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おすはぴ!  作者: 美琴
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ドラゴン対策会議




「ごめん、本題にはいる前に、気になることがあるんだけど、ハッキリさせたい」


 ドラゴン対策会議に、サフィールさんを加えて、さあってところでシオンさんが挙手をした。

 とても真剣な顔で、何か重要な懸念があるみたいだった。


「本題の会議より先にか?」

「たぶんだけど、先にしといた方が良いと思う。対策考える上での前提条件が変わりかねないから」

「そこまでか。解った、なんだ?」

「シスちゃん。……昨晩あのあと、何があったの?」


 シオンさんの気になること、は、どうやら僕のことみたい。

 即ち……僕が夢の中でこの森の神様に出会って、ドラゴン撃退を頼まれたことと、神様からの加護を頂いたこと。

 正直僕自身、あんまり目が覚める前と後で違いを自覚してないんだけど、なんでわかるんだろう?


「えっと、フシギなゆめを、見たのです♪」

「夢……?」

「はい♪ 知らないひと、……ハーピィに会ったのです♪ この森とハーピィをまもる、かみさまだっておっしゃいました♪」


 隠す事じゃないだろうし、本当に僕に新しい加護が付与されてるなら、周知した方がいい。それこそ、ドラゴン対策の前提に関わるかもしれない。

 僕の言葉に、皆がざわめき、戸惑ったような様子を見せる。

 神様が居ることって、やっぱり驚くようなことなんだね。

 実際、神様が世界に沢山居ることは知ってるんだけど、どういう所にどんな神様が居て、どんな神域が存在してるのかとかさっぱりだからなー。

 僕はこの森に神様が居るって知ってむしろ納得だったんだけど。


「成る程。その神様に、何か新しく加護とか貰ってるわよね?」

「そーゆーのって、見てわかるものでーす?♪」

「見てというか、この村はあたしの魔方陣の上にあるからね。防犯上の都合で、この中のことはあたしは感知しやすくなってるの」


 あ、そーだったんだ。

 確かに、シオンさんが張った結界内、即ちシオンさんのテリトリー内ってことだもんね。

 魔法的に色々感知しやすいのは、なんとなく解る。


「あー……。…シス、その森の神は。俺たちが森に入って村まで作っている事に対して、何か言っていたか?」

「いいえ♪ ボクがみとめてまねきいれたのなら、ちょっとくらい入ったってかまわない、とのことでした♪」


 ちょっとためらいがちなティリノ先生に僕が答えたら、先生だけじゃなく皆が一斉に安堵の息を吐いた。

 …うんまあつまり、あれだよね。

 知らずと他人の敷地に入って行ったら、怒られる……ならまだしも、なんがしかの代償でも支払わされても文句言えないような、そういう感じのアレだね。きっと。

 しかも神様なんて上位存在の陣地に知らずと入って、好き勝手……は、させてないけど、いろいろ取ってってたら、生きた心地しないか。


「なんとなく、そうじゃないかとは思ってたが……」

「そうなのです?♪」

「ただの迷いの森、にしては、ちょっと異常が過ぎるからな。だが、これでもしももっと猶予があって本国に指示を仰げたとしても、即時撤退というのはなくなったな」

「そうだね。散々神様の神域に立ち入って恵みを持ち出しておいて、危険が起きた途端に逃げたんじゃあ、少なくとも僕なんて魔法を失いかねないよ」


 うん、とセロさんがうなずき、他にも何人か、特に神官さんは全員頷いた。

 神様同士のなんか、義理というか約束事みたいなのが、ここにもあるのかな。

 特にセロさんは、正義と公正の神様の神官だもんね。そりゃあ、お世話になっておいて借りを返さないんじゃ、神様も怒るだろう。

 そして、恵みをもたらしてくれた神様の神域の危機ともなれば、お国も重い腰を上げる事態のようで。

 それは助かる。積極的に、皆が手を貸してくれるって事なんだから。


「ただ、結局相談なしで緊急対応する事に代わりはないからな……。すまないんだが、後で馬鹿どもを速やかに言いくるめる為にも、手を貸す事への対価は貰えないか」

「はい♪ それは、ボクらの森をまもってくださるのですもの、とーぜんです♪ …何かごきぼうは?♪」

「そうだな……去年の夏に通行料代わりに貰った、あの飲み物があっただろう。あれの、長期的な取引の約束か、あるいは作り方そのもの。そちらの都合の良い方を」


 ふむ。

 一度切ったカードを、もう一度使えるんならこっちはありがたい。

 製法を渡すならそれでいいけど、対外的にはあれはエルフさんの知恵になってるし、僕らが絡むと取引の方になる。

 ひょいと隣のサフィールさんを見たら、少し考えてた様子だったけど頷いてくれた。拒絶する意思はないみたい。

 ではそれで、と僕も頷く。細かいことは後で決めましょう。エルフさんも僕の森の住人だし、森からのお礼になるよね。


「あっ、みなさんに手伝っていただくとして♪ おくにのほかに、ぼーけんしゃのみなさまには?♪」

「それは気にしないでくれ。こっちの経費で落とす」


 無断でドラゴン討伐に荷担させられて、雇った冒険者の報酬を経費にされるんだ、カタラクタ本国……

 それが出来るって先生は確信してるみたいだし、神様が居ることでその辺で揉めなくて済みそうだからいいとしよう。ありがとう神様。


「それで、王子。どんな加護を授かったんだい?」

「んーと、もともとボクにはかごが多くそなわってたそうですが♪ それをつよーくしたので、いろんなちからがあがったのと、まりょくのかいふくスピ ードアップ、だそーです♪」

「……さらっと言うけど、それ相当強めの加護なんだぞ」

「そーなんです?♪」

「普通はもう少し、限定的な能力の上昇よ。魔力のみだとか、運が良くなるとか。目が良くなるとか、反射神経あがるとか」

「それこそ加護の強度も内容もピンキリだから一概には言えんが」

「んー、でも、この森の中でしか、こーかないってゆってまーした♪」

「この森限定の神なんだな。それは仕方が無い」


 そういう、こう、ローカルな神様も居るんだねえ。

 もっと、森全体、全般って神様なら別なんだろうけど。


「加護を貰ったのは、王子だけかい? 他のハーピィは?」

「んー、つよーいかごを受け止められるのは、ボクだけだーって言ってまーした♪ ほかの子にかごをあげるかは、どーやってドラゴンにたいしょするかによって、またきめるとのこーとでーす♪」

「急に後から強すぎる加護を付与すると、身体に悪影響が出る事もあるって言う話し、というか伝承レベルだけど……あるからねえ」

「王子ヤ森ノ為なラバ、悪影響程度、受け止メテ見セマスノニ…」

「かみさまも、みんながだいじで、大切なの♪ だからすねないで、ね♪」


 前例が無いことだし、僕と違って複数の付与になるから、どうなるかわからなくて心配なのはあるんだと思う。

 元ハーピィキング、現ハーピィの守護神だもの。そりゃあ僕らに過保護だろうと思う。

 その辺は、教えたらハーピィ達が五体投地しそうだし、何より僕が先代の生まれ代わりみたく認識されてるので、黙っとこうと思う。


「……例えば。このドラゴン撃退作戦の間だけ、ハーピィではなく俺たちに加護を付与して貰う事は可能なんだろうか」

「えっ。どうでーしょ……?」


 ティリノ先生のつぶやきに、僕は首をかしげる。

 ハーピィ達への加護については言ってたけど、人間さん達へ加護があるかは聞いてない。

 というか、僕に聞かれても困っちゃう。出来るか出来ないかなんて、神様ご本人、…ご本鳥にしかわかんないもの。

 うーんと考えてたら、僕の耳に、……頭の中に直接声が響いてきた。

 それを聞いて、僕は考え込んでいた顔を上げる。


「かみさまのおことばを、お伝えしまーす♪」

「は?!」

「《わたしは、ハーピィのかみだから。ハーピィとかんれんのない人たちへ、かごをあげることはむずかしいわね》」

「はあ?!」


 まさかの、神様ご本鳥からの神託があった。

 僕は一度もう聞いてる声だし、そういえば何かあったら起きてる時に声かけるって言われてたし。疑わずに、聞いた言葉をそのまま話す。

 不思議なことに、これは歌わなくても普通に言葉として話すことが出来た。僕自身の滑舌の問題はあるけど。

 途端に、再びざわめきだす先生達と、ハーピィ達。

 どころか、セロさんを始めとした神官さんを筆頭に、頭を深く下げる人が多数出始める。

 落ち着きを保っているのは僕とサフィールさんと、トリィだけだった。

 ハーピィ達はたぶん、自分たちの守護神と知っても、神を信じも崇めもしたことがないから、どう反応していいのかわからないのでしょう。先生達程じゃないけど、少し動揺してる。


「……そんなでーす?♪」

「そんなですよ!!」

「王子。普通、なんの準備も儀式もなしに、直接声を届ける神は、……正確には、声を聞ける程の加護を持った信者はそうそういないんだ。それこそ、人で言うなら最高司祭、僕らで言うなら族長クラスだね」

「あまつさえ、その司祭当人にのみならともかく、今のはシスの口を介したとはいえ神に『話しかけられた』レベルだからな。普通は、厚く信仰していなくとも充分動揺に値する出来事だ」

「おふたりは、れーせーでーすね♪」

「僕らにとっては、神は恐縮し崇める存在というよりは、共に支え合い生きる存在だからね。まあ、相手の性質にもよるけれど」

「私は、以前ここの神のお声を聞いたことがあったからな」

「……待ってトリィ! あたしそれ聞いてないな?! なんで教えてくんなかったの?!」

「他言する内容の話でなかったからだ」


 ……あっ、もしかして、前に僕がべそべそしてた時にトリィを呼んだのって、この森の神様?!

 それは確かに、シオンさんにでも話されると困っちゃう。改めて、トリィの配慮に感謝した。

 あれ、トリィの加護って、声が聞けるレベルなの? それ別の神様の加護でも良いの?

 ……まあ、今聞くことじゃないか。話がそれる。


「《かおをあげて。今回は、わたしのばしょをまもってもらうのだもの、きょうしゅくしなくてもいいのよ。かみになってから、あんまり他のだれかとはなしたことがなかったから、ぶさほうでこまらせてしまったわね》」

「「滅相もございません!!」」


 そして、一同バっと勢いよく面を上げた。

 あんまり神様関係とか知らなかったけど、こ、こういうものなの?

 およその神様にも失礼が無いようにって共通認識があるんだね。特に彼らは充分ここで森の神様のお世話になってたわけだもんね、今からでも礼儀正しくしないと、今後も今も心配なのかもしれない。


「《それで、わたしのかごのはなしだけれど、ハーピィたちとのかんれんがある人には、おれいとしてもうさずけてあるわ。それをつよめることは、むずかしいかもしれない。人の体には、合わないと思うの》」

「ハーピィ達との関連、とは……」

「《ぐたいてきには、他のかみのかごをもっていなくて、ハーピィの卵のおやになってくれた人ね。あなたにもさずけたわよ、くろかみの男の子》」

「ぶっ」


 他にも黒髪の男性はいるけど、発言していたのはティリノ先生なのだから、彼のことでしょう。

 まあ実際、バッチリ卵の親になってらっしゃるわけだし。

 知らない間に、森とハーピィの神の加護を授かっていたティリノ先生がふきだした。眼を真ん丸くしたシオンさんが、ティリノ先生と、それからマッチョさんと、冒険者さんを何人かじいいいいっと見る。


「……あー、……微かに、びっみょーーーーーに、…なんか、前より上乗せされてる気がしないでもなくもない?」

「つまり、あってもなくても解らない程度の、軽い加護なんだな……」

「なにせ、ハーピィの神との事ですから。それ以外の種族には、適合しないのは仕方がないでしょう」

「という事は、基本的には今ここにある戦力で、ドラゴンの討伐あるいは撃退をしなければならない、という現状は変わらないな。いや、想定よりもシスの能力が上がっている、という朗報はあったが」

「《くろうをかけてしまって、ごめんなさいね》」

「「いえ!! お役に立てて光栄です!!」」

「《ありがとう。これからもあなたたちとわたしのハーピィたちが、良きかんけいでいられることを、わたしものぞんでいるわ》」


 わーお、神様に期待されちゃったー。

 神官さん達は、僕の口を介しての神様の激励にやる気満々の顔になったし、他の冒険者さん達もこりゃ逃げらんねえぞと表情が引き締まった。

 神様効果ってすごーい。ありがとう神様。


「じゃ、これからたいさくかーいぎ、でーすね♪」

「先ずは、当のドラゴンがどれほどの大きさや能力を持っているかという事が重要だな。先日の調査隊の皆からの話を、もう一度纏めよう」


 敵を知り、味方を知れは百戦危うからずと前の世界の昔の誰かが言ってました。

 それはこの世界でも同じようで、先ずは相手の実力がいかほどのものかとの情報を共有する。

 勿論、先日遭遇したドラゴンは、その力のすべてを見せてはいないだろうけれど。


 ―――曰く。その鱗は燃えるような赤。瞳は静かでありながらも闘志を秘めた金。

 大地を太く逞しい四肢で踏みしめ、凛々しく天へと伸びた二本の角は闇のような黒色。

 獲物を屠るに充分すぎるほどの大きな爪、敵対者へとぎらりと見せる牙は鋭く、吐く息は炎へ変わる。

 体躯は足を地についた状態で角が木の半分ほど……、遭遇した辺りの木は大きいから、たぶん体高は10m以上ある。

 どうも、東洋の蛇のような龍ではなく、西洋のトカゲ型のドラゴンが、この世界のドラゴンの基本形みたいだ。


「御伽話に語られるドラゴン、本当にその典型のようだな」

「そうだね、どうやら原種の中でも源流に近い血筋のドラゴンみたいだ。……幸い、プリンス種なんて規格外ではなさそうだけれど」

「……色々聞きたいが、ひとつずつ。原種の中でも更に源流に近い、とは?」

「僕らに伝わる話では、ドラゴンとは強大な力を持つが故に、その力を欲した魔物との交配の結果産まれた子、あるいは力を捨てたがった者達が亜種となって分かたれていった。今居る原種とは、力を更に高める事を選んだ者、あるいはまた違った力を望んだ者の末裔。現在では氷や雷といった様々な力を宿すドラゴンがいるけれど、中でも炎を操るドラゴンが始まりの血筋と言われてる」


 要するに、大本のご先祖様は炎のドラゴンで、力の系統を変化させたものは亜種ではなく、原種のままバリエーションとして認められたってことなんだね?

 その辺の種族判定はよくわからないけど、ドラゴンキングの支配下に入ったら、まあそれはドラゴン種族の一員になるだろう。

 長生きエルフさんの伝える知識は、つまりかつての魔王達との戦争、ドラゴンとの戦いの中で得たものだから、確かなはず。

 そして、元々の力を磨き続けた炎の属性のドラゴン。それだけでも、なかなかヤバそうな響きだ。


「それでは、次に。見ただけで、王族と解るものなのか?」

「うん。王……キングになる可能性がある個体は、体のどこかに星の銀色を宿すと伝えられてる。髪だったり角だったり鱗だったり一定しないけれど、どこかには必ず」

「ボクなら、かみでーすね♪」

「そう。まだ未熟な頃なら身を守るために、隠す可能性もあるけれど、まさかドラゴンが偽ることはないと思う。むしろ、見せびらかすんじゃないかな……」

「ありえるな。彼らはその身に宿った力を隠すような事は好まないだろう」


 少なくとも、ドラゴンプリンスとか言う、めまいでも起こしたくなるような存在じゃあないみたい。

 僕とハーピィ達とを考えれば、そうだったら本気で怖い。

 いや、普通のドラゴンだって怖いけどね。

 なんというか、最悪の最悪っていう目を覆いたくなるような状況ではないんだけども。普通にヤバい相手だって事はよくわかった。


「聞いた感じだと、たぶん……大きさから言って、比較的若いドラゴンだろうね。彼らは時に、自らを高めるために島を離れ、独自に巣を構える。この森を選んだのは、実りが豊かである事と、三方を大きな国に囲まれているからかな」

「……。…つまりは、誰かが森の実りを求めて縄張りに立ち入り、ドラゴンに挑む事が目的か」

「だと思う。財宝や宝石といった光物を集めるとも言うけれど、それはそれらを好むからじゃなくて、それを求める他種族が挑みかかってくることを期待しているからだ」


 なんて好戦的!!

 戦いたいならどっかのお国に直接行くんじゃないのかとか思ったけど、あれだね。たぶん、弱かったりへりくだるような相手は好ましくないんだろう。

 欲でも正義感でも、理由はなんだっていいけど、ドラゴンに挑もうと思うような強い相手とだけ、戦いたいっぽい。

 戦闘民族かなー! かっこいいけど、迷惑だよー!


「若い、という事は。鱗の硬さが、比較的軟らかい可能性は……?」

「……ある、と思う。彼らは戦えば戦うほど、攻撃を受ければ受けるほど、強固な鱗に脱皮しやすくなるはずだ。島から出て初めて巣を構える若いドラゴンなら……」

「若いドラゴンなら?」

「……魔法銀の武器でなら、鱗の防御を突破できる可能性がある、と思う」

「やはり単純な物理攻撃よりも、魔法の方が有効なのか…」


 亜種ドラゴンのシルトもそうっぽかったし、原種もそうなのかあ。

 少なくとも、ハーピィの爪程度じゃあドラゴンの鱗を傷つけられなさそう。


「トリィはドラゴンと戦ったことがあるんだったな? どう思う?」

「そうだな、私が居た部隊が討伐したのは、老齢の氷のドラゴンだった。もはやどんな武器でも鱗が弾き返すような彼とは比べるべくもないだろうが、それを差し引いても物理的な攻撃より魔法を主体に攻める方が有効なのは同意だ」

「つまり、おおよそとして魔法を使えない者でドラゴンを撹乱し、シオンを始めとした魔法使いで攻撃を行うというのが対ドラゴンの基本になるか」

「それだけおおぜいのたたかいになるとー、じゅかを使うの、むつかしーでーすねー♪」

「というか、おそらくドラゴンに呪歌は効きが悪いだろう。彼らの精神は強固すぎる。なんというか、『聞く耳を持たない』というやつだ」

「ぴー……」


 つくずくハーピィと相性悪いな、ドラゴンっ!

 真っ向勝負するとなると、普通のハーピィじゃ手も足も、いや羽も爪も出なさそうだ。

 僕は風魔法使えるけど、それをどう使って、どれくらい効くものなのか……


「あの、シス君。…例えば、僕らに有効的に働く呪歌というのは、存在しないの?」

「ぴ?」

「相手を怖がらせたり眠らせたりだけじゃなくて。今の場合なら、味方を鼓舞したりするような呪歌はあるのかな、って」

「……あるでーす?♪」

「……ナイでス。ソモソモ、普通ハーピィ達ニ、呪歌ハ効カナイデスカラ」

「ああ、そうか。基本的に、自分たちを支援する事が出来ない以上、存在していないのは道理だな」

「それでも、シス君の歌なら効果はありそうだけれど」

「それは、そうでーすねー♪」


 ドラゴンが呪歌を聴く耳持たないのなら、良い効果を歌えば僕らにだけ影響することになる。

 それは、一考の余地ありだ。

 ドラゴンなんて、挑むと考えただけで気が遠くなりそうな強者に対して、心を奮い立たせる事は、うん、きっと可能だろう。


「となると、普通のハーピィ達も霍乱役だな」

「あるいは、上からドラゴンのきょどーを、しらせることもできます♪」

「成る程、それはありがたいな。目の役割はハーピィに任せられる。後は……」

「地を駆ける速さなら任せて貰おう! 今こそ、疾風にして漆黒のソードナイトの力、解放する運命の時!」

「……まあお前ならドラゴンに捕まる事はないだろうな…、ハーピィに捕まらないんだし」


 そういえばそうだった……

 成長した今のフレーヌグリシナに追われたらどうだか知らないけど、ルストさんめっちゃ足早いんだったね。

 さておき、撹乱役は回避に自信のある人だけ。人間の体と防具じゃあ、神様の加護があったってドラゴンの踏みつけなんてまともに食らったら潰されてしまうかもしれない。

 村の防衛だってしなきゃいけないから、そういう人たちはそっちに回るだろう。

 セロさんは数少ない神官さんだから、回復役として対ドラゴンメンバーかな。


「ドラゴンの攻撃を避けつつ、撹乱はまあ、出来るだろう。問題は……」

「ドラゴンのブレスをどう防ぐ、あるいは回避するか。それから、ドラゴンを討伐あるいは撃退出来るほどの火力がこちらにあるか、ですね」


 ティリノ先生の言葉に、ラティオさんも頷いた。

 そうだ、逃げ回ってばかりじゃラチがあかない。

 ドラゴンの炎ブレスを確実によけられる、あるいは防げる手段と。何よりも、彼に負けを認めさせられるだけの、力を持っていなければいけないわけで。


「今この村に居る魔法使いで、一番火力が出せるのは……シオンか?」

「風の魔法に限定すれば、シスちゃんの方が断然強いわよ。ただ、炎相手にはちょっと相性が良くないわよね」

「ほのお、もーっともえるです?♪」

「そうなりやすいわね。ブレスを吹き飛ばす目的で風を起こしたら、森に飛び火しかねないし」


 それは、本当に死活問題レベルで困る。

 あーもうほんっと、本当に、ドラゴン(炎)って僕らと相性悪いなー!!

 氷とかー! 雷とかならー! もうちょっとなんとかー!

 ……ならないか。

 元々悪い相性というか、力量差だよね。

 今回は炎のブレスなんて使ってきて、延焼の危険があるから特に、……あれ?


「……ねえ♪ ドラゴンブレスって、もえひろがるでーす?♪」

「え? そりゃあ、炎のブレスなんだし」

「サフィールさーん♪ ドラゴンのブレスって、なんでーす?♪ まほう?♪」

「何……、いや、…それは、知らないな。ハーピィが飛ぶのと同じくらい、ドラゴンがブレスを使うのは当たり前のことだと思う」


 ええー。

 冷静に考えて、口から炎吐くとか、何事?

 そういう魔法? それとも、例えば蛇が毒を分泌する器官を持ってて、敵に吐き出すようなもの?

 どういう原理なんだろ?

 ……いやそもそも、『魔法凄い!ファンタジー!』としか思ってなかったけど、もちろん魔法で出した炎だって、怪我をするからにはちゃんと現実に炎で、だから木に燃え移るんだよね?

 何もないとこから、何かを出して現実に作用するとはなんぞや?


「……シオンさん、シオンさーん♪」

「はーいシスちゃん?」


 考え始める僕をよそに、炎のドラゴンならなんの魔法が有効か、武器に魔法付与できるほどの魔剣持ちはいるか、など話し合ってたところ、くいくいとシオンさんの服の袖を引っ張って声をかける。

 シオンさんはね。僕のこういう可愛いムーブを絶対見逃さない。相談そっちのけでこっちを見てくれる。


「せいれいまほうは、しぜんの中にいるせいれいさんに、力をかりるまほうで。セロさんたちのまほうは、かみさまの力をかりてるですよーね?♪」

「ええ、そうよ?」

「じゃ、シオンさんやセンセが使ってるのは、どういうまほうでーすか♪」

「……どう、……魔方陣じゃなくて、属性魔法の方かな?」

「はい♪」

「あれは、炎や氷っていう現象を、魔力をエネルギーに再現するって言えば良いかな。発動補助の魔道具が無いと、魔力食いまくって燃費が悪いのよね。なんせ、自分の力だけで作り出すものだから」


 なるほど、精霊魔法は制御は精霊さんがやってくれるから維持魔力がほとんどないって前に聞いたけど、属性魔法は自分で発動し、魔力を燃料に使い続けなきゃいけないわけだ。

 負担も燃費も悪そう。でも、精霊さんにめっちゃ好かれなくても、ある程度の魔法の才能があれば、使えそうだね。習得ハードルは精霊魔法よりも低いと思う。


「ほのおとか、どこでも出せます?♪」

「そうねえ」

「水のなかとかも?♪」

「えっ、いやそれは無理かな? 発動はしても、すぐ消えちゃうでしょ」

「その水を蒸発させきるだけの魔法を使えば、また別かもしれんが」


 水蒸気爆発起こりそうだね。

 ティリノ先生の補足に、僕はうなずいてもう一度考え込む。

 魔法でなんらかの現象が作り出せる。

 そして生まれたそれは、現実の現象と同じ効果を発揮する。

 なら、炎のブレスが魔法だろうが、生物としての能力だろうが……発現して吹き出されたそれは、ただの炎であると思う。

 ただの炎であるならば、温度の高低はあっても、消火不可能なものではないはず。


「そういう意味では、水の盾でも防ぎきれるか微妙だなあ、ドラゴンブレス……」

「いっそ土の盾の方が、耐久性はあるんじゃないか?」

「センセー、センセー♪」

「ん、……シス、さっきからなに考えてるんだ?」

「ボクもたいさくかんがえてます♪ センセ、ちょっとじっけんさーせて♪」

「実験……?」

「前に、あったかくしてたちっちゃなほのお♪ 今出せまーすか♪」

「? そりゃまあ……」


 以前、ティリノ先生が茨の檻に入れられてたとき、暖を取るためと使ってた、小さな炎の魔法をリクエスト。

 首をかしげながらも、先生は短く呪文を唱え、あのときと同じように手のひらの上に小さな炎を作り出す。

 後ろにいたクラベルが、つい一歩引いた。ハーピィはどうしても炎が苦手だ。ハーピィに限らないだろうけど、野性動物なら大抵。

 少し手を下げて、僕に見やすくしてくれたそれを、じっと見つめる。

 ……うーん。

 火が燃えるためには、酸素と、燃料と、温度が必要なはず。

 酸素はいいし、温度は魔法で着火温度を作り出してるとして。燃料は継続消費魔力になるのかな……?

 であれば。


「センセ、そのままにしてて♪」

「ああ」

『風さん風さん、ボクのおねがいきいてくださいな。ほのおのまわりに、くうきのから。中から出られず外から入れず。われないたまごを作ってくださいな』


 昨晩の、シオンさんの結界陣をイメージ。

 中からも外からも、あらゆる侵入を許さない。まあ風さんなので、光は防げませんが。

 ティリノ先生の手のひらの上でゆらゆら揺れる炎を、風の殻で完全に覆う。

 すると、少しして炎は小さくなっていき……やがて、ぷすんと消えてしまった。


「は?! 魔法をやめてはいないんだが……」

「なるほどなるほど♪ センセ、ごきょーりょくあーりがとー♪」

「いや、なにがなるほどなんだ、説明してくれ」


 僕が魔法を消しても、ティリノ先生の魔法は再燃しない。

 つまり、着火は魔法発動の瞬間に存在してる。消費魔力が継続燃焼のための燃料。

 僕にその二つはどうにもできないけれど。

 最後の燃焼条件、『空気』であれば、僕の掌握範囲だ!


「いいアイデアがうかびまーした♪」

「それは……?」

「今ボクがほのおをけせたのは、ほのおを風のからでつつんだのです♪ なかの空気を、ほじゅーさせない形で♪」

「……ふむ?」

「ほのおがもえるには、空気がいるのです♪ たとえまほうのほのおでも、それが同じかじっけんしまーした♪」


 属性魔法がどういう理論で存在してるかわかんないけど、発動しちゃえば自然現象と変わらない。

 たぶん燃え広がったら、術者が魔法をやめても消えないだろう。他の燃料を得てるわけだし。

 他の属性がどうなのかは、まあ今はいい。

 今大事なのは、炎のドラゴン対策なので。


「ドラゴンのブレスだって、ほのおであるのなら♪ 空気のないとこでもえないはずです♪ ……そして」

「そして?」


 にやあ、とボクはわるーく笑う。参考相手はティリノ先生。

 この発見は、ドラゴンブレス対策だけでなく。

 ドラゴンそのものへの優秀な対策になると、僕は気づいたのだ。

 その内容と、手順を簡単にみんなに説明すると。

 しばし目を丸くしていたみんなは、僕と同じ悪い顔をする人と、笑い出す人と、なんとなく不憫そうな顔をする人に分かれた。

 いや、トリィは単に感心してるみたいだけど。


「なるほど。間違いなく、その方法で頭を地につけられれば、敗北を認めるだろう。断言できる」

「そりゃいい! 天下のドラゴン様も、そうなっちゃ形無しだな!!」

「……力試しを望んでるのに、やらせても貰えないんだ……」

「むこうののぞみに応えるぎりは、ありませんので♪」


 知ったことかですよ。急にひとんちに入り込んで好き勝手言ってんのに、配慮なんかしてやりますか。

 皆様から効果的とお認めいただき、僕はにこーっと笑う。

 後は、成功確率を上げるための立ち回りと作戦の練り込みだ。

 目にもの見せてあげますからね、ドラゴンさん!

 僕のハーピィを傷つけて、僕を泣かせた落とし前はつけて貰うんだから。

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