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おすはぴ!  作者: 美琴
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昔話




 今年の新しい卵は8個。

 ……そのうち、残念ながらひとつは死んでしまったか、あるいは無精卵だったみたい。

 こればっかりは仕方ない。小鳥だって、いくつも卵を産むうちのいくつかは無精卵って事は決して珍しいことじゃなかったはず。ハーピィは1羽につき1個の卵しか産まないから、孵らない卵がどうしても悲しくなってしまうけど。

 それでも、7個の卵はみんなで交代で暖めて、問題なく育っている、…はず!

 さすがに、まだ音が聞こえてくるようなのは先だ。


『元気にうまれておいでー♪』

『待ってるよー!』

『パパも待ってるよー!』


 まだまだちいちゃな雛達への子守唄のつい でに、卵達へもお歌を歌っちゃう。

 今日はフレーヌとグリシナも卵暖め当番だから一緒。二羽のはお歌っていうか、応援かな?

 うんうん、相変わらずやんちゃな二羽だけど、こうしてるとすっかりお姉さんの風格だね!

 しっかし、アレだね。この調子でぽこぽこ卵が産まれて雛が増えてくと、本格的に人手が足んなくなりそう。

 4歳で若鳥として働き手に加えられるほどに成長するから、この4年が勝負ってことかな。それから徐々に、子育て役、狩り役、案内役とうまく配分できるようになると思う。

 それまで、なんとか上手くやっていかねばならない。

 ぽんっと手を増やせるもんじゃないからね。もともと手はないけどね!


『おにーちゃん、今日はしゅーらく行くの?』

『んー、どうしようかなー。とくにお話もないし、コンサートの時間まではエルフさんのみずうみに行こっかな』

『そっかー。行ってらっしゃーい!』


 一緒に行くー、とは言わないんだよね。エルフさんの湖だからなかな?

 いや、まあそれ以前に今日は卵当番だからか。

 うーん、なかなか責任感というか、そういうのも生まれて来たんじゃない? 二羽の成長が、兄にして弟ながら、なんだか嬉しい。


『おとさないよーにあっためる!』

『うん!』

『たまにひっくり返す時、よーちゅーい!』

『うん!』

『楽しみだね! ルー兄とのタマゴ!』

『楽しみだね!』


 ……ああ、予行練習してるのか。

 それは実にいい事だよね。多分よその種族の子だって、おままごと的な事を通じて母性というか、そういうのを育んでいくものだろう。

 心配なのは、本当に二羽が卵を産めるようになった時、頑なに自分の卵を保持しないかって事だろうか……

 いや、やるなら別にいいんだけど……、一羽でずっと温めてたら、普通にしんどいというか、ねえ。孵るのに2か月弱かかるし……

 そんなんだから、群れ全体での持ち回り制子育てな訳で。


『王子!』

『アーラ。みちあんないはー?』

『今は休憩中だそうですので、少し離れて参りました』


 さてエルフさんとこに行こうと思ったら、アーラがばささとやってきた。

 相変わらず、二つ目の鉱山へ向かう最中だ。改めての出発になったから、少し前よりは到着も早いんじゃないかな?

 集落から結構離れてるみたいで、時間がかかってる。

 そんなだから、彼らも休憩はしっかり取ってるみたい。いざって時、さっと戻ってこれないもんね、…あー戻ってこれなくはないけど。ハーピィが運べば。

 よほどの緊急事態か、ティリノ先生ご一行でもなきゃ、ブランコ運搬まではしないけどねー。苦労はちゃんとしようね皆。


『タマゴのようす見にきたの?』

『それもありますが、一番は王子に朝の挨拶も碌に出来なかったことがどうしても気がかりで』


 あー、朝早くに出てくからね。

 そして、僕はハーピィにしては朝が遅いのだ。何故かと言えば、笛ごし情報収集で夜更かしをするから。

 それはアーラも皆も解っていて、朝に寝ぼける僕を無理に起こそうとはしない。

 だから、あんまり僕はねむねむふにふにしていると、早くに案内に出ていくハーピィ達は、僕に朝の挨拶が出来ないのです。


『ごめんね、ボクがおねぼうさんだから』

『いいえ! 王子は私達を、森を守る為に懸命になさって下さっているのです。どうか謝らないで下さい』

『ありがとー。大好きだよ、アーラ』


 つい謝っちゃったけど、アーラにしてみたら謝られるより、有難うとか大好きって言われた方が絶対嬉しいよね?

 にぱっと笑って言うと、案の定アーラは喜びやらなんやらで顔を赤くして、感極まった表情で僕をだきゅっと抱きしめてくれた。

 あれ、アーラに抱きしめられるの、ちょっと久しぶりかも?


『私達も! いえ、私も大好きです、王子……!』

『んー♪』


 そしてほっぺたすりすりすり。

 シオンさんみたいだよアーラ。久々に爆発してるなあ。

 最近、僕のお付きしてる時間がめっきり減っちゃったせいかなー?

 他の子達は流石にここまでじゃ、…ない、……かなあ? ……わかんないけど、相変わらずアーラの僕への過保護? っぷりは凄い。

 まあ、別にイヤじゃない、というか好かれてる分には勿論嬉しい。

 特にアーラは産まれて最初に見た相手だし、その点刷り込みでもあるのかな?

 気が付いたら、僕もアーラに一番頼ってる気がする。一番言葉も喋れるし。強いししっかりしてるし、気が付くしー。あと先生ゲットは見事だったし。本人にその意図があったか知らないけど。


『アーラはね、いつもすっごくがんばってくれてるの、すっごくかんしゃしてるからね。いつもありがとー』

『も、勿体ないお言葉……!』


 僕成分充電が足りないのかな? と思って抱きしめられたままぽふぽふ撫でたら更に感極まって泣いちゃいそう。

 まあ、たまにはいいよね。だって、いつも凄く頑張ってくれてるし。

 それで僕も助けて貰ってるんだもん。アーラにだけじゃないけど、アーラは特に頑張ってくれてるの、僕は知ってる。

 頼りになる、信頼できる、大好きなお姉ちゃんですよ!


『では、王子のご期待に添える様、全力で今の役目を全うして参ります!』

『うん、がんばってね!』


 充電は終わったらしい。

 パっと僕から離れたアーラはもう、やる気満々気力充分のきらきら笑顔だった。

 よきかなよきかな。

 充電完了したアーラは鼻歌でも歌いそうなほどにるんるんの上機嫌で、再び飛び立っていった。


『王子……』

『ぴ?』


 ふと振り返ったら、お出かけしていない大人ハーピィ達、あと卵をあっためてたフレーヌ達以外の大人も、じっと僕を見ていた。

 ああ。うん。


『もちろん、みんなだーい好き、だよ! いつもありがとう、みーんなとってもいい子!』

『王子~~~~!!』


 確かに一番に頼りがちなのはアーラだけど、他の子達が頑張ってない訳では、決してないのです。

 王子の僕が好き! なのも解ってるし、その僕がアーラばっかり贔屓にしてたらね。家族とはいえ、むーってしちゃうよね。

 だから、嫉妬の視線を向けて来てた皆にも、笑顔の好き! を振りまく。

 それでご機嫌上向き、卵を抱えている子以外はがばーっと抱き着いてくるんですから、皆ほんとにかーわいー!

 勿論、一斉にとびかかったら僕がつぶれるので、そこはギリギリの自制心を発揮し一羽ずつ順番こに抱っこして頬をすりすり。

 最近、あんまりこういう触れ合いも減ってたから、たまにはいいね!

 王子として敬われるよりは、家族として可愛がられる方がほんとは嬉しい。

 子供の特権ですね!


 結局そんなこんなで皆と久しぶりになごなご戯れてたら、結局おでかけの時間が大幅に遅れてしまった。







 お昼を大幅に過ぎた頃、村の森でお歌をいくらか歌って、それからサフィールさんの所に遊びに来た。

 ここも、すっかりおうちも増えて、みんな不自由なく屋根の下で生活できてるみたい。良かった良かった。

 それで最近気付いたんだけど、エルフさんのおうちには、結構入っていったりするの、抵抗感が無い。

 言って木の上だからかなー? 四方に壁がある事は少し気になるんだけど、その気になればお昼寝くらい出来そうなんだよね。

 エルフさんが僕の森の住人だからなのかな。

 あんまり警戒心が無いのです。


「エルフさんもやっぱり、およぎのれんしゅーから始まるのでーすね♪」

「勿論。君だって、最初から飛べた訳じゃないだろう?」


 春になって暖かくなったからなのか、本日はエルフの子供達の泳ぎの練習をしているみたい。

 水と共に生きる種族だけど、最初っからすいすい泳げるわけじゃない。

 僕だって、最初のフライトはそれはもう、無様の一言だったからね!

 エルフのお姉さん達が、5人居る子供達に水泳指導をしている。年長の子は結構潜ったり浮いたりしてるけど、一番小さな女の子は、おっかなびっくりって感じ。


「水の中でいきするの、カンタンに出来るでーす?♪」

「うーん……やっぱり、コツというか、感覚を掴むまではちょっと時間がかかる子もいるね。上手く言葉で説明出来ないけれど」


 ああ、うんまあどんな事も、出来るようになれば出来るけど、それまではちょっと練習するっての、あるよね。

 言っちゃえば、動物が歩くのだって、大人になっちゃえば普通の事だけど、子供や赤ちゃんのうちはトライ&エラーでバランスのとり方を覚えるんだし。

 自転車乗れるようになるまでと同じような感じ?


「あっそうだ♪ ねえねえサフィールさん♪」

「なんだい?」

「ボクって、いつキングに進化できるでーす?♪」


 今はそんなに、早く立派な大人になってしっかりしたい感情は収まっちゃったんだけど、それはそうといつキングに進化するのかは気になる。

 普通のハーピィで言えば、僕はもう若鳥くらいにはなってるはず。

 なのに、未だに僕はちっちゃいのです。ちょーっとだけ、ちょーっとだけは大きくなってるんだけど。

 流石に前の服はきつくなったから、新しいのにして貰うくらいには。

 待ってましたとばかりに、おニューの服をくれたシオンさん。デザインが気に入ってるのか、前のとあんまり変わらなかった。僕も気にいってるから文句は無い。


「いつ……、…流石に、僕たちも他種族のプリンス種がキング種になる現場を見たことはないなあ。普通は、もっと隠されて育つものだから」

「ぴ? そうなのです?♪」

「その種族にとって、キング種は従うべき絶対的な存在で、その前のプリンス種は守らなければならない最も大切な存在、と認識するみたいだね。だから、キングに進化する前段階だと、他の種族に害されないように必死で隠すみたいだ」


 へえー。

 まあ、でもそうだよね。子供のうちは、どんなに才能があっても子供なんだし。

 一族に繁栄を齎す、なんてハーピィの間でも語り継がれてたくらいだ。他の種族だってそうなのかもしれない。

 大事な大事な王子様、と。そして、もしも敵対している存在がいるのなら、誘拐されたり暗殺されたりしないよう、気取られないように育てるのも解る。


「君みたいに、自由に他の種族と交流したりする事は、とても稀だと思うよ。だからこそ、進化条件とかは僕らも知らないなあ」

「そっかー……」

「でも少なくとも、普通の同種が大人になるよりは、時間がかかるんだろうね。キング種は大抵の場合、同じ種族の者達よりも魔力がはるかに大きいから」


 あっやっぱりそうだよね!

 僕の仮説は正しかったみたいだ。

 決して魔力量と、成長速度が比例してる訳じゃないだろうから、普通のハーピィのきっかり倍の時間で大人になる、とかじゃないだろうけど。

 というか、僕から見て魔力量の多少とか、よく解んないんだよね。実際、僕ってどれくらいなんだろう。

 限界になるまで魔法使った事なんかないし。機会が無いし、それは子供どころか大人でも死の危険があるから絶対しない、ってシオンさんにきつく言われてるし。


「……エルフさんには、キングはいないですー?♪」

「居た事は、あるみたいだね」

「へー! エルフキングさん、今はいないでーす?♪」

「うーん、僕の居た森の長老ですら、伝承としてしか知らなかったからねえ。昔起こった戦争の時に、亡くなって以来、存在したとは聞かないな」

「せんそう?」

「そう、遥か遥か昔。魔族達を支配し率いて、世界を我が物にしようとした、邪悪な魔王が存在したんだ」

「ぴー!」


 わー! ファンタジーっぽーい!!

 長生きエルフさん達ですら遥か昔の伝承にするくらいだから、本当にずーっと昔のお話なんだろうね。1000年単位で昔?

 僕が魔王について興味を持った事に、サフィールさんは笑ってお話してくれた。

 かつて、邪悪な思想を持つ魔物達、即ち魔族達全ての王となった者が居た。

 それが何の魔物だったのかは、伝わっていないけど、その実力と邪悪さだけは、間違いなかった。

 ある日突然現れた魔王は各国に宣戦布告、怒涛の勢いで侵攻。世界全体を敵に回して、まさかの大進撃。


「何せ、魔王本人もとてつもなく強かったけれど、とんでもない事に、魔王にはドラゴンキングが味方していたんだ。それが、最も被害を大きくした原因だね」

「ドラゴンキング!」

「どうやら魔王は表立って侵略を始める前、手始めに竜の島に侵攻し、ドラゴンの王を倒し配下に加えたらしいんだ。それが居なければ、もっと被害は減ってただろうね」


 ドラゴンは、とっても強い魔物だ。恐らく、数多いる魔物分類の生き物の中では最強クラス。

 決して弱点や寿命が無いわけではないから、絶対無敵とは言わないけど。

 その王を倒して部下にしたら、当然キングの同種であるドラゴン達も、魔王の配下になっちゃうわけだよね。

 うわお、凄いな魔王。そもそも、もしも一騎打ちだったとしても、最強生物であるドラゴンの、しかも更に強いであろうキングに勝ったんだー。


「それって、ハーピィはまおーのぶかとかだったです?♪」

「いや、ハーピィは魔王軍に加わってなかった筈だよ。元々、森から遠く離れた地には住めないし、あまり気性も荒くない、どころかどちらかと言えば無闇な殺生を好まない気質だし」

「そーですねー♪」

「セイレーンは魔王の配下だったそうだけれど」

「せいれーん?」

「ハーピィに似た、両腕と下半身が鳥で、他は人間の女性の姿をした魔物だね」

「そんなのいたでーす?♪」

「うん、君達と違うのは、森ではなく海辺に住むこと。それから、とても気性が荒く狂暴なこと。縄張りに入った生き物は大抵襲って喰うし、近くを通りがかった船を呪歌で惑わせ、沈めてしまう恐ろしい魔物だね」


 お、おお。そんなのいたんだ。

 姿かたちが似てるから、もしかしたらご先祖様は同じなのかもだけど、随分と性格面で差異が出たものだなあ。

 僕らは、森に入ってきたからって誰彼構わず襲わないもんね。

 ……繁殖期以外なら。


「そんな風に、各地の気性の荒い魔物をどんどん配下にし、魔王はこの大陸を全て制圧しようとしていた。これはまずい、と対抗する為に手を結んだのが、人間とエルフ、ドワーフ、獣人達、それからドラグーン」

「どらぐーん?」

「うーん……、平たく言うと、人間や僕らに近い、二足歩行で防具や道具を使う事を覚えたドラゴンの亜種、かな?」

「あれ、ドラゴンはまおー側じゃないですー?♪」

「原種のドラゴンと、亜種のドラグーンは、どうやら違う種族扱いみたいで、ドラゴンキングの支配下じゃないみたいだよ。他にドラゴンの亜種としては有名なリザードマンも、まあ彼らも魔王軍側だったけど、決してドラゴンの部下ではないみたいだ」


 へー……

 亜種として細分化して、種族として確立されると、原種のキングの支配は関係なくなるんだ。

 ってことは、セイレーンとハーピィがいくら似てても、僕はセイレーンに好かれたりはしないんだね。会わないと思うけど。海遠いし。


「他の騒乱を嫌う魔物達も味方してくれたけど、代表格で魔王軍と対抗し、戦ったのがこれらの種族だね。その時の名残で、今も人間達はエルフやドワーフ達と同盟を結んだり、自分たちの国に入る事をある程度は許す傾向にあるよ」

「なるほどー、べつしゅぞくですけーど、なかまいしきがあるってこと♪」

「とはいえ、多くの狂暴な魔物と、何よりドラゴンを味方に引き入れた魔王軍はとても強くて、連合軍も苦戦を強いられ、長い長い戦いになった」

「おおおおー」

「その中で、当時存在していたエルフキングや、ドワーフキングも戦死してしまったそうだよ。そういう意味では、相当な劣勢だったんだろう」

「わー、わー♪ …でも、かったのはれんごーぐん、ですよねー?♪」

「うん。最早敗北も見えて来た、そんな時。この事態を憂えた神々が、天使を遣わしたって言われてる」

「てんしー♪」

「彼らは神に直々に仕える、天の御使い。魔王軍の暴虐にこれ以上は捨てておけないと、連合軍に加勢してくれたんだ」


 おおー! やっぱり居るんだ、天使族!

 一回ティリノ先生がちらっと言っただけだったけど、ほんとなんだねー!

 そして、僕の想像する天使と、ほぼほぼ変わらないみたい。どっちかというと、悪を撃滅する系の戦う天使みたいなのかな?


「天使達がドラゴンキングを倒してくれたおかげで、他のドラゴン達は魔王に従う事を止め、巣である島へ帰って行った。それから、なんとか連合軍は持ち直し、とうとう人間の勇者と呼ばれる神の加護を強く持った者を筆頭に攻め入り、魔王を倒し戦争は終結したんだそうだよ」

「わー、ハッピーエンドですー♪」


 ぽふぽふぽふっと翼を叩いて拍手のつもり。

 勇者ちゃんといたよ! 魔王がいたから、勇者もいなきゃね!

 当時から神様の加護を持った人はいたんだろうけど、それでもやばいくらい、ドラゴン軍団強かったって事なんだろうなあ。

 そして、そのキングを更に倒しちゃう、天使さん達すごー!


「てんしさんって、今もどっかにいるでーす?♪」

「居る、んだろうけど……。彼らは基本的にはあまり物事に関わらないらしくて、時々そんなお伽話があるくらいしか聞かないね。何処に住んでいるのかも謎だし、背中に翼を持ち頭上に光る輪を持つ、という以外に姿も殆ど伝えられてないよ」


 天使の翼と輪っか!

 それこそ、僕の想像する、オーソドックスな天使さんだね!

 会ってみたいなー。凄く気になるー!

 やっぱりこう、天上に天使の国みたいなのがあるのかな!

 本当に困った時に助けてくれる、守護者的ななんかなのかなー。

 会ってみたーい! 話してみたーい!

 でも、自力でお空に飛んでくのはやめよう。その手の話は、だいたい怒りを買って雷とかで落とされちゃうやつだ!

 僕は賢明なのです。


「んー、おはなし面白かったでーすー♪」

「そう? こんな昔ばなしでも良かったら、またお話するよ」

「わーい! それじゃー、ボクは今日はおいとましまーす♪」


 昔話だけじゃなくて、僕の知らない他の魔物の事とか、色々聞けて良かったよ!

 人間さん的に、エルフさん達がかつての仲間で、それでなんとなく仲良し感があるとか、知れてよかったし!

 いやー、実際エルフさんとか獣人さんって、魔物分類じゃないのー? と思ってたけど、そうかそういうかつてのつながりがあるからなんかこう、人扱い? 的なのなんだなあ。

 あと、改めて獣人さんとか、噂のドラグーンさんとか見てみたい!

 ビジュアル的に、リザードマンとドラグーンはどれくらい違うんだろうね!

 まあ、興味は尽きないけど、話している間にもう夕方になってきてる。

 お空が赤くなったらお帰りの合図。ばいばーい、とサフィールさんに翼を振ってから、僕はエルフの湖を後にした。

 うんうん、今日も有意義な時間を過ごしました。

 やっぱり、サフィールさんは物知りだなー!

 シオンさんも物知りだから、聞いたら答えてくれたかもしれないけど、この魔王のお話は有名なのかな?

 有名なんだろうなー。だって、絶対子供好きじゃない、こういうの!


「シス」

「トリィ! 今日はね、エルフさんに楽しいおはなしきいたでーすよ♪」

「そうなのか。エルフは長生きな上に、伝承を大切に語り継ぐというからな」


 長老木に帰る前に、いつも通りにトリィに甘えっ子する。

 木の枝の上だけど、更にお膝にのせて貰って、もう僕もご機嫌です。

 サフィールさんから、かつての魔王との戦いのお話を聞かせて貰った事。世の中には、まだまだ僕の知らない人達や魔物達が居る事。そんなのを教えて貰った事をうきうきでお話しする。


「あ、そういえばそのせんそーの時、まじょはどーしてたですー?」

「確か……まだ、魔女は魔女として確立していなかった筈だ。今でこそ、1種族のように扱われているが、当時は一応、人間の括りだった、……と思うぞ」


 なるほど、そうだね、見た目は人間なんだもんね。

 見た目は人間だけど、寿命や魔力は長くて高いの、当時はどんな風に扱われていたんだろうなあ。

 シオンさん曰く、寿命問題はデリケート、らしいので……色々あった事も、あるんだろうな。きっと。

 今はもう、あんまり確執とかないのかも。ないのかな?

 この村に関わってる以外の人間さんとも魔女さんとも交流が無いから、なかなか解らない。

 差し当たって、そろそろドワーフさんとか獣人さんとか冒険者枠でいいから来てくれないかなー! あってみたーい!


「!!」

「? どうした、シス」


 お喋りしながらトリィにごろごろすりすり甘えていたら、急に僕の耳に飛び込んできた音があって、パっと顔を上げた。

 今のは、人間さんに渡している、許可証の笛の音だ。


「え? ……あれ、なんだろ?」


 人間さん達に渡している呼び笛の鳴らし方も、ルールを決めてある。

 質問がある時。助けが欲しい時。道案内が欲しい時。そんな時は、一回吹く。

 普通のハーピィでは、対処が難しいこと。群れや村に関わる事、とても重要な相談がある時、僕を呼び出したい時は、2回。

 何か、緊急の用事がある時。今すぐ、ハーピィの誰かに来て欲しい時。そんな時は3回、と。

 そして、今聞こえている呼び笛は、1回、2回、3回を超えて。何度も何度も、繰り返し鳴らされ続けていた。


『―――風さん風さん、ボクのおねがい、聞いてくださいな。今、いくどもならされているあなたのやどるふえの、周りの音をボクにとどけてくださいな』


 ルールを忘れた、あるいは単なるいたずら、もしくは……何も構って居られない程の、パニック状態。

 そのいずれかではと想定し、僕は鳴らされ続ける笛のある場所、その周辺の音を拾うべく風の精霊さんにお願いをする。

 すると、僕の元まで複数の人の声が届けられてきた。


《おい、逃げきったか?!》

《大声出すなよ! まだ近くに居るかもしれないだろ!》

《いや、口ぶりから言って、見逃してはくれたんじゃないか? それより…》

《リーダー、あっちに沢が!》

《早く連れて……いや、水汲んで来い! 下手に動かしたら不味い!!》


 あまりにも焦った、余裕の無い人々の声。

 馴染みのない声が多かった。でも、全然知らない声ではない。まあ、僕の笛を持って居るのだから、一度や二度は話した事のある人、なんだろう。

 何かに襲われて、逃走している?

 その最中でも笛を鳴らしているのは、この笛は僕らにしか聞こえないような音を出す笛で、吹いても人間や他の生き物には、音として認識されないから。

 ……まあ、すっごく耳が良い生物が近くで聞いたら聞こえるかもだけど、風さんが僕らに運んでくれてるから、一定距離をおけば他の生き物には聞こえない。


「どうした、シス?」

「ん、だれか、…何かに、おそわれて、たすけをもとめてフエをふいてるみたーいです♪」


 それにしても、『見逃してくれた』とは? 口ぶり?

 この森で、言葉を話すほどの知能を持ったものは、村の人間さん達にエルフさん達、それから僕らハーピィ達。

 万一ハーピィに襲われたとして、そのハーピィを呼ぶ笛を吹く筈ないから、僕らではない。エルフさんは、人間さんとバッタリしても別に襲い掛かりはしない。

 となると、可能性としては森に迷い込んだ何か、ゴブリンとかオーガとか……

 まあいいや、とりあえず声からして、いたずらではなく本当にヤバいくらい困ってて、助けて欲しいのは伝わった。しかも、負傷者まで居るみたいだ。

 たぶん、ルールと違う鳴らされ方をして、ハーピィ達は行っていいのか悪いのか困っているだろう。行ってあげて、と彼女達に伝えなければ。

 トリィのおひざから降りて、皆の所に戻ろうと翼を広げた、その時。


《治癒の魔法は?!》

《効きが悪いの、私一人の魔法じゃ……!》

《くそっ、身体を張って俺達を守ってくれたんだ、絶対死なせるな!》

《頼む、目を閉じないでいてくれ、アーラさん!!》


 繋げたままの笛の向こうから、とんでもない言葉が僕の耳に飛び込んできた。






 何かあったようだ……

 不穏なまま、次回へ続きます。(そして不穏は長続きしないお約束)




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