって……その隙にその女の人は空を飛ぶことができる魔道具を使って外に逃げたんだよ……」


 夢の魔法はイメージが定まっていないと使うことができない。そして動揺をしてしまっては当然、イメージなんて出来るはずもなく魔法なんて使えるわけがない。

 夢は落ち込みなながら言う。


「私、全然気づかなかった。人質の中に犯人の中がいるなんて盲点だったよ。気づけていればお兄ちゃんを死なせることなんてなかったのに……。ごめんなさいお兄ちゃん」

「まあそれは僕も気づけなかったことだし、あまり気にするなよ」


 むしろ気づく方が難しい。それほどまでに犯人の計画は完璧だった。

 でもだからこそ気になる疑問があった。


「犯人達の目的は一体何だったんだ?わざわざ人質の中に仲間を紛れさせておいて、金が目的ていう訳じゃないんだろ?」

「うん、そのお兄ちゃんの言う通りだよ。あの後ね、捕まえた犯人に事情聴取したんだけどね。主犯格はお兄ちゃんを撃った女の人で、他の人たちはみんなその女の人に金で雇われた元冒険者だったらしい。そして犯人の本当の目的は私の暗殺だったみたい」

「やっぱりそうか」


 夢は最強の魔法使いと呼ばれるほど強い。僕達が初めてこの異世界に来た時からそう呼ばれていたので詳しいことはわからないけど、この国の危機を救ったことでそう呼ばれるようになったらしい。

 言わばシープ王国の英雄なのだ。

 そんな夢を疎ましく思っている人間はどこの世界にも必ずいて、夢を殺そうとしている組織もある。その組織の名前は『ワースト』。実際に僕達はワーストが送ってきた刺客に何度も襲われている。まあすべて夢が返り討ちにしているけど。

 でも今回のように暗殺を仕掛けられてくることは初めてだった。


「だんだんとやり方が卑劣になってきてるな」


『最強』に対抗するための『最悪』。

 その『最悪』にはきっと限度なんてなく、常識なんて通じないのだろう。

 どうして奴らはそこまで夢を殺そうとする?やはり夢が邪魔だからなのか?

 でもそんな理由知りたくもなかった。

 なぜなら、どんな理由があろうとも僕の妹を殺そうとしている時点で許せるはずがないのだから。僕は、いつか必ず組織全員を見つけ出して……そして……。


「お兄ちゃん、そんな怖い顔をしちゃダメだよ」

 そんことを考えていると夢が不安そうに僕の顔を見ていた。

「うん?僕、今そんな顔してたか?」

「うん、してたよ。大丈夫?」


 夢がそう言うてことは本当に僕は怖い顔をしていたのだろう

 いかん、いかん。夢の前では普通にしていなければ。。

 僕はできるだけ夢に心配かけたくないのだ。

「大丈夫だよ」と僕は誤魔化すようにそう言った後、話題を逸らすために夢に聞く。


「それで僕を撃った奴は今も逃走中なのか?」

「うん、そうだよ。ロットワイラーのみんなが今も必死に探し回ってる。でも捕まえるのは難しいと思う。あの女の人、仲間には『リリス』て名乗ってたらしいけど、偽名だろうし、容姿は魔道具を使えばいくらでも変えられることができるし」

「元冒険者を仲間にしたのも、自分の素性を悟らせないためだろうしな」


 もしかしたらその女はまた夢の命を狙いにくるかもしれない。しばらくは周りを警戒しながら行動した方が良いだろう。

 服を着終え最後に僕は腰に短剣を装備して言う。


「よし、準備完了だ。それで今日はどうするんだ?」

「今日もギルドでクエストを受けようよ」

「うん、わかった」

「それじゃあ今日も一日、頑張ろう!」


 そして今日もこうして夢との異世界の一日が始まった。

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