1☆内視鏡
大腸の内視鏡検査の最中だった。
「こりゃあ、ひどいな」
医師は患者に悟られないようにひとりごちた。
ポリープがぼろぼろある。中には紫に変色していて、あきらかに癌に違いないものまであった。
「細胞検査用に少し表面をかじりとりますからね」
「?」
患者はきょとんとしている。変だ。こんなに酷ければ痛みで悶絶していたっておかしくないのに。
医師はチューブの中を通して病変した細胞を採取、しようとするがうまくいかない。
「とれた!」
やっと手応えがあり、助手に採取した細胞を回収させると、患者を気づかいながらチューブを患者の体内から取り出した。
「さっき、ショックに対応する薬の注射を肩にしましたが、このあと傷口が早く治る薬を点滴します」
「あの肩の注射痛かったなぁ」
「お腹は?」
「え?」
「お腹の痛みはどうですか?」
「痛いけど、そこまでひどくありませんよ」
「?」
医師は首をひねった。
数ヶ月後。
痛みに悶絶する別の患者の治療に医師はあたっていた。
内視鏡ではきれいな内臓が見えたのに、手術して切り開いてみたら、あきらかに手遅れの末期癌だった。
手の下しようもなく、その患者は数日後亡くなった。
「こんなことがあってたまるか!」
医師はカルテを叩きつけた。
そういえば、数ヶ月前の患者。採取した細胞は異状なしだったので手術していないが、あのとき内視鏡検査で見た映像は、今度の患者のものだといえば辻褄があうが…。
「数ヶ月も違うんだぞ?!」
医師はその可能性を否定した。