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おすはぴ!  作者: 美琴
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魔物



 二度目の秋の気配が近づいてきた。

 あれ以来、人間が入ってきたって話は残念ながら聞かない。

 うーん、一回の人助けくらいじゃ、まだまだハードルが高いかな。

 それとも、噂が広まるのにはもっともっと時間がかかるかしら。そうだよね、車も電話もないもんね。移動ってやっぱり、馬車とかかな。

 魔法があるんだから、びゅーんってワープする魔法があればいいのに!

 ……あっても、さすがに簡単じゃないかなー。


「ぴっ、ぴっ、ぴーぃぃ♪」


 日差しが和らいできたので、すっかり日課になった長老木のてっぺんでの日向ぼっこも、ちょっと時間が伸び気味。

 夏の間は暑いから、早朝しかやらなかった。木陰にいれば涼しいんだけど、夏の直射日光はなかなか厳しい物がある。

 温暖な地方みたいだねー。森も豊かだし! 一年中緑でいっぱいだし!

 ほらほら、資源いっぱいの魅力的な森だよー。こっちおいでよー。怖くないよ、繁殖期以外はね!!

 …そこの問題点も、おいおい片付けるつもりなんだけどね。っていうか、主にそれメイン。

 先ずは、話の分かる人と出会う幸運を待たないとなあ……


「ぴーりり、ぴゃう♪」


 色々考えながら、思うまま気ままにさえずる。

 リズムに合わせて、足元の枝を軽くしならせ、ぴょんぴょん跳ねる。歌うのもいいけど、最近はこんな風に踊るのも好きです。マイブーム!

 しっかし、呪歌っていつごろ教えて貰えるんだろー? 歌の練習はもうずーっとしてるけれども!

 やっぱり、気付いたら出来るようになる系なんだろうか。

 そろそろおねだりしてみよう。

 ゆるーく予定を立てて、でもまだ歌ってたいから下には降りない。

 ハーピィ生活に、時計なんてないし。皆自由に生きてるし。ごはんだけは、今の所呼ばれたら行かないとだけど、いずれ自分で狩るんだろうし。

 ある程度の集団行動は必要だけど、基本気ままなものだよねー。

 というわけで、気が済むまで歌う事にする。


「ぴぃ♪」


 ひゅう♪


 ……ん?

 好き勝手に歌う僕の鳴き声に合わせて、何かが鳴った気がした。

 歌を止めて周囲を見たけれど、特に誰もいない。

 すぐ下の方にババ様を始め、他のハーピィ達が居る筈だけど。隠れて見てたって感じでもないし、むしろ隠れる理由は無いと…、あ、僕と一緒にてっぺんに長居したら怒られちゃうかしら。


「? …ぴ、ぴっ♪」


 ひゅ・ひゅう♪


 試しにまた歌い出したら、再びすぐそばで音が鳴った。

 止めて、歌ってを繰り返しても、同じように。

 うん、気のせいじゃない。

 まるで輪唱みたいに、風が僕の後について、耳元で音を奏でてる。


「ぴゅーーーりりりり♪」


 ひゅーーーうぅぅぅ♪


「あははは、なにこれ、たのしー♪」


 真似っこって、する方が楽しい物だと思ってたけど、されても楽しいんだね。

 一人で歌うのもいいけど、誰かと一緒も良いものです。

 お歌の練習のときにフレーヌ達と歌うのは毎日してるから、知ってたけどね!

 ……はっ。もしかして、これがババ様の言ってた、『風の声』なのでは?!

 音を立てているのは間違いなく耳元の風だし、僕と一緒に歌ってくれてるのだから、これは好かれたと言っても良いんじゃないかな!

 パっと翼を広げ、てっぺんの僕専用ステージから飛び立つ。

 行く先は、ちょっとだけ下にあるババ様の巣だ。


「ババさま、ババさま! あのね、ふしぎなおとがするよ……、…ババさま?!」


 ハーピィ達で唯一、風の声が聞けるというババ様の所へ確認に。

 ぱたたと降り立ったら、いつもはふかふかの羽毛を敷き詰めた巣に座っているババ様が、自らの翼を枕にしてうつむいていた。

 ど、どうしたの?! なんか、ぐったりしてない?!

 慌てて駆け寄る。僕の声に反応して、すぐに顔を上げてくれて、少しだけほっとした。


「ああ…王子かい。どうしたね」

「ババさまこそ、どーしたの? おなかいたい? あたまいたい?」

「はは、違うよ。なんでもないから、安心おし」


 苦笑して、ババ様は僕の頭を撫でてくれた。

 なんだろ。この時間は、ハーピィにとっては朝にしたってもう遅い。寝ていたって感じでもないし…

 とりあえず、覗きこんでも顔色は悪くない、…と思う、から大丈夫なのかな。

 元々ババ様もだけど、ハーピィみんな色白だから、よく解んないけどさ!


「で、どうしたんだい。不思議な音が、なんだって?」

「あ、そうなの! あのね、うえでうたってたらね、かぜがぴゅーぴゅーおんなじおとでうたったよ! あれなあに?」

「おや…。前に、風の声が聞こえるハーピィが居るって話をしたのを、覚えているかい?」

「おぼえてる!」

「そう、それが風が仲良くしたがってるって証拠の声だよ。良かったね、随分気に入られたようだ」

「ぴぃ! じゃ、ぼくもババさまとおんなじまほう、つかえる?」


 わくわく! 魔法だ、魔法だー!

 前に居たのがそういうものとは全く、ちっとも、さっぱり無縁の世界の世界だったから、興味津々、期待でどきどきです!


「風に好かれているなら、そう難しい事じゃないよ。…ただ、普通は呪歌も使えるようになるのは、3歳くらいからだからねえ…」

「ぴ?」

「変に魔力を持ってかれても危ないし、もう少し……」


 ええええ、まだなのー?!

 そもそも呪歌も3歳からだったの?! 僕、まだ1歳半だよ!

 人間の子供に比べれば格段に成長が早いけど、あと1年半もおあずけ…!

 子供の一日って長いのに! 1年なんか、物凄く長いのに!


「……、…いや」

「ぴゃ?」

「どうも、王子はおつむに関する事の成長は、早いようだね。魔力も溜まって、無駄に漏らしてるくらいだし」


 えっ、なにそれ。

 まるでおもらしみたいに言うのはやめて欲しい。したことないもん!!

 ……あ、ハーピィのそういう事情については、その、あれです。僕ら、鳥さんですので。

 でも、普通の鳥さんよりはずっと綺麗好きで知能もあるから、巣の回りを綺麗にするためなのか、なんとなくだけど場所決まってます。

 さておいて。


「ぼく、まりょくある?」

「そりゃあ、魔物には誰にだってあるさ。だから魔物なんだ」

「ぴぃ?」

「ああ、まだその辺は知らなかったかね。そこらの動物と違って、強い魔力がある。それにより普通の動物から変化して、知能を持った。そういうのが、魔物って言われるんだよ」


 ああー、魔力がある動物、略して魔物かあ。

 悪魔とか、悪いものとか、そういう意味じゃないんだね。少し安心。


「王子が賢くて、喋るのが早かったのも魔力が高いからかもしれないねえ。普通よりも、成長が早まったんだろう」

「そうなの?」

「たぶんね。尤も、栄養は全部おつむに行ってるみたいだね、おちびさん」

「ぴぃ!」


 やめー! 気にしてるんだからー!

 僕よりちょっぴり先に生まれたフレーヌはまだしも、一日後に生まれたグリシナよりも、僕は若干小さい。

 誤差の範囲だと思うけど、メスより小さいオスってどうなのー!

 ……あ、いや自然界的には、別に珍しい事じゃないか。でも鳥的には、大差ないってのが多い気がするんだけどなー。


「じゃあ、王子が二歳になったら、魔法の使い方を教えてやろうね」

「ほんと! やくそく?!」

「ああ、約束だ。それまで、いっぱい歌って風と仲良くしておきな」

「はあーい!」


 やった! 大幅に待ち時間が短くなった!!

 僕が二歳ってことは、次の繁殖期が終わった頃だね!!

 ……あ、それまでにもうひとりくらい、哀れなオスが生まれちゃうのかな…

 うーん。この秋の間に、いい人こないかなー。

 一番実りがある時期だよー。最近、調査してたらブドウも見つけたよー。梨も柿もあったよー、美味しいよー?

 鉱脈目当てなら、季節関係ないかもだけど…

 動物だって、丸々太ってて食べごろだよー。

 まさに恵みの森なのになあ。ほぼ確定で迷子になる、ってそんなに難易度高いのかな。いや、高いかあ。

 うっかり入って、僕らに発見されなかったら、大問題だもんね。

 この森、広いからなあー……






 というわけで、相変わらず調査の日々です。

 半年も続ければ、僕の小さい翼でも、だいぶ範囲が広がってきた。

 完全に埋もれている鉱脈は僕にはわからないけど、川の流れに乗って転がってきた石で、ある程度の予測は出来なくもない。

 だーれも拾わないから、転がったままだもんねー。

 金にラピス、水晶、ルビーにエメラルド。

 水の流れで転がり、時には歪だけれど、研磨されたみたいに綺麗なものもある。

 森の外の下流では、拾ってたりするんじゃないかな…

 そういうのを、ちょいちょい集めて持ち帰り、巣にこっそり貯めてます。来たるその時に、ほーらこんなのあるよ、どうよ! ってする為に。

 釣りに餌は大事です。


 動物たちは、僕ら以外に『魔物』に該当する種族はいないみたい。

 少なくとも、森にはね。もしかしたら洞窟や地下に、おおきな空間があってそこに住んでたりなんて可能性もあるけど、それは僕らには関係ないかな…

 普通の動物の方は、前の世界の動物に比べたら、大きかったり角があったり牙があったり、ちょっと危ない感がある。

 空を飛べるハーピィには、完全に獲物だけどね。

 植物は、やっぱり前の世界とは違うけど、似たものが多い。

 似てるなー、で食べてみれば、だいたいは当たりだ。甘くておいしい。…稀に外して、ぴぃぴぃ泣きながらこないだの毒消し草を食べさせられる事になるけど。

 その度に、慌てふためくアーラには申し訳ないと思う。

 …でも、餌にするには美味しいか知らないといけないからー……

 決して、生肉に飽きた僕が、別の味覚を求めている訳ではありません。


「アーラ、にんげんのコトバおしえて!」


 そんな調査の合間に、一緒に居るアーラに人間語を教わろうと画策。

 ババ様に教わろうかとも思ったんだけど、聞いた所によると、アーラの方が話せるらしい。

 アーラもババ様に教わったのではなく、人間達が迷い込むたびに話をして覚えたようで……。アーラも、もしかして凄く優秀なんだね?! 他のハーピィで話せるって子、いない気がするし!


「…王子。何度も言いますが、人間との会話なら私が代わりに…」

「なんどもいうけど、ぼくはちょくせつおはなししたいの!」

「この間の雛は大人しかったですが、時には突然斬りかかってくる人間も、居るのですよ。私も、数度襲われた事があります」

「ぴ! …ちなみに、それってどうしたの?」

「腹が立ったので、恐慌の呪歌をかけて散り散りにさせて放置しました」


 わあお。

 てことは、複数人で入ってきたんだ…。襲い掛かる意志があるんだから、兵士とか冒険者みたいなのだったんだろうか…

 ただでさえ迷ってしまう森で、恐慌状態にさせられて仲間と逸れる…。それは、誰か生還出来たのかな。

 ワープ魔法とかあれば帰れるんだろうけど、全員は使えないよねきっと。

 少なからず、森の肥やしになった人間も居そうだね。なむなむ。

 でも、縄張りにしてるハーピィに有無を言わさず襲ってくる方が悪い。


「それはそれとして、にんげんごはおそわるの!」

「どうしてそこまで、人間に拘るのですか…」

「んー、ゴブリンよりもしつがよくて、オーガよりもあつかいやすそうで、ほかのまものはしらないから?」


 他にどんなのいるの? コボルトとか? あ、ヴァンパイア的なのとか?!

 僕の言葉に、アーラは難しい顔をして考え込んでしまった。


「……確かにそう言われてしまうと、交流するには一番マシですね。ゴブリンやオーガは、基本餌の事しか考えませんし…」


 魔力を持ち、知恵を得た動物、略して魔物とはいったいなんなのか。

 あ、でも服を着て武器を使ってたら、普通の動物よりは上等かー……


「そーだ、エルフっていうのもいるんだよね! どんなの?」

「そうですね、人間よりは私達よりかもしれません。森や自然の多い、水辺に住む魔力の高い種族です。人間より温和ですが、個体数が少ないらしく、私もあまり見た事はありません」

「ほかには? アーラがはなしやすいしゅぞくって、いる?」

「そうですね、シャットやルプス達は、基本的に嘘をつきませんからある程度は信頼出来ます。彼らも、人間よりも私達寄りです」

「…? どんなの?」

「シャットは夜目が利き、すばしこいのが特徴です。ルプスは足の速さと体力、耳が良いですね。どちらも、獣の後ろ足と耳や尻尾を持っていますよ」


 ! そうか、猫っぽい種族と、犬っぽい種族がいるんだ! 獣人だね!

 わあー、見てみたい! 手や体は人間ぽいんだよね? 可愛い気がする!


「ねえ、そのシャットやルプスは、まもの? にんげん?」

「魔物ですね。というか、人間も魔物の一種だと思いますよ? 魔法を使うだけの魔力を持ち、知恵を持つのですから」

「あ、そうだね!」

「ただ、数が多いせいなのか、個体差の激しさ故か、それを認めたがらないようです。彼らは完全に別の種なのだと思いたいようですね、ですから魔物を目の仇にする個体も居るのだと思っています」


 定義的に言えば魔物の一種なのに、人間っていう上等な種族だ! 獣のようなお前らとは違うんだ! って言いたいんだね。

 うーん、気持ちは解るけど。

 前の世界で言う、お猿さんと人間を同一視しないみたいな感じ?

 元をたどれば似たようなものなのに、もうこれだけ賢いんだから別のもの、霊長類最強! みたいな…そんなイメージ……


「私としましては、エルフやシャット達との交流ならばある程度気が抜けますが、人間は本当に落差が激しくて、王子の安全を思うと、お勧め出来ません」

「ちなみに、にんげんと、そのエルフたちをあわせたかず。どっちがおおい?」

「……、…人間、でしょうね。冒険者として森に入る者が稀に居ますが、5匹居る中にそれらの種族は1匹混ざる程度です」

「ちかくに、エルフたちはすんでる?」

「いいえ、聞いた事がありません…」


 でーすよね☆

 これだけ広くて、水場も多い森ならエルフが住んでたっていいくらいなのに、居ないって事は本当にこの森、すっごい迷うんだ。


「てことは、やっぱりにんげんとのおしゃべりが、いちばんやりやすいよね」

「そうなります、ね…」

「だから、ことばおしえて! アーラ!!」

「……」

「いちわでちかづかないよ! だれかといっしょのときいがいはしないよ! あとじゅかをおぼえるまで、がまんする!」


 突然襲われた時の緊急離脱は飛べればそこそこ行けそうだけど、呪歌が使えたらもっと安全性が高まる。

 それこそ、さっきアーラが言ってたように、恐慌の呪歌をかけてしまえば、それ以上どうしようもなくさせられるし。

 2歳になったら教えて貰えるそうだから、それまで我慢の子です。


「……王子が、人間と何らかの交流を持ちたいという気持ちは、分かりました。ですけど…」

「けど?」

「私を通さずお話出来るようになられると、私が王子のお役にたてることが減ってしまうのですが…」


 はい?

 何故か、しょぼんと肩を落として眉尻を下げるアーラに、首を傾げた。

 な、なんだろう? こないだからおかしいと思ってたけど、アーラはなんでそんなに僕の役に立とうというか、お付みたいになってるの?

 家族だよね? 僕らハーピィ、皆家族なんだよね??

 完全に王子扱いが定着しつつあるよ? なんで??


「アーラはね、すごくものしりだよ! いろいろおしえてくれるよ!」

「え…?」

「ぼくのしりたいこと、こたえてくれるよ! とってもたすかるよ、すごくたよりになるよ!」


 物知りと言えばババ様だけど、アーラだって充分凄い。

 この世界の事はまだ何もわからない僕に、アーラも実際にあまり見た事は無いと言いつつ色々教えてくれる。

 充分、すごく物知りで頼りになる!


「わ、私の知識は、ババ様の受け売りばかりで……」

「でも、すごいよ! これからもいろいろ、いっぱいおしえて?」

「は……はい! 王子のお望みのままに!」

「にんげんごもおしえてね?」

「喜んで!」


 ちょろい。

 もとい、頼られたがってる相手には、素直に甘えて頼るのが一番だね。

 というわけで、やる気満々のアーラに人間の言葉を教えて貰える流れに出来たのでした。わーい。

 あっ、そういえばエルフさんや獣人さん達は、人間語通じるのかなあ……。機会があったら会ってみたいし、話してみたい。

 たまに冒険者してるみたいだから、通じるんだよねきっと! うん!!






 ちょろい(確信)。


 魔物にも色々あります。基本的には動物っぽいです。

 人間ほど、目だった特徴のない魔物もそうは居ませんが。

 ちなみにエルフは森というよりも水依存です。森の中の方が水が綺麗だから、必然的に森の多く住むというだけで。




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