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おすはぴ!  作者: 美琴
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森を守るために




 目を覚ますと、珍しくまだ朝早かった。お日様も昇りきっていない。

 まあそりゃそうだよね。昨晩は夜更かししないどころか、物凄く早寝になったもん。

 とはいえ、ハーピィとしては早起きとは言えない。

 既に起きて狩りに出ている大人も居る。眠っているのは、昨晩卵についていて、交代してきた子。お疲れ様ね。

 起き上がって隣を見ると、アーラがまだ眠っていた。

 よほど疲労していたのか、死も見える程の怪我に精神が疲れてしまったのか……

 焼けて切れてしまった髪も、ボロボロの羽も痛々しくて、改めてみると胸がきゅっとなる。暖かくなったから大丈夫だとは思うけど、毛布をかけ直してあげた。

 ……あれ、この毛布誰の?

 一瞬考えたけど、そっか、服が燃えちゃったし、代わりのを渡してくれる時間もなかった? から、ひとまずって感じでくれたのかな。

 とりあえず、怪我という意味ではもう無いし、呼吸も心音も安定している。うなされている様子もないし、彼女が助かったのは僕の願望が見せた夢ではなかったようで、心底ほっとした。

 ……といっても、現状としては、何も解決していない。

 どこからかやってきたドラゴン。僕らの森を、自分の縄張りにするから出て行けと言って来た、あまりにも唐突な侵略者。

 森に入ってくる事自体に許しなんて要らないけども、全部自分のものだ! は許せない。

 早急に、なんとかしなければならない。

 森に住んでいる僕らやエルフさんにとっては死活問題だし、この森の恵を得ている、ティリノ先生達だって大変困るのだから。


『みんなー、あつまってー!』

『はい、王子!』


 朝御飯のあと、僕が声を上げるとハーピィ達が集まってくる。

 卵あっため担当は席を外せないから、そちらへ向かった。アーラはまだ寝てる。ゆっくりさせてあげたいから、そっとしておく。

 皆が卵の巣の周り、巣の端や枝にとまって、僕を真剣な顔で見た。

 今がどんな状況なのか、ちゃんとわかっていて、長の僕の決断を待ってくれていたみたいだ。


『あのね、わかっていると思うけど、今はとってもたいへんな事になっているよ』

『……はい』


 改めて言うことでもないけど、大人たちは勿論ドラゴンという生き物の恐ろしさは、実際会わずとも知っているだろう。

 やんちゃなフレーヌとグリシナですら、森で僕らに勝るとしたらドラゴンだという話は幼い頃から一緒に聞かされている。ちゃんと解ってくれているみたいだ。


『この森は、ボクらにとって、大切な森。たとえ何があいてでも、ゆずる気なんてない、ってボクは思ってる』

『それは、私たちも同じ気持ちです』

『この森は、フレーヌたちの森だもん! ドラゴンが強くたって、あげないもん!』

『では、王子。これから、例のドラゴンと戦うおつもり、ですか?』

『うん。でも、ボクらだけじゃないよ。ニンゲンさんたちや、エルフさんたちの力もかりるつもり』


 ハーピィ達だけで、束になって挑んで、ドラゴンには勝てるんだろうか?

 1対1では勝てなくても、数を揃えれば、呪歌も通じるかもしれない。それがかかれば、かなり勝機は見えてくる、気がする。

 ただ、ボクも含めて、実際にドラゴンと直接相対したハーピィはこの群れにはいない。アーラしか。

 ドラゴンは強い、という漠然とした情報しか持って居ないのは、あまりにも危険だ。

 とりあえず空を飛べる、炎を吐く、なんか念話的なことや、魔法も使う子もいる、ってくらいしか知らない。あととっても頑丈。

 戦いとは、情報だ。僕はそう思う。

 故に、勝つためには、この森を守るためには、まず相手を知らなければ。

 そして、僕らは群れとはいえ、数が少ない。

 群れ全員で特攻なんてもってのほか。だって、まだ小さな雛も居るし、産まれるのを待つ卵だってある。

 それを考えたら、戦いに連れて行けるハーピィなんて、10羽そこそこ。

 戦力も足りない。情報も足りない。

 であれば、それを埋めるためにも、可能な限りの救援は求めなければ。


『この森は、ボクらの森だけど。エルフさんたちもこの森のじゅうにんだし、ニンゲンさんたちも、この森から出て行かなきゃいけないのは、こまるはずだから。きっと、力をかしてくれる』


 それこそボクらのものなんだから、ボクらが本来なんとかすべきなんだけど。

 そんなこと、言ってられないのが現実だ。

 群れの進退を考えれば、絶対に負けられない。この森から逃げたとして行く場なんてあるか解らないし、そもそもこの森は僕らにとってとても大切な森だ。なんせ、守り神様の住む聖域なのだし。

 ここがハーピィの森である、というプライドはみんな持っていると思うけど、それにしがみついていてはいけない。

 僕の言葉に、皆は異を唱えない。

 むしろ、僕の決定に従うとばかりに、大きくうなずいた。


『ボクは今から、ティリノセンセのところに行くよ。シャンテ、プリムラ、ダリア、エルフさんたちのみずうみに行って、じじょうをせつめいしてきてくれる?』

『もしも、彼らが森を去ると言った場合は?』

『ん……その時は、引き止めないであげて。サフィールさんたちだって、じぶんやなかまを守りたいって思うのは、とうぜんだもの』


 僕らは森がないと生きられないけれど、エルフさんは必ずしもそうではない。だって、街で生きているエルフだっているんだから。

 そもそも、争いから逃れて来たのだから、戦い自体を疎んで森を去る可能性もある。

 でも、それで緊急事態だから手を貸せー、なんて。それこそ、故郷を去る原因になった人たちと同じになっちゃうもの。

 生きる場所の選択は、自分でさせてあげたい。

 森に入るのも、森から出るのも、本来は自由なものなのだ。

 人間さんたちとの関係は、ちょっと特殊だから縛りを入れることになったけどね。

 この群れはといえば、森を捨てて逃げる、なんて事を考えているハーピィは一羽も居ないみたいだ。

 それを一羽一羽顔を見て確認してから、僕はさらに指示を出す。

 まず、僕を筆頭に動ける半分のハーピィは一緒に森の村へ。

 卵の暖め当番は決して減らせないし、お腹が減っては戦は出来ないため、狩りをするメンバーもきちんと。

 決して、ドラゴンが居ると思われる方面へは行かないこと、偵察も今は控えることを厳命する。

 今ドラゴンがどこに居るのかは気になるのだけれど、調査隊の人の口ぶりから察するに、ドラゴンが近づいてくる、と皆さんが気が付くよりも前にアーラが警戒した様子なんかがなかった。

 森において、いままで自分達以上の強い生物に会った事がないから警戒心が薄かったのはあるかもだけど、それでも人間さんにとっての危険生物にはあまり遭遇しないように案内してたはずだ。

 なのに出会ったって事は、ドラゴンの嗅覚を始めとした感知能力が、ハーピィに勝るとも劣らないレベルなのかもしれない。

 あるいは、魔法でも使ってたのかな? ドラゴンがどういう魔法を使うのかは知らないからなんともいえない。

 そんな訳で、僕らの索敵範囲とドラゴンのそれが近いのなら、偵察は危険だ。

 10日の猶予をくれたといっても、挑みかかっていったら当然襲われるんだろうから。

 今は、刺激しちゃいけない。探そうと思えば、巨体だというのだから簡単なことだし。


『王子……』

『! アーラ、目がさめた?』


 出発の音頭を取ろうとしたその時、寝ていたはずのアーラの声がして、振り返る。

 今は飛べないアーラは木の枝を伝ってこちらへ来てたけれど、飛べないと思うとそれはとても危なっかしく思えた。

 何せ、足を踏み外せば木の下へ真っ逆さま。いや、沢山巣があるからその何処かへ落ちるかもしれないけど、地面へそのままって可能性は0じゃない。枝を掴む腕がないから、足だけで移動するにはここは不安定だ。

 幸い、足取りはしっかりした彼女は、あの毛布で身体を包んだまま僕の側まで来て、そこでひざまづいて深く深く俯いた。

 そんな、いつもならあり得ないような畏まったような、……いや畏まってはいたけども、雰囲気的に人間で言うなら土下座してるような様子に驚いて、しゃがみこんで覗きこむ。


『アーラ? だいじょうぶ、まだどっかいたい?』

『いいえ、……いいえ、痛みは、ありません。……申し訳ございません、王子のご期待に添えなかったばかりか、あのような醜態を……』


 アーラの声は震えていて、その身体も小さく震えていた。

 当たり前だけれど、身体だけではなく、心もだいぶ傷ついているみたいだ。

 ひざまづくアーラは、なんだかとても小さく見えた。小刻みに震えている、……たぶん泣いている、彼女の頭を抱むように、僕は翼を伸ばして抱きしめる。


『そんなことないよ、よくがんばったねアーラ。アーラのおかげで、ニンゲンさんたちにもケガした人はいなかったよ』

『お、王子……』

『ありがとう、アーラ。それに、生きててくれてホントによかった』


 本来なら、飛べないほどに傷ついたハーピィが生き残る事は無いと言っていい。

 僕らに傷を治す魔法は使えない。空を飛べないほどに怪我をしていたらもう、そのまま死を待つか、他の生物に襲われて喰われるかの二択だ。

 けれど、今回はティリノ先生達と同盟を結んでいたおかげで、助けも呼んでもらえたし、アーラの傷を癒してもらうことも出来た。

 あのまま、僕らだけでこの森に生きていたらと思うとゾっとする。

 改めて、助けようと頑張ってくれた皆さんに、特に隠していたみたいなのに癒しの魔法を使ってくれたトリィに、心から感謝した。

 アーラが少し顔を上げてくれたので、翼で包んだまま、ちゅっとおでこにキスしてみる。

 案の定涙でぼろぼろだったけど、少しは落ち着いてくれるだろうか?


『……シャンテ。アーラについててあげて?』

『はい、かしこまりました』


 ちょっと予定変更だ。

 飛べなくなったショックは、とんでもないものだろう。それが、羽根が生え変わるまでの一時的なものだとしても。

 ドラゴンの炎で炙られた、なんて経験もトラウマものだろうし。

 本当は、アーラが安心するまで傍にいてあげたいんだけど、今は状況がそれを許してくれない。

 だから、シャンテにアーラを見ててもらうことにした。直接の姉妹であるアーラとシャンテは、とっても仲良しだから。

 傷ついたアーラを見て、誰よりも心配そうにしていたのは、彼女だもの。

 シャンテが抜けた代わりに、フレーヌとグリシナに湖への連絡役に向かってもらう。少し精神が幼いけど、二羽もしっかりしてきてるし、何よりも喋るのが上手いからね。


『あとのことは、ボクらにまかせて 。アーラは卵をおねがいね』

『王子! あのドラゴンと、戦うのですか……?!』

『わかんないけど、この森をうばわせたりなんかしないよ。なんとかするから、まっててね!』


 話し合いで済めば一番いいんだけど。

 戦うことになったとしても、絶対譲ったりしません。

 僕らの大事な森を奪おうとするやつにも、僕の大事な大事な家族を傷つけたやつにも、負けないからね!

 心配そうなアーラやシャンテに見送られて、僕らは長老木を飛び立った。

 やるぞー! おー!







 途中でエルフさんの湖に行くハーピィ達と分かれて、僕らは森の村までやってきた。

 まだ朝早いけれど、少し騒がしいというか、落ち着きが無い感じがする。

 冒険者さん達は皆起きてそこらを走り回っているし、いつもよりも見張りやぐらに立っている人も多い。

 明らかに警戒している人たちに、羽ばたき音で反射的に撃たれても困るので、上空で旋回しながら一声大きく鳴く。

 僕らだよー! 撃たないでねー!

 それに反応して、ほとんどの人が一度空を見て、それからティリノ先生がギルドの入り口から出てきて、僕に向かって大きく手を振ってくれる。


「センセ、おはよ!」

「おはよう。……例の件について、話し合いに来たって事でいいか?」

「はい♪」


 先生は僕に少し心配そうな顔を向けたけ ど、昨晩と打って変わって落ち着きを取り戻した僕に、アーラは心配いらないとわかってくれたんだろうか。ちょっとホっとした顔をして、僕の肯定に頷きを返した。

 それから、今しがた出てきたギルドの中へ、僕らを案内する。

 昨晩はアーラが大変だったからそのまま入ったけど、やっぱりちょっと室内は緊張する。

 ただ、配慮なのか窓は開け放ってくれてるし、クラベルが一緒に来てくれたから、ちょっと落ち着ける。彼女も僕が一緒だからだろうか、あんまりそわそわした感じはない。

 ギルド内部は、大きな卓が中央に置かれていた。

 そこに居たのはギルド統括のラティオさんが今は奥に居る。それから、セロさんルストさんシオンさんの3人組と、 トリィ。他にも冒険者さんがたくさんに、マッチョさんもいる。

 薄緑の可愛い制服を着ている女性が二人、確かここで受付業務をしてくれてるお姉さん達が皆にお茶を配ってくれた。

 ティリノ先生がラティオさんの横に来る。僕もついて、その隣。後ろに大き目の窓があるから、割と落ち着く。

 他のハーピィ達も、話が聞こえるように窓のすぐ外にいる。


「では。早速だが皆も知っての通り、現在この森はドラゴンの侵略の脅威に晒されている」


 昨日の大騒ぎがあったし、大きな村じゃないから、皆何があったかは知っているだろう。

 改めてティリノ先生が切り出すと、一同緊張した面持ちで頷いた。誰かが、つばを飲み込んだ音もした。


「ドラゴンの他種族領域の侵略は、数こそ少ない が、決して無いことじゃない。古来より、ドラゴン討伐の主な理由はそれだからな」

「ドラゴンって、どっかのしまを巣にしてるんじゃないです?♪」

「らしいな。ただ、たまに島の外に出るやつが居るそうなんだ」

「あまりカタラクタや周辺国では目撃された歴史が無いため、詳しい資料がないのが困りものですが、それが一般的に言われていることですね」

「シオンは何か知らないか?」

「んー、流石にドラゴンに直接会ったことはないなあ。それに関しては、トリィの方が詳しいかも」

「……私も、詳しい習性は知らないぞ。若いドラゴンの中には、ドラゴンの島を出て、…なんといえばいいか。武者修行のようなことをする個体が居る。元々、あれらは力を重視する種族だから、本当に修行なのかもな」


 あれ、口ぶりからすると、トリィはドラゴンに直で会ったことあるの…?

 とはいえ、そう詳しいわけじゃないみたいだけど。


「ひとつ言えるのは、ドラゴンは非常に、ある意味では誠実な生き物だ。一度『奪う』と決めたならば、途中で止める事はないだろう。気が変わってどこかへ行く、というのは無いと思っていい」


 気まぐれに襲ってきて、気まぐれにどこかへ行くというタイプじゃないみたい。

 てことは、一時的に森の外へ避難して、去るのを待つというのは不可能ってことだ。

 まあ、そもそも僕らにはその手はちょっと使えないんだけど。

 しかも超長生きな生物だから、一度奪われたら非常に長い間、そこはそのドラゴンのものとなってしまうわけで。

 うん、だめだね!


「……確認するが。シスは、というかハーピィ達は、この森を他者に譲る気はないよな?」

「ないですね♪ ありえません♪」

「だろうな」

「ちなみに、センセたちはどうなのでーすか♪」


 僕らの意思は決まっている。徹底抗戦、…うーん、出来るなら平和的解決したいけど、戦うとなったら間違っても逃げる事は無い。

 一方、人間さん達はどうするだろう?

 ここを捨てても、本来の彼らの国がある。決して、この森はカタラクタのお国のものではないから、領土を侵犯されている訳でもない。

  なら、ドラゴンなんて脅威に対し、手を引いたっていいわけだ。


「本国に報告し指示を仰いだら、まあ森からの帰還を命じられるだろうな……」

「そうでしょうね」

「ただ、幸いにも残り9日なんて日数で、本国に話を持ち帰り対策を会議して戻ってくる、なんて暇は無い。つまり、緊急時だ。緊急時の判断は、ここの責任者である俺の役目だ」

「幸いにもって言ったわよこの人」


 ほんとだよね!

 至極まじめな顔で、本国や王様に判断仰ぐ暇がなくて良かったって言ってるよね。

 ま正直、手を引かれて困るのは僕らだから、助かる。


「散々この森にも、ハーピィ達にも世話になっている。対価ありとはいえ、色々融通してもらっているしな。同盟相手の危機に手のひらを返すような、そんな事をしたくはない」

「ありがとうございまーすー♪」

「とはいえ、いくらなんでも絶対に勝ち目のない戦い、には加担出来ない。まず、あのドラゴンを追い返すか、討伐するか。そのどちらかが可能であるかを考えないといけないな」

「それは、そうでーすね♪」


 危機的状況の時に、助け合うからこその同盟です。

 そう判断してくれるのは助かるけど、時間がなくて本国の邪魔を考えなくて良い代わりに、援軍も求められない。

 流石に勝ち目のない戦いに、無為に命を散らせなんて命令はできないし、ここにいるのは冒険者さんばかりなのだから、そんな命令に従う義理もない。

 まずは、勝ち目を探さなければ。


「ドラゴンについて、くわしく知ってる人とかは、いないでーす?♪」

「存在は有名だが、実際に会ったり戦ったことのある者が居るかと言えば、……トリィはあるのか?」

「以前、とある軍に所属していた頃に。ただ、あの時とは戦力や状況が違いすぎるからな、的確な助言が出来るかは……」


 えっ、どっかの国の軍関係者だったことがあるの?

 魔女さんは寿命が長いから、若く見えても意外な経歴持ってたりすることがあるね?!


「……なら、僕でも少しはお役にたてるかな」


 え?

 何はともあれ情報量の少なさに、まず勝ち目をどう探せばいいのかと考えていた矢先、ギルド入り口から声がして、皆が振り返った。

 そこに立っていたのは、水色の髪のエルフのお兄さん。その後ろに、プリムラやフレーヌ達もいた。


「サフィールさん!」

「例のシンセからやってきた、エルフか?」

「そうだよ。……はじめまして」


 同じ森に住んでいて、お互いに存在は認識しているけど、こうして顔を合わせるのは初めてだ。

 少なくともティリノ先生的にはエルフさん達に通行料ふっかけて申し訳ない気持ちもあったろうし、サフィールさん達はそれ以前のいざこざで、人間があまり好きではなかったはずだから。

 ここにいるのは、まあプリムラ達が連れてきたんだろうけど。


「サフィールさん、どうしたです?♪ あんまり、こことか来たくなかったですよーね?♪」

「正直、あまり人間には会いたくなかったけれど……。でも、そうも言って居られない状況だからね」


 てくてく歩いてサフィールさんに近づいて見上げると、彼は苦笑を返してきた。

 ハーピィ達に事情を教えられ、その上でここに彼がいるということは。


「もう、故郷を追われるのは沢山だ。……残念ながら、僕らに武器を持った経験のあるものは居なくて、戦力としては役立たずだけれど……。それでも、少なからず知恵を貸すことくらいは、出来ると思う」


 彼らも、この森を守る決断を、してくれたんだ。

 それは、とってもありがたい。

 この森を新たな故郷として愛してくれていることも、わだかまりは消えずとも、森を守るためならとこうして力を貸すと言ってくれるのも。


「ありがとー、ひゃくにんりきです、サフィールさーん♪」

「俺からも。……すまない、恩に着る」


 笑顔の僕と、軽く頭を下げるティリノ先生。

 僕に誘われて、僕の隣に来るサフィールさん。僕を挟んで、ティリノ先生と視線を向け合う。


「……改めて、この森のエルフのまとめ役、サフィールだ。君が、王子様の言っていた、森の人間達のリーダーかな」

「ああ。カタラクタの代表という事になっている。ティリノだ」

「王子様から聞いたよ。僕らの通行料について、器を用意してくれたり運搬や、便宜を図ったりしてくれたって。……ありがとう」


 ほんの少しだけ、サフィールさんはティリノ先生に笑いかけてくれた。

 信頼を向けてくれている訳ではないけれど、有事の際には力を合わせてもいい、くらいには思ってくれてたみたいだ。

 良かった……。これも人間さん達とエルフさん達の間をいったり来たりして、ポジティブキャンペーンしてた僕の人徳だね! なんてね!

 ところで、ティリノ先生も王子様なんだけどな! まあ本人が王子なんて名乗らなかったから、いいか。

 それから、簡単に主要メンバーの紹介などを交わし、改めてドラゴン対策会議の開始となる。

 何か、倒せなくても追い返せる妙案があればいいんだけど。

 ……あれ、倒すというか、殺すよりも追い返す方が難しいかな……




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