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1.JK、降臨

 不穏な風吹きすさぶ森の中、月明かりだけを頼りに、農民らはある白髪の男を取り囲んでいる。


 バチバチと弾けるような音が鳴り響き、彼らはそれぞれ息を殺しながら男に向かって農具を振り上げた。


 白髪の男が死を覚悟し、目を閉じた次の瞬間。


 天上から唐突に強烈な光が差し込み、闇夜が裂かれた。明らかに月からではない強烈な光が、割れた雲から地に注ぎ込んでいる。農民は驚きの中農具を引き上げ、その光に向かって口々に叫ぶ。


「見ろ!空が……!」


 その光の中には、眠ったように目を閉じてふわふわと浮かぶひとりの少女の姿があった。

 

 セーラー服をまとい、木刀を大事そうに抱えた金髪の少女──


 どすん!


「うわっ、ったぁー!」


 男と農民の間に少女が落ちて来た。その場を支配していた緊迫感は消え去り、彼らは騒然とする。


「あだだ……トラックが突っ込んで来たと思ったら……ここ、どこ……?」


 少女は農民を見つけて話しかける。


「まさか意識飛んでる内に拉致されて捨てられたとか?」

「し、知らん!そこをどけ女ァ!」


 農民の叫び声に面食らい、彼女はやれやれと首を振った。


「私に命令する気?」

「だから、どけ!俺達は後ろの……あいつに鉄槌を下すんだ!」


 少女が背後を振り返ると、そこには白髪の男がひとり、腰を抜かしているのが見えた。


「相手は年寄りじゃん。……みんな、老人相手にこんなことを?」

「う、うるせぇ!」


 業を煮やした農民が力任せに少女に向かってナタをふるう。その刹那。


「こてー!っと」


 彼女に手を木刀で弾かれ、ナタが地面に叩き落とされる。彼らが呆気に取られている内に、


ォー!」


 その腹に木刀の一閃が叩き込まれた。農民らは覚悟を決め、倒された仲間の仇とばかりに決死の表情で少女に向かって行く。彼女は器用に横飛びと後退を繰り返すと、彼らの隙という隙に剣を叩き込み、次々と相手を沈めて行った。


 地に農民と農具が累々と転がる。


 あっという間の出来事だった。 


あぶな!木刀ちゃんなかったらやられてた!」


 少女は木刀をセーラーカラーの襟足から背に差し込むと、白髪の男に振り返る。


「そこの人、ケガはなかった?きょうびオヤジ狩りに遭うなんて、ツイてなかったね」


 男はゆっくりと立ち上がる。予想していたより背が高い。男は泰然と少女に問うた。


「女よ、名は何と言う?」


 少女はぱちくりと目を見開いてから男を見上げ、得心したように破顔した。


「私?私は壬生みぶアヤナ。島崎しまざき高校の一年生」

「アヤナと申すか。よくぞ助けてくれた、礼を言うぞ。私が城に戻った暁には、褒美を取らせよう」


 それを聞き、途端にアヤナの顔が疑念に曇る。アヤナは首を捻りまじまじとその男の顔を覗き込んだ。それからそうっと男の白髪に手を伸ばす──


「な、何をする貴様……!」


 アヤナは構わずその白髪を引っ張った。カールした白髪はいとも簡単に取れ、現れたのは黒髪をひっつめにした若い男。


「どうりで声が若いと思った!お年寄りじゃないじゃん!何が目的でこんなモン被ってんの?アニメのコスプレか何か?」

「は?コス……?とは何だ」

「ん?コスチュームプレイの略だよ」

「何だと?失敬な、これは我が国の正装だ!」


 男はそう言うと、アヤナからカツラをむしり取って被り直した。


「そっちこそ何言ってんの?正装と言えば私の着てるこの制服とか、それぐらいの年の男ならスーツとかじゃん。変な奴」


 男は唸り、おびえるようにアヤナから後退する。


「ま、いいや。ご褒美くれるんでしょ。何くれるの?」

「……望むものなら、何でも」

「お兄さん、まさかランプの精?じゃあ私、とりあえず地元に帰りたい。トチ狂ったトラックにはねられて、どうも私、ここに捨てられたみたいなんだよね。最寄り駅まで送ってくれないかなぁ」

「地元か。貴様の地元はどこだ?」

「うーんと、栃木県」

「トチギケン?」


 怪訝な表情の男に、アヤナは軽く笑って続けた。


「あ、ガイジンさんには分かんないか!そりゃそうだよね。ええと、ここはどこ?地名が分かれば電車で帰れるからさ」

「ベリエ王国」

「え?今何て?」


 男は気を取り直したように繰り返した。


「ベリエ王国だ。そしてここはその郊外のヒドラ森。首都には、もう……」


 しかしすぐに、声を詰まらせてしまった。


「ねえ、ベリエ王国って何県?」


 アヤナの呑気な質問に、男は諦めたような笑みを漏らす。


「私が治める国だ。私の名はラウル。今中心街は大変なことになっている。アヤナ。そなたに褒美を与えたいのだが、あいにく私の城……家には帰れないのだ」


 アヤナは「ふーん」と目をすがめてから、


「設定がしっかりしてるぅ!まあいいや。とりあえず、この森を抜けないとね」


と、こちらもまたどこか諦めたように同意したのだった。




 二人歩き出したところで、アヤナは気がついた。


 ラウルは少しだけ、足を引きずって歩いている。


「……ラウル、ケガしてんの?」


 アヤナが肩を貸そうと懐に潜り込んで来る。ラウルは


「……!女の世話にはならん」


とおっかなびっくり体を離した。アヤナは落ち着かない様子できょろきょろ周囲を見渡す。


「タクシーでも呼ぼうか?うーん、でもケータイもないし……」

「タクシーとは何だ?」

「車だって……移動手段のこと」


 アヤナはさも面倒臭そうに言う。


「そうだ、ラウルは王様なんでしょ?家来とか仲間とかいないの?」


 ラウルは返事もせずに歩き出す。ただならぬ空気を感じ、アヤナは尚も尋ねた。


「……で、どこ行くの?」

「知らん」


 ぶっきらぼうにラウルが答える。アヤナは先程のラウルの話を思い出した。


「王様が家に帰れないって、よっぽどだね。何やらかしたの?」


 まだ無言。


「何であの人たち、ラウルを攻撃してたのかな……」


 ラウルは決して口を割らない。アヤナはよく勘の働く娘らしくこう切り出した。


「ね、ラウル。この辺りで王様が行きそうにない場所……ってない?」


 彼の歩みが止まった。そしてゆっくりとこちらを振り返る。


「盗賊のアジトならあるが……」


 それを聞いてアヤナがにんまりと笑った。


「マジで?じゃあそこ行こうよ」


 ラウルはせわしなく瞬きをし、困った顔になる。


「王たるもの、そのような場所に入るわけには」

「でしょ?他の人もそう思うはずだよ。だから、今追われているなら、そこに逃げ込んじゃえばいい。ケガが治るまで何とかいさせてもらえるように頼んでみようよ」


 ラウルの濁った瞳に、少し光りが灯った。アヤナはそれを見逃さず


「早く教えて?交渉なら任せてよ、そういうの得意なんだ」


と促す。ラウルは落ち着かない様子で答えた。


「アジトならこの森の奥にあったはずだが」

「どっちにあるの?」

「あっちに……」

「よし!そこ行ってみよー!」


 アヤナはなぜか嬉しそうに歩き出す。ラウルは特に行くあてもないらしく、少しふらつきながら彼女について行った。


新連載始めました!ブックマークや感想、評価ポイントなどいただけると書き続ける活力になりますので、応援よろしくお願い致します♪

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