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おすはぴ!  作者: 美琴
31/64

正直者と

☆諸事情により、2話連続更新です。




 季節は廻り、秋も深まる今日この頃。

 集落の建設はかなり進み、冬の支度も順調に進んでいる。

 せっせと薪を軒下に積み上げ、保存食として肉や魚の燻製や、フルーツの乾燥などをしている姿もよく見かける。

 こういう田舎暮らしっていうか、開拓生活も見てて楽しい。

 やってる方は大変だろうけどね!


「あら、おかーえり、なーさい♪」

「只今戻りましタ、王子!」


 集落を囲う柵の一角、門の所にちょんと座っていた僕は、人間さんの一団を案内していたアーラが上昇して来た姿を見つけて声をかける。

 嬉しそうに笑顔でアーラがただいまと挨拶してくれて、僕のお隣に止まった。


「みはりさーん、こーざんのちょーさのミナサマが、おかえりでーすよー♪」

「お、そうか。有難うな!」


 門の裏側で番をしている冒険者さんに、お待ちかねの一団が帰って来たのだと、上から声をかけた。

 柵はかろうじて向こう側が見えるし、無論見張り用の台もあるんだけど、そこから姿はまだよく見えない。

 ただ、アーラがここに居るのだから、つまり帰って来たってことだ。

 僕が報せると、門番担当さんは大きな木の扉の閂を外して、外側に向かって扉を大きく開け放った。

 早く僕に撫で撫でしてほしかったのか、一足先にアーラは戻ってきちゃったけど、彼らももう集落が森の隙間から見えるくらいには近づいてたから、大丈夫。


「お帰り! 怪我はないかい?」

「ああ、皆無事だよ」


 門番役の冒険者さんと、調査団の護衛をしていた冒険者さん。知り合いだったのかな? かなり親し気に、無事を喜ぶ言葉を交わす。

 毎日の状況はアーラが伝えてきてくれてたけれど、それに違わず上々の成果だったみたいだ。

 首尾よく、なかなかの鉱脈を発見、ある程度の採掘は出来たらしいし。何度か地底生物との交戦や、夜間の肉食獣の襲撃はあったそうだけれど、誰も大怪我をすることもなく、無事に帰還を果たした。

 うん、大成功と言って、良いんじゃないかな?


『王子』

『うん?』

『中央辺りの、毛髪の薄い男。それから、後ろから三番目の、金髪の男です』


 ぞろぞろと、開け放たれた門から集落に入っていく一団を、その門の上から見下ろしつつ。アーラが、ハーピィ語で僕に報告してくれた。

 ふむ。

 毎日森の様子を笛越しに聞いてはいるけれど、僕自身はお迎えや護衛に赴いたりはしない。基本的には集落周辺にいるか、長老木にいるか、……まあたまにフレーヌ達と遊んでるけど。

 いつでも連絡出来る場所にいないとね。ほら、僕は取締役だから?

 だから、調査団の皆様をきちんと見るのは、お見送りをして以来だ。

 アーラが教えてくれた二人を、改めて観察する。

 毛髪の薄いおじさん……うん、解りやすい特徴だよ、口に出してそう呼ぶのはいけないと思うけど。

 とても良い体格だけれど、冒険者さんのように武装はしていない。やっぱり、鉱夫さんなんだろうな。

 帰還に気づいたらしい皆に、腰に下げていた袋から、見ろ! なんて採掘してきたらしい、魔石の原石を披露している。

 ……うん、そうだね、この声だ。

 毎晩悪いお話をしている訳じゃないけれど、あれからも幾度か、集落に帰って人目が増える前にという意図だったのだろう。そそのかしていたお兄さんに、指示をしていたのを聞いている。

 パっと見、人相は……良いとは言わないけど。それを差し引いても、豪快で気の良さそうなおいちゃんって感じなのにね。

 声の印象で人は解らないけど、見た目でも分かんないや。

 さてもう一人、調査団の後方にいる、金髪のお兄さん。

 あら、結構イケメンさんじゃないか。金髪碧眼なんて、美青年の基本搭載みたいな色をお持ちで。年の頃はルストさんと同じくらいかな。てことは、20歳前半てところだろう。

 ……ただ、あのおじさんに比べて、あまりにも細い。どう見ても、鉱夫には見えない。ごく普通の、街で暮らしてるお兄ちゃんって感じだった。

 たぶん、実際そうなんだろうな。若くして、病気のお母さんの為に必死で働いてきて、このお給金の良い危険な仕事に、決死の覚悟で飛び込んだ感じ?

 やだー、想像でしかないけど、いい話ダナー。

 想像なんだけど、そんなに見当違いじゃない気がするの。だって、この調査の大成功に、皆疲れは見えても笑っている。なのに、彼だけやたらとくたびれた様子で、うつむき加減で笑顔がない。

 慣れない仕事、環境、しかも金の為とは言え、命の危険のある密輸にかかわる事になって、生きた心地がしないのかもしれない。

 気の毒に。どうして、世界は優しい人につらく当たるのでしょうか。

 きっかけ作ったの、僕も同然だけど。


「ハーピィの姉ちゃんも、有難うな! おかげで無事に帰れたぜ!」

「交わした契約と、王子に従っただけダ」


 あの薄毛のおじさんが、門の上の僕ら、というかアーラに笑顔で手を振って礼なんて言ってくれる。

 ツン、とアーラはつれない態度を返すけど、気にした風もなさそうだ。

 ……貴方、僕らの事『たかが鳥だ』なんて仰ってたよね?

 いやまあ、本人に直接言うと言わないとじゃ大違いだから、何も言わないけど。


『まちがい、ないよね?』

『はい。夜にあの二人が、石の持ち出し方について話し合っているのを、しっかりと見ました』

『うん。ありがとうアーラ、とってもおてがら。いい子だね』

『お褒めに預かり、恐悦至極に御座います……!』


 わざわざ、夜に出向いて確認までしてくれたんだね。

 とってもいい子、僕はとっても助かります。

 よしよし、と翼でアーラを撫でてあげる。それだけで、なんだか喜びの感情で泣き出しそうにすらなっちゃうんだけど、大丈夫なの、君は。

 いったい、いつからこういう感じになったのか……

 ま、いいや。喜んでくれるなら、何も悪い事はない。しかも、自分で考えて行動してくれるなんて、凄く助かる以外の何でもない。

 皆いい子だね。僕の大事なハーピィ達。

 ……そんなうちの子と、うちの子達が住む森を、軽んじて悪い事をするような人たちは、僕許しませんからね?







 秋が終わる前に、第一陣の開拓担当の人たちは、ある程度入れ替わる様子。

 大工の棟梁さんやその仲間たちはほとんど残るらしいけど、冒険者さんと、鉱夫さんは半分くらい入れ替わるみたい。

 結構ランクの高い冒険者さんが来てたから、名指しの依頼が来ちゃった人とか、街に帰って打ち上げしたい人もいるんだろうね。

 そこについては、何も言わない。元々、冒険者さんに関しては、ほぼ出入り自由なんだし。行き来がちょっと面倒なのと、移動するにしても運搬役の護衛ついでの方が、お金にもなっていいからずっと皆とどまってただけだよね。

 というわけで、初日以来の大規模人数の移動です。

 森の外のあの村で、入れ替わり要員とバトンタッチ、許可証の笛を受け渡し、加護の付与しなおしを経て、また集落へ戻る事になります。


「いやー、でもやっぱり、住めば都って言うのかな? 今度の依頼が終わったら、またここに来ようかなー」

「なあ、これはこれで、楽しかったよな。何より、シスちゃんの歌が聞けなくなるのは寂しいよなあ」

「あら、おまちしておりまーすよ♪ こんどは、ぜひ春に来て、ダンナさんになってくーださーいな♪」


 この移動には、僕も付き添っている。

 何故なら、笛の確認と加護の解除、再付与が必要だから。

 だからって、最初から最後まで付き添う必要はないんだけどね。まあ、それはそれとしてね。

 他にもアーラと、他2羽のハーピィも一緒。人数が多いからね、ちょっと多めにお守りしております。

 

「あー……そうだなあ。それも人生経験かなあ」

「経験無いまま死ぬとか、寂しすぎるもんな」

「うるせーよ既婚者!!」


 これが、妻帯者と独り身(おそらく未経験)の差なんだろうか。

 けけっと笑ったのはずっと集落に居た冒険者さんではなく、今回の運搬の為に予めやってきていた運び屋さん。まあ結局冒険者さんなんだけど。

 うーん、護衛役として、国の兵士さんが来るかなって思ったけど、こなさそうだね?

 それだけ、北でやってる小競り合いが心配なのかも。一応、本国を護ったり、場合によっては軍による支援を行う為に、温存してるのかもね。


「あ、次来る頃には、ハーピィのヒナが生まれてるのかな?」

「どうでしょ? でも、春のまんなかには生まれてるはずでーすよー♪」

「それ、見れたりするのか?」

「んー、さすがにあんまりちっちゃいヒナを巣の外にはつれてけないでーす♪ さいてーでも、とべるよーになってからでーすね♪」

「え、何お前、ロリコンなの?」

「そうじゃねえけど。だって、絶対可愛いじゃん。見たい」

「解る」


 この会話内に、シオンさんは居ません。

 たぶん、ロリコンとかじゃなくて、可愛い子供が見たいだけでしょう。たぶん。

 あんまりヨコシマな感じしないし。子猫とか見たい感覚に近い?

 ふふ、可愛いですよ? それは自信をもって断言できます。

 小さなハーピィを、悪い人にたぶらかされるのは困りますので、必要以上に集落に近づけたくないんだけど、人間さんに慣れさせるのは必要かなー。

 もし希望があったら、ヒナ達のぴよぴよ社会見学も考えておこう。人間語も教えなきゃいけないしってそれは大人達で教えられるか。


「お、そろそろ外だな?」

「久しぶりに地平線が見れるな」


 森の木々の終わりが見えてきた。

 長い事森の中生活をしてきたから、そろそろ彼らも広がる平原なんかが恋しい事だろう。それ以上に、普通に街が恋しいか。

 まだまだ、集落には娯楽がないからね。羽を伸ばしたくなるのは、解る。

 ただ、そこで喜びに走り出すような、最後の最後で気を緩めるなんて失態を犯す冒険者は居ない。

 一番危険なのは、安全だと思われた場所を見つけ、気が緩んだ瞬間。

 彼らは、それを良く知っているから、足を速めず着実に歩を進める。


「はい、いったんストップして下さい♪」

「え?」


 そして、僕はそこで一行の歩みを止めさせた。

 にこ、っと笑って羽ばたき、皆様の先頭に降り立つ。その一歩後ろの辺りにアーラ、そして一行の後方には二羽のハーピィ。


「めんどくさいとお思いでしょうが、さいしゅうかくにん、でーすよ♪」

「最終確認? なんだ?」

「みなさま、もちろん森に入るためのボクらとのおやくそく、おぼえていらっしゃいますよー、ねー?♪」


 にこー。可愛く笑って、僕は皆に尋ねる。

 殆どの人は、何を言ってるんだ、そりゃそうだろとつぶやきながら、困惑の表情をしていた。

 ……あの薄毛さんも、その一人。

 ただ。

 一人だけ、体を明らかに硬くした人がいた。


「キミらは森のめぐみがほしくって♪ ボクらはオスのきょーりょくがほしい♪ そのため、ボクらはキミらのあんないをして♪ キミらは森をこわしすぎない位のしげんをもちだす♪」

「ああ、解ってるよ。ちゃんと集落を出る前に、持ち出す木材や鉱石、薬草の量なんかをしっかりチェックしてただろ?」

「もちろんです♪」


 木材や鉱石なんかは重いから、バイヤーさんだかなんだかが用意した、ちょっと強めに重量軽減がかかった魔法の袋に入れている。

 他にも今回持ち出す資材は、僕がこの目でしっかり確認したうえで、貯蔵庫から出されて、魔法の袋、ないし箱の中へと収められるのを見守った。

 きちんと、誠実に、報告されて、僕も認めた。


「……でも、キミたちはこじんでまほーのフクロをもてますね♪ 中にいれれば見えない、においもかんじない♪ こっそりもっても、わからない♪」

「……誰かが、内緒で持ち出しをしてるんじゃないかって、疑ってるのか?」

「はい♪」


 何も腹黒いところがないのに疑われれば、不快に思うのは当たり前だ。

 どれかの冒険者グループのリーダーさんが、表情を少ししかめて僕に尋ねた。そして僕は、笑顔でそれに頷く。

 あんまりあっさり疑惑を持っていることを肯定されて、面食らったようだった。


「キミらは平気でうそをつく♪ もちろんせーじつな方も多いですが、それでもお金に目がないヒトが、ホントにいっぱい、いるでしょう♪」

「そう、言われちまうと、きっぱり否定も出来ないが」

「ですから、しょうめいして下さい♪ キミらがボクらとのやくそくを、きちんと守っているのだと♪」

「……まあ、まだ完全な信頼関係とは、行かないのは仕方ないよな。なんせ、交流が始まって一年未満だ」

「わかっていただけまーすか♪」

「ああ。どうすればいい?」

「そうですねー♪ しんたいけんさでも、しましょうか♪ こっそりかくしておもちでないか♪ たとえば、ポケットの中♪ クツの中、ぼーしの中♪ おなかにくるりとまきつけた、ぬのの中♪」


 僕の言葉に、明らかに金髪のお兄さんの体が震えた。

 残念、知らないと思っていたでしょう?

 けれど、アーラが聞いていたという持ち出し方法を、僕も同じく聞いていた。君達が首からかけている、その笛越しに。

 鉱石を満載した魔法の袋は、かなりの重量になる。ポケットに入れればその重みですぐにバレる。頭の上は首に相当な負担となり、動きがぎこちなくなるだろう。

 その点、腹部は人間の体の中で、一番バランスを取りやすい位置。

 そこに動かないようにしっかり固定すれば、それなりの重量だったとしても、怪しまれずに歩くことができる。

 ぴったりと体にフィットするような服装をしている人は、冒険者にもそれ以外の人にも、誰も居ない。見た目でも解らないから、隠し場所としてはなかなか考えていると思う。


「お兄さん、あなたがしらべてくださいな♪」

「解った」


 お願いしたのは、この中では僕と一番仲良くしてくれていた、冒険者グループのリーダーのお兄さん。

 とりあえず彼自身、自分の服や装備のポケット、靴などの中に、魔法の袋などが仕込まれてない事、元々自分で持っていたものの中味まで丁寧に見せて、潔白を証明してくれた。

 それから次に、彼の仲間たち。ほかの冒険者さん達。一人一人、怪しい物を所持していない、持っている袋の中身も許可をされたものか、あるいは私物である事を、僕に示していく。

 身体検査が進むに連れて、あの金髪さんの顔色が、目に見えて悪くなってきた。

 ……注視している僕だけでなく、周囲の人間も気づくほどに。


「おい、お前どうした? なんか様子おかしいぞ?」


 誰かが声をかければ、皆が彼に注目する。

 明らかに、おかしい。冬が近づいてきた気温による影響以上に体を震わせ、かと思えば不自然な汗すら流している。

 ……ほんと、嘘がつけない誠実な人なんだな。

 追い詰めているのは僕だけれど、ちょっと気の毒になってしまう。

 まあ、それはそれ。

 周囲から疑惑の目を向けられるお兄さんに、僕はとて、とてと足音を立てて近寄って、見上げてにっこり笑いかける。


「おにいさんの、ばんですよ♪」


 そう声をかけると、とうとう彼の中の何かが、限界突破したようだった。

 何を言いたいのか、言えないのか。僕を怯えた瞳で見つめたまま、口をぱくぱくと開閉する。

 しばしして、バっと着ていた上着を自らたくし上げる。

 そこには、さっき僕が言った通りに。腹部にまかれた布……さらし、でいいのかな? が、存在していた。


「お前! お前、まさか……!」

「ごめんなさい! ごめんなさい! 出来心だったんです!!」


 驚愕の目と、声を向けられる中、お兄さんは必死に謝罪を口にしながら、震えてうまく動かない手で、もたつきながら布をほどく。

 そこからぽろりと地面に落ちた袋を、崩れ落ちるようにひざまずいて、拾い上げて。口を開き、中から直接放り出すように中身を出した。

 ころころと、青い魔石が三つ。地面に転がった。

 勿論、これは僕が持ち出しを認め、許可した中には含まれないもの。


「ど、どうしても母さんの薬を買うお金が欲しくて! もっと、いいものを食べさせてやりたくて!! ごめんなさい、どうか、どうか許してください!!」


 土下座どころか、頭を地面にこすりつける勢いで、彼は許しを乞う。

 ……それにしても、3つ。思ったよりも少なかった。

 本当に、単純に金が欲しいといった欲ではなく、家族を助ける為の手立てが欲しかっただけなのだろう。

 当人自身は、とても誠実で、家族思いの良い人だ。

 それを察したのか、震えながら謝罪する彼に対して、罵声を浴びせる人達は、誰も居なかった。


「俺が居なくなったら、母さんも、妹も、暮らせなくなってしまうんです! どうか、命だけは……!!」

「もう。そんなに大事なイノチなら、すてるようなまね、しないでくーださい♪」


 平伏するお兄さんの頭を、ぽんぽんっと翼で優しくたたく。

 予想外の言葉だったのか、パっと顔を上げた。

 あらあら、涙まで流して。土とまざって、どろどろになっちゃってる。せっかくのイケメンさんが、台無しだよ。


「見てわかりませんか、ここは森の中♪ ボクがきんじたのは、きめた以上のものを森からもちだすこと♪ あなたはまだ、『もちだして』いませーんよ♪」

「そ、それじゃあ……」

「すなおに、ちゃーんと言いましたから♪ 今回は、ゆるしてあーげます♪ もちろん、これをもってくことは、ゆるしませんが♪」


 転がり落ちた魔石については、アーラに拾ってポケットに入れておいてもらう。これは人間さんが採掘したものだから、集落の貯蔵庫に戻しておく、ときちんと断っておいた。


「これ、ひろげてもっててくださいな♪」

「え、あ、…はい」


 顔を上げ、体も起こしたお兄さんに、さきほどの魔法の袋の口を開けて、そのまま持っていてくれるようにお願いする。

 それから、翼を胸の前で合わせて、すうっと息を吸う。


『風さん風さん、ぼくのおねがい聞いて下さいな。森にみのっためぐみのかじつ、このふくろに入るだけ。風にのせてここまでとどけて下さいな』


 森の果実の中には、風に吹かれて地面に落ちて、そこから小動物や虫に種を運んでもらうものもある。

 だから、強い突風なんて吹かせなくても、風に運んで貰う事は充分出来る。

 ざざあ、っと森に風が吹いたことを、ハーピィ語での僕の言葉が分らない人間さん達には、不自然に感じたらしい。

 咄嗟に身構えた冒険者さんもいるけれど、怖い事は起こしませんよ。…まだ。

 ほどなくして、風に守られ運ばれた、いくらかの果実が、ぽすぽすと音を立ててお兄さんが口を開けて持っていた袋に飛び込んでいった。

 まるでおとぎ話の魔法のような光景に、お兄さんも周囲の人も、唖然とした表情をしている。ふふ、いい気分。


「おかーさん思いのアナタへ♪ どうぞそちらをおみやげに、おかーさんにあげるなり、売ってお金にかえるなり♪ お好きにどうぞ、アナタのものです♪」

「い、いいんですか……?」

「キミらがとってもち出すことにせいげんはしていますが、それはボクがあつめて、アナタにあげたもの♪ どうぞおだいじに、びょうきやケガに大切なのは、きゅうよう、えいよう、あとせいけつ♪ おわすれなきように♪」

「あ……ありがとうございます……!!」


 あーあー、また涙で顔をべしょべしょにしてー。

 感激屋さんなのかな? 嫌いじゃないけどね。

 鉱石に比べれば、大したお金にはならないだろうけれど、決して無価値ではないだろう。なんせ、迷いの森の栄養たっぷりの秋の果実だもの。

 悪い事をしようとしたことはいけないけれど、お母さん思いの貴方は、悪い人ではないようだから。ま、甘いけれどいいでしょ。

 危険な事態を未然に防げたのだ、と確信した皆さんは、ホっと安堵したような表情で息を吐き、体の緊張を解いた。


「やれやれ、初回からいきなりやらかすのかと、ヒヤヒヤしたぞ!」

「良かったなあ、シスちゃんが優しい子で。命拾いしたな!」

「気持ちは解るが、病気の家族がいる身で命を捨てる真似をするモンじゃねえぞ」

「ホントだぜ、一回の間違いが、俺達や集落のヤツらの命にもかかわるんだから」

「すみません、すみません……!」


 心配、安堵、苦言もかけられ、彼は果実満載の袋を両手に持ったまま、ついでに涙もだばだばなまま、何度も謝る。

 良い子だなー。

 ……良い子なんだけどなー?

 結局、吐かないか。

 ふうっと僕は小さく息を吐く。無事に最終確認が終わった、危ないところだったが解決した、これにて一件落着。

 完全にそういった空気になり、一旦は降ろしていた荷物をおのおの担ぎ、すぐそこに見えていた森の終わりへと和やかな雰囲気で向かっていった。







 わふわふ書いてたらやたら長くなったので、一旦切ります。


 童話によくありますね。

 正直者には、ご褒美を。

 そして、嘘つきには……




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