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おすはぴ!  作者: 美琴
35/64

一夜が明けて




 翌日。

 起きて伸びをすると、今日もとっても良い天気。

 勿論、雨なんて降らなさそうな日を選んだんだけどね。僕らはともかく、人間さんは濡れたら大変だから。

 フレーヌとグリシナは……あ、いつの間にか隣で寝てる。

 てことは、夜中にはちゃんと帰って来たんだね。

 この二羽は、後できちんとお話を聞いて、夜に出かけるのはまだダメって言っておかないと。

 ……まあ、おかげでアーラ的には良かったのかもしれないけど。

 まさか、アーラが手回ししたんじゃないよね? ……まさかね。


『クラベルー、おむかえ行ってくるよー』

『お供致します、王子』


 まずは、朝一番への皆へのお歌を終えてから。

 いつもおつきになってるアーラも、代わりを務める事が多いシャンテもいないから、近場に居たクラベルに声をかける。

 すると当然のようにお供をしてくれるのでした。

 これが普通になっちゃってるので、最近は何の違和感もない。

 王子扱いも、数年単位で受けてると慣れちゃうものだね。

 二羽で連れ立って、長老木から飛び立つ。その音にも、フレーヌ達は反応せずにすぴょすぴょと寝ていた。もー、夜更かしなんて悪い子なんだから。


「おはよー、ござー……いー…?♪」


 集落に到着、着陸してご挨拶と思ったのだけれど、その場の異様な光景に思わず尻切れトンボになってしまった。

 既に、昨晩旦那さんを見つけられたハーピィ達は、男性たちをつれて集落に帰ってきているみたい。

 くんっと鼻を利かせても血の匂いはしないし、皆ちゃんと僕の言いつけを護ってくれたみたいなんだけど……


「おはようございマス、王子!」


 イの一番に僕に気づいたアーラが、満面の笑みで朝の挨拶をしてくれた。続いて、他のハーピィ達も口々に。

 うん、ハーピィ達も問題なさそう、むしろ超元気?

 それはいいんだけど、あの……


「……センセたち、どうしまーした?♪」


 5羽とも、みーんな凄く機嫌がよさそう。ちゃんと目的は果たせたみたい。

 ただ、その向こう側。

 集落に返された男性たち5人が、全員地に伏して……いや、座り込んでたり、頭抱えてうずくまってたりしてるんだけど、どうしたの何があったの。

 当たり前ながら、そんな明らかに尋常じゃない様子の男性陣に、集落で出迎えてくれた人々が心配そうにしている訳です。

 その中にはシオンさんとセロさんの姿もあるけど、ルストさんがいない。

 やっぱり夜更かししてまだ寝ているのか、それともシオンさんに折檻されたのでしょうか。まあそれはいいや。


「シオンさーん、みなさま、どうしたんでーすかー?♪」

「いや、なんだろ。怪我してる感じではないんだけど」

「ティリノ君、どうしたの? 喋れる? 大丈夫かい?」


 ……先生、失意体前屈になってない?

 二人があまり深刻そうではないから、怪我や体調不良ではないんだろうけど、本当に一体どうしたの……


「親方、親方がこんなになっちまうなんて……」

「いったいどんなひどい目に……?!」


 あっ、待ってひどい事なんてしてな、……してないよね?

 マッチョさんのお弟子さん達が、本当に心配そうにしている。その言葉に、やっとマッチョさんは……顔を上げないままだけど、口を開いた。


「……正直、ナメてた……」

「ああ……同感だ……」


 絞り出すようなその声に、参加してくれていた冒険者さん二人のうち、黒髪のお兄さんも同意の声を発した。

 もう一人の赤髪のお兄さんも頷き、あのシャンテに気に入られた大工のお兄さんは……あ、彼こそ地に伏して動かない。いや生きてはいるけど。

 先生は、反応をしない。


「いいか、お前ら……。ハーピィを、甘く見るな……」

「お、親方……」

「軽い気持ちで接するんじゃない、……人間とは、訳が違うんだ……」


 えっ、待って待って、本当に何があったの??

 場合によっては、急激に僕らの間に溝が出来ちゃうんだけど??

 心配になってきた僕をよそに、ふるりとマッチョさんは力なく首を振る。黒髪の冒険者さんも、両手で顔を覆う。


「あんなん、知っちまったら……、…人間の女じゃ、満足できなくなるぞ……!」


 ………………。

 うん、……うん??

 小さいながらもしっかりと聞こえたその言葉に、心配や不安で満ちていた場の空気が一瞬凍り、そしてほぼ全員が首を傾げた。

 えーと、なんだ。それは、その。

 この、打ちひしがれた様子の男性たちと。

 視線をあげると、何やらつやっつやした感じのハーピィ達。

 ……。……あー。つまりそういう。


「そ、そんなにですか、親方……」

「恐らく、あの歌の影響があるんだろうが……、生半可じゃねえ」

「あの親方が、そこまで……!」

「ハーピィ、恐るべし……」

「じゃあ、あの……シャルルのヤツがああなってるのは…」

「ヤツには、刺激が強すぎたんだろう……」


 あ、なんか大工さんチームの雰囲気が変わってる。

 そうか、あの一番若い、…先生を除けば、のお兄さんが動かなくなってるのは、そういう理由の……

 ……って、じゃあ実際一番若い先生は。


「そっかー……。勝てなかったかー……」

「勝てる要素なんか、一個もなかった……」

「ティ、ティリノ君、元気出して……!」


 おおよそ何があったのか悟り、ぽんっと先生の肩に手を置くシオンさんと、明らかに同情してる様子のセロさん。先生はやっと反応したけど、まだ打ちひしがれた声してる。

 そんな先生に、物凄く勝ち誇った笑みを浮かべて見ているアーラ。

 ……うん、特に君は張り切ってたもんねえ。


「うふふ。まァ、悪くなかったわヨ?」

「…………」

「やめてあげて!! ティリノのHPはもう0よ!!」


 いったい何をこじらせたんだか……

 それはいいんだけど、さっきまでの心配やらやっぱりヤバいのかみたいな恐怖やらはどこへやら。

 え、ちょっとマジで? みたいに軽く引いている人間がいくらか、そして、えっそんな凄いのか? みたいな明らかに興味を持ってる男性がある程度。

 怖いもの見たさ、じゃないけど、……まあ男なんてそんなもんだよね。

 次回は参加者が増えてくれそうだなあ、なんて言う思考をする僕に、うずくまってた冒険者二人が復活したのか何なのか、バっと顔を上げて数歩前に出た。

 詰め寄らないのは、周囲にハーピィ達がいるからだろう。


「シスちゃん、改めて聞くけど、シスちゃんは男なんだよな?!」

「……そうでーすよ?♪」

「当たり前だけど、そのうち大人になるんだよな?!」

「ならなかったらこまります♪」


 益々フレーヌ達との成長速度に差が開く一方だけど、一切成長してないって訳ではない。

 ちゃんと、そのうち、大人になる。……ええ、きっと。

 今更の確認をするお二人に、いったい何なのかと思っていたら。


「もしシスちゃんが大人になった時、他のハーピィが全員シスちゃんに行ってこっちに回らなくなる、とかないよな?!」


 真顔で何言ってんの、この人は。

 二人とも目がマジです。

 あ、この二人、マッチョさんが言う通り、普通の女性相手には戻れなくなってるのかもしれない。一度でそこまで行くほど??

 そしてその言葉に。

 ざわ……っとどよめいたのは、人間さん達ではなく。僕の傍にいた、ハーピィ達だった。


『……え、王子が成鳥になられたら、交尾していいの?』

『そういえば、王子はオスなのだから、私達は王子の卵を産めるの……?』

『そんな、王子の卵だなんて……恐れ多いわ!』

『ああ、でもどんな雛が孵るのかしら!』


 …………みんな……。

 人間とか、他の種族相手なら全然平気なのに、僕となると、どうしてそんな嬉し恥ずかしみたいな反応になるの。

 あと、当面無理だと思います。僕まだ雛です。


「……どんな反応してるんだ」

「あー。ボクら、きほんてきに他のしゅぞくと卵をつくるので♪ ハーピィ同士でとか、かんがえたことなかったみたーいです♪」


 てことは、最初っから僕が大人になったら肉片コースなの?? というあの心配は杞憂だった訳だ……

 そして今気づいちゃった訳だけど、うーん……


「どっちにしても、ボク一羽でこの子たちみーんなとか、フツーにムリですから♪ オトナになったとしても、みなさまのごきょーりょくをいただくかと♪」

「そ、そっか……」


 あからさまにホっとしたよ。

 よし、この分なら来年も、この二人は参加してくれそうだ。

 ……ていうか、繁殖期は一年に一回だけど、そういう意味では大丈夫なんでしょうか。


「……ところで、こんごにししょーが出そうなほど、すごいのです?♪」

「「いや、シスちゃんにはまだ早い!!」」


 さよですか。

 興味というか、君らの今後の心配で聞いたのだけど、ノーコメントを貫かれてしまいました。

 まあ、別にそんな事細かに聞きたい訳ではないけどさ。







 なんせ僕らは鳥さんなので、卵が産まれるの自体は早い。

 鶏さんだって、毎日産んじゃうもんね。ハーピィも似たようなもので、早い子で次の日、遅くても3日後には抱卵用の巣に卵が出揃った。

 例え自分が産んでいなくても、群れの仲間の卵を見ると、ハーピィ達の繁殖期、卵産みたい欲求……発情は収まってしまう様子。

 なんせ、群れ全体で育児をするからね。それどころじゃなくなるんだろう。自然の本能って凄い。

 というわけで、今年は延々と抑えるための歌を歌わなくてもいいみたい。


『五コも卵が産まれたよ、ババさま! こんなにいっぱいの、初めて見た!』

『ああ、王子の時でさえ、4個だったからね』


 しかも、1つ孵らなかったもんね。

 ここ近年では……というか、決まり的にこの森に来てから、こんなに卵が産まれる事はなかったんだと思う。

 報告に来たついでに、お膝に頭をのせて甘える僕の髪を撫でるババ様は、とっても嬉しそうに目を細めて笑う。


『どれもちゃんと、育ちそうかい?』

『今のトコロは! ぜんぶ、ちゃんとあったかいよ!』


 育っていない卵は、抱っこしても温かくない。どんなに温めても、すぐに冷えて冷たくなる。

 でも、今回の卵は5つ全部、今のところは触ると温かい。

 ハーピィは普通の鳥より大きいからか、孵るのにはちょっと時間がかかって、だいたい一月半から二月くらいかかる。

 油断は出来ないけれど、現在は順調と言って良いと思う。

 抱卵で手が……翼が離せないから、ちょっと狩りに案内に慌ただしいけど。そこは人間さんたちも解ってくれてて、とりあえず今は地図調査と、鉱脈探しはお休みしてくれるみたい。ごめんねー。


『やっぱり、あの時王子に託して良かったよ』

『むきゅ』


 頭だけじゃなくて、おいでおいでと招かれたので、お膝に乗ったらばさっと翼で抱っこされる。

 僕も、そう言って貰えると嬉しい。

 殆ど運に近いところもあったけど、殆ど望み通りの展開になってくれたし、首尾よく沢山卵を確保する事も出来た。

 このまま、良い流れが続いてくれれば、20羽を切るような小さな群れの僕らも、いずれはまた大きく数を増やして、堂々と森の支配者を名乗れるようになると思う。

 そのためにも、今後も頑張らなきゃね。


『王子に名付けて貰える、次の雛達は幸せだね』

『ぴ! ボクがつけるの?!』

『そりゃそうさ。王子が私らの長なんだよ?』


 あっ、そうだった。

 僕らハーピィにとって、名を与えるというのは、『自分に従い、ついてきなさい』っていう支配の意味があるんだという。

 僕の名前をつけてくれたのはティリノ先生で、感謝してるし尊敬してるし信頼してるけど、別に支配されてるつもりは一切ないから、あんまり実感がない。

 でも、これもまた長としての仕事。しっかり務めなくては。


『んー……いっぱいかんがえないとだよね』

『ああ。きっと私より、大変だろうねえ』

『が、がんばる!』


 一年に1羽か2羽がせいぜいだった今までと打って変わり、今後は5羽とか一気に孵るかもしれないんだ!

 うわー、責任重大な上に、僕のボキャブラリーが試される……!

 ……お、お父さんに考えて貰っちゃダメかな。ハーピィ的にダメだよね。

 そもそも、ちゃんとその子供にその名前を渡せるとも限らないしね!

 卵を産んだのは同時じゃないけど、温めている間に位置を変えたり頻繁にするから、やっぱりどれが誰の卵なのか、もう解らないので。


『本当に。王子が産まれてきてくれて、良かったよ』

『ババさまー?』

『これだけ生きて、初めて群れの将来に希望が見えた。……これなら、もういつ落ちても心残りは無いよ』

『ぴ?!』


 基本、僕らは死ぬという言葉を使わない。

 かつての世界でもその言葉を、別のものに置き換えて比喩として使う事が多かったけど、ハーピィ達にとってはそれが『落ちる』という言葉。

 そもそも、落鳥自体が鳥さんが死んでしまう事を意味するのだから、不思議でもない。

 空を飛ぶ僕らにとって、地に落ちる事は死の象徴だ。


『ババさま、おちちゃやーだー!』

『ははは、今すぐじゃあないよ』

『やだー! ずっとおちちゃやだー!』

『無茶を言わないでおくれ。私は、もう随分長い事生きたからねえ。どうやっても、順番ってのは来るものなんだよ』


 そんな事は解ってる。

 不老不死なんて存在じゃない限り、寿命はどんな生物にだって訪れる。

 特にババ様は、ハーピィ達が信じられないと言うほど、とってもご長寿なのだそう。本当、いつ落ちても不思議じゃないくらいの。

 見た目じゃ相変わらず解らないけど、見た目で解らないからこそ、信じられないし、そうなった時のショックって結構大きい。


『ババさまいなくなったら、甘えられなくなっちゃうー……』

『おやおや、やっぱり王子は甘えん坊だねえ』


 こんな風に、抱っこして甘やかしてくれるのは、ババ様だけだもん。

 他の子たちは、年上だろうが僕を王子として扱う、まあ甘くはあるけどこういう感じに可愛がってくれるんじゃないし。

 そもそも僕は群れのリーダーだから、ちゃんと皆に指示して護ってあげなきゃいけないんだし。

 それがイヤではないし頑張るけれど、まだまだ甘やかして欲しい。

 だって、まだ雛だもん!

 抱っこしてくれてるババ様にすりすりすると、仕方ないねと笑ってまた髪を撫でてくれる。


『じゃあ、王子が甘えん坊を卒業するまで、もうちょっと頑張ろうかね』

『うん! がんばって!』


 成長が我ながらとんでもなく遅くって、いつオトナになるのかすら、自分でも全く解らないけど! まあ元々自分じゃ解んないか。

 ……誰にだって、いつかお迎えが来ちゃうのは、仕方ない事だと解ってるけど。

 もーちょっと甘えさせてほしいの。その分、他のとこで頑張るから。

 久しぶりのババ様のお膝のもふもふを堪能しつつ、今日はめいっぱい甘えることにした。

 充電です。明日からまた頑張るからね!!







 ハーピィは凄いらしい(←


 実際、シスが大人になったとしても、なんせ群れ全体の認識が『家族』なので、あんまりその中で繁殖行動を起こす、という意識がないようです。

 王子相手で敬う意識が強いというか、尊敬と敬愛と従属の意識がとても強いからシスが言えば多分断りませんが……

 そういう流れにはならないんじゃないですかね?

 だって、シスもハーピィだから(本能的に繁殖相手が他種族)。




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