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おすはぴ!  作者: 美琴
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成長



 どうも、相変わらず名無しのオスハーピィです。

 暫くその事実にふてくされてたけど、名前つけては叶えてくれないのに皆が全力でご機嫌を取ろうとしてくるので、やめにしました。

 お花や果物は嬉しいけど、生肉積むのやめて、ほんとやめて。

 美味しいけどもっ。だいぶ慣れてきたけど! でも流石に、間近に大量に血の滴る肉片を積まれると、スプラッタ系ホラー映画のワンカットにしか見えませんっ。

 ……という思考が、生後半年の今も続いています。何故かしら…


「王子、さあ! 頑張って下さい!」

「おにぃちゃーん! がんばれー!」

「ぴぃ!」


 今日の僕は、とうとう巣立ち? の時を迎えてる。

 名づけのときよりも羽は大きく立派になった。真っ白だった羽は、先の方がうっすらと黄色がかった感じ。

 僕の冠羽も、同じ色らしい。僕から遅れて3か月後くらいに喋り出したグリシナに教えて貰った。

 さておいて、既にフレーヌとグリシナは、巣から飛び立ちよたよたながらもしっかり自分の翼で飛んでいる。

 残るは僕だけ。

 姉妹やシャンテ達や、沢山のハーピィが応援してくれてるんだけど。

 …未だに元・人間感覚が抜けきらない僕にとって、何の綱も補助も無く、身体一つで空中ダイブをするというのは、すこぶるハードルが高い。

 おつむに関する事の成長はとんでもなく早いのだけれど、身体の成長は一般的なハーピィと同じであると思う。僕が特別すぐれている訳でもない。

 同時に生まれたフレーヌ達が飛べてるんだから、大丈夫なんだろうけど……

 と、飛ぶってどうやってやるの? 普通にパタパタって動かしたら、飛べるの?

 腐ってもハーピィなのだから、やってみれば本能が飛ばせてくれるのだろうか。


「ぴぃ……」


 でも、巣の縁に立って、下を見ちゃうと……

 大きな大きなこの木は、見下ろしても重なる葉っぱに隠れて地面は見えない。

 けれど、僕が居るこの場所でさえ、たぶん一般的な木であろう他の木のてっぺんよりも、ずっと高い位置にある。

 もしも飛べなかったら、こんな高い所から叩きつけられたら、確実に死ねる。

 たぶん、その前に他のハーピィが助けてくれるとは思うけども!

 でも、ハーピィのクセに飛べないとなったら、いよいよ問題な気が……


「ぴぃぃぃ……、…ぴ、…いきまーす!!」


 ええい、男は度胸!!

 気合を入れる為に大声で宣言し、バっと両腕……翼を広げ、大きくジャンプ。

 すぐさま襲ってくる浮遊感、そして落下感。

 ああああ、お腹の辺りがふわってくるこの感じ! ジェットコースターのった時に急降下する時に感じる、あれーーー!!!

 必死に何も考えず、翼をばさばさ動かす。怖くって、目は閉じたままだ。

 傍から見たら、相当無様だと思う。でも許して、人生……いや、ハーピィ生初めてのフライトなんだから!!

 無我夢中で翼を動かしていたら、いつの間にか落下感は無くなっていた。

 え、と、飛べてる? 大丈夫? 僕、落ちてない??


「王子ーー!! 王子、落ち着いてくださーーい!!」

「危ない! 危ないですから、止まってーーー!!」


 はい?

 何故か、かなり下の方からシャンテとアーラの声がした。

 『止まれ』の意味も解らず、ぎゅっと閉じていた瞳を開く。

 視界は、殆どが空の青だった。

 いつもなら、8割が葉っぱの緑である筈なのに……

 ふっと下を見ると、必死で追ってきているアーラ達の姿。

 眼下に広がる、緑の絨毯。僕らの住処であろうあの巨木まで、かなり小さく見えている。

 つまり。


「た、たかっ……」


 必死過ぎて、すっごい高度まで上がってしまったようだった。

 思わず目が眩む。視界も眩む。ばさばさ動かしていた翼も止めてしまい、上昇をやめた僕の体はそのまま真下に落下する。


「「王子ーーーーーー!!!」」


 大慌てなのはアーラ達だ。

 ちょっと大きくなった僕の体は、ハーピィ達でも簡単にはつかめない。下手に掴めば、その爪で怪我をしてしまうかもしれない。なんせ、動物を狩る鳥の爪。

 くわんくわんと回る僕の頭はまだ正気に戻ることが出来ず、これにて短い一生もジ・エンド……

 …とは、ならなかった。


「…やれやれ。身体を動かす方は苦手かね、王子は」


 住処の木の枝に突っ込む直前。ふわんと身体がやわらかな綿に包まれるように、なんの反動も無く止まった。

 そのままゆっくりと降りていき、最終的にはババ様の腕の中に納まる。

 吃驚して硬直している僕を、仕方ないねと苦笑を浮かべて見下ろすババ様。

 一拍置いて、湧いてきたのは好奇心。落下の恐怖はすっぽ抜けた。


「ぴ…、……ババさま、なあに?! いまの、なあに?!」

「今のかい? 風に力を借りたんだよ。私らハーピィには、呪歌の他に、風の声を聴く才能を持ったのがたまーに居るのさ」


 風の力!! つまり、今のって魔法?! 魔法なの?!

 ハーピィってこう、歌で他の生物を操ったりするイメージで、それも実際あるみたいなんだけど、それ以外に魔法も使える場合があるんだ?!


「と言っても、ほんとにたまーに、だけどねえ。だんだん生まれなくなって、もうこの群れじゃあ私しか使えないよ」

「ぼくも! ぼくもつかいたい! おしえて!」

「おやおや…。それなら先ずは、きちんと飛べるようにおなり。空も飛べないハーピィじゃ、風も力を貸してはくれないよ」

「ぴ! …がんばる」


 なるほど、ごもっとも。

 ババ様の口ぶりじゃあ、風を操るというよりは、仲良くなって力を貸してもらう感じだし。ろくすっぽ飛べないハーピィじゃ、風に馬鹿にされても仕方ない。

 僕にその才能があるかは解んないけど、何事もやってみなきゃわかんないよね。

 とりあえず、一回は飛べたし! 練習あるのみ!!







 ここの所、毎日がお勉強、毎日が訓練。

 内容は、主に飛行と歌。

 その二つがきちんと出来て、初めて半人前のハーピィ。それらを使ってしっかり狩りが出来たら、一人前。

 ……出来れば、狩りは行きたくないですが。我侭言えないよね。


「はい、それじゃあついて歌いましょうね」

「ぴー!」

「はあい!」

「ぴ!」


 今日のお歌の先生は、シャンテさん。

 毎日先生が違うんだけど、シャンテさんはとっても歌が上手い。

 歌……と言っても、明確な歌詞がある訳ではない。ハーピィの歌は、ハーピィとして聞いていても、ただの鳥のさえずりにしか聞こえない。

 それを歌として成立させているのが、美しいメロディライン。これが、一番大事なのだそう。

 一応、どんな風に歌っても、呪歌として成立させる事は不可能ではないのだろうけれど……

 実際問題として、耳に入る音で美しいメロディと不快な不協和音、どちらを聞きたいと思うだろうか?

 綺麗な音は、その人の心の壁を薄くする。結果、呪歌としての効力が高まる。

 だから、歌の上手い下手は、ハーピィにとって死活問題。

 本来は意志を持つ生物に対してのみ効果を発揮する呪歌だけど、古の達人ともなれば心を持たない木々や大地さえ操ったそうな。すごーい。

 ちなみに、一匹ではなく数匹で声をそろえて歌えば、効果は更に増すそうです。


「はい、とってもお上手!」

「ぴゃ!」

「シャンテ、まだおうただけ? じゅかはー?」

「それはまだね。雛の内は、まだ魔力を上手に作れないから」

「ぴー!」

「ぴゃー!」

「はいはい、我侭言ってもだめですよー」


 むう。凄くやってみたいのに、まだダメらしい。

 確かに魔力がどうのって言われても、ちっともピンと来ないけど。たぶん、ババ様がやってた魔法? も、魔力を使うんだろうなあ。

 そのうち教えて貰えるのかな。それとも、大きくなったら自然と使えるようになるんだろうか。考えるな、感じろ!! …みたいな?

 飛ぶのが正にそれだったから、ちょっと不安。そういうの、苦手。


 で、飛ぶ練習の方は、王子でありながら僕が一番下手っぴだ。

 それでも、踏み切る際に目を閉じなくなったし、ふらふらながらも飛べる様にはなってきた。

 ただ……


「ぴゃう!!」

「あら、また」


 自分が行きたい方向に飛べない。

 ふらふらふらと、昼間のコウモリのように蛇行して、どこかの枝にぶつかって、その下の枝か巣に顔面着陸するハメになる。

 ううう、痛い。でも泣かない。男の子だもん。

 でも、落下後によしよしと抱きしめられて撫でられると、涙が出てきてしまう。だって、まだ雛なんだもん。

 痛いって言うか、悔しい。

 フレーヌ達は、もうだいぶ飛べるようになってるのに! 僕だって、自由自在に空を飛びたい! この木の外に、冒険しに行ってみたい!

 生まれてこの方、まだハーピィしか見た事ないよ! あとの生物らしき痕跡は、ごはんのお肉だけだよ!!

 こんなファンタジィな種族が居るんだから、他にも色々いるよね? この世界、ハーピィだけの世界じゃないよね?

 そうだったら、メスのみのハーピィが立ち行かない訳だし!! 少なくとも、お父さんになれる人型の生命体が居る筈だよね!!

 見てみたい。気になる。なんか聞いちゃいけない気がして、僕のお父さんって何の種族なのとは聞いてないけど。そもそも未だに、お母さん解らないんだけど。


 そんな訳である程度育ってきたけど、僕ら三羽はまだまだ雛扱い。

 うーん、僕が知っている小鳥とかよりは、成長が遅いんだね。それはそうか、大きな生き物は大抵成長がゆっくりで、小さいと早い。

 ハーピィが普通の鳥の枠組みではないだろうし。

 どれくらいで大人とみなされるんだろう。どうも、僕ら三羽以外で、明らかに小さな雛と言える感じのハーピィは居ない。

 てことは、1年で大人のハーピィになるのだろうか?

 という疑問を、お歌の練習の後で、アーラにしてみた。


「アーラ、アーラ! ぼくらのほかに、ヒナはいないの?」


 最初、喋れるようになった時はアーラさん、とかシャンテさん、とか言ってたんだけど。

 最年長であるババ様は別として、群れ全体が家族であり、それ以上に王子扱いの僕に敬称をつけられるのは違和感があるのか、呼び捨てで、と言われた。

 ううん、年上に呼び捨てとか、あんまり良くない気がするんだけどなあ。

 でも、それでいちいち話が中断するのも面倒なので、言われた通りにババ様以外は呼び捨てする事にしている。


「ああ…。昨年孵化した雛は、二羽居たのですが両方落ちてしまいまいた。片方は肉を食べずに弱って、もう一羽は冬を越せずに……」


 おっと、それが木の実ばっかり食べてて死んじゃった子か。

 それに関しては一種の不幸な事故? だろうけど、孵化する数が少ない上に、妙に生存率が低く無いかな。僕ら3羽は元気なのに。

 うーん、ハーピィって意外と、繁殖力が低い??

 ……メスしかいない、なんて種族なんだから、繁殖力旺盛な筈がないか。


「少しずつ、減っているらしいのですよ、私達は。最初ここに縄張りを構えた時には、50羽を超す大きな群れだったそうですから」

「ぴ?!」


 それが何年前かは解らないけど、50羽が20羽に?! それは減り過ぎじゃないかな?!

 うーん、ハーピィを食べる天敵がいる、って雰囲気ではない。毎日を、すこぶる平和に暮らしているのは確かだ。

 なのに、数が減ってきている……。つまり、生まれる数が少ないって事か。


「ですから、王子が生まれた時は皆が喜びましたし……、最初食事をしてくれなかった時は、皆が心配したのですよ」


 アーラに抱っこされ、愛おしそうにほおずりされる。

 ううん、心配かけたのは申し訳なかった…。最近は、大分生肉にも慣れたよ。まだ死にたてほやほやの獲物の肉に、そのまま噛り付く気にはなれないけど……

 しかし、やたら大仰に僕が喜ばれ、大事にされてるのは、群れの皆がこのままじゃあ本当に全滅もありうる、って危機感を持ってたからかな。

 この群れをなんとか、昔のように繁栄させて欲しいという希望を託されている訳みたいだ。

 ……ん? それって、要するに早く僕が大人になって、いっぱい子供作れって事なんですか…?

 いやいやいや。僕一人に対して、メス多すぎだよ。物理的に無理がある。

 そりゃあ、ライオンとかはオス一匹に対してメスハーレムかもだけども!

 肉食動物は、割とハーレム作るイメージあるんだけど!!


 …冷静に考えたらそういう事かと納得しかけたけど、ただ、単純に考えて問題がある気がする。

 何かと言えば、近親婚を重ねた末の遺伝子の異常とかだ。

 この群れは一つの家族という意識で居るようだけど、この群れの中だけで血族が続いている訳ではない。常に、他の種族のオスを使って、違う血を入れ続けて居る状態なのだと思う。

 結局、近場に『お父さん』いないし。言い方は悪いけど、繁殖用にそういう誰かを浚って飼ってる感じでもない。

 てことは、毎回違う誰かを使っている訳で、それなら特に問題ないだろう。100%ハーピィが生まれるのは、かなりの優性遺伝というか、なんかそういう仕組みになってるんだろうなあ、と納得する事にする。

 そこで、もし僕というオス一匹で、血縁の輪が閉じてしまったら?

 ……数世代重ねたら、今よりもよほど問題のあるハーピィしか生まれない、とかそういう事になりかねない。

 そもそも僕だって、永遠に生きてる訳じゃないんだから。一時的に数が増えたとして、また同じ先細りに戻るだけだ。

 単にオスが増えた、子供作りやすくなった、めでたしめでたし。…で終わる話じゃないよね、これ。

 根本的な問題解決にならないよ。


「アーラ、アーラ!」

「はい?」

「たまごって、いつうまれるの?」

「そうですね、繁殖期は冬が終わってすぐですよ。春の始めに卵が産まれて、中ごろに孵ります」


 ふむ、卵が産まれるのは年に一回か。

 今は秋の中ごろだから、ほぼ半年後。

 …その辺どういう状況になってるのか、知ってから考えた方が良さそうかな?


「ヒナ、いっぱいうまれるといーね!」

「……ええ、本当に」


 アーラの表情は、少し暗い。

 もしかしたら、僕ら三羽が生まれたのは、かなり久々のコトなのかもしれない。だって、本当に小さなハーピィって全然いないのだ。

 半年でまだアーラの半分の大きさしかないのだから、1年で大人になるって訳でも無いのだと思う。卵を産める大人になるには、確実に数年はかかる。

 まあ、ババ様も見た目はそうとう若く見えるから、見た目で適齢期は解らないけども。多分この上半身、他種族のオスを誘う為の擬態だよね……

 年をとっても、根本的な骨格や形状が変わらないのと同じじゃないかな。そういうカタチに出来てるんだ。きっと、たぶん。

 まあ綺麗な女性のカタチで、性別もちゃんと僕以外は女性なのだし、表情なんかもきちんと出せるんだから、完全なる偽物ではないか…


「アーラ、げんきだして! おうた、うたってあげるから!」


 ぴぃぴぃ、ぴゅるり。明るい声で、僕は歌う。

 僕はオスだけど、声質は姉妹達とあんまり変わらない。声変わりとか、あるのかなあ??

 飛ぶ練習はまだまだだけど、歌の練習は楽しいし、自画自賛なのは解ってるんだけど、僕は歌が上手いと思う。

 ここにどうやって効果を乗せて、呪歌として成立させるのかは、まだよく解んないんだけどね……これから教えて貰えるのかな。

 ハーピィの歌は、別に誘惑の歌だけじゃないし……

 そもそも、本来歌には気持ちを浮き立たせる力があると思う。

 思いつくまま、歌詞も何も無くさえずるだけでも、アーラは嬉しそうに笑ってくれるのだから。


「王子は、お優しい方ですね」

「ぴぃ♪ げんき、でた?」

「ええ、とっても。ありがとうございます」


 すりすり。また、ほおずりしてくれる。

 あれやこれやと不安になるんじゃなくて、のんびり楽しく歌って暮らせたらいいんだけどなあ。そうできるようにするのが、僕の役目かな?

 何が出来るか解んないけど、色々考えてみよう。

 好きなように在って良いって、ババ様だって言ってくれてたしね。






 基本的には、平和なハーピィ生活。

 特に彼女らを脅かす天敵はいないようですが……?


 そういえば、ノリで登録時に異類婚姻譚にチェック入れちゃったけど、…うん、間違ってはいないよね! だってハーピィだもの!!(←

 オスハピ子が、メスハピ達とあれやこれやなんて展開になる予定は御座いません。ご安心? 下さい。




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