交流はしっかりと
結局、トリィを襲った冒険者さん達は、依頼主が誰なのかを知らなかったそう。
あまりに多額の依頼金を積まれて、それにつられて受けちゃったと。
……まあ、結局人殺しになった訳ではないし、依頼は失敗だから報酬も受け取れないしで、ギルドからの厳重注意で終わったみたい、なのかな?
あくまでもギルドを通さない依頼は、冒険者さんの自己責任だし。ギルド経由の依頼でもし依頼人に騙されて犯罪行為に加担させられた、であれば助けてくれる事もあるけれど、そうでないならフォローの範疇外。
他にも僕の知らないペナルティが科されるのかもしれないけど、どうでもいい。
そーゆーことは、そっちで調べて下さいな。
少なくとも、今後彼らを森で受け入れる事はない、とハッキリ言っといた。
「おや」
集落の近辺をぱたぱたお散歩、……歩いてないけど気分的にはお散歩、してたら川の近くに白が見えた。
そのまま降下していくと、やっぱりトリィだ。
他に、集落で真っ白な髪の人はいないからね。白が混ざった人はいるけど。
「トリィ、こーんにーちわー♪」
「ああ、君か」
村に置いてきてしまった荷物は彼女に手に戻ったし、落とした冒険者証も宿に届けられていたらしく、無事に回収できたそう。
そんな訳で、現在の彼女は剣を持ち武装しているけれど、特に近づくことを危険だとは感じないなあ。シオンさんの家族な訳だし。
だから、木の枝ではなく、そのまま川の近くに着地して、トリィに近づく。
そういえば、悪い冒険者さんの扇動に乗ってしまった人々は、事情を伝え聞いて集落にやって来た時、揃ってトリィに頭を下げていた。
そして、特に気にするでもなく、許したトリィの懐の大きさ。
さすがです、精神イケメンEX。
「見回りでーすか?♪」
「いや、今起きた所だな。私の哨戒担当は主に夜だから」
「ぴぃ?」
もうお昼も近いのに、顔を洗ってると思ったら今起きたのかあ。そりゃあ、汲み貯めた水よりも、清流の方が気持ちはいいよね。
っていうか、そりゃあ夜の方が不届き者は多いと思うし、だから僕も主に夜に笛からの情報収集をしているんだけど。
勿論夜行性の動物だっているんだし、夜の見回りは当然行うべきだとは思うんだけど、だからってそれを女性のトリィにやらせなくても。
「おけが、治ったばっかりなのに、だいじょぶでーす?♪ 夜は、キケンがいっぱいなのでーすよー?♪」
「心配してくれてありがとう。身体はもう大丈夫だ、セロの解毒の腕が良かったのだろうな。…それに、行動する分には、私は夜の方が都合が良いんだ」
毒によっては、体内に残ってたら後遺症が残る事だってあるんだろう。
それがすっかり元気になったと言うんだから、セロさんも凄いなー。
いいよね、治癒とか解毒とか。限界はあるんだろうけど、それが出来たらすっごい便利だと思う。僕には使えない魔法だから、ちょっと羨ましい。
というか、風魔法しか使えないんだけどね、僕は!
「トリィは、夜がお好きでーす?♪」
「好き…というよりは、夜の方が助かる、だな。私には緑の月の神の加護があるから、夜でも視界は昼と変わらないし、身体の調子は夜の方がいいくらいだ」
「ぴ?」
「……ああ、知らないのか。世の中、神の加護や精霊の加護を受けた者も、それなりに居るんだ。大抵が生まれつきだそうだよ、私は後天的なものだが」
へー?
神様がいっぱいいる事は知ってたし、ハーピィでも風の魔法を使えるのが僕とババ様しか居ないように、協力してくれるほど気に入るのは気まぐれというか、そういう物なのは知ってたけど、それなりなんて言うほどに存在してるんだ。
緑の月って言うのは、夜になると空に昇る、二つの月のうちの一つで、小さい方の月。
赤と緑があって、赤い月は緑の月よりふたまわりくらい大きい。
「夜に襲われて、なんとか逃げられたのもこのお陰だな。……まさか、その後夜が明けても追い続けてくるとは思わず、流石に面食らったが」
「なーるほど♪ でもそーゆーのって、自分でわかるものなのでーす?♪」
「どこかの神殿に行けば、調べて貰えるからな。…たぶん、シオンも何かを持っていると思うんだが、興味が無いらしくて知ろうとしていない。そういう人も居る」
ああ、確かにシオンさんには、何かの加護がありそうな気がする……
そういう意味では、森でハーピィと追いかけっこなんてやってのける、ルストさんにも何かがありそうだし、敬虔な信者であるセロさんにだって、何かあったりする、のかなあ??
神様や精霊がいっぱいいるだけあって、そういう特別な人が、特別とは思えないくらいいるのがこの世界なんだねえ。
世界状況によっては、勇者が乱立しても不思議じゃない感じ。
「それで、トリィが夜の見回りたんとうなのでーすね♪」
「そういう事だ。昼間はシオン達に任せているし、夜は他の見張りも多くなるから、さほど危険でもないよ」
「なるほど、でもユダンはしないでくーださーいね♪ 何かあったら、ボクらを呼んでもいいのです♪ 夜でも、ボクらのねむりはあさいですから♪」
「ああ、有難う」
例え真夜中でも、呼び声が聞こえれば僕らは大抵目覚める。
っていうか、今は卵の温め期間中だから、夜でも交代で誰かは起きている。
そろそろ孵るかな? 5個の卵は、今日も無事に成長している、はず。
耳をくっつけると、中からかさかさ、とかもぞもぞって感じの音がする時があるから、たぶん数日中に孵るんじゃないかなー。
わくわくするよね! やっと僕の妹、…娘? 達が増えるんだから!
「そうだ。そういえば、先日は失礼した、ハーピィの王子殿」
「ぴ?」
「その、恥ずかしい事に、君のその姿があまりに愛らしい物だから、てっきり女性なのだと勘違いしていた」
……突然謝られるから何かと思ったら、それ。
そういえば、僕のことを『彼女』って言ってたよね。
でも、別に今更っていうか、僕も相変わらずふりふりリボンを好んでつけているし、あの時僕がハーピィの長だって言ってなかったし、知らなかったら美少女にしか見えないんだから、怒る事でもない。
むしろ、さらっと愛らしいなんて言うもんだから、気を良くしちゃう。
「かまいませーんよ♪ しょーじき、ボクを見てすぐにオスだってわかるヒト、見たことなーいです♪」
「そうだろうな…。不躾な質問だとは思うが、何故女性ものの服を…」
「シオンさんが、これがかーわい♪ って言ってくれたので♪」
「……そうだな、考えるまでも無かったか」
「にあいませーんか?♪」
「いや、信じられないほどに似合う。愛らしさにおいて、私が今まで見て来た少女の中では一番だな」
「うふふ♪ ありがとうござーいます♪」
当然、トリィもシオンさんの趣味をご存じでいらっしゃる。
一瞬頭が痛そうにしてたけど、素直に僕が可愛いと認めてくれるんだし、特に問題ないでしょう。
男だからとかなんとか、考えるだけ無駄ですよ。
なんとなくだけど、例えキングに進化しても、キングっていうかクイーンじゃないのか案件になる気しかしてませんので!
種族的に、共通して女性の擬態なんだと思うよ。オスであろうと、身体が。
……ってことは、大人になったら胸が膨らんだりするんだろうか。いけない、一部の層に大ウケの存在になりかねない。別に構わないけど。
勿論、イケメン男子に進化してくれてもいいんだよ!
「かわいがってもらえるのは、好きでーすよー♪ トリィはシオンさんのごかぞくですもの、なかよくしたーいでーす♪」
「そうか。…シオンは、君に好かれているのだな」
「ハーピィみーんな、シオンさんだーいすきっ、でーす♪ やさしいし、面白いし、ごはんがとってもおいしーですもの♪」
「えっ」
「ハーピィにとっては♪」
「そ、そうなのか……」
シオンさんの料理の話になると、一瞬驚いた顔をして、戸惑った顔になったので、うんまあ要するにトリィから見てもそうなんだろうな。
美味しいのになあ。今朝の新作、ミートオムレツなんてほっぺた落ちそうで。
……ただ、何の卵を使ったのだけは教えてくれなかったけど。意地悪とかじゃなく、企業秘密だとか言って。
あの感じだと、なんがしかの鳥の卵だと思うんだけどなー。
……え、鳥であるハーピィが、鳥の卵食べさせられて不快じゃないかって?
普通に鳥は鳥を食べるでしょ。何をいまさら。
「ねえねえトリィ、おしごとが夜からでしたら、今はおひまでーすか?♪」
「ああ。昼のうちは、自由にしてくれていいと言って貰えた」
「でしたら、もっとボクとおはなししてくーださい♪ シオンさんのことも、トリィのことも、もっとしりたーいでーす♪」
魔女の村の事とか、とっても興味があるんだよ!
村ごとに独自の魔法形態を編み出してるみたいだけど、他にもいろいろあるんだよね? シオンさん、魔道具作れたり薬作れたりするんだし!
トリィは魔法が使えないそうだけど、そういうのは出来るのかな?
「…私は、魔女としての技術は何も使えない落ちこぼれだから、あまり話せる事はないが……それでも良いのであれば、喜んで話し相手を務めさせて貰おう」
「かまーいませーん♪ おそとのおはなし、聞きたいのですかーら♪」
「そういう事ならば、魔女の話はシオンに任せて、彼女も知らない冒険話などはどうだろう? こう見えても、それなりに熟してきているぞ」
「わあ♪ それもきょうみありまーす、きかせてきかせて、トリィ♪」
魔女らしいことは出来なくても結局その血筋だし、妹扱いされているけれどたぶん実際はシオンさんよりトリィの方が年上の筈。
きっと、お外のいろんな話を知っている。わあ、興味ある!
きらきら笑顔でおねだりしたら、トリィも笑顔で頷いてくれた。
やっぱりシオンさんと姉妹だよね、とっても優しいよね!
春の木漏れ日が揺れる木陰で、トリィと並んで座って、今日は冒険譚のお話を愉しむ日とする。
僕が居れば、わざわざ野暮な肉食獣が近づいてくる事もないから、ゆっくりお話して貰えるね! 森の食物連鎖の頂点ばんざーい!
■
ところで、森のエルフさん達も安住の地を見つけたらしい。
3つめの湖になったっていってたかな? かなり森の奥地になる。
湖の大きさとしては、そんなに大きいって程じゃない。森にある他の湖と比較して、だけど。
ただ、その分大きくて危険な水生生物はいないし、水は澄んでいてとても綺麗。
そこを気に入ったそうなので、その湖周辺はエルフさん達に差し上げます。
ハーピィにとっても、水場は水を飲んだり水浴びしたり、時に狩場になったりと大事な物だけど、その一つくらいならね。
彼らと仲良くしておいた方が、メリットも多そうだし。
「こーんにーちわー♪」
今日の僕は、定住を決めたエルフさん達へのご挨拶。
お隣さんだし……いや、居候さん? うーん、なんていうんだろ。
まあ、ご近所さんとは仲良くしといて損はない。
エルフさん達のものとなった湖の傍の木には、既におうちをつくろうとしている痕跡がある。
ふーむ、木の上におうちをつくるんだね。
ただ、木を切ったりしてる様子はなくって、…うーん、何を使ってるんだろう?
土……に、見えるけど。なんだろうね。
ただ、住居にしようとしている木の枝ぶりを見極め、それを活かして住みやすい場所を造る、やっぱり森と共存する種族なんだなあ、と思う。
「あ、ハーピィさんだー!」
「おにーちゃーん、ハーピィさん、きたよー!」
「ごめんなさい、王子様。少々お待ちくださいね」
湖の周りに居たのは小さなエルフさん達と、女性が何人か。
リーダーであるサフィールさんは居ないし、他にも数人いた筈の男性たちの姿はない。
森に何か探しに行ってるのかなって思ったけど、チビっ子達が声をかけたのは、湖に向かってだった。
え? 水の中に居るの?
ぱしゃっ、と右手を湖の水に触れて、お兄ちゃんと呼ぶ声に、ほんの少ししてから湖の中からエルフさん、…サフィールさん、が出て来た。
手にしていた袋を、湖の傍に居た女性に渡してから、彼は枝の上に止まっている僕を見上げる。
「やあ、王子様。わざわざ来てくれたのに、お待たせして申し訳ない」
「いいえー♪ お気にめしたみずうみが見つかったそうで、良かったです♪」
「うん、本当に。…故郷の水と比べても、遜色ないどころか、とても澄んでいて心地の良い水だよ。お陰で、子供達も嬉しそうだ」
確かに、あの時すっかり疲れ果て、不安でいっぱいって感じだった子供達も女性達も、安心したように笑って居る。
彼らにとって、とても居心地の良い環境を見つけられたって事なんだろう。
追い出された故郷は、無二のものだろうけど。これからここを第二のふるさととして暮らしていって貰いたいね。
「……ところでサフィールさん、いっこ…、…ううん、いっぱい、聞いていいでーす?♪」
「うん? なんだろう」
「水の中で、何してたです?♪ さっきのフクロ、何がはいってるです?♪ それに、かみがきらきらゆらゆらです、どうなってるでーすー?♪」
「お、王子っ」
思わず、木の枝から降りてとてとて近づいて行ってしまった。
おつきのアーラが慌ててついてくる。ごめん、ちょっと好奇心が抑えられない。
水に依存する種族って言うのだから、水に入るくらいはそりゃああるだろうって思ってたけど、実際魚をとってたって感じでもないし。動いてないし。
それ以上に、自ら出て来たサフィールさんの髪が、とっても不思議。
この間会った時、今外で待ってる子達は普通の、人間さんと変わらない質の、水色の髪だったのに。
今のサフィールさんの髪は、まるで水みたいになってる。
ゆらゆら光を受けて揺らめく様は、まさしく水面だし。髪の毛一本一本もよく認識できない、深い青い海がそこにあるみたい。
どうなってるの? 触ったらどうなるの?
興味津々を隠さない僕に、サフィールさんは微笑ましそうに笑った。
「ああ……どうしてこうなるのかは、僕らにもよく解っていないけれど。僕らは、水の精霊の加護を生まれつき持っている種族だからね。その影響なんじゃないかって言われてるよ」
「なんでも、髪に強い加護がかかっているおかげで、私達は水の中でも呼吸をする事が出来るのだそうですよ」
「! エルフさんて、水の中でもへーきなのでーす?♪」
「うん。会話もできるし、魔法も使える。ただ、あんまり汚い水だと髪が濁って来てしまって、上手く呼吸出来なくなるんだけどね」
へー! おもしろーい!!
一応基本は地上で生きる種族なんだろうけど、水の中でも問題なく活動出来るんだ。え、両生類?
おうちは陸上に作るけど、基本活動するのは水中なのかな。
自ら出て来てすぐの筈なのに、服もこうべっちゃりにならないで、さらっとしてるし……濡れてまとわりついたり張り付いたり、しない素材なのかなー。
「あと、さっき取ってきたのは、湖の底の土……というか、泥だよ。あれで、僕らは家を造るんだ」
「あ、木にくっついてるの、それでーす?♪」
「そうそう。まあ、壁とか床にする前に、加工するんだけどね」
ほら、と示した方を向けば、さっき袋を受け取った女性が、袋の口を開けて杖を中に突っ込んでる。
まるで魔女が大釜の中身を混ぜるみたいに、袋の中身をぐるぐる混ぜてる。杖についてる宝石がキラって光って、何か魔法をかけているみたい。
おおー。さすが、魔女よりも更に魔力が高いって言うエルフさん! もう、魔法が日常に結びついてるんだね!
「おもしろーい♪ おうちつくるの、みたーいでーす♪」
「いいよ。…ただ、あれだけじゃ少し足りないから、皆が戻ってくるのを待たないといけないけれど」
「はーい♪ ……あ、そのまえにサフィールさんのかみ、さわりたいです♪」
「どうぞ」
わあい、サフィールさん優しい!
笑顔で僕のおねだりを聞いてくれる。
背の低い僕が届くように、しゃがんで髪を纏めていた紐をほどいてくれた。
羽でちょんっとつつくと、普通の水と同じように、波紋が広がる。
面白い! 本当にどうなってるんだろ!
翼では、触覚はよく解らない。もっと近づいて、ほっぺたをくっつけてみる。
……あ、すっごくひんやりする。でも、離れてみてもほっぺたが濡れている感じはしない。水みたいなのに、水じゃない。
持ったり引っ張ったり、出来るのかな? でも、流石にそれはやめとこう。もしかしたら痛いかもしれない。
あんまり調子に乗るのはいけません。
「ありがとうございまーす♪ とってもフシギ、それにとってもキレイでステキでーすねー♪」
「そうかな…こちらこそ、有難う」
貴重な体験をさせて貰いました。
満足してお礼を言うと、何故かサフィールさんまでお礼を言う。
なんだか、ちょっと照れ臭そう?
もしかして、髪を褒められるのって、エルフ的に凄くうれしい事なのかな?
「ねーねー、ぼくもさわってみたーい!」
「ハーピィさん、ぼくもさわらせてー!」
「ぴ?」
「きれいなハネ!」
「つばさ、つやつやなの!」
「こ、こら、お前達…!」
きらきら笑顔で、エルフのちびっこさん達も寄ってきた。
こないだは、傍に僕が来た時怯えていたのに、もう警戒心はないらしい。
ってことは、幼心にも僕らが協力したお陰で住み心地の良い場所を見つけた事、案内してくれていたハーピィ達が怖くはなかった事、そういうのを理解して敵ではないと認識してくれたのでしょう。
うん、敵じゃないよ。仲良くしたいよ!
人間さん達と違って、気を緩めたら何やらかすか分かんないって感じじゃないからね。っていうのも、アレだけど。
「かまいませーんよ♪」
「宜しいのですか、王子?」
「ええ、さわるくらいいいですよー♪ あ、でもひっぱったり、羽をむしったりしちゃ、やーですよー?♪」
「はーい!」
アーラがちょっと心配そうにしてたけど、僕だって、触らせて貰ったもの。フェアに行きましょう。
畳んでいた翼を広げて、どーぞと子供達を受け入れる。
まあ、子供達って言っても、背丈は僕と変わらないくらいなんだけどね! でも翼は大きいから、広げるとちょっと大きく見えるかも。
全く警戒することなく、4人の子供達が僕に近づいて、ちゃんとそーっと優しく翼に触れる。
あはは、流石に髪より肌に近いせいか、さわさわされるとくすぐったい。
でも、別にやーじゃないのです。無邪気なきらきら笑顔でおねだりなんてされたら、いやな気はしないもの。
「すごーい、すべすべー!」
「きもちいいー! …すりすり」
「あ、グルナずるーい! ぼくもー!」
「あははは、くすぐったいでーすー♪」
中の一人が翼にほおずりし始めて、他の子まですりすりしてくる。
くすぐったーーーい、喜んでくれるのは嬉しいんだけど、笑い過ぎで涙出ちゃうから、ほどほどにーーーー!
「その辺にしておきなさい。王子様がつぶれてしまうから」
「ぶーーー」
ぐいぐい押してくる子供達に押し倒されるような形ですりすりされていたら、サフィールさんが子供達を一人ずつ抱っこして、退かしてくれた。
エルフだからなのか全然重くなくって、苦しくはなかったんだけど。いや、笑い過ぎて苦しくなっちゃってるけど。
「あははは、元気いいでーすねー♪」
「ずっと我慢させていたからか、ちょっとタガが外れているらしくて…。本当に、失礼を」
「かまいませーんよ♪ おんなじ森にすむどーし、なかよくやりましょー♪」
エルフは動物性のものは食べられないそうだし、僕らはエルフを獲物として見ることは無い。食べる物はほぼ被らないし、敵になり得ない。
繁殖期のオスの当てはもうあるし、森を壊す事のないエルフさん達を、僕らが害することは無いのだから、それなら普通に仲良くしていいじゃない?
彼らとしては、案内して貰って、一種保護されている感があるのかな。サフィールさんがやたら僕に優しいのも、そうなのかもしれない。
実際、魔族……魔物に故郷を追われて、他種族に利用されて森を使いつぶされてってしてたら、同じ森の民とは言え僕らを掛け値なしに信用できない筈なのに。
ま、その辺は仕方ない。
信頼関係と友好関係は、これから築きましょ。
「! 王子」
「ん」
ちょっと困った顔をしたサフィールさんは、やっぱり僕らに見捨てられたら大変だとか、もしかしたら手厚く扱っておいて何かされるんじゃ、みたいに考えているのかもしれない。
気長にやろう、なんて思っていたら、どこからかぴぃーっと音がしてきた。
ハーピィの呼び声に似ているけれど、これは笛の音。
間髪入れず、二度、三度と鳴らされる。
……それは、緊急だね。
「ごめんなさーい、ちょっと呼んでる人達がいるみたーいでーす♪」
「そうかい? …そうだね、君達は僕らだけと交流している訳では無いのだし」
エルフさん達も、僕らが人間さんと同盟を結んでいる事を知っている。
他のエルフの森に転がり込めば、そこも同盟を結んでいるし、働き手を提供しているから参加させられるかもしれない、って事で彼らはここに来た。
関わりたくない旨を伝えて森の奥地まで入ってきたけど、何かがあれば関わらなきゃいけないのかもしれない、って警戒が顔に出てる。
なるほど、嘘がつけない種族なんだな。
「べつに、サフィールさんたちをニンゲンさんにわたしたりしませんかーらね♪」
「……うん、有難う」
「それでは、また♪ 次はおうちをつくるの、見せてくださーいねー♪」
「またねー、おうじさまー!」
「こんどはいっしょにあそぼーねー!」
「はあい♪」
ま、子供達は僕に好意的だ。これは助かる。
大人達も、きっと完全には警戒は解いてないんだろうけど、決して子供達に不安や警戒を伝えようとはしてないみたいだし。
まだ信用していいか分からない、って様子見状態なんでしょう。
……さておいて、さっきの笛は集落からだったようだけど、何があったんだろ。
緊急呼び出しされるのは、初めてなんだよ?
今年はなんか、色々起こる年なのかな。
受け入れた人達とは、仲良くやってます。
去年がのんびりモードだったせいか、今年は色々何かが起こる。
なんで厄介事って、一緒に来るんですかね。仲良しなの?
ただ、難民を受け入れた時点で、やっぱり国単位の面倒事はあるもので……




