2☆井戸
「月夜の晩の丑三つ時に5種類の花を摘んであの井戸を覗くと未来の結婚相手が見える」
教えられた乙女たちは、誰も彼も試してみたがった。
「いい?寮の門限破りになっちゃうから、怒られてもそれでもみたい有志だけ募るわ!」
上級生の奈々が言うと、ぱらぱらと手が上がった。
みんなに口止めして決行!という日になって、がさ入れがあって、みんな次々に捕まって大目玉を食った。
奈々だけがどうにかこうにか、くだんの井戸までたどり着いた。
花を摘む手が震えた。
5種類揃った!
恐る恐る井戸に近づくと、そおっと中を覗き込んだ。
「あはっ、あはは」
井戸は、枯れ井戸だったのだ!
奈々はその場にへたりこんで月を見上げた。
「なんだか、今日の月はギラギラして見えるわね?」
ちゃぽん。
水音がはっきりと聞こえた。
奈々は反射的に井戸を覗いた。
たっぷりの水がある。
水面は、今しがた石でも投げ込まれたのか、波が見える。
やがて水面が静まると、奈々が月をバックにうつっている。
「!」
奈々の姿が老婆に変わってうつっていた。
奈々は恐怖に、一目散に逃げた。
長い年月が流れて、奈々は年をとった。
孫娘に昔あんなことがあったのよ!と話した夜、彼女はきしむ足腰を従えて、若かりし日のように、井戸を覗きに行った。
井戸は水がたっぷりだった。
「こんなおばあさんになっちゃった」
パシャン。
奈々は杖で井戸水を叩いた。
水面の波が静まったとき、奈々は見た。
若い奈々が月をバックにうつっている!
やがて、月は雲間に隠れて奈々は今の自分しかうつらなくなったのをなげいた。