39.王の腹案
ラウルは次に、イサクに目を向けた。イサクはぎくりとし、脂汗をかくが
「兄上と王妃を殺した罪は、城を取り戻してから追及することにしよう」
と、王はさらりと言ってのける。それを聞き、ニルダは愕然とした。
「何!?イサクがルキアを殺しただと……!?」
おや、とアヤナは思う。イサクの胸中を、行動を、ニルダは知らないようだった。
ラウルとしては、鎌をかけたつもりだった。実際にどうだったかは、白鴎に乗って過去へ戻れば判明してしまうことだ。当たろうが当たるまいが、こうとでも言ってしまえば確実に周囲に感情の波は起こる。
イサクは震えると、がくりと膝をついた。
「うう……」
アニとセバは愕然とし、互いに青くなってラウルを見ている。ここにいる議長は全員、事の大小はあれど脛に傷があるようだ。それを冷徹に見届けてラウルは更に続ける。
「あの白鴎に乗ってしまえば、お前たちの悪事や秘密などいくらでも暴くことが出来る。だが今やるべきことは、そなた達を罰することではない。城を取り返し、この国を安寧へと導くこと。それが、今の私の目的だ」
議長らは全員青い顔で押し黙る。
「そのために、君たちに協力を仰ぎたい。アニとセバの言うことが正しければ、恐らくあの城内は様々な勢力で混沌としているはずだ。血で血を洗っているのかもしれない。二人の議長の軍を合わせても太刀打ちできないとなると、ニルダとイサクの力も借りたいのだが……どうだ?」
議長らは惑っている。今ラウルを助けて、こちらの益になるのかどうかを考えているらしい。その空気をすぐに読み取って、ラウルは言った。
「逃げずに協力した者の村には、将来的に神器を下賜すると約束しよう」
すると途端に議長らの目の色が変わった。アヤナは「えー!」と驚嘆する。
「ラウル!それはちょっと……!」
ラウルはアヤナを見ず、前を向いたまま「しっ」と息を吐いた。王の有無を言わさない様子に、彼女は黙る。
「神器は個々の電撃能力に関わらず、全ての人間が平等に対等な武力を持てるという側面がある。各議長の電撃力以上の強力な武力が均等にあれば、均衡がとれて無駄な戦闘の抑止になる。それを四つの村に均等に配置し、村々で管理をさせようと思うのだが……」
議長らは急に降って湧いた王の権力配分案に唸った。これで神器を奪い合う必要がなくなり、ひとつの権力争いが終わることになる。
しかしこの案を、踏みにじった者がひとり。
「はぁー?バッカじゃねーの?」
カイだった。大人たちは声のした方を向く。
「議長たちに、より大きな力を与えてどうするんだよ。俺たち平民がこれからもより強い力で殴られるってだけの話じゃん。それじゃ根本的な解決にならねーって!」
ラウルが身内から殴られた形だ。アヤナは自分の中の違和感の正体に、それで気づいた。
「ラウルは市民のことなんか、これっぽっちも考えてないんだよ。だから市民も王のことを頼れないんだよ。議長達のご機嫌取りをする前に、もっとやることがあるはずだろ?」
ラウルは面食らっていたが、すぐに熟考の体勢になる。
「市民が豊かにならないと上の方で何かごちゃごちゃやってても、事態は変わらないよ」
「……だから、そのために、城を取り戻そうと言っているのだ」
まっすぐ少年を見つめ、王は言う。
「カイ、君にも約束しよう。必ず税率を下げるし、村をコントロールする。セリオ王のように全て臣下に任せたりせず、私が政治の舵を取る。この国をもっと豊かにするために尽力しよう」
「この期に及んで口約束かよ。誰が信じるっつーんだよ」
「全ては未来のためだ。我々、同じ土地に住む者の」
その言葉にカイは一瞬たじろいだ。まさについ最近まで同じ部屋で暮らした者同士だったことを思い出したのだ。ラウルは少年の両肩を掴むと、その目を見据えた。
「カイこそ大事なことを忘れている。私は放電が出来ない。地位も兵も臣下も失っている。そこから立ち上がるための神器を分けようという覚悟が、お前に分かるか?私は、命も武器も差し出した上で、人を信じるしかないのだ。その人にどんな過去があって、裏切りの予兆があったとしても、少しでも可能性がある以上──私は、やるしかない」
カイは目を見開いて黙る。
「口約束を実行し続けることでしか、信頼は得られないのだ。分かってくれ」
地下がしんと静まり返る。アヤナは苦しくなる胸を押さえた。
カイの目の色が変わったのを見る。ここにも、王に絡め捕られた者がまたひとり。
本当にこの人、やる気だ。
少年の心の声が、アヤナにも届いたような気がした。




