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4.電撃能力が身分を決める世界

 次の日。


 再びタロウの小屋に呼ばれたアヤナとラウルは、朝食のパンを受け取った。タロウとその手下の見守る中、二人は久方ぶりの食事をあせあせと食べた。


 タロウが二人に単刀直入に伝える。


「ラウルよ。俺はお前を王だと信じることにした。アヤナのその服は、ベリエ王国の女子海兵隊の格好らしいな。昨晩、都にいたという仲間に聞いて、得た結論だ」


 どうやら二人のあずかり知らぬ間に、とりあえずの信用を得たらしい。アヤナとラウルは目配せし合う。


「ラウル、財宝がどこにあるのかを教えろ。そしてその現場に立ち会え。それで宝が出て来たら、お前たちを一か月匿ってやろう。更にもうひとつ見つけてくれれば、もうひと月匿う。この条件でどうだ?」

 

 アヤナがラウルを盗み見る。彼は悩まし気に目を閉じ腕組みしていたが、


「……いいだろう」


と諦観の極みで開眼し天井を見上げる。アヤナは横でほっとした。


 タロウがうきうきと地図を広げる。そして王に無言でぐいと差し出し、促す。ラウルは渋々といった様子である一点を指さした。


「ここだ」


 森から遠く離れた辺境警備施設周辺に、財宝はあるらしい。


「私がいなければ開かない細工がしてある」


 それを聞き、盗賊たちはざわめきタロウがポンと膝を打つ。


「そういうことか!どの大盗賊にも盗めなかった理由が今日分かったぞ。なあラウル、一体どんな仕掛けがあるというんだ?」

「……来れば分かる」

「どんな宝があるんだろうな?」

「……伝説によると──」


 アヤナは興味のない話題に飽き、手持ちぶさたできょろきょろしていた。ふと、彼女は部屋の隅にうずくまる十二・三歳くらいの少年に目を留める。少年は手をすり合わせ、パチパチと火花を散らす遊びに興じている。アヤナは近づき、声をかけた。


「ヒマだな、少年」


 少年はアヤナを見上げると、照れ臭そうに笑って見せた。


「少年、名前は?」

「俺、カイ」

「やることないよね。ちょっと外行こっか?」

「うん、行こ行こ」


 アヤナはカイと共に小屋の外へ出た。少年は楽しそうにアヤナの周囲を回り、奇妙な服装を珍しそうに眺める。アヤナの方も、カイ少年の行動に気になるところがあった。


「ね、この世界では皆ピカチュウみたいに雷を出せるんでしょ?」


 カイは聞き慣れぬ生物の名前に困惑の表情を浮かべたが、


「それ、カイはどうやって出してるのか教えてよ」


とアヤナに乞われると、


「うーんとね、俺がやってる一番早いやり方は、危険なことを思い浮かべること」


そう気を取り直したように答えた。


「ボーエーホンノーって言うんだって。危ない!って感じると、ブワーっとビリビリした感じが手の平に集まって来るんだよ」


 アヤナは脳内に既知のフィクションの情報を総動員し、彼の言うことを何となく理解した。


「なーるほど。それを前に突き出すと、かめはめ波が出るわけ?」

「何それ?よく分かんないけど、それを極めると手から電子ビームが出せるんだよ。それに対抗するには──蓄電ちくでんって言うんだけど、先に身体に電撃をまとわせると、防御することが出来る。だから相手の蓄電が自分の電撃力より弱ければ、その分こちらがダメージを与えられるってわけ」

「ビームっていうと、スペシウム光線的な?」

「……姉ちゃんの言ってること、難しすぎてよく分かんないよ」

「あっ。ゴメンゴメン!もしかして、カイには例えが古すぎたかな」


 あははと笑い飛ばすアヤナに、少年は輝く瞳で問いかけた。


「ねぇ、そんなこと聞いて俺をからかってるみたいだけど、アヤナ姉ちゃん、本当は物凄い電撃使いなんでしょ?」


 アヤナはぎくりと硬直する。


「女なのに、王様の護衛出来るほど強いんでしょ?」


 アヤナは戸惑いの表情を悟られぬよう、眉間にしわを寄せ意味ありげに沈黙する。


「アヤナ姉ちゃんの電撃、見てみたいなァ」


 アヤナは不敵に笑うと首を横に振り振りこう言った。


「それは──出来ない」

「何で?」

「何でって、こんな狭いところで私の力使ったら、一帯が雷落ちたみたいに焼け野原になっちゃうだろ?」


 その答えを聞き、カイは頬を紅潮させて興奮し出した。


「そっか!アヤナ姉ちゃん凄えや!」

「えへへ……それほどでも」


 何事もハッタリをかましておくのがアヤナの流儀なのであった。


(ここを追い出されでも行くとこないしな……)


 ふと、都から追放されたラウルのことを思う。


(ラウル、これからどうするつもりなんかな?)


 アヤナは目の前の少年に尋ねた。


「ちょっとさ、この界隈について色々聞いておきたいんだけど」

「いーよー」

「ベリエ王国では、一体何が起きてるの?」


 カイは辺りをはばかって答えた。


「ある時、この国を構成する四つの村の議会が、いっせいに王室への納税をやめたんだよ。干ばつ続きで農作物が不作だったからなんだけど」

「へー」

「っていうか姉ちゃん、城の兵士じゃないの?何でそんなことも知らないの?」

「おっ。少年、いい着眼点だ褒めてやろう。私は海兵だけど、傭兵出身なの。この国出身じゃないし、兵士歴も浅いんだ」


 カイはそれで納得したようだった。


「ああ、そうだったの?じゃ教えとくけど、この国は税金が高すぎたんだね。それで農民たちも自分らの食料までロクに賄えなくなって、ここのところずーっと怒りを溜めて来た。それが爆発して、皆郊外に逃げて山賊になって行ったんだよ。食べられないなら、どっかから盗もうってわけ」

「それ、ラウルは何の手も打たなかったの?」

「ん?ああ。今の話はラウル王の父、セリオ王までの話」

「ふーん」

「四つの村の議会もそれを抑えられなくなって、納税も出来なくなり、王室は力と権威、両方を落とした。その弱り目にセリオ王が崩御し、ラウル王が立った。けど」


 そこまで言い、カイの目の色が明らかに変わった。


「電撃も使えない、まともに歩けない、そんな出涸らしみたいな王が次に出て来やがった。あんなのが国を支えられるとでも?民衆は新しい王の出現でブチ切れた。暴徒化した民衆が城を襲い、略奪が始まったんだ。城の守備も落ちていたから、あっという間に都は山賊に占拠された」


 少しずつカイの口調に熱がこもって行くのを感じる。アヤナは背中にじわりと汗をかいた。


「今思うと、あの王の出現は不吉の前兆だったんだよ。あれを王に据えるべきではなかった。あいつにはもっと優秀な兄上がいたのに、それを殺してまで王になったのだから」


 アヤナは固まった。


 今、何て?


「ラウルが人を殺した?」


 アヤナの問いかけに、カイは少し気まずそうに鼻を鳴らした。


「……直接手を下したわけじゃないだろうけどさ。でもきっとあいつが命じて暗殺させたんだ。大人はみんなそう言ってる」

「でも、ラウルはずっと幽閉されていたと聞いたけど?」

「ねーちゃんはお人よしだな。そんなの嘘に決まってら。あの王室は昔からしょうもない内ゲバばかりを繰り返していたんだ。よその国からは、血濡れた王室だなんて言われてる。あいつもその血を引いてるんだ。姉ちゃんは城の兵だから仕方なくあいつのおもりをしてるんだろうけど、早く離れた方がいいぜ。タロウさんもあんたのことは一目見て気に入ったみたいだし、さっさとこの賊の一味になりなよ」


 アヤナは目を見開いた。


「へー、タロウが私を?」

「タロウさん、あんたの目は百戦錬磨の目をしていると言ってたぞ。しかも女であんな目をした奴は見たことないって」

「あー、ははは。なるほどね……」


 アヤナは初対面の人間にはおおっぴらには出来ない、地元で潜り抜けた数々の修羅場を思い出していた。




 日が高くなるにつれ、盗賊のアジトが活気づき出した。昼食後、隊列を作ってラウルの言う、神器の在り処へ行くらしい。

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