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おすはぴ!  作者: 美琴
34/64

旦那さん探し




 冬の間に、決めておかなきゃいけない事がある。

 集落の皆さんが、建築とか防衛設備とか急ぎになった採掘とかで忙しかったので後回しになってたけど、これ以上は伸ばせない。

 ズバリ、ハーピィ達の旦那さん探しの件です。

 というわけで、今日も今日とてティリノ先生のお部屋で相談なのです。


「成鳥の半分の数だったな。確か9羽……」

「あれから1羽オトナになったので、10羽でーす♪」

「そうか。まあ、どちらにせよ最低人数5人で変わりはしないな」


 今年は落ちた老鳥はいない。まだ冬は続くから、解らないけれど。

 小さい子とお年寄りは特に保温に注意してあげなきゃいけない、って事で一部ハーピィに人間さん達から冬服の贈り物があったので、そこはちょっと安心。

 代わりに、次回からやらかした人間さんをその場で制裁せず、先生達による取り調べが入る事になったけど、原因は解った方が僕も助かるからいいです。

 このお約束は、雛が生まれた時の産着や、成長の早い子供達の服なんかを今後も用意してくれるって事で、ずっと継続です。

 目の前での制裁は一回やれば、とりあえずはいいでしょ。


「で、恐らく今回はギリギリその最低ラインの人数を集めるので精一杯だ」

「んー、直前にコワいコトしちゃいまーしたかーらねー♪」

「だな、正直ハーピィと非武装で二人きりになるとか、正気の沙汰じゃないと言ってもいい事でもある」


 ライオンの檻の中に、なんの安全対策もせずに入れるかって言ったら、そりゃ無理なのと同じ感覚だろうね。

 あまつさえ、秋に一度制裁をしたばかりで、ハーピィの呪歌の効果を目の前で見てしまったから、怖いのも拍車がかかる。

 いくらハーピィが、決して人間に対して敵対的ではないと言ってもねー。言って魔物だし肉食だしねー。

 怖いのは解るよ? でも妥協はしません。


「もう、ぼしゅーとかしてるのでーす?♪」

「それは最初からしている。ただ、例の件を聞いて、尻込みしたやつらが多い、あと……いやこれはいいか」

「ぴ? なんでーす?♪」

「……まあ、その、要するに、あれだ。シスは本当にオスなのかと聞かれる」

「オスです♪ ボクにダンナさんはいりません♪」


 お嫁さんもまだ要りません。

 っていうか、なあにー? もしもメスだったとしても、こんな幼女(仮)に何がしたいのですかね、お兄さんたちー?

 お外の村のプーロ君みたいな感じなら微笑ましい話だけど、幼児性愛趣味のおじさまでもいーるーのー?

 ……まあ、そういう対象が真っ当じゃないのなんて、文明が進んでも進んでなくてもよくある事かー。僕が前に居た世界だって、昔は男色なんて当たり前だったって聞いたことがある気がしたけど、そんな記憶は別にいらなかった。


「まあ、ボクのファンがいることはー、とってもうれしく思いまーすよー♪」


 って事にしておこう。

 そして、フレーヌやグリシナは、やっぱり当面集落には近づかないように言っておこう。時々だけど、周辺近くまで寄る事があるみたいだ。

 ただそういう時はルストさんが一緒だから、いけないおじさんについてったりはしないと思うけど。

 ……まあついてったとして、危険なのは2羽ではなく、そのおじさんであるのだけどね。いらない人的被害は出してほしくない。


「それでー♪ ハーピィたちよりダンナさんこーほが少ないばあいに、むらがったりしないよーに、ルール作りたいのでーすー♪」

「そうだな、それは決めておかないと、色々問題だ」

「きほん、ハーピィ主体でいいでーす?♪」

「ああ、群がって肉片にしないならな」

「はい♪ で、かんがえたのはー、サイショにハーピィたちに、気に入った男のヒトをえらんでもらうでーす♪ この時はまだえらぶだーけ♪」

「ふむ」

「今回なら、ハーピィたちの方が多いですかーら、たぶんかぶっちゃいますので、そしたら男のヒトの方にどのハーピィが良いか、えらんでもらうでーす♪」

「最終決定権をこちらに渡していいのか?」

「ボクらは見た目でえらびませーんが、ニンゲンさんには見た目のお好みがあるでしょー?♪ あと、どれもイヤ、はナシでーす♪」


 せっかくだから、気乗りする相手の方がいいんじゃないかなって。

 まあ、たぶんお歌を間近で聞く羽目になって、見た目とかどうでもよくなる気はするけど、ちょっとくらいより好みの子を選べた方が、気分いいかな? って。

 どっちも好みじゃないからいらない、はダメだけどね。

 ていうか、ハーピィみんな可愛いからいいじゃない。もっと違う見た目が好みって人は、そもそも旦那さん候補に出てこないでしょ。


「……で、あぶれたハーピィはシスが鎮める、と」

「でーすね♪」

「もしも、今後ハーピィの数よりも旦那候補の方が多くなった場合、それでも選択が被って選ばれなかったハーピィが出る場合があるだろう。その時は、また選ばれなかった男から選択か?」

「んー、そうでーすねー。はじかれたハーピィの意思次第でーすね♪」


 たぶん、選び直す事にはなると思うけど。

 ただ冷静に考えてみると、毎年10個も卵が産まれて雛が孵ってたら、将来物凄い人口、…いやハーピィ口爆発を起こす気がする。

 ……いや、起こってもその後寿命ラッシュも来るか。

 どこかで、数が一定になるはずだ。だいたい、爆発したとしたらそれこそ旦那さん候補の数が足りなくなると思うから、実際成鳥の数=次の年の雛の数、には正確にはならないと思う。

 それに、100羽や200羽になったとして、この森で抱えきれなくなるとは思えない。馬鹿みたいに広いんだもの。国ひとつがまるまるすっぽり入るくらい。


「そーいえば、前にシオンさんから言われたでーすが♪ ヒナがとべるよーになったら、おとーさんに会いに来たりとか、ひつよーでーすか?♪」

「……どうだろうな。果たしてその状況で、自分の子であるという感覚が生まれるか解らないし、そもそもどの雛がどの父親の子かも解らないんだろう?」

「わかりませーんねー…♪ ボクとフレーヌとグリシナも同じオスから生まれてますけーど、にてなーいでーす♪」

「まあ、それは生まれてみてから、意見を聞くでいいんじゃないか?」

「はーい♪」


 人間に慣れさせるためにも、小さいうちに見るくらいはしておいていいと思うんだけどね。

 あんまり無防備に雛や若鳥を人間に接触させて、変な刷り込みをされてしまうのは困るから、案内役は主に大人と老鳥なんだけど。

 あと、場合によっては危険から守ったり、撃退する可能性もあるからねー。そこは経験があるオトナの方が都合がいい。


「ところで、センセはさんかして下さるのでーす?♪」

「その予定はないな」

「えー♪ ハーピィたちに、センセとっても人気ですのにー♪」

「……なんでだ」

「わかくって♪ 魔力がとってもたかいから♪」

「そういうのがハーピィ的に良い男なのか?」

「んー♪ 魔力や、体力、そういう何かのよーそが高いヒトが、とってもミリョク的のよーうでーす♪ にばん人気はラティオさん♪ さんばん人気はマッチョさんのよーです♪」


 先生は魔力が高いのと、僕が仲良くしてるから警戒心が薄いのだろう。

 ラティオさんは、魔力と体力というか、身体能力の高さが両方なかなかのものだから。マッチョさんは、見たままとてもたくましいから。


「その辺りがハーピィ受けがいいのなら、やはり単純に街人よりも、肉体労働者やそれこそ冒険者が良いのかもな……」

「ああ、そうかもでーすねー♪」

「確かに、普段魔物と接する機会のない、一般人にハーピィと間近で、というのは恐ろしく感じるだろう。来年からはいくらか依頼というカタチで冒険者を募るのもアリか。多少心構えが出来るだろうし…」


 それ、どこからの依頼になるんだろう。僕らじゃないよね?

 そして、そうだよね、街で暮らす、普段魔物となんて遭遇しない一般人が、ハーピィと二人きりは、それは怖いよねー…

 質的にも度胸的にも、冒険者さんの方が適任? でもマッチョさんみたいなタイプは一般人にも居る訳だし、それを排除するのも勿体ないような……


「……。ねえ、セーンセ♪ ボク、今回のダンナさんさがしー、日がくれてから男のヒトたちをかりていって、よくあさ返すってイメージでいたのでーすけど♪」

「うん? …俺も同じイメージで居たが」

「もしもそれがコワイのでーしたら♪ いっそ、えらんだその場ですませてしまうというのでも、ボクらはかまいませーんよ♪」

「ぶ?!」


 スゴイ映像になるけど、危険意識と恐怖はなくなるんじゃないかなって。

 あと、もしも本当に肉片コースなんかになりかけたら、周囲の人も助けに入ってくれるし。

 と思って提案してみたら、先生思いっきり吹き出した。


「それは……公開処刑か何かか……?」

「ダメですー?♪」

「むしろ、お前ら的にはそれでいいのか…?」

「ボクら、元々ぜんいんいっぺんにゴー、ですもの♪」

「それもそうか。…いや、だが、それは、ちょっと……、道徳的にというか、倫理的に、どうなんだ……?」

「こわくはなくなりませーんか?♪」

「身の安全の代わりに、矜持とかプライドとかそういうものが奪われる気がする」


 恐怖よりも男のプライドの方が大事らしい。

 まあ、そうだろうね。そうだろうと思いつつ、言う僕も大概だけど。

 なんか最近、よりハーピィ化が進んできたのか、人間としての一般感覚が薄れつつあるのかもしれない。いや、ハーピィなんだけど。

 とりあえず、倫理観はあんまり僕の考える感じと変わらない様子。


「じゃ、やっぱりオトナたちにはせんよーの巣を作ってもらいまーすね♪ かんがえてみれば、目の前でされたらえらばれなかった子がコーフンして、肉片コースになっちゃいそうでーすし♪」

「そうしてくれ……」


 あ、ティリノ先生、頭痛そう。

 まあね、これに関してはボクらが協力して貰う側だからね。なるべく、そちらの希望には添えるようにしなきゃね。

 春になるのが楽しみだなー。







 無事、ハーピィ達は誰も落ちる事なく春を迎えられた。

 最近少しだけ、ババ様に以前のような覇気がない事だけは、最近気になるのだけど。長を僕に譲って、気が緩んだって事なのかしら。

 それもとても気がかりだけど、こっちも大事。

 なんせ、去年も一昨年も0で終わった、僕らの大事な繁殖期なのですから!!


『みんなー、ちゃんとじゅんびできたー?』

『はい、王子!!』

『お言いつけ通りに!!』

『万端でございます!!』


 一日の業務を終えた後、一旦長老木に戻って。それから改めて、成鳥のハーピィ達を集めて僕は最終確認をする。

 卵を産みたい成鳥達には、それぞれ新しく自分用の巣を作ってもらっている。

 基本の住処は長老木なので、いわば別荘だね!

 ハーピィ達はそこで寝るのは慣れっこだけど、暖かくなってきたとはいえまだ春先。冷えたら困るので、巣の数と同じ分の温かくなる魔道具を、人間さん側からレンタルして貰って、設置してあるから寒さ対策は大丈夫。

 ちゃんと後で返します。年に一回しか使わないし。


『いーい? ぜったいに、ニンゲンさんにケガさせちゃダメ! だよ?』

『はい!』

『ちゃーんと、やさしーく、ね? 明日のあさには返すんだよー?』

『心得ております、王子!』


 いつにもまして、皆のテンションが高い。

 期待に顔をきらっきらさせてるのが、とっても可愛いです。

 今まで、一族の掟でオス一匹しか用意出来なかったんだもんね。卵を好きに産みたくても、産めなかったんだもんね。

 今回に限れば確実に卵が産めない子がいる代わりに、早い者勝ちじゃなくなり、無事に卵が生まれる可能性がグンと上がったのだから、皆も嬉しいのでしょう。

 これで首尾よく、沢山可愛い雛が生まれてくれればいいんだけど。


『それじゃ、しゅっぱーーつ!』

『いってらっしゃー!』

『気をつけるのよー!』

『がんばれー!』


 バサっと僕が翼を広げ空へ舞い上がると、それに続いて大人達が飛び立ち、卵を産めない若鳥や老鳥達は、翼を振って見送ってくれる。

 まあ、僕が頑張る訳じゃないんだけど、翼を振って答えてから、集落の方へと飛んでいく。

 森の中でもある程度の広さが切り開かれ、篝火の灯る集落は、夜になるととんでもなく目立つ。

 迷う筈もなく、集落に辿り着いて一度上空を旋回する。

 それから、広場に着地。今日は止まり木じゃなくて、地面にそのまま降ります。他の大人達も、それに続いた。


「こーんばーんわ♪ おやくそくのダンナさんさがしにまいりまーしたよー♪」


 ギルド前の広場には、この集落に居るほとんどの人が集まっている様子だった。

 僕らが着地する為のスペースは空けてくれてたけど、見物なのか様子見なのか、冒険者さんもそうじゃない人たちも、広場の周囲やギルドの中、お宿の二階などからも見ている。

 僕がにこにこ笑顔で声をかけると、当然のように代表役の先生が進み出てくれる訳なんだけど……

 ……何やら。とてつもなく、苦い顔をしていた。


「? どうしまーした、センセ? おぐあい、わるいです?♪」

「いや…。約束通り、ハーピィ達の旦那……繁殖相手探しだな。最低人数しか集まらなかったのは申し訳ないが、協力者は用意させて貰った」


 否定したけど、やっぱりなんだか、顔色が良くないように見える。

 なんだろう? 首を傾げても尋ねても、答えてくれなかった。なんかマズイ事でも起こったのだろうか?

 先生に呼ばれて、周囲にちょっと遠巻きにしていた人たちの中から、4人の男性がこちらに来てくれた。

 マッチョさんと、他は二人冒険者らしいお兄さん、もう一人は……あれ、見た事がある。

 ……。…あ、前に木を乾かしてるって、教えてくれた若いお兄さんだ。じゃあ、大工さんなんだね。

 そして、残念二番人気だったラティオさんは不参加みたい。


「マッチョさん、さんかしてくださるのでーすね♪ ありがとうございます♪」

「若いヤツらが意気地がねぇからな。お前らにゃ世話んなってるし、一肌くらいは脱いでやるさ」


 と言いつつ、若干笑顔が強張ってるというね。

 それこそ、意気地のない弟子たちに大したことないというか、怖がる事なんかないというのを示したいが為に参加してくれたんだろう。身体張るなあ。

 それはいいんだけど。


「……センセ、4人しかいませーんよ?」

「5人いるだろ」

「ぴ?」


 出てきてくれたのは、マッチョさん達4人だけだ。

 5人いる、と言われても、何回数えても4人しかいないし。他に出てきてくれる様子の人はいないし……

 二度見したあと再び先生を見上げると、益々苦い顔をしている。

 ……うん?


「……センセ、さんかしなーいって、言ってませんでーした?♪」

「ああ……」


 確か、事前の打ち合わせの時は、先生は参加はしないと言っていた。

 この苦い顔も、この参加が心底不本意だという事なのでしょう。

 なのに、なんでこうなっているのか。


「どーかしたです?♪」

「いや……本当は、ルストが参加する予定だったんだが」

「ぴい?」

「……直前に、フレーヌ達に拉致られて、現在行方不明だ」

「ぴゃっ?!」


 フレーヌとグリシナ?!

 あ、そういえばさっき、姿が見えなかったね?! こっちの最終確認に気を取られて、気づかなかったよ?!

 てっきり若鳥達に紛れてるのかと……


「そ、それはなんか、ごめんなさい……?♪」

「王子、大丈夫デス。あの二羽ハ、夕方ごろ見つけたという洞窟探検ニ、ルストを誘っテ行くと申しテおりましタカラ」

「……アーラ、知ってたでーす?♪」

「申し訳ありマセン。明日の事だと思っテおりましタ」


 まあ、二羽だけで突っ込まなかったことを褒めるべきなのか……

 流石に夕方みつけたそれに、速攻突っ込むとは思わなかったし、ルストも誘うならとアーラも咎めなかったんだろう。


「そもそも、ルストだって拒否しようとすれば、出来た筈だ。それを断らずにつれていかれたんだから、あいつにも責任がある」

「むしろ嬉々として着いてったから、後で絞めればいいと思うの」


 どうやら、シオンさんは現場を目撃したらしい。

 もんのすごくぶすくれている。…たぶん、自分は誘われなかったからだろうな。

 そして、セロさんは苦笑している。


「……というわけで、あまりにも唐突な事で、代わりも見つけられなかった」

「だから、せきにんしゃとしてのさんかなのでーすねー……」


 OK、察した。

 どんまい、先生。お疲れ様です。


「あの、ティリノ君。やっぱり、僕が……」

「セロはダメだから!! ハーピィちゃん達がいけない訳じゃないけど、その、あれだ、ほら、神殿の頭硬いジジィが魔物と子供がいるなんて知れたら、ある事無い事並べ立てて騎士になれないかもしれないじゃない!! ね!!!」

「……気持ちはありがたいが、そういう事だから、お前はダメだセロ」

「そ、そうか……ごめん…」


 あんまり先生の表情が苦々しいから、優しいセロさんが挙手しようとしたんだけれど、途端に凄い勢いのシオンさんのNGが入る。

 そして先生も、それを否定しない。

 ……実際その辺、神様というか神殿的にどうなのか解らないんだけど、納得するのだから無いわけじゃないんだろうし、先生のはむしろシオンさん達の関係をこじらせない為の気遣いな気がします。

 うん、大丈夫だよ先生。怖い事はしないし、させませんから。


「何はともあれ、数がそろってるならモンクないでーす♪ では、よてーどおりに始めますね♪ お伝えされてるかと思いますがー、サイショはこちらから……」

「王子!」

「ぴ?」


 それはそれとして、と旦那さん探しを開始しようとしたら、急にアーラが声を上げた。

 そして、パっと一度翼を広げたかと思うと、ティリノ先生の前に着地する。


「……あ?」

「王子、この決まり事ノ前、この男を捕獲したのハ私デス! その頃の決まりに従えバ、この男と最初に番う資格があるノハ、私ではないでしょうカ!」

「は?!」


 仲の悪いアーラが急に出てきたせいか、先生が一瞬怪訝そうな顔をしたんだけど、続く主張に思いっきり驚きの声が上がった。

 そして、僕もそれに関して、ちょっと考える。

 ……確かに、以前の僕らの取り決めで言えば、先生を捕まえてきたのはアーラなのだから、あの時一番に交尾する権利があるのはアーラだった。

 なのに、僕がストップをかけ、今日の、そしてこれからのルールを決める為に、繁殖期自体を断念させ、我慢させたのだ。

 放っておけば、本来ならアーラは無事に卵が産めた筈で、僕の意見を尊重してくれたというのならば、それに報いるのは当然と思える。


「……そうでーすね♪ そもそも、アーラがセンセをつれてきてくれた、おおてがらがあった事ですから♪ アーラのしゅちょーをみとめましょ♪」

「有難う御座いマス!」

「は?! ちょ、待て?!」

「ただーし、来年からは、他のミンナと同じじょーけんでーすよ♪」

「はい、勿論デス!!」


 自分の主張が通った事に、アーラはとても嬉しそうだった。

 それはいいんだけど、アーラって先生と犬猿の仲じゃなかったのかしら?

 前にも、他のハーピィ達からも人気があるのを知って、性格が悪いだのやめといたほうがいいだの言ってたけど。

 うーん、それもこれも、好きの裏返し、実は内心では、みたいな本当の意味でのツンデレだったのかな?


「おい、赤いのお前、なんのつもりで……!!」

「あら、心配しなくていいのヨ? 王子のお言いつけだもノ、ちゃーんと、やさしーク、可愛がってあげるワ?」

「?!」

「うふふ。……どちらが上なのカ、ハッキリさせてあげるカラ」


 あっ、これ違うな。そういうアレじゃないや。

 これ、単に僕の知らないうちに、二人の間で何かがこじれただけだ。

 確実に愛の芽生えを感じない空気感に、これ以上察しようと思うのをやめた。

 そもそも、特定のつがいをもたないハーピィが、男女の愛情を持つかと言ったら別にそんな事はないのだろうし。


「じゃ、みんなー♪ 気に入ったおとこのヒト、えらんでどーぞー♪」

「おいっ、シス?!」

「センセはかんねんしてくーださい♪ アーラ、先に行っていいでーすよ♪」

「有難う御座いマス! それでハ、お先に失礼致しまス!」

「ちょっ、待……! ……ホントなんでだああああああぁぁぁぁぁ?!!」


 知らないけど、先生がアーラに何か余計な事言ったんじゃ?

 滅茶苦茶不本意そうな叫びと共に、一足先に先生がアーラに連れ去られていったけど、もともとそういう企画なんだし、うんまあ、頑張れとしか。

 大丈夫大丈夫、怖い事起こんないよ。身の安全は確実。

 夜の闇に消えていく二人を見送ってから、視線を戻したら、残るハーピィ達が丁度気に入った男性にすり寄っている所だった。


「ワタシ、ヤッパリタクマシイ人ガイイワ!」

「ワタシモ!!」

「お、おう……。まあ、悪い気はしねェな」


 案の定、残った男性陣の中では、マッチョさんが一番人気。

 5羽もの美女に囲まれて、なんだかんだ確かに言う通り、悪い気はしてない表情をしている。

 敵意も害意も食欲もそこにはなく、単純に表現すればとびきり美人の集団に、異性として求められている訳だ。男冥利に尽きるでしょう。

 魔物だとか肉食だとか言う事実は、今は忘れるといいです。その方が、お互いに幸せです。


「私ハ、コノ子ガイイワ。ウフフ、可愛イ…」

「えっ、えっ……」


 残る3人のうち、冒険者さん2人には2羽ずつくっついているんだけど、一番若い大工のお兄さんに近づいたのは、シャンテだった。

 優しく微笑み、ふわっと翼で頬を撫でられて、ちょっとたじたじになっている。勿論、悪い気はしてない模様。

 競争率の問題か、はたまた実際彼女がああいう趣味なのか。

 解らないけど、お兄さんの方もシャンテの顔と胸を交互に見て赤くなってるのでまんざらでもないんでしょう。うん、ニーズが噛み合うって素晴らしいね。


「シャンテは決まりでいいでーすね♪ じゃ、みなさまお好みの子をおえらびくーださーいなー♪」


 先生の件を除けば予定通りに事は運び、自分を選んだハーピィ達の中から、ちょっとでも好みな子を選んで貰う。

 なんかこれ、そのうち男性の方から逆指名出来ないのかとか、キャバクラみたいなノリになりそうだね!

 別に構わないけど、その時は繁殖期になる前に、選ばれるように努力とか根回しとかして下さい。って今度言っておこう。

 選ばれたハーピィ達はるんるんな様子で相手を連れて行き、残ったハーピィ達はぷーっと頬を膨らませ、そして僕にすり寄ってきた。


「王子ーーっ」

「はいはい♪ ざんねんでーしたね、いっぱいお歌を歌ってあげますからねー♪」


 卵が産めないのは残念だけど、皆としてはどうも、僕の歌をたっぷり聞けるというのは魅力的らしく、そこまで不満そうではないのでした。

 そして、一部始終を見守っていた皆様、先生が居なくなったのでどうやら代表らしいラティオさんに視線を向ける。


「ご協力ありがとうございました♪ それでは、また明日のあさ♪ おかりしたみなさまは、ちゃんとお返しいたします♪」

「はい。お待ちしております」

「また明日ねー、シスちゃーん!」

「はあい♪ おやすみなさーい、良い夢を♪」


 成程、ラティオさんが参加しなかったのは、纏め役が居なくなるからかな?

 見守っていた皆様と、笑顔で手を振るシオンさんにぱたぱたと翼を振ってから、僕は大人達を伴って長老木へと帰っていく。

 良い卵が、そして良い雛が生まれるといいね。

 今回首尾よく済めば、次回以降はもうちょっと参加してくれる人が増えてくれると、とってもいいんだけどなー。

 皆、ちゃーんとお役目果たしてねー。






 くどいようですが、受け攻めで言うならハーピィ総攻め←


 無事に繁殖期までこぎつけたようです。

 連れ去られていったティリノ先生と、フレーヌグリシナに誘拐されていったルストの安否や如何に。

 いや別にどうもこうもなく、二人とも五体満足ですが。笑。




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