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プロローグ

 

 異世界 シープ王国。

 六月十九日。


 この異世界に来るようになってから一体、どのぐらい時が過ぎたのだろうか。

 そんなこといつの間にか数えなくなっていたが、いやそもそもそんなこと最初っから数えていなかったが、しかしあれから何年も時が経った気がする。

 この生活もいつのまにか当たり前になって、てそしてここで思い出もかなり増え、それなりに凶悪なモンスターと戦ったりして人間としても成長しているはずだ。

 でも、だからこそ僕──夢野望は思うのだった。


「そっちに猫ちゃんが行ったよ!お兄ちゃん!」

「了解!」


 どうして僕は必死になって猫なんかを追いかけているのだろうか。

 とても異世界に召喚されてまでやるクエストとは思えなかった。

 もっとマシなクエストはなかったのだろうか。まさかこの世界でもまた猫探しをやることになるとは……。

 そんなことを思いながら僕は中世風の街並みを走り抜ける。

 この街の地形は僕達が住んでいる横浜の街にとても似ているので、街の地形はだいたい頭の中に入っていた。

 だからこそ猫を追い詰めることは僕にとってそう難しいことではなかった。

 猫は路地裏にはいる。でもそこは案の定行き止まりだった。

 立ちはだかる壁に猫は立ち止まる。そんな猫に僕はじりじりと一歩ずつ詰め寄りながら言う。


「さあ今度こそ大人しく捕まってもらおうか」


 そしてゆっくりと手を差し伸べ捕まえようとした瞬間──シャア‼と威嚇し、僕の右手をひっかいてきた。


「痛って‼」


 僕は右手の甲をひっかかれ驚きのあまり尻餅をつく。

 その瞬間を猫が見逃すはずもなく、猫はまるで忍者のように壁をよじ登り民家の屋根に軽々と移動してしまった。

 クソっせっかく追い詰めたのに、また逃げられてしまった。

 先ほど引っかかれた傷口から赤い血が流れ、地面に滴り落ちる。僕は右手を抑えながら(大丈夫、これぐらいの痛みだったら僕は平気だ)と念じた。

 そして屋根に移動した猫を見る。

 猫はもうこれ以上追ってこないだろうと思っているらしく、その場に座り「ニャー」と大きな欠伸をしていた。完全に僕のことをなめている様子だった。

 あのクソ猫、絶対に捕まえてやる……。

 しかし屋根にいたら猫を捕まえことは容易いことではなかった。もしも頑張って登ったとしても猫はその隙に逃げてしまうだろう。

 さて、どうしようか。と悩んでいると──


「お兄ちゃん!私に任せて!」


 やれやれ、主役の登場だ。

 後ろを振り返ると長い魔法の杖を両手で持ち、白いローブを羽織っている黒髪ショートの女の子が走ってきた。その姿はまるでアニメに出てくる魔法少女に見える。

 そのローブの女の子はそのまま僕の横を走り抜けとイチ、ニ、サンと力強くステップを踏み、思いっきり空高く飛んだ。

 まるで魔法でも使っているように……。

 これには猫もびっくりした様子で「ニャッ‼」と鳴く。

 猫は急いでローブの女の子から逃げようとするが残念ながら時すでに遅し──。


「つかまえた」


 次の瞬間、ローブの女の子は猫を優しく抱きかかえながらそう言った。

 あまりにも一瞬の出来事で猫は「ニャ⁉」と何が起こったのかわからずにいるみたいだ。

 それもそのはず、アイツは先ほど時を数秒間だけ時間を止めたのだ。

 その名も時間系魔法『タイムストップ』。

 この異世界で彼女だけしか使えない魔法。

 だからこそ彼女はあんなにも簡単に猫を捕まえることができた。

『時止め』なんて普通だったらそんなことはできるはずもないが、ここは異世界。

 この世界は魔法とかなんでもありの世界なのだ。

 そして僕の妹──夢野夢は普通の女の子ではない。

 夢はどんな魔法でも使えることができる『最強の魔法使い』であり、僕たちが住んでいるこのシープ王国の危機を救った英雄でもあるのだ。

 だけど僕の妹はただ強いだけじゃない。

 そもそも夢の強さなんて所詮、付属品でしかないだろうと彼女の兄である僕は思う。

 夢は猫を優しく抱きしめながら地面にゆっくりと僕の目に降りてくる。

 そして僕を見て天使のような神々しい笑顔で言うのだった。


「お兄ちゃん、捕まえたよ」


 強さなんて付属品でしかない。

 そう僕の妹は最高に可愛いのだった。


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