訓練
ドラゴンさんこと、ハチが森の集落の仲間入りをしてから暫く。
なんせカタラクタのお国との約束で作られた集落で、そこに突然第三者を入れるとなると色々問題なので、諸々の事情やハチの正体なんかは、サクっと皆様にも本国にもお伝えしてあります。
勿論お国への文書には、僕から神様にハチがここに居る事の是非を訪ねて、服従を誓ったドラゴンほど頼もしい存在は居ないわ、との好意的な返答まで頂きました、という一文つき。こうなれば、もうあちらは何も言えません。
土地自体は僕らのもので、滞在許可をしてるけど、別にこう、大使館的な『ここは人間さんの国の飛び地』扱いじゃあないからね。
……すっかり神様を体のいい免罪符みたいに使ってるけど、いいのかなこれ。ちょっとだけ、申し訳なくなる。
申し訳なくなるだけで、ご本鳥が優しくいいよって言ってくれるから、遠慮なく使わせて頂くんだけど。
「お待たせー! 今回の物資持ってきたわよー!」
「おお、待ってたぜ!」
「早速運び込むとするか。ハチさん、手を借りていいかい?」
「無論だ」
さてそのハチなのだけど、ドラゴンの化身と聞いて周囲の人がドン引きしたのは、せいぜい十日間ほど。
ドラゴンの誠実さなんて今まで彼らと関わった事のない人には解らないし、実際戦った人達にしてみれば、すぐ横に当の本竜が居るとか気が気じゃないよね。わかる。
わかるけど、そこはいつものボーダーレスなシオンさんの平然とした接近、それに伴うセロさんの介入、漆黒のソードナイトなルストさんの空気読まない好敵手扱いなどなどで、じきに緊張の糸は溶けて消えた。
ハチとしてもこの三人、とトリィの実力は一目置いているみたい。たぶん見回り中のトリィを探してアポ取って貰ったのも、だからだ。強いものは認めていくスタイル。
と言っても、弱いものを認めない訳でもない。というか、立場的にはハチが一番下よと僕が言ったためか、集落の誰に対しても無視も嘲る事もなく、誠実に丁寧に受け答えてくれる。
力試しさえ絡まなきゃ、とても感じのいいヒトだなって、皆も認めているみたいで、あんな風に重い荷物が森の外から運び込まれてくれば、そのお手伝いを気軽に頼めるような関係になってきたらしい。
「これはいつもの倉庫で良いか?」
「おう。……いやーそれにしても、改めてすげー力だなあ」
「人に似せた姿であろうと、本質はドラゴン故な。力が減じた訳ではない」
他の人達は二人がかりで運んでいく木箱を、ハチは一人で軽々と、なんなら二段重ねで持ち上げスタスタと歩いて行く。
なんというか、力の基本値がやっぱり人間さんじゃないよねえ。
見た目は人に似せてるし、今は鱗がないからもしかしたら防御面が下がってるかもしれないけど……下がってるのかな……、実は肌と見せかけて剣も通さなかったりしそう。
「はーちー♪」
「む。お呼びであろうか、我が主」
荷物運びのお手伝いが終わったのを見計らって、村の広場の止まり木に行ってハチを呼ぶと、すかさずやってきてその下に膝を付き、頭を下げる。
完全に部下とか配下のアクションだよね。
僕はそこまでしなくてもと思うんだけど、人間さんやハーピィ達に彼が僕に絶対服従と常に理解して頂く為にも、このままがいいのかな。
「ちょっとね、おはなし♪ したいのでーす。こっちに来て来てー♪」
「仰せのままに」
ぱたたた、と集落の外れにある川のほとりへ。
ハチは僕を追い駆けるようにやってくる。
なんとなく、容易く追い抜けるけれど、主の前に不必要に出る事をしないようにしているように感じるんだよね。
ほんとカッコいいなー。強さ絶対主義のドラゴンさんなのに、その気遣いと服従心はどっから出てくるの?
あ、でももしかしたら、普段のドラゴンの島とか、キングに対してこんな感じなのかね。強者に敬意を払う姿勢が、小さい頃から出来ているのかもしれない。しかし下克上は狙っていくんだろうな。戦闘民族かな?
「この辺でいーかな♪」
かしょ、と音を立てて河原にあったちょっと大きな石の上に着地。
すると心得たようにハチは僕の立ってる石の手前で停止し、またひざまずく。
お喋りしづらいから顔を上げて立って、と言うとやっと姿勢を正し立ち上がる。なお、石の上に居てもなお、目線は僕の方が低い。
「で、たんちょーちょくにゅーに聞きますけーど♪ ハチって、せいれいさんのまほう、使えます?」
「ふむ……。使えるかと言われれば是であるが、主と同じ使い方かと言われれば、それは非であるな」
「と、いーますと♪」
「儂らドラゴンは、例えて言うならそこらに漂っている精霊の首根っこを掴み、力尽くで言う事を聞かせている、と言った所。無論、相応の対価として魔力は渡すが」
「あー♪」
「対して、主は常に精霊を侍らせる程に愛されておる。例え命じずとも共に在り、一声かければあらゆる願いを叶えようと向こうが動くであろう」
「あれ、見えるでーす?♪」
「うむ。固定の姿を持ってはおらぬが」
へぇー。どんな風に見えるんだろ。ドラゴンさんは目も特別製かあ。
ていうか、そーか僕は風さんを侍らせてたのか。知らなかったよ。
「てことは、あの時のまほうがっせんは、やっぱりうばいあい? で良かったのでーすね♪」
「そうなる」
「んー、てことは、まほうの使い方をハチに教わるのは、ちょっとむつかし?♪」
「使い方。既に主は風の精霊に限定すれば、支配者と言って良いレベルにあるが?」
「でも、あの時取られそーになったでーす♪ 今まで、ぜんぜんまほうのせーぎょとか、考えたことなかったですのでー……」
なんかこう、制御権的なのがある事さえ、あの時知ったよ。
考えてみれば、風に好かれる、精霊魔法、制御は精霊がしてくれる……なんて言葉から、第三者が介入してくる可能性だって考えるべきだった。
なので、あの時は本当に焦ったのです。
結果としては僕の勝ちだったけど、万一の恐ろしい可能性は、出来る限り洗い出して潰しておくべきと思ったの。
「初めての奪い合いで冷静さを欠いたことを加味しても、儂の支配を弾く安定があったのだが……。不安であるのなら、訓練にお付き合い致そう」
「わ、ありがとー! ハチとのうばい合いにぜったいしょーり出来れば、もうテキは無いですよーね♪」
「うむ。少なくとも、儂の父や兄達でもなければ」
「ぴ? ハチのおとーさんやごきょーだいって、だーれ?」
「当代のドラゴンの王と、王の卵達である」
「ぴゃっ?!」
なんかすごいの出て来た!!
それってつまり、キングとプリンスだよね?!
ドラゴンキングって今も居るのね?! 確か天使さん達に倒されたんじゃなかったの?! しかもドラゴンってプリンスが複数いるの?!
「あれ、ハチってプリンスじゃー……」
「うむ、末息子の儂に星の光は宿らなんだ。しかし、それと自らの錬磨をおろそかにする事は、また別の話故な」
「そっかー」
つまり、ハチって僕で言うフレーヌ達の立ち位置なのね。兄弟にプリンスが居るし同じ血筋だけど、プリンス種ではないと。
でもそれを全く腐らず修業の旅に出るんだから、ドラゴンすごいな。
自分の身に宿った物が全てなんだろうな。
っていうか、たまたまハチがプリンス種として産まれなかっただけで、複数いるってことは、キングからはプリンス種が高確率で産まれるとかそういうルールがありそうだなっ。
もしそうなら真面目に勝ててないよ。同じプリンス種なら、種族と言う地力で負けそうだもん。あっぶな。
今日も僕は幸運の女神様に愛されてます。居るか知らないけど。居たとしても、僕の守り神はこの森の神様だろうけど。
「じゃあ、くんれん!」
「心得た。では、何でも良い。風の精霊に命じて頂けば、儂がその制御を奪いにかかろう」
「ん!」
部下に訓練つけて貰うのも、時には必要だよね。お歌だって、最初はハーピィ達みーんなに教わったんだもの。
ましてや僕は、まだまだお子ちゃまなので。
頼りになる先達に教えを乞うのは、大切な事なのです。
訓練は、本気で行わなきゃ訓練になりませんから。
『風さん風さん、ボクのおねがい聞いて下さいな。ボクらの周りでやさしいダンスをおどって下さいな』
今は制御の練習だから、攻撃とか複雑な魔法をする必要はない。
むしろ風さんの存在を把握しやすいように、僕とハチを中心として渦を巻くように、風を吹かせて貰う。
中心の気圧を下げるとかそういう事をしたい訳じゃないよ。僕らの周囲でワルツを踊って貰うだけ。
「……ふむ」
いつもならその後は風さんにお任せだけど、いつハチが手を出してきてもいいように、呼びかけた後も集中を絶やさない。
そんなボクの様子を少し見ていたらしいハチは、やおら片手を前に突き出す。
少しの間は、何もなかった。ううん、まだ何もしてないんだと思う。
そして、何の前触れもなく、ハチはグっと大きな手を握りしめた。
「あっ!」
その瞬間、ボクの周囲らで踊ってくれてた風さんが、きゃあっと驚いたみたいに無散して行ってしまった。
ひゅう、と情けない音を残して、風が収まり舞い上げられていた木の葉が地面へと落ちていく。
完全に制御権をさっくり奪われました。
言われなくてもそれは解って、ついついぷうと頬を膨らませてしまう。
「むうぅ……この間は気づいて引きとめられたのにぃー♪」
「あの時は今よりも、強い緊張状態であった故。戦いの折の命を懸けた集中力を平時で出すには、長い鍛錬が必要だ」
「まあ、そーですよねえ……」
常在戦場、ってやつ?
ハチはまさしくそれなんだろうし、ボクは森でぬくぬく甘やかされて育ってきちゃった訳で。つまりは、圧倒的に経験不足。
危機的状況の火事場の馬鹿力みたいなのは出せても、咄嗟の瞬間に全てを持って行かれたら意味はない。
人間さんにそんな達人が、……居ないとは限らないかあ。ルストさんのスピードだって、瞬間的なものかもしれないけど、その最高スピードは僕らハーピィにも、ドラゴンさんだって目視出来ないみたいなんだし。
自分や大切なものを守る為にも、出来る事はしないと。
差し当たって、僕は立派な森の王にならなきゃいけないのです。
「気を落とす事ではない、主は王の卵とは言え未だ未熟。長じれば身体も心も今よりも遥かに伸びる事は間違いない。むしろその幼さを思えば、恐ろしい程の素質をお持ちだ。通常ならば、一睨みで散らせる精霊をあそこまで従えておる」
「んんっ、ありがとーです♪」
一度はハチに勝てるくらいの制御力が出せたんだもの。
あれはまぐれではなかったと思う。最初に奪い合いになった瞬間はビックリするほどの綱渡りだったけど、その後はすごく落ち着いて……
……あっ。
「ねえ、ハチ♪」
「うむ?」
「せいれいさんのせーぎょって♪ よーするに、こう、どーっしりかまえてアイツなんかコワくないんだぞって、みんなを安心させてあげる感じ? です?」
「主の場合はそのような形であろうな。彼奴らとて薄くとも意思ある存在。より安心出来る相手、もしくは畏怖する相手に従うは道理であろう」
そうだね、つまりそう言う事なんだ。
あんな敵なんて怖くないぞ! っていう、王様的な落ち着きとカリスマが必要なんだね。少なくとも僕の場合は。
他の精霊魔法使いさんがどうなのかは、会った事が無いから解らないけど。
「ひつよーなのは、なれとせいしんしゅぎょー、でーすかねー♪」
「それは確実であるな。なに、数を熟すは修行の常。重ねるほどに自信となり、成長となる。儂で宜しければ幾らでもお相手致そう」
「うふふ、ありがとーございます♪ ……でも、ハチのしゅぎょーにはならないですかねえ?」
「カカカ、同胞の中にもハーピィの王に仕えた者は居らぬ。これは真に得難き修行の日々故、気遣いは無用」
「そーですか♪ ……そーいえば、ハチは先代のハーピィの王様って知ってます?」
「否、儂は一族の中でも若輩故な。父であれば、かつて噂を聞いたやも知れぬ」
ハチのお父さんのドラゴンキング。
んー、神様の口ぶりでは、プリンス種ってだけで普通の仲間達の倍くらいの寿命があるみたいだし……ドラゴンの王族になると、ほんと何年生きるんだろう。
「ねえ、ドラゴンって、じゅみょーはいかほどです?♪」
「……老いてそのまま骨となるドラゴンは聞いたことが無いな。大抵は、同胞か他種族に狩られる物だ」
「ほえー。じゃあ、なんさいくらいでオトナ?♪」
「島の外への修行が許されるのは、角の環が二十を数えた頃だな」
「わっか……」
「一定の周期毎に、角には環が刻まれる。幼き頃には滑らかな角が、年を経る毎に密度を増し、それが表に出ると言われておる」
ううん、習性と文化の違いが凄い。ハーピィの僕が言えたことじゃないけど。
確かに、ドラゴン姿のハチの角には模様というか、筋みたいのが入ってた気もする……けど、流石にそんな細かいトコまで覚えてないなー。
僕が生きてる限り、ドラゴン姿は封印したみたいだから、もう見れないんだろう。
「今さらですけど、人間さんみたいなこよみがあるわけ、ないでっすよねー♪」
「クカカ、人の基準で数えていては、到底足りぬし覚える手間も煩わしい。致し方なかろう」
そりゃそーだ! 正しく桁が違う。
季節の一巡りくらいは認識していても、何年経ったかなんて数えてられる訳がない。
ある意味、長命種族らしいおおらかさというか、おおざっぱさだね!
「てことは、ボクがちょっと長生きしても、ハチにはもんだいないでーすね♪」
「恐らくは。主は自らの命の期限を存じておるのか?」
「んー、こないだかみさまとお話した時に、たぶんー、……二百年くらい?」
「確か、季節一巡りが一年であったな。ふむ、一度の祭は見送る程度であろうか。その分、良き時を過ごせるであろう」
「まつり?」
「ハーピィ風に言うなら、繁殖期が近いかも知れぬ。人間風なら……嫁探しか?」
なるほど。ドラゴンさんの繁殖期の周期って、百年単位なんだー……
ま、ボクらみたいに毎年ポコポコ産まれてたら大変だよね! 長生きする生き物は、その分出生率が低いのも当たり前。
「じゃ、きがねなーくいっしょにしゅぎょー、しましょーか♪」
「有難く、お相手仕る」
お互い強くなりたい同士だねえ、その理由は違うけど。
ちょこっとだけど、知らなかったドラゴンさんの生態とか知れて、僕はなかなかご機嫌です。
それからも、僕が魔法を使ってはハチがそれを散らす、僕の対精霊カリスマ修行は続くのだけれど。なんともあっさり散り散りにされる精霊さん、なんかごめんね。
うーん、別にハチが怖いとは思ってないんだけどなー。なんでかなー。
あ、むしろ怖いと思ってないからとか? だから、緊張感もなくて、ゆるゆるになってるのかもしれない。
「シス? ……と、ハチか」
「あ、トリィー♪」
お昼過ぎまで続けていたら、ひょいとトリィが顔を出した。
いつも起きてからこの川に顔を洗いに来るよね。解っててこの場所にしたんだけど。
河原の石を踏んで近づいてくるから、僕も遠慮なく駆け寄って、ぴょんっと文字通り飛びつくと、当たり前みたいに抱っこしてくれた。
んふー、いっぱい頑張った後の甘えんぼタイムは至福!
ハチは僕の部下だし、あまえっこしてて情けない王子様だーなんて言いふらしたりしないだろうからいいのです。最悪、口留めしちゃえば彼は従ってくれる。
「なんだ、二人きりで居るのは珍しいな。ハーピィ達が怒らないか?」
「バレたらおこるかも! だからナイショ、ナイショー♪」
「匂いでバレるだろうに」
「帰る前にしょーしゅーしまーす♪」
風でぶわーっとね!
傍には居るけど、直接触ったりしてるわけじゃないから、それで大丈夫。
トリィに関しては、相変わらずとっても匂いが薄いので、今の所ベタベタ甘えまくってても、ハーピィ達に気付かれた事はない。
一度だけ、至近距離でくんかくんかされて、お花畑に行っていたのですか? とは言われたけど。うん、そんな感じの匂いなんだよね、ふっしぎー。
「……主よ」
「はい♪」
「今一度、その状態で風を操る事は可能であろうか?」
「ぴ? かまいませーんよ?♪」
いっぱい訓練してたけど、今の僕の魔力は森に居る限り超速回復状態です。無くなるとか全然思えない。
精神疲労があるかと言われれば気疲れは少ししてるけど、トリィに甘えっこして回復してるし。
何を思ったか、向こうからもう一度と言ってくるそれを、跳ねのける理由は特にないので、お望み通りに再度風さんに呼びかける。
『風さん風さん、ボクのおねがい聞いて下さいな。ボクらの間を吹き抜けて、良い風を吹かせて下さいな』
訓練だけど、せっかくだから一緒に居てくれるトリィにも目覚めの爽やかな風などを感じさせてあげて欲しい。
僕のお願いに、風さんはすぐに応えてそよそよさらりとした風が、僕とトリィ、ハチの周囲に吹き抜ける。
せっかくトリィの為に呼んだ風でもあるのだもの。ハチに散らされちゃうのは悔しくて、集中して風さん達の存在を感じる。
さあ来いいつでも来い、です。
精霊さんと魔法を紡ぐ僕をハチはまたしばし見て、やっぱり右手を持ち上げ、そしてグっと強く握る。
その瞬間、まるで僕にひっついてる子の首根っこを掴んで無理やり引っ張るような、そんな力を僕にまで感じた。
それを引っ張り返すのは……なんか気の毒だ。どっかのお奉行様の裁きかな?
なんとなくそんな風に思って、僕は引っ張られる力を遮断するように、抱き締めて包み込むみたいに、魔力で風さんをこちらに寄せる。
感覚的なもので、慣れてないからそれだけに意識を向けてしまうけど、大丈夫。
今はトリィに抱っこされてるから、飛ぶ必要も、立ってる必要も、万一を考えて周囲の気配も音も気にする必要はない。それだけに集中しても安心。
少しして、ふっと引き剥がそうとする力が無くなった。
「成程。あの時の主の安定性は、その娘が傍に居たが故か」
「ぴ?」
「余程の信頼を白き娘に向けて居られるようだ。他者に身を委ねた上で雑事を排し、完全なる没入状態を可能とするは、そういう事であろう」
……あー、それはそうだ。
例えば、傍に居るのがハーピィ達だったら、僕は皆を守ろうと思うから、そっちに意識を多少向けてしまう。
人間さんだったら、たぶん少しの警戒を持ってしまう。ティリノ先生やシオンさん達でも、完全に僕を任せるのは……難しいかもしれない。
僕がトリィを信じられるのは、大好きなのもあるけど、『絶対に僕に害になる事をしない』『安心して甘えて来る僕を裏切らない』と神様に誓ってくれて、それを僕が知って理解しているからだと思う。
それだけの力がある事が、なんとなくわかるのです。野性的第六感?
「何の話だ?」
「あのね、ハチととっくんしてたのです♪ ボクがもっともーっと、まほーとか色々使えるようになって、いざって時にこまらないよーに♪」
「ああ……。あの時はドラゴンの圧にも負けずに居られたからな。それを確実にしたかったのか」
「そゆことっです♪ んん、でもトリィにべったりしてないと安定しないのは、ダメでっすかねぇー♪」
「何、主は儂ら個の強さを求めるドラゴンではなく、群を成すハーピィの王となる者。今は親の庇護を求めるも必然、いずれは群の存在こそが支えと成ろう」
「んっ♪」
「……もしくは、共に飛ぶ翼の為にこそ強くなるも有り得る道。儂はそれも良き強さであると認めておる。諸刃の剣ではあるがな」
うん。大好きな人の為に限界突破して強くなるのは、ファンタジィの世界だけの事ではないと思う。いや、この世界とってもファンタジィだけど。
誰かのために強くなれるのは、空想や妄想ではない、ってことね。ドラゴンさんだって認めるような、愛や絆もあるってことです。割とそういうの好きよ。
ま、色んな強さはあるって事で。
ハチと僕の強さの形は違うしそれもアリと言ってくれた後で、彼は視線を僕のちょっと上……トリィの方へ向ける。
「どのような形となるかは、楽しみに見守らせて頂く。中々どうして、難儀な生き方をしておるな、白い娘よ」
「楽しまれる覚えはないのだが。それから、私を白と呼ぶのはやめてくれないか」
「そうか。では青か」
「トリィだ」
「承知した」
んん??
なんか、二人が謎の訳知り顔なのが気になる。ハチは笑ってるし、トリィはちょこっと苦い顔。
色がどうのっていうのは、たぶん名前をつけないドラゴンさん的に色や特徴で呼びがちなんだろうけど。そんなにやなのかな、トリィ。こういうのでハッキリ拒否を示すのって珍しい気がするなあ、って抱っこされながら見上げていた。




