二人の関係
☆今回はアーラ視点です
目を覚ましたそこは、とても静まり返っているように感じた。
勿論耳を澄ませてみれば、揺れる木々のざわめきや、小鳥のさえずりに動物たちの息遣いも聞き取れる。
けれど、聞きなれた長老木の揺れる音、同じ頃に目覚めた仲間達が一日の始まりに歌う声、それらに比べるとあまりにも小さくて、静寂に等しかったというだけ。
『……はあ』
溜めた息を、躊躇わず吐き出した。
目覚めたこの場所も、とても狭い。私ともう一羽がなんとか寝れる程度の、簡易的な巣。
体にかかっていた毛布を退かし、起き上がって下を見れば、普段の寝床と比べ物にならない程の低さにある。
勿論、見回す周囲にハーピィの姿は、私しかない。
当たり前。ここは私達の縄張り、迷いの森の中ではあるけれど。その中に設けられた、人間達の住処なのだから。
ドラゴンの炎に炙られ、空を飛ぶ翼を失った私は、万一落下しては命の危険があるとして、人の集落の中に別荘を拵えてそこに移住することとなった。
この森の支配者である筈なのに、弱者である人間達の領域に匿われることで守られている、これはとても腹立たしい事だったけれど、王子の決定ならば意は唱えられない。
何より、翼を燃やされ飛べない私は、地べたを歩き回るしかない人間や他の生き物と大差はないのだから。
『みじめだわ……』
肩を落とし、視線も落とす。
目に映る私の翼は白い羽根が焦げて抜け落ち、大部分が地肌の肉が見えてしまっている。
そこにあるはずの火傷は無いし、痛みもないけれど。
なんて醜いのだろう、と見れば見るほど気分が沈む。まるで、狩られて邪魔な羽毛を毟り取られ、食いつかれる直前の鳥肉のよう。
……勿論、王子や皆が私のこの姿を疎み、長老木から追い出した訳ではない事は、理解している。
私の無事を想って、少しでも安全に羽根が生え変わるまでの間を過ごせる場所を考え、ここが選ばれた。ただそれだけのこと。
それでも、みじめに感じる気持ちは拭えなかった。
『本当に……なんで生きているのかしら、私』
ドラゴン、なんて最悪の相手に挑みかかることが、どれだけ無謀なことかは理解していたつもり。
それでも、冠羽を下ろして逃げるなんて無様なことは出来なかった。この森をそっくりよこせだなんて、傲慢なことを言うドラゴンに、ハーピィとしての誇りと大切な森をかけて、引けなかった。
結果、負けてしまったのは別にいい。私一羽で勝てる相手だなんて思っていなかった。
最低限、守護を任された人間達を逃がせた。王子へ危機を知らせる役目は、彼らがしてくれる筈だった。
それでも彼らは私を助けようと手を尽くし、薄れる意識の中で最後に王子のお顔を見ることが出来た。
もう、それで充分だった。
きっと、私達の聡明な王子が、この森を救ってくれる。……私は、その為の役目は果たせた。訪れた脅威をその目にさせる、という始まる戦いへの覚悟を決めさせる、その役目だけは。
―――なのに、こうして私はまだ、生きている。
聞いたところによると、この集落に居る神を崇める神官達や、シオンやトリィといった魔法に長けた魔女達が懸命に命を救ってくれたらしい。
それに対して、感謝の気持ちもある。別に、進んで死にたかった訳でもない。
仲間が死に瀕していれば、私だってなんとか助けてほしい、助けてやりたい、と願うのだから。
けれど、こうなってみれば、残されたのは森を襲った侵略者に牙すら立てられなかったという弱さ。皆で脅威に向かうその時に、共に飛べなかった悔しさ。
ハーピィとしての誇りである翼を奪われ、本来弱者である人間達に庇護されなければ、森の獣に喰われてしまうだろう、天から地に落とされたようなみじめさ。
それらは、命が助かったという喜びだけで相殺出来るほどの重さではなかった。
「鳴き声がしたな。おい、起きてるのか?」
「!!」
独り言が、巣の外……木の下まで聞こえたらしい。尤も、内容までは解らないだろうけれど。
ちらりと見ると、そこには黒髪の吊り目の男、ティリノが何か籠を片手にこちらを見上げていた。
「……何カ用なノ?」
「シオンに頼まれて、朝飯を持ってきた。ちょっと手が離せないらしいからな」
そう言って掲げた籠からは、とても良い香りがする。焼かれた穀物と、肉の匂い。きっと、シオンが作ってくれたミートパイなのだろう。
とても落ちた気分と、気に喰わない相手の訪問に要らないとそっぽを向きたくなるけれど、腹は空腹を訴えている。
食べられる時に食べないのは、とても愚かなこと。しかし、弱者からの施しというのは……
いえ、シオンのパイは特別。彼女は私や王子にとっても大切な友であり、ハーピィに新たな美味を教えてくれる、尊敬すべき相手である。
その彼女が用意してくれたというのならば、食べない訳にはいかない。
とはいえ、この男に雛のように食事を催促するというのはあまりにも腹立たしい。故に何も言わずに居ると、そっちに行くぞと声をかけてこの別荘の巣へ簡単に出入りできるように設置された簡素な階段を登りって来た。
「アナタ、この群れのリーダーなのでハないノ? どうして、使い走リみたいな事させられテルのヨ」
「報告書はもう上げて、本国に送ったからな。ゴタつくのは返事が来てからで、今は暇なんだ」
私達にとっての王子とはいかないけれど、纏め役のような立場でしょうに。なんでわざわざ、と思った。
怪訝そうな目を向ける私に、彼はけろりと答えて巣の中へ入り、籠から取り出した布を敷いて、その上に皿に乗ったミートパイを置いた。
予想通りの美味が目の前に出されて、ごくんと唾を飲む。
それでも、早く食べたいとがっつく姿勢を見せるのは、なんとなくプライドが許さなかった。
「人間っテ、どうしようモなく不用心ネ。護衛もつけズに、ハーピィの前ニ来るナンテ」
「……今更じゃね? お前と二人きりなんて何度もあっただろ、卵二つ目だぞ」
「それデモ、今の私ハ手負いヨ。気が立っテ突然襲ってクルとか、考えなかッタの?」
「ありえなくもないな。だが、その一時的な苛立ちより、シスへの敬意が勝つだろ。今お前が俺を襲うことに意味はないし、お前を俺達に預けたあいつの信頼を裏切ることになる。そんな事しないだろ」
ああ言えばこう言う。だから、人間というのはたちが悪い。
だが、その言葉は確かにその通りで、むうと悔しさに頬を膨らませるしか出来ない。
ハーピィである私を自分たちの縄張りに受け入れた人間達は、王子を信頼している。王子もまた、群れの仲間であり家族である私を預けることを選ぶくらい、彼らを信頼している。
それを台無しにする事は、王子を悲しませることに他ならない。そんな道は、王子を愛し王子に従う私には、選べない。
ティリノはそれを解っていて、一人でハーピィの至近距離に来るなんてことを、平気でしている訳だった。
本来、呪歌で正気を失わせているならまだしも、こんな距離に居て落ち着いて会話なんて、出来ないのが人間とハーピィの筈なのに。それが恐怖であれ、警戒であれ。
ああ、訳が分からない。どうして落ち着かないのが私の方なの。平然とパイを切り分けているこの男が、意味もなく腹立たしい。
「ほら、口開けろ」
「は?」
あまつさえ、一口大に切り分けたパイを、こぼさぬように手を添えて私の口元に差し出してきた。
これには、いくらなんでも唖然とさせられた。何考えてるのこいつ?
「何ノつもり?」
「いや、その腕じゃ食えないだろ。シオンはこうしてたって聞いたぞ」
確かに、ここに滞在し始めて数日。主に私に食事を持ってくるのはハーピィ達だけれど、たまに訪れるシオンはお菓子やパイを差し入れてくれて、その時は王子にもするように手ずから食べさせてくれる。
それは、別に構わない。シオンの事は信頼している。
が、この男からそれこそ雛への給餌のように口に物を運ばれるのは、大変遺憾だった。
それ以上に、その腕……翼、では。たまに行うように、簡単に物を掴んで口に運ぶ程度の動作も出来ないと言われて、正直不快だった。
「……元々、物ヲ食べるノに口や脚以外ハ滅多に使わないワ。いいカラ置いておいテ」
「でかい肉なら脚で押さえて噛み千切れても、これはムリだろ。小さいんだから」
「五月蠅いワネ! なんなのヨ!! 翼がナイのを、そんなにバカにシたいノ?! 笑いたいナラ、ハッキリそう言って笑いナさいヨ!!」
イライラする。腹が立つ。遠回しに嫌味を言いたいのだろうか。
そういうヤツなのは知っているけれど、今は気が済んだならさっさと去って行け、と心底思う。
あまり煽られると、王子への敬愛を持ってして尚、衝動的に襲いかかってしまうかもしれない。
私が声を荒げて牙を剥くと、ティリノはきょとんとした顔をして。一端パイを乗せたフォークを更に置き、かくんと頭を下げた。
「悪い。お前らにとっては翼を傷つけられるのは、誇りを貶められたのと同然だ。軽々しく触れて、すまなかった」
「……は?」
急にしおらしく頭まで下げられて、この短い期間で二度も呆気にとられた。
相手に対して頭を下げるというのは、とても無防備になること。向かい合う誰かに命を差し出すのも同然で、こちらに害意があればとんでもなく危険な行為となる。
その感覚は、多分ハーピィも人間も変わらない。謝意を示す時、同じ動きをするのは理解している。
が、まさかこいつが、私に対して言葉のみならず、行動でさえ謝るだなんて。
「……お前、どうしたノ? 悪いモノでも食べタ?」
「人が下手に出てみりゃ、このやろう」
あまりにも、普段とは違う様子に、なんだかイライラも腹立ちも吹き飛んでしまった。
いつもなら何を言ってもお互いに気に入らないし、凹んだり怒ったりする様子も見ればむしろスっとするくらいの筈なのに。
そう考えると、ティリノもおかしいけれど、私もおかしい。なんでこいつの心配なんかしているのか。
私の言葉に、ティリノは顔を上げて少しムっとした顔をしたけれど。常のように元々キツい目つきを更に吊り上げて怒るような、そんな様子はなかった。
「前も言ったが、俺を自分のつがい宣言したのはお前だろうが」
「え、あ、…まあ、ウン」
「もう一度言うぞ、人間は律儀なんだよ。それに、つがい相手を心配したりするのは、別に人間じゃなかろうと珍しい事じゃないだろ」
心配。
……まさかこの男、私を心配して、纏め役という身でありながら一人で私の見舞いに来て、好きなものを持参して食べさせてやろうとしていたのか。
同じハーピィという仲間や家族で無いにもかかわらず。
「……。……ねエ。人間のつがいは、どういう感じなノ?」
「は?」
「ハーピィは、つがいナンテ作らないから知らないワ。ゴブリンやオークはメスの個体が少ないカラ、ボスが独り占めスルって言うシ、エルフは子をつくる時ダケつがいにナッテ、雛は群れ全体で育てルって聞いたシ」
広く魔物を見ても、それ以下の動物を見ても、どうもその定義は一定しない。
ゴブリンやオークのように、少ないメスをボスが独り占めして強い血を残そうとするものもいるし、逆にオスが少なくてメスの方が大きく強く、無理やり奪って事が済めば同種であるのに食い殺すものもいる。
エルフは私達ハーピィに近い。オスが同種に居るから他の種族を攫ったりはしないけれど。
狼などは、生涯同じ個体同士でつがいとなり、片方が死んでも新しく相手を探したりはしない。熊は確か、繁殖期ごとに相手を見つけ、その時だけのつがいとなる。
同じ四つ足の生物でも種が違えばあり方が変わる。鳥でも虫でも魚でも恐らくは。
そもそもオスという性別が存在せず、卵を産むために他種族を使う私達にとってはつがいという概念がない。他の種族にあることは解るけれど。
あえて言うなら、殺さないで居れば何度でも優秀な雛を望める存在。しかもつがいと宣言しておけば、私がそれを独占できる。
ただそれだけだったのだけれど、どうもティリノが言うつがいとは、感覚が異なるようだ。
今まで特に気にしたこともなかったけれど、森で生活する種族で無い人間の、詳しい生態は知らない。
「あー……。強いというか偉いになるが、人間のボスが女を複数侍らす事は、人間でもあるな。だが、それが全部じゃない」
「そうナノ?」
「普通の人間は、男女一対で固定のつがい……夫婦だ。子を作るのは勿論大きな役目だが、それだけでもない。共に働いて生きるための糧を得るし、片方が体調を崩せば片方がそれを気遣い支える。二人で協力して子を育てて、死ぬまで寄り添うのが……まあ理想の夫婦だな」
「……狼ニ、近いあり方なのネ」
「あくまで理想だけどな。若いうちに相手がいなくなれば、新しい相手を見つける事はある」
狼よりは知能が高いせいか、そういう効率は考えるのだろうか。確かに若いうちにこれと決めた相手を失った場合、まだ子を産む能力があるのにそれを無駄にするのは、とても勿体ない。
しかし、ボスがハーレムを作る習性もあるらしい。……やっぱり、人間というのは訳が分からない。
まあとりあえず、大多数の人間がオスメス一対のつがいを形成し、比較的互いに一途に寄り添って生きる形の生き物だということは、なんとなく理解できた。
「つまリ、私がつがい相手だカラ、傷つけバ心配なのネ」
「そうなるな。……正直、丸焦げのお前を見た時、心臓が止まるかと思った」
それだけの衝撃を受け、そのまま死ぬのではと心配したのは、聞いたこともないくらい真剣な声色から察することが出来た。
……変な話だわ。
他種族の、私から勝手に勢いでつがいだなんて宣言しただけの相手をそう認めて、同種のそれにするように心配して、こうして見舞いにきて支えようとするなんて。
人間て、おかしな生き物。
あるいは、この男がその中でも、特別おかしなやつなのかもしれない。
「……そういう事ナラ、解ったワ。特別ニ、お前からモ食べさせテ貰ってアゲル」
「偉そうだな」
「普通、成鳥になったハーピィが食事ヲ口に運んで貰うなンテ、あり得ナイワ。雛ジャあるマイシ、自分で食べラレないほど弱っテいたら、もう落ちルものダモノ」
故に、あり得ないほど特別なことであり、他種族でありながらそれが出来るなんて、光栄に思って貰わないと。
この男に飼われる気など微塵もないけど、つがい相手からの当然の気遣いというのなら、受けても構わないと少し思えた。
苦笑を浮かべて悪態をつきながら、先ほど置いたミートパイの皿を持ち直し、一口分を私の口元に持ってくる。
今度は、素直に口を開け、ぱくんと食べた。
やはり少しだけ雛のような扱いだと心が波打ったが、人間の目線で見ればそうでもないのだろう、と自分の内心を宥めつつ。
「! やっぱりシオンのパイは、最高ダワ」
「そりゃ良かった」
「こんなニ美味しいモノが解らないナンテ、勿体ないワネ、ティリノ」
「……、…もしそうでも、療養中のつがいへの見舞いの品を取るつもりはないから、好きなだけ食え、アーラ」
どうやらシオンの料理を美味しいと感じるのはハーピィのみらしい。目の前で同じものを食べたルストがしばらく動けなくなる程だから、相当なのだと解ってはいる。
それでも、私達にとっては美味しいのに、これが解らないのは残念ねと笑ったら、一瞬ティリノは目を見張って、それからやっぱり苦笑に近い表情で目を細めた。
ぱくぱくとパイを食べ進める。差し出されるスピードは速くもなく遅くもなく、ちょうどいい。
繰り返してしまえば、やはり美味しいものにプライドは敵わない。食べ終わる頃にはすっかり慣れて、なんとも思わなくなってしまった。
「そういえば、体に痛みはないんだよな?」
「ええ、飛べナイ以外ハ問題ないワ」
「なら、散歩にでも行かないか。ここで食っちゃ寝してると、太ってそれこそ飛べなくなるぞ」
「う。……そ、そうネ、それは、確かニ、そうダワ」
動かなくてもお腹は減る。普段よりは食べてない気がするけれど、シオンのパイは美味しくてつい食べ過ぎてしまう。
食べるだけ食べて、動かなければ……どうなるのかは、考えるまでもない。
ババ様は動けない分食べる量もとても少なくて、だからほっそりしていたのだろうけれど。
ならば、巣にこもっていないで、歩けはするのだから動いた方がいい。翼を失った姿も醜いが、家畜のように肥えた姿もそれはそれは醜いだろう。そんな姿、王子にはお見せ出来ない。
けれど、このみじめな翼を大勢に見られるというのは、とても抵抗があった。
「その腕を見られたくないんだな?」
「……ええ」
「そう思って、ほら」
パイの入っていた籠から、更に何かを取り出す。
それは大き目の白い布で、私の肩にかけると胸元を紐で結んで止める。
王子がつけている肩掛けに近い形で、それよりも長い。
これなら、少しくらい動いても羽根を失った私の翼を覆い隠してくれるだろう。
「どうだ? こうして隠してれば、出かける気にもなるか?」
「そう……ネ。悪くないワ、いい匂いモするシ」
「いい匂い……?」
「シオンのパイの匂い」
「ああ、同じ籠に入ってたからな」
ほんのりと食欲をそそる匂いがして、なかなか気分がいい。
今はお腹がいっぱいだから、匂いだけで満足だし。
またティリノは苦笑を浮かべると、食べ終わったお皿と敷布を籠にしまって、立ち上がる。
行くぞ、と一声かけて今度は階段を降り始める背中を、少し考えたけれど素直に追う事にした。
「散歩にも付き合うノ? よほど暇ナノね」
「お前の羽根が生え揃うまでだからな。その間くらいは融通も利く」
「そう」
「なんか見たいものでもあるか」
「なんでもいいワ。適当ニ案内して」
「解った」
上からはしょっちゅう見ていたけれど、具体的に人間達がここでどんな風に生活して、どこに何の役割を当てているのかまで詳しくは知らない。
だからまあ、案内してくれるようなので、ティリノに任せて着いて行くことにする。
ハーピィの足は、人間よりも大きく爪が鋭く、地面は歩きづらい。
それが解っているのか、普段歩くよりもゆっくりな速度で歩いているのが解って、また変な気分になった。
……本当に、変なやつ。
でもまあ、私が言い出したつがい関係を受け入れて、人間らしいつがい……夫婦の認識に当てはめて居るというのなら、それに付き合ってやっても……いいかな、と少しだけ思った。こちらには、それがないのだし。
「しっかり食って動いて寝て、いい羽根を生やせよ」
「言われナクても」
「お前が凹んでしおらしいと、調子が狂う」
「確かに、気遣っテばかりのお前モ気味が悪いワ」
「うるさいな」
「そっちコソ」
憎まれ口を叩き合いながらも、何故か笑っているのだから、本当にお互い意味が解らないし気持ちが悪い。
なのに、そんなに気分は悪くない。
前は話せば話すほど気に入らなくて腹を立てていた筈なのに、いったいどうしたのか。
……まあ、気を遣ってはいても過ぎはしない、軽くやり取り出来る言葉がついでに心も軽くしている気がするし。
お前が調子が出ないというのなら。さっさと翼を戻して、いつも通りに戻ればいいだけ。
そういうことに、しておこう。




