13.セバ・コルテス議長との対決
修道院の玄関ホールに、軍を率いた男の姿がある。
顔に大きな傷跡のある、屈強そうな栗毛短髪の男、セバ・ロサレス。若くして議長にまで上りつめたとあって、その目は自信に満ち溢れている。
リンは玄関ホールに降り立つと、その男の前に歯を食いしばり立ち塞がった。
「ここで王をかくまっていると聞いている。王を出すのだ」
セバがぎろりとリンを見下ろす。リンは負けじと大男を見上げ、こう問いただした。
「ひとつ質問があります。議長は王に何の用があるのですか?」
その声に誘い出されるように、アヤナとラウルはそれぞれ別の柱の陰に隠れた。三人で事前に打ち合わせた通り、アヤナはここでドローンにスイッチを入れる。
ラウルがアヤナから託された日光杉の木刀を握り、息を殺して見守る中、セバは答えた。
「悪いようにはせん。とにかく王を生きて引き取りたいのだ」
「それは、なぜですか?王を引き取った後はどのようになさるおつもりですか?」
するとセバは舌打ちをし、
「さては時間稼ぎだな?そこをどけ、女ァ!」
と力任せにリンを弾き飛ばした。他のシスターから悲鳴が上がる。ラウルはいてもたってもいられず歩き出したが、近くのシスターに止められた。
「ぐっ、離せ!」
「今行ってはいけません。アヤナ様のタイミングを待って……」
向こうの柱の影からアヤナがドローンを高々と浮かべ、操作を開始したその時だった。
カシャカシャ。
薄暗い構内に複数のフラッシュ音がして、セバは思わず目を押さえた。
「うわっ、何だ?光で前が」
シスター見習いたちは、手に手にあのデジカメを持っていた。
「こしゃくな……電撃能力を使った目くらましか!?」
そのセバの言葉で確信を持ったのか、三十五人のシスターらは連続してフラッシュをたき続けた。そこに、ビーッという電子音がし、セバがぎゃっと叫んだ。
セバの肩を、ドローン兵器燕のビームが撃ったのだ。貫通しているらしく、血が糸状に噴出する。柱の陰から覗いていたアヤナは、その余りの威力に少し引いた。
「えっ……これ、そんな強いの?」
セバは血まみれの肩を押さえると、痛みに耐えながら周囲を見渡した。そこに再びのフラッシュシャワーが爆発する。どこからビームが撃たれたのかも分からない。混乱の中、セバは怒鳴った。
「さてはこれが、アニがやられたという女海兵の電撃能力なのか!?おい、皆の者!女海兵と王を探せ!」
セバが兵を引き連れ、生活棟に向かって走り出した。家探しをするらしい。ラウルとアヤナは再び柱の陰に隠れた。しかしそこへ、
「いたぞ!!」
叫び声がしたかと思うと、アヤナは首根っこを掴まれ、柱の陰から兵士らにずるりと廊下へ引きずり出された。彼女はコントローラーを握り締めたままだ。
「アヤナ!」
ラウルが木刀を手に立ち上がる。兵士たちの視線が、ラウルに集まった。
「私はここだ!ここにいる!その女から手を放せ!!」
「王だ!王がいたぞ!!」
アヤナは放り出され、ラウルに兵士が向かって行く。当初から、彼らの目的は王の捕獲にあったのだ、無理もない。
アヤナは呆然とする。万事休す──かと思いきや。
ラウルは木刀を手に仁王立ちになり、兵士を迎え撃つ。そしてまるで舞踊でも踊り出すかのように軸足を決め、胸をそらせて木刀を斜め上に掲げると、腰を入れ、反動をつけて木刀を一方向に振り回す。打たれた兵士はあっけなく廊下に弾け飛んだ。他の兵士も次々飛び掛かるが、ラウルはものともせず、木刀を意思を持って振り回す。地面に叩きつけられた後、彼らは一様に呆然とする。まさか片足のない不具の王ラウルに、このような力があるとは思いもよらないことだったらしい。
アヤナも息を呑んだ。まさかの怪力である。
「そ、そうだ、今……」
アヤナはコントローラーを握り直した。臆することなく、Aボタンを力いっぱい連打する。ビームが雨のように降り注ぎ、兵の叫び声と血しぶきが構内を染めた。
「退避!いったん修道院を出ろ!全員野営へ戻れー!!」
セバの野太い声が修道院内に響き渡る。アヤナはドローンを慎重に操作し、自らの手元に回収した。阿鼻叫喚の中、ラウルがリンに促されて柱の陰に隠れる。アヤナも走って行って、ラウルのしゃがみ込む柱の陰に滑り込んだ。
「ふー、危なかったぁ!」
「アヤナ、怪我はないか?」
ラウルが心配そうに問うて来るが、
「ラウルってば足がないくせに、剣術めっちゃ出来んじゃん!」
と彼女はその肩を忌々しそうに小突いた。
「いや、あれは咄嗟のことで……」
「咄嗟にあそこまで出来るなら早く言って?重心のかけ方が普通の人間と違うから剣の動きに予測がつかなくて、それがいい方向に作用してる。狙って出来る動きじゃないよね?」
「まあ、一応剣術の手習いは受けていた」
「妙にいい体してるのは、そういうことだったの」
ラウルは少し赤くなった。
「……電撃が使えないのだから、こっちを鍛えるしかなかろう」
「ふん!あの夜に体張って助けて損した」
「いや、あの時は非常に助かったのだ。なぜなら私は転ぶと立ち上がるのに難儀する。また、走るのが遅いから、立っていて且つ、迎え撃つ時にしか剣を振るえない。更には、彼らの目的は私を攻撃することではなく、捕獲にあったので電撃攻撃の心配がなかったという──そういう、かなり狭い条件下でしか使いものにならない腕なのだ」
二人の会話を聞き、リンは何度も笑っている。アヤナとラウルは気まずくなり、会話をやめた。
「とにかく、みんな助かって安心しましたわ。セバ様一行は野営に戻ったようですし、こちらも話し合いましょう。これからの──ラウル様の逃亡計画を」




