お祭りの日
冬は過ぎ去り、春が来る。
迷いの森集落も、とうとう3年目って事だね! 実際にはちょっと早いけど、おめでたい事はまとめてもっとおめでたくすればいいよね!
最近はもう定住を決めた人もいくらか居て、個人宅がちらほらあったり(ちなみにマッチョさんもその一人)、家や畑も増えたり、集落っていうか、立派に村って感じになってるなーって思う。
前より冒険者さんが増えた気がするのは、審査が少し緩くなったのかな? それとも、森に興味を持つ人が増えたって事なんだろうか。
それに対する、お宿の経営とかの人員も必要になっちゃって、ちょっとだけ村常駐の人も増やさせてほしいって相談があって、それは必要だよねってOK。
村作りがひと段落と言うか落ち着いてきて、ずっと多くいた大工さんの半数くらいは街に帰ったみたい。棟梁さんだったマッチョさんは、1番弟子さんに棟梁の座を譲ったとか。
……街に未練が無くなったのかな。
いや、居てくれるなら僕は嬉しいんだけど。
人は増えるし、おうちのメンテも必要だから、0にはならないんだけどね、大工さん。普段は畑仕事や木こりの仕事を手伝ってるみたい。
「こーんにーちわー! しんねん、おめでとーござーいまーす♪」
「オメデトー!」
「パパー!」
「パパ、キタヨー!」
「おおお、会いたかったぞ娘たちーーー!!」
例の、新年のお祭りのお昼過ぎ。
僕は雛達5羽と、保護者役の5羽+3羽を連れて、村までやってきた。
サクラ達は秋に会った時よりも、少し体が大きくなって、カタコトながら人の言葉を話せるようにもなってきた。
流石に、まだ単語をちょいちょい言う程度だけど。ハーピィ語でだって、まだまだ幼児言葉だからね。
保護者は雛達のママ。
ちなみに保護者役以外の3羽というのは、僕のお付き役のクラベルと、お祭りと聞いて遊びに来たがったフレーヌとグリシナ。アーラやシャンテは今日は保護者ママの方。
新年に合わせて、いったん鉱山調査に行ってた人達も帰ってきたからね。このお祭りの後、また行くんだろう。鉱脈はまだ見つかってないみたい。
「あっ、ボクらからも、おいわいのおしなでーす♪」
「おお、こりゃ見事な……」
なんたって3年目。つまり2周年。新年がなくても、これだけ続けばお祝いしたっていいくらい良好な関係が続いている。
というわけで、今日は特別にハーピィ達からもお祝いとして、森に住む大きなイノシシを一頭、プレゼントさせていただいた。
これがねー、でかいのよ。鹿くらいある、でかイノシシなの。
イノシシは僕らの好物でもあるんだけど、これだけでかいのは珍しい。お祝いに相応しいよね。
力自慢の冒険者さん達が、すげー、でけーとか言いながら運んで行った。あとでごちそうになって出てくるんだろう。
既に広場にいっぱいテーブルが並べられてて、お料理もお酒もあって、秋の宴会と似た感じになっている。
「おお、そうだそうだ! お前達、パパからお誕生日のプレゼントだぞー!」
「タンジョービ?」
「そうだ、生まれて来てくれて、ありがとうってお祝いするんだ! ほら、サクラはこれだな。ツバキがこれでー……」
果たして、ハーピィの誕生日は卵が産まれた日だろうか。それとも卵から孵った日なんだろうか?
少し考えたけど、まあどっちでもいいや。実際の誕生日の辺りは次の卵が孵っていて、僕らが忙しくて雛達をここに連れてくるのは難しいだろうから。
マッチョさんから、雛達一羽一羽に、何かが手渡される。
それは、綺麗に彩色された、お花の形の髪飾りだった。
「キレー!」
「ウン、キレー!」
「カワイー!」
「パパ、スキー!」
「はははは、そうかそうか! お前達はパパが好きかー!」
「マッチョさんずりー!!」
「そういうのは、やるって教えて下さいよ!!」
娘全員に平等に、プレゼントをあげるマッチョさんに、ツバキ達の好感度はうなぎのぼり。5羽まとめての、(サクラだけは控えめな)笑顔の好き! に鼻の下伸ばしっぱなし。
髪飾りは可愛い木彫りで、僕らでもつけてあげられそうな、髪に軽くさすタイプのもの。ちゃんと考えてるなあ。そして手先が器用だなあ。
あ、そういえば僕の止まり木の細工彫りも、マッチョさんがしたんだっけ。
ハーピィにあまり人間的な美的感覚は無いハズなんだけど、それはそれとして綺麗にすることが嫌いなわけでもない。
まして、幼い頃から人間さん達から雛達にって、可愛いお洋服をいくつも貰っているのだから、今の雛達にその辺りが培われるのは当然なんだろう。
みんな、可愛い髪飾りにご満悦だ。よきかなよきかな。
「そして、これはあたしとトリィからシスちゃんにプレゼントだよ!!」
「えっ、ボクもでーす?♪」
「だって、繁殖期は年1なんだから、当然シスちゃんも誕生日でしょー?」
「まだ子供なのだからな。誕生日を祝ってあげたくなるよ」
「そうでーすねー♪ ありがとうござーいまーす、わーい♪」
雛達だけかと思ってたら、シオンさんとトリィから僕にもくれた。
新しいリボンよ、って綺麗なピンク色と、縁に綺麗なレースがついた、なんかもう高そうなやつ!
つやつやした質感から察するに、これはシルク的なものでは。
高そうっていうか、普通に高いのでは……!
「ずるーい!」
「おにーちゃん、ずるーい!」
「「ずるーーーい!!」」
髪にリボンを飾って貰って、にこにこしてたらフレーヌ達が口を尖らせた。
そ、そうだね。大きさが随分違っちゃったけど、二羽と僕は同じ歳だもんね。
ところで、大きさ的には大人とほぼ変わらないくらいになったフレーヌ達は、活舌もよくなったのか、最近すっかり喋るのが上手くなった。大人達よりよほど発音がいいのは、多分ルストさんのおかげだ。
…あのカオスティック・スペルを聞かされ復唱してたら、そりゃあ。
しかし、精神年齢が相変わらず幼い。
「ふっ……そう嘆くな、天の姉妹達よ」
「ぴ?」
「ぴゃ?」
「お前達にも、相応しい贈り物を用意してある。これだ」
「ぴー? わっか?」
「わっか? なーに? なーに?」
「これぞ、俺が直々に選別し、力を籠めた託宣の宝珠をあしらった祝福されし足輪! これを身に着ける事により、お前達の運命力は跳ね上がる!!」
「ぴゃー! すごーーーい!」
「すごーーい! ルー兄、ありがとーー!」
……あそこの一角、相変わらずだなあ。
言ってる事は相変わらずなのはともあれ、黒い宝石が飾られた細い銀の足輪は、まさかルストさんが自分で作った訳はないと思うけど、フレーヌ達の為に用意してくれたんだなーと思うと、普通に感謝の念しかない。
宝石部分は自分で選んだって事なのかな。わざわざ。まさか自分で取ってきたんだろうか。
「ルストって、器用よねえ……」
「えっ、ご自分でおつくりになったでーすか♪」
「そうだと思うよ。銀細工作るの好きだから、ルスト」
作った訳ないと思ってたら、手作りでしたかー!
幼馴染のセロさんも頷くくらいだから、本当にお手製なんだろう。
シオンさんが特にリアクションしない辺り、うっかり魔道具にはなっていないんだろうな。あくまでただのアクセサリー。
ただ、ルストさんの言う通り、カオスティック的な運命力は上がってしまいそうな気がする。
もういいか。今更だし。楽しそうだし。止めない。
あと、もし自分で鉱石取ってきたんだとしても、ここで作ってハーピィにあげるんだったら、細かい事言わない事にしよう。持ち出してはいないし。
「それじゃあ、日が落ちるまではおいわい、おまつり、おおさわぎ、ですね♪」
「そうね! あ、今日は全力を尽くしてケーキなんて焼いてみたよ! はい、食べるひとーー!!」
「「「はーーーーい!!!」」」
シオンさんの言葉に、笑顔で手を上げる僕ら。勿論ハーピィのみ。
保護者の筈の大人達すら手を上げた。そして苦い顔というか、苦笑する他の皆様は沈黙です。
仕方ないよね! 僕らにとっては、シオンさんのお菓子は絶品だから!
全力を尽くした、の言葉の通りに、いつものパウンドケーキではない……クリームで飾られたケーキがやってくる。
流石に季節が春だから、苺とかは乗ってないけど。って、それは僕のイメージするショートケーキであって、この世界ではまた違うか。
と思ってたら、中にシロップ漬けのフルーツ入ってた!
「あまーーい!」
「オイシ!」
「フワフワ!」
「ふふふふ、この日の為に、去年からフルーツ漬けなんても試みてみた甲斐があった……!」
漬けられるほどに砂糖があるんだね! なんか高級品なイメージがあったよ!
あ、いや考えてみたら、お菓子が普通に存在してるんだから、砂糖的な何かもあるんだなあ……
「そーいえばー、くだものじゃなくあまーいのって、どーやってるですー?♪」
「普通はお砂糖使うかな?」
「……これは、ふつーじゃ、なーいの?♪」
「ふふ……実は、ここに来てあたしの新しい研究が実を結んだの! 見て」
「いや見ない方がいい。シス、好奇心は時に美味しい食事を阻害するぞ」
「えっ」
自信満々にシオンさんが何かを取りに行こうとして、それを即座にトリィが引き留め、真顔で僕にそんな事を言った。
えっ、待って、なに、何が入ってるのこれ?!
シオンさんがヤバいものを僕らに食べさせる訳はないと思ってるけど、いったい彼女は何の研究を……
「ああ、大丈夫。安全性は保証する。ただ、見るのは、やめた方がいいだけだ」
「……別ニ、ドンナ動物ヤ虫デモ、私タチは、気ニシナイワヨ?」
かくん、とクラベルも気にして首を傾げた。
そうだよね。そもそも動物の生肉丸かじりする僕らだもんね。虫だって、たぶんそんな人間さん達ほど、忌避対象じゃない。
だって蜂蜜どころか、蜂の子だって食べるもん。甘くて美味しいよ、あれ。
危険という意味では感じてないしシオンさんを信じてるけど、知って食欲がなくなりそうな甘い物って、いったい何という好奇心の方が強い。
じーっと見上げていると、すっとトリィはかがんで、僕に耳打ちした。
「……壺の中で、水……というか、シロップと共にフルーツを漬け込んであるのは確かなんだが」
「はい?」
「シロップにしている元が、……シオンが改良した、いわゆる、意志を持った植物でな。原種は、マンドラゴラという薬草の一種で」
「まんどらごら……」
「それが、壺の中でシロップに一緒に漬かっているフルーツに、延々と愛の言葉を囁き続けている光景なんだが、見たいか?」
「うわあ」
途中で想像を諦める異常が、そこにはあった。
言ったのがトリィじゃなければ、何その出来の悪い冗談と言いたくなる。
マンドラゴラはなんとなくわかるよ。あれだよね、引っこ抜くと悲鳴をあげて、それを聞いた人を殺しちゃう、でも凄く貴重な薬草っていう、あれ。
この世界でそれがそのまま同じなのかは解らないけど、喋るというか声を出す植物という意味では、近いんだと思う。
うん? え? なに?
水と一緒に漬けておくと、シロップ漬けになる、甘い言葉を囁くマンドラゴラって事なんですか?
何をどう改良したら、そんな珍種が生まれてくるの?
「世界を揺るがす大発明なのに……」
「それは認めるんだが、光景が病的で怖いんだ」
「すいーとまんどらごらぁ……」
「あっ、ストレートだけど解りやすい! そう名付けるね!」
名付け親になってしまった。
いやでも、確かに水に漬けておくだけでそれがシロップになる。もしかしたら、乾かせば砂糖が取れるのかもしれない。
水に漬けた状態でまだ活性化してるって言うなら、水を代ればいくらでもシロップが、お砂糖が生産できるってことで、それはかなり凄いと思う。
お菓子業界を揺るがす大発明、と言っても過言ではない。
けども。
……これ、延々と謎の植物に愛を囁かれてた果物なのか……、いや、もしかしたらクリームにもそのエキスが……
害はないけど、何故かなんとなく、ちょっと、食欲が減った気がする。
なんでなんだろうね!
美味しい顔して食べてる皆を微妙な気持ちにしない為にも、僕はそれを広めたり追及する事を止める事にした。
■
夕方までは、飲んで食べて騒いで、お約束通り雛達のぴよぴよお歌のプレゼントもして、楽しく過ごす。
もはや、新年パーティなんだか、僕らの誕生パーティなんだか、よく解んない。
まあ、同じでいいのか。それから、村の周年パーティも兼ねるんだから、そりゃあお祝いの三乗で大騒ぎにもなるよね!
たまにはこういうのも、いいと思う。
日が沈む前に、雛達はまた巣へと帰っていく。
それとは入れ替わりに、今度はパーティには居なかった大人達、成鳥達が全員村へとやってくる事になる。
ここからは、オトナの時間ってやつだね!
「とゆーわけで、本日さいごのイベントでーすね! ダンナさんさがしでーす♪」
前回はなんとなく神妙というか、若干緊張が混じった雰囲気だったんだけど、今回はお酒も入ってるせいなのか、その辺はあまりなく、僕の音頭に拍手すら湧く。
これに関してはあらかじめ数人決まっているそうなんだけど、それ以外に希望者いましたらオッケーですよーって声をかけたら、勢いなのかな? 手を上げた酔っ払いが3人。
前回と同じ冒険者さんが二人、マッチョさんもあらかじめ決まってる方。それ以外にルストさんとティリノ先生ともう一人、プラス飛び入りさんの3人。
おおー、9人もいる! ってことは、えり好みしなければ今回は卵が産めるハーピィほぼ全員に旦那さんがいるって事だね! 一人足りないのが残念。
「わー、今回はさんかしてくださるかたいっぱいで、ありがとーございまーす♪ それじゃあみんな、さいしょに気に入ったひとー……」
前に決めたルールの通り、先ずはハーピィ側から選んで貰う。
と、僕が声をかけた瞬間、7羽のハーピィがばびゅっと飛んで、あっという間にティリノ先生が囲まれた。
「王子サマー、やっぱり今回モ参加シテクレタのネー」
「王子サマー、今回ハ私ト! ねえ、イイデショー?」
「王子サマー!」
「酔ってなくてもこうなるのか!!」
……予想してたけど、そんな顕著かね、君達は。
7羽ものハーピィに囲まれ、ついでに他の男性陣の視線も痛いくらい感じているだろうティリノ先生は、非情に困惑顔をしていた。
別に先生のせいじゃないから、怒らないで上げて皆さま! ごめんね、特にメス達はこういう時、真剣に本能に従うから!!
ちなみに飛びよらなかった残り2羽は、アーラとシャンテ。
シャンテはあらあら、なんて笑顔で見守っている。それから、くるりと振り返って他の旦那さん候補を見ているようだった。
たぶん、あんまり競争に参加する性格じゃないんだろう。それはそれで、別にいいです。あるいは、1番でなくとも、確実に良い所を狙っていく、なかなか強かなタイプなんだろうね。
でもって、アーラは。
「…………」
無言だった。
視線はティリノ先生に向いている。
睨んでるかと思ったらそうでもなく、めっちゃくちゃ複雑そうな顔をしていた。
こないだみたいに飛び蹴りに行くかと思ったけど、そんな様子もない。
ハーピィハーレム状態の先生は、ふとそんなアーラと目が合った。
「……」
「……」
「おい」
「なっ、何ヨ」
前回の旦那さん探しの際やら、こないだの宴会の時の行動が嘘みたいだよね。
声をかけられて、アーラもちょっと戸惑ってる。とはいえ、最初に旦那さん候補を選ぶって話なのに、シャンテのように既に他の男性を見定めている訳でもなく、ただティリノ先生を見てるんだから、まあ擦り寄らなくてもそう言う事だ。
どーも何故だか今までのように、上手い事主導を握ってやろうというか、なんかそういう意識があるのかないのか。とにかくなんか調子が盛大に狂っているアーラに、先生は不満そうな顔をしつつ、右手をアーラに向けて伸ばした。
「え?」
「え? じゃねーーーよ。お前が自分からつがいにしてやる発言したんだろうが」
「あっ、あれハ、その」
「やかましいわ。お前が意味も解らず適当に言った事でも、人間は律儀なんだよ」
あーーーーーー、なんなのーーーー、この人達はーーーーー!!!!
つつきたい! すっごく今茶々入れたい!! つっつきたーーーい!!!!
でも、そこは空気を読んでお口にチャックをして、暖かく見守る僕なのです。
若干引け腰のアーラに、先生は照れてるのかヤケなのか、やや頬を赤らめながらも彼女を選ぶ意思を表明する。
それが意外だったのか、しばしアーラは人間語にもハーピィ語にもなっていない音をいくつか発した後。
「……あ、あらそうヨ、解ってるじゃナイ! 珍しく素直で良い事ネ、褒めてあげなくもないワ!!」
先生と同じように頬を赤らめながら、急に胸を張って笑い出した。
なんなの、アーラ最近キャラがおかしいよ? それ、酔っぱらってる時の暴走モードじゃないの? 素でもやれるの?
「はいはい、ふたりともなかよしさんで、いいってコトでー♪」
「待て、仲良くは無い」
「説得力ねえよ」
「何を見せられたんだ俺らは」
「このリア充めー!」
先生がアーラを選んだことで、まとわりついていたハーピィ達は口を尖らせて離れた。ついでに周囲の男性陣から先生へとヤジが飛ぶ。
あれだね。今のやりとりで、完全に村中の公認になったよね!!
別にいいよ。仲良しさんなのは、前からそうだもんね。
「ウーン……、今回の中でハ、アナタがイイワ?」
「へっ?」
一方、先んじて別の男性を見回っていたシャンテもターゲットをロックオン。
そのお相手は、ルストさんだった。
今回はドタキャンしなかったんだよね。そりゃまあフレーヌ達も宴会に参加していて、連れ去るタイミングも無かったもんね。
そして、とっとくとか言った割には参加してくれたんだよね。
……もしや、先生に先を越されて危機感が生まれたとか。ないか。
「ヨク見タら、可愛イ顔シテルもの。コナイダの子ハ居なイシ」
そういえば、あの若い大工さん今回は居ない、というか最近見ない。
森から街に帰った組なのかなー。
……真っ当な性癖に戻れたんなら、それはよかった、かな。
ところで、シャンテはやっぱり若い子好みなのかもしれない。先生を選ばないのは多分、競争率の問題なんだろう。
先生を除けば、今回の中ではルストさんが一番若いんだと思う。マッチョさんは言うまでも無いし、他の人達の正確な年齢は知らないけど、たぶん。
前回と同じように、羽でふわっと頬を撫でる様子は、優し気かつ色っぽい。
元々体つきや性格も、なんとなくシャンテは色っぽいんだよねー。
そして、セロさん曰く巨乳好きだというルストさんは、やっぱり以前のお兄さんと同じように、シャンテのお顔とお胸を交互に見て、まんざらでもない様子。
カオスティック・スペルが発生しないレベルだ。凄い。
……確かに、女性とお付き合いした事があまりない初心な男性には、彼女はちょっと色々刺激が強いのかもしれない……
「それじゃあ、アーラとシャンテは決まりでい」
「「だーーーーめーーーーーー!!!!」」
「うお?!」
「アラ」
今回も、真っ先にこの二羽が決まったって事で次の選択に進んでもらおうとしたら、ばびゅんと猛スピードで何かが飛んできた。
それはシャンテとルストさんにぶつかりそうな方向と勢いで、シャンテはひょいと彼から離れ、ルストさんは……正体に気付いたのか、それを受け止めた。
「だめー! だーめー! ルー兄はフレーヌと!」
「グリシナの! だから、シャンテにはあーげない!」
「……二羽トモ、巣に帰ッテナカッタの?」
だいたい予想出来てたけど、突っ込んできたのはいつもの二羽だった。
雛達を巣まで帰して、巣に残ってる大人達を呼んできてもらう役を任せててたんだけど、まだ若鳥の二羽はそのまま巣に残った筈だった。
旦那さん探しは、まだ彼女達には早い。
それは本人達も解ってると思うんだけども。
「フレーヌ、グリシナー♪ まだ、二羽とも卵うめないでーしょー♪ ダンナさんさがしにさんかするのは、はやーいのー♪」
「「やだーーー!!」」
「二羽が大人ニナッタラ、ソノ時に選ンデ貰いマショ?」
僕より大きいとは言え、フレーヌ達がまだ子供なのは間違いない。
卵を産めるようになったかどうか、どうやって判断するのか僕には解んないけども、なんにせよ二羽はまだだというのは確か。
だから、大人になってからね? 今はシャンテに譲って? と諭しても、ぶんぶんと二羽は頭を振るばかり。
「フレーヌが、ルー兄のタマゴうむの!」
「グリシナも!」
「ルー兄のダークネスソウルと!」
「グリシナたちのエンジェリックウイングが!」
「「まざりあってさいきょーにみえる!!」」
「……とりあえず今にしろ後にしろ、ルストは責任取るべきだと思う」
「それな」
汚染が深刻すぎる。
極々真剣な瞳でそんな事言いだしたフレーヌ達に、完全に据わった目のセロさんと、シオンさんも頷いた。
二羽のカオスティック・スペル初めて聞いたけど、これはもう、芯まで染まってしまっているとしか思えない。
「……シャンテ、どーしますー?♪」
「仕方ナイ、ですネ。解ッタワ、二羽トモ。ルストはアナタタチのモノネ」
「「わーーーーい!!」」
「え、あの、俺の意志は聞かれないんでしょーか……」
「ここまで二羽をなつかせたんですし、もうセキニン取ってください♪」
例え無事に成鳥になった後でも、この二羽もうルストさん以外は選ばない気がするんだよ。
そこまでハーピィを惚れ? させたんだから。ねえ。
野生動物手なずけたんなら、最後まで責任取って面倒みるのが道理でしょう。
「ルストお前……、死ぬなよ?」
「えっ?」
「二羽同時とか、いくら若くても無茶が過ぎるぞ」
「え、そんな?」
ティリノ先生と、マッチョさんから同情に似た何かの視線が送られた。
何故だろう、複数のハーピィに懐かれべたべたされているのはさっきのティリノ先生と同じ筈なのに、今回男性陣から向けられているのは嫉妬ではなかった。
「……い、一羽ずつにすればよくね?」
「じゃ、フレーヌがさき!」
「おねーちゃんずるい! グリシナも! グリシナも!」
「ムリだな」
「ムリですね♪」
「ムリそうだね」
「短い付き合いだったな、ルスト」
「やったねルスト、人生最初で最期のモテ期だよ!」
「最期って言うな!! あと今じゃなくね?!」
だいたい、二羽の性格とノリを考えれば、どっちかを先にとか無理だとしか思えないよね。
とりあえず、二羽が大人になるまでに、そちらで話をつけて下さい。
頑張れルストさん。
無計画に、野生動物を手なずけるからそうなるんだと思うよ。
ちなみにこの後は、ちゃんとつつがなく旦那さん探しは完了したので、特に問題はなかったです。
ハーピィなんですから、そら(気が合う好意的に思う異性を得たら)そう(優先的に卵作りたがるようになる)よ。
ルストの明日はどっちだ。




