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JK、王様拾いました  作者: 殿水結子@「娼館の乙女」好評発売中!
第2章.半身兵器「阪神」と二人の絆
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7.アニ・コルテス議長の急襲

「エレキビームって何だ?」


 ラウルが前を向いたまま尋ねて来る。


「攻撃出来るみたい。シフトJで、黄色のボタン長押しだって」

「ふむ。アヤナ、もっとこの乗り物について説明してくれ」

「うん。速く走り過ぎると転ぶので注意。あっ、通信機能もついてる。他の阪神と通話可能……でも、あそこに阪神くんは一台しかなかったけどなぁ」

「他には?」

「ええっと、ラウルの触れたあの板あるじゃん?そのハンドル中央についてる、スマホみたいな板。その中にも説明書が入ってるって」

「この中に説明書……?」


 ラウルはハンドルの下側を覗き込む。アヤナは笑った。


「あはは、覗き込んでるのウケる!つまりこの紙の説明書が燃えても、その板を操作すれば同じ内容が読めるってわけ」


 日が傾き、周囲は黄昏れて来ている。ふと、鼻先に焦げ臭いにおいが漂って来た。


「ん?何だ?」


 タロウが声を出す。隊列全体に嫌な予感が漂い、速度を上げてヒドラ森の見える丘へと駆けて行く。隊列はそこに足を止め、呆然と立ち尽くした。


 ヒドラ森が燃えている。


 隊列の視線が、森からゆっくりとラウルに移った。全員が目の色を失っている。アヤナも声を失っていた。そして彼女は、ラウルの手に力が入って行くのを目撃する。


「……ラウル」

「アヤナ、降りろ」

「何をする気?」

「今ならまだ、森に火を放った奴に一矢報いることが出来るかもしれない」


 アヤナはカイ少年のことを思い出していた。あの子はどうしているだろうか。


「わ、私も行く!」


 するとタロウが力の限りに叫んだ。


「お前ら何ボーッと突っ立ってやがる!残っているやつらを救出するぞ!」


 それを合図に、隊列が丘を一気に駆け下りて行く。が、森の手前で一同は足を止めた。


 ヒドラ森から騎馬隊がゆったりと歩いて来る。一様に磨き上げられた銀の鎧をまとい、バチバチと近づき難い音を発している。ラウルはハッと息を呑んだ。


「……どうしたの?あの集団は一体……」


 アヤナが問うのより早く。


「これはこれは陛下。盗賊の真似事とはお盛んですなぁ。おや、不思議な乗り物に乗っておられますね。よもやそれは、神器ではありませぬか?」


 向こうから挨拶が飛んで来た。老紳士だが、甲冑に身を包んでしゃんと馬を乗りこなしている。


「……知り合い?」


 ラウルは歯ぎしりをしてから答えた。


「アルベス村議長の、アニ・コルテスだ」


 アヤナはカイの言葉を思い出していた。ベリエ王国を大きく四つに分ける村のひとつ、その長らしい。


 アニは数十の騎馬兵を従えていた。バチバチと細かい音が立ち、アヤナやラウルのところにまで静電気が伝わって来る。相手は余程強大な電気を体に蓄えているらしい。


「陛下。すぐにその物体から降りるのです。さっさと投降し、神器をお譲りなさい。さもなくば……あなたもあのアジトと同じ末路を辿っていただきますよ?」


 ラウルは舌打ちし、ひとりごちた。


「神器が目的か。ならばやはり、盗賊に我が城を襲わせたのは、議長こいつだったのだ」


 ラウルは背後にささやく。


「アヤナ、隠れていろ。相手は強すぎる……」


 が、既にそこにアヤナの姿はなかった。


「あ、アヤナ?」


 嫌な予感がし、きょろきょろと視線を動かしていると


「アニ・コルテス!!」


 背中から木刀を引き抜いたアヤナが、いつの間にやら阪神の足元に立っている。静電気も影響しているのだろうか、文字通り怒りに毛が逆立っている。


「森に火をつけるなんて許さない!残った子供をどうしたの!」


 急に出てきた奇妙な出で立ちの女に、アニは目を白黒させた。


「……女か?」

「ただでは帰さない……必ず鉄槌を下す!」


 アヤナは目血走り、怒りに我を忘れている。アニはアヤナを上から下まで見て、フムと呟いた。


「女で海兵の出で立ち。さては貴様、王の護衛か?そこをどけ、神器をよこすんだ」


 アヤナは木刀を手に走って向かおうとしたが、アニの手にバチバチと電撃が集まる様を目撃する。その次の瞬間、彼の手から地面と平行に稲妻が走った。アヤナの手に衝撃が走り、木刀が地に落ちる。


 呆然とするアヤナに、アニはけらけらと笑った。


「蓄電が間に合わなんだか。者共!今だ、やれ!!」


 騎馬兵が手に手に火花を散らし始める。アヤナの脳裏に、カイの声がよみがえった。


──危ない!って感じると、ブワーっとビリビリした感じが手の平に集まって来るんだよ。


 アヤナは一縷いちるの望みにすがり、片手を前に出す。


──アヤナ姉ちゃんの電撃、見てみたいなァ。


「だめだ、カイ……私、電撃なんか」


 アヤナの足が絶望に震え出した、その時だった。


 視界が真っ白に飛んだ。アヤナの横から燃えるような閃光が通り過ぎ、声を上げる間もなくドンという衝撃音が遅れてやって来る。バリバリと雷鳴のような音が轟きようやく顔を上げると、眼前には騎馬兵らが累々と地に落ちていた。


 アヤナは何が起きたのか分からず、手を前に出したまま呆然と肩で息をする。アニも衝撃で落馬していたが、うめいて立ち上がった。


 アヤナとアニの目が合う。


「貴様……油断させおってからに。海兵の女め、覚えてろよ……」


 遠くから、離れていた騎馬兵がアニの元に駆け寄って来る。騎馬兵はアニを乗せると一目散に逃げて行った。


 盗賊らが安堵と興奮の入り混じった息をようやく吐き出す。アヤナは後方を振り返った。呆然とするラウルに対し、主を乗せた阪神は平然と立っている。


 よくよく目を凝らすと、阪神の腹の中央から円筒がへそのように突出していた。それでようやくアヤナは気づいた。


「今のビームは、阪神くんの……」


 ラウルは阪神をしゃがませて降りるとアヤナの元へと歩いた。


「アヤナ、ケガはないか?」

「ねえラウル。あれ、どうやったの?」


 ラウルは声をひそめた。


「アヤナの説明の通り、黄色のボタンを押したんだ」

「そっか。あれがエレキビーム……」

「オイオイ、姉ちゃん凄いな!」


 タロウが馬に乗ったまま、浮足立ってやって来る。


「あれがアヤナの力か!そりゃ女だてらに王の護衛にもならぁな!」


 アヤナとラウルは顔を見合わせた。どうもタロウの目にはアヤナが閃光を発したように見えたらしい。アニの台詞を反芻する。どうやらあちらも、アヤナが電撃攻撃したように見えたらしかった。


「者共!アジトへ戻るぞ!!」


 タロウは矢も楯もたまらず走り出す。盗賊が去り、ラウルはアヤナに手を差し出した。


「立てるか?」

「こ、腰が抜けて……」


 アヤナはラウルに肩を貸され、ほうほうのていで歩き出した。


 二人で阪神に乗り込み、ラウルの操縦で立ち上がる。後方の座席に座ったアヤナは、ラウルの背もたれに額をついた。


「うーっ、疲れたぁ」

「まさかアニ相手に出て行くとは思わなかったぞ」

「だってムカつくじゃん。完全にこっちを下に見てたし」

「当然だ。村の議長まで上り詰めるくらいだから、彼はかなりの電撃使いなんだろう」


 アヤナは腕を組み、不満げに口を尖らせた。


「はぁー、まさかラウルに助けられるとはなぁ」

「言っただろう。私が守ると」

「阪神くんのおかげでしょ?ラウルの力じゃないっつーの」


 ラウルは怒ったように黙した。アヤナは慌ててつけ加える。


「あ、ごめん!本心では超助かったありがとうって思ってるから、そんな怒んないでよ!」

「出来れば本心から話せ……無駄に傷つく」

「ごめんって!口下手で不器用な女なんだ私。ねーちょっと、機嫌直してよ」

「……ふん。もう少しご機嫌取りをしろ」

「ラウル超カッコイイ!男の中の男!」

「まるで心がこもってないな……」


 焦げたにおいが充満する森に、二人を乗せた阪神は小気味いい機械音を立てながら戻って行った。

 

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