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おすはぴ!  作者: 美琴
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移住



 さて、最終確認も済んだところで、森への出発準備です。

 設営してあった天幕を畳んだり、お借りしていた椅子や机を村にお返ししたり、えーとご飯食べてる人はいないから、朝食はもう済ませてるんだね?

 ちょっとゆっくりめになったけど、一日目の目的地である、候補地その1こと今後の中継地点になる広場までいけるかなー?

 歩行スピードの基準は試しに歩いてくれたシオンさんの歩行速度だから、実際もうちょっと早い、いや遅いのかなあ。わかんない。

 飛んだら僕らのが早いけど、歩いたら人間の方が早いからなー。

 獲物を捕まえるために僕らの足はがっしりしてるけど、あんまり地上移動には向かないのです。簡単に言えば、爪が大きく鋭いからちょっと歩くのに邪魔。


「それにしてもシス、どうしてそんな恰好なんだ…?」

「ぴぃ?」


 セロさん、ルストさん、シオンさんと合流したティリノ先生にそんな疑問を投げかけられて、僕は首を傾げる。

 そんな恰好って、前にシオンさんにコーディネートしてもらったまんまだけど?


「ヘンでーすかー?♪」

「否……幼き日の芸術の女神(ミューズ)と見まごうばかりの完成度だが、それ故にその身に宿せし属性を誤認させてしまうという確信が持てる」


 褒められてると思っていいのかな。

 ていうかルストさんのカオスティック・スペル久しぶりだあ。


「一応、僕らを見ていたのですから、男性の服装も分かっていますよね?」

「シス用に、男物の子供服も入れてあったよな?」

「? ありませんでーしたよー?♪」


 一回考えてみたけど、うん、なかった。

 アーラが着てるようなハード系は男性でもいけそうだけど、色がきれいな赤だったりで多分女性ものっぽいし。それ以外も、女の子ものにしか見えないものばかりだった。

 そもそもスカートがある事、それ自体が不思議なくらい。

 僕が答えると、3人の視線が一気にシオンに集まり、シオンさんは明後日の方に目線をやって口笛吹き出した。

 そんなあからさまな。


「シオン……」

「いやー、不思議だね! 荷物の配送手違いかにゃー?」

「男もいけるようになったんじゃ無かったのか」

「その発言には語弊がある! あたしは可愛いロリとショタが好きなのであって、男が好きなわけじゃないし、その二つの共通点は可愛い事だし!!」


 シオンさん、その発言はセロさんの誤解を招くと思うの。

 ……とは、言わないけど。


「そもそもティリノが送ってきた男の子服が可愛くなかったんだもん!!」

「認めたな!!」

「色合い地味だし! いやシックでセンスが良いのは認める! でも違う、シスちゃんに求めてるのはそういうジャンルじゃない!! もっとふわっふわでふりふりでプリティーでキュアキュアなヤツなの!! ピンクでホワイトで甘い系!!!」

「個人の趣味が爆裂してるだけだろうが!!」

「その、シス君はそれでいいんですか?」

「うん♪ だって、かーわい♪」


 人間的に見て男らしくないことは理解してるけど、別に人間基準に合わせる必要ないし、見た目を考慮すれば確実に僕はこういう属性でしょう。

 いいじゃない、男の娘でも。

 どうせ着飾るのなら、似合う恰好しなきゃね!


「お前ら的にも、良いのか?」

「むしロ、何か問題あるノ? この場の誰よりモ、私達の王子ハ美しイ!」

「……ああ、うん、そーか。ならもういいか」


 僕のにこにこと、アーラの全く疑問を感じてない態度に、先生は諦めた。

 若干頭痛を感じてるような気がしないでもないけど。大丈夫大丈夫、視覚情報なんて、案外すぐに慣れるものだよ。


「……えー、ティリノ王子。少々よろしいですか?」

「あ、ああ。すまない、なんだ?」


 きゃんきゃんやってる僕らが一息つくのを待ってくれていたのか、さっきのギルドの纏め役であるラティオさんがやってきて、先生に声をかけた。

 総責任者は先生だけど、情報をまとめて確認しに来てくれるのはラティオさん、みたいな感じになりそうなのかな?

 セロさん達は、ティリノ先生の護衛兼助手なんだろうし。


「シス様に、村の村長親子がご挨拶と、お礼を申し上げたいとの事なのですが」

「ぴい? おれいって、なんでしょーう?♪」


 挨拶は、元々お隣同士だし、これから人が行き来するわけだからよろしくって事でわかるけど、お礼とは?

 首を傾げながら、どれどれとラティオさんの方を見てみたら、その後方に知らない男性と、見覚えのある男の子がいた。


「初めまして、森の長殿。私は村の者達を纏めております、オネットと申します。それから、私の息子の……」

「ぷ、プーロ、です」

「はあい、はじめまーして♪ あと、キミはおひさしぶーりです♪」

「! お、覚えててくれたんだ……」

「モチロンでーすよ♪」


 前に、森に迷い込んできた、あの男の子だ。

 村長さんの息子さんだったんだねえ。そりゃあ、思ったよりも噂が広まるのが早かった訳だ。

 あの時は僕が人間語を全く理解してなかったけど、今はちゃんと会話出来る。

 うん、なんていうか、我ながら成長を感じるね!


「あの時は、息子を助けてくれただけでなく、薬草まで頂いて、どれだけ感謝しても足りないほどです。お陰で、妻も無事にまた生活できるようになりました」

「本当に、ありがとう、ございます!」


 父と息子、二人そろって深々と頭を下げる。

 そっか、お母さんの為だったんだね。

 うん、やっぱりいい事しとくもんです。おかげで彼らも助かり、僕らも助かるってもの。


「どーいたしまーして♪ これからも、おとなりさん同士よろしくおーねがいしまーすね♪」


 行き来するのは国の許可を得た運搬役や護衛役の人達で、彼ら自身が森に入ることは少ないかもしれないけど、交流のきっかけになってくれた立役者だし。

 ちょっとくらい、表層の採取くらいなら案内を融通してもいいかなー。

 まあ、動物とかいろいろキケンだし、それならラティオさんのギルド通して依頼した方がお互いにいいか。人の行き来が多くなれば、村にも利益が生まれるだろうし。


「す、スゴイな、前は全然言葉通じなかったのに……」

「こら、プーロ! ハーピィの長殿だと言ったろう!」

「うふふ、かまいませーんよ♪ プーロ君のおかげで、ボクも言葉をおぼえなきゃって思いまーしたしー♪」


 もっと言えば、森に良い交渉相手を連れてきてくれた、その動きの震源地となってくれた恩人ですから。

 …とまで言うと、色々と困っちゃうから、言わないけど。

 ちょっとくらい気安くたって、構いませんとも。君たちにとって僕らが恩人だとして、僕らにとっても君たちは恩人です。

 にこにこ笑ってそう言ったら、プーロ君はなんだかちょっと赤くなって、なんだかもじもじしだした。

 あら、可愛い反応。仕方ないね、僕とっても可愛いから。


「あ、あの、これから、この国の人間でお許し貰えれば、森に入れるようになるんだよ、な? あと、ハーピィのダンナさんとかになったりするんだよな?」

「はい♪ でも、コドモ一人じゃだめでーすよ♪ きょかをもらった大人か、大きくなってから来てくーださい♪」

「うん……解ってる。オレ、大きくなったら冒険者になるんだ!」

「わあ、すごーいでーすね♪」


 息子がそんな夢を語っても、お父さんであるオネットさんは驚いた様子はない。すでに承知の上か、子供の夢として珍しい事でもないのかな。

 村長さんの息子なら、次期村長になりそうなものなのにね。


「すっげー強くなって、すっげーかっこいい冒険者になるから!」

「うふふ、楽しみでーすね♪」

「そしたら、キミのダンナになりに来るから、待っててくれよな!!」

「……ん?」


 あまりにも微笑ましい未来の展望を語ってくれるものだから、一瞬反応が遅れてしまった。

 最後のセリフは勢いに任せた感じで、顔を真っ赤にして言い切った後、恥ずかしくなったのかばたばた走って行ってしまった。

 そんな息子に、お父さんも慌てて失礼しましたと僕に謝罪し、丁寧に一礼してから去っていった。

 見送りながら改めて考えてみると、もしかして彼は、とんでもない誤解をしているのでは……


「……センセー」

「……見ろ、シオン。お前は、1人悲劇的な少年を生み出したぞ」

「正直すまんかったと思っている。反省はしているが後悔はしていない」


 さすがのシオンさん。

 さておいて、彼は大丈夫だろうか。そのうち、僕が王子、すなわちオスなのだと誰かから訂正してもらえるんだろうか……

 いや、訂正されたとして、それを彼が受け入れるのかがちょっと疑問。

 …………

 ……まあ、別にオスである事隠してないっていうか、むしろ大々的に言ってるんだし、大人になるまでその情報をキャッチしてないとは思えないし。いいか。




 10年後、宣言通り立派に冒険者になった彼が森を訪れ、二重の意味で失恋を悟り見事な失意体前屈を披露する事になるのだけど、それはまた別のお話。








 さて気を取り直して、森への移住、その第一陣の皆様。

 場所が場所なので馬車は使えず、荷物は馬やロバといった動物に運んでもらい、移動は基本徒歩。

 初回だけに人数が多いので、僕を含めた6羽で前後左右を囲み、動物からの安全を確保して進んでいく。

 早くも飛べるけど、割とゆっくりも飛べるよ。

 シャンテとクラベルの二羽が前、アーラはやや右前、オリヴィエが左後ろ、プリムラが後ろにいる。僕は隊列の真ん中あたり。

 何かあれば、すぐに鳴いて知らせてくれる。ちょっと隊列が伸びてるけど、声が届かないほどじゃない。


「昼間の移動が、周囲の警戒をしなくて良いというのは助かるな。移動の集中できる分、距離は稼げそうだ」

「ちょっとゆっくり出発でーしたけど、広場まで行けそうでーすね♪」


 さすがに、ここに体力のない一般人は混じっていない。

 強いていうなら多分一番体力がないのはティリノ先生だと思うけど。

 一頭、荷物がやけに少ない馬がいるので、もしもの時は先生はそこに騎乗する事になるんだろう。

 仕方ないね、責任者だからちゃんといないとね。


「動物は寄ってこないケド、足元は気を付けなさイ。鉄木茨の無いルートを選んではいるケド、毒を含んだ棘のある植物だってあるワ」

「そーね、アーラと一緒に何度も歩いたけど、100%安全ってのはさすがに難しいからねー」

「すまないな、シオン。事前に色々検証してくれて助かる」

「どーいたしまして☆」

「……ちょっト」

「ああ、うん、赤いのもな。ご苦労さん」

「少しは敬う態度ヲ見せなさイ!」

「……。……ハーピィ殿の深い温情と手厚いお気遣い、心より感謝致します」

「キモッ?!」


 わあ、先生の営業(?)スマイルとむやみやたらに丁寧な発言、初めて見た。

 丁寧に礼くらい言えと要求したアーラすらも、その違和感に引くほどだった。

 それみたことかと言いたげな先生ですが、だーから君たちは普通にやり取りする事が出来ないのですかー。

 仲良しなんだからね、もう。そう思うことにした。


「そういえばー♪ 夜のごえいは、いーりまーすかー♪」

「うん? そうだな……」

「今はあったかいですから、何羽かおいてもいいでーすが♪ ぎゃくに、みなさんがかりが出来ない、というコトにもなりますのーで♪」


 僕らが狩った獲物を上げる気はない。僕らだって、必要分しか捕っていない。

 例の魔法の袋を使えば食料もたくさん持ち込めるんだろうけど、ある程度の人数がここに住むのだから、それを養う分の食料をいちいち外から持ち込むのも大変だろう。

 最終的には、狩りをしたり、畑を作ったり。することになる。

 牧場は作らせないよ! というか、牧畜しなくても、獲物沢山いるし!


「夜は、今回は人数が多いし、何よりシオンがいるからな。護衛はなくても大丈夫だろう。今後は、護衛が要るか要らないかはその度に聞いてもらっていいか? 冒険者の護衛がいるなら問題ないしついでに狩りも出来るだろうが、急ぎの運搬で護衛が見つからない事もあるだろう」

「りょうかいしまーした♪」

「…ところデ、シオンがいると、そんなに安全? 私、前にシオンの結界、普通に侵入していったわヨ?」


 あれっ?

 …そういえばそうだ。シオンさんは魔法陣の使い手で、魔物が入れない結界を作れるはず。

 となれば夜には確実にそれを張るだろうに、以前アーラはティリノ先生を夜中に誘拐してきてる訳で。


「あれはね、あの時はあたしの魔法陣がちょっと間違ったのが原因よね」

「ぴ?」

「森に魔物は基本いないし、ハーピィは積極的に『襲って』は来ないでしょ? だから、あたし達を食べようとかボコボコにしようとか、そういう『害意』に反応する警告魔法陣だったの。入ること自体は出来たのよ」

「あー、なるほど♪」


 そもそもアーラは『害意』で誘拐した訳ではない。交尾の際に相手を殺してしまう事に害意はなく、ただの結果。殺す前提じゃあない。

 それでももしかしたら反応したのかもだけど、アーラはたぶん、範囲内に入る前に先生たちを見つけ、呪歌で眠らせてしまったのでしょう。

 まだ大丈夫という油断とか、魔法陣張ってるから大丈夫という、油断もあったんだろうねえ……

 実際、僕ら的にも繁殖期前で、本来ならあのタイミングでオス狩りなんて、考えられなかったし。それだけ切羽詰まってたのが、良かったのか悪いのか……


「集落予定地には、シオンさんの魔法陣を敷く予定なのですか?」

「建設中は結界張るけど、そのあとはどうかなあー。魔物避けを描いちゃうと、シスちゃん達も入ってこれなくなるのが問題なの」

「さすがに、ハーピィだけが例外の魔法陣は無理だろうな」

「うーーーん相当時間かければ作れなくもない気がするけど……。素直に警報の魔法陣だけの方が、維持もメンテも楽なんだよね」

「場合によっては、規模が大きくなるかもしれませんしね」


 拠点の防衛に関しては、なかなか頭が痛いみたい。

 尚、シオンさんの魔法陣は、シオンさんの魔力だけで展開すると効果や範囲の維持に集中力や魔力を持っていかれて、あんまり持続できない。

 でも、こないだの会議のように範囲だけでも指定すれば、その分持続力をあげられるし、紋様を全て描いてしまえばそれこそ魔道具のように、時折魔力を補充すればほぼ永続という状態になるのだそう。

 ほんとすごーいね!!

 でも魔物避けは普通に僕らも入れなくなりそうだから、ダメだね!


「楽しみでーすね♪ きょてん作り、がんばってくーださい♪」

「楽しみなのか?」

「楽しみですよー♪ ニンゲンさんのおうち、見るのはじめてでっすしー♪」


 村のおうちを、遠目で見るしかなかったんだよねっ。

 すっかり巣暮らしに慣れてしまったし、特に不便もないので(冬に寒い以外は)特に室内生活に戻りたい訳じゃないんだけど、懐かしい感あるんだよね。

 森での資材で作るんだから、勿論木のおうちだよね。ログハウス風かな? それともちゃんと、平たく加工して作るのかな?

 近くに川があるから生活用水は問題ないだろうけど、どうするのかな、集落の中に引きこんだりするかな? 水車とか作るのかな?

 獣の心配があるから、明かりは必要だろうし。あ、やっぱり壁とか堀みたいなのも作るのかな?

 ついでに、僕ら用の止まり木とか作ってくれないかなー。ちょっとハーピィと共存してる集落っぽくてかっこいいと思うの!

 あんまり規模を大きくされるのは困るけど、どんな発展するのかなって思うと、なんかわくわくしちゃうよね!


「ぜひぜひ、すてきなおうちを作ってくーださーいね♪」

「そういう事なら、手伝ってくれてもいいんだぜ?」

「あら、お手伝い♪ しましょうか♪ うふふ、代わりに何をもらいましょう♪」

「……あー、やっぱいいわ。なしなし」


 あのゴリマッチョさんが軽口たたいたので、僕は笑って返したら、苦い顔して片手を振った。

 僕らのお約束は、あくまでも道案内。道中の護衛もまあ含まれる。

 拠点を作るお手伝いは、その範疇外。

 となればもちろん、追加で報酬頂きますよ?

 そこはしっかり、別問題です。何かもらえるなら、してもいいけどね。

 そもそも、何ができるのかしら。材木の運搬とかくらいしかなくない?


「オジサン、シスちゃんを子供だと思って甘く見ちゃだーめよ。優しくって可愛くって友好的だけど、シビアで現実的な面も持ってるんだから」

「オジサンて、なんで俺より年上の相手にオジサン呼ばわっ」

「誰かオバサンか!!」

「がふ?! いや、言ってねえっ?!」


 どうやら、ゴリマッチョさんは30代かその辺の様子。

 うん、ちょっとした杖アタックくらいは、微笑ましいジャレ合いなんだよ。ゴリマッチョさん耐久性高そうだし、大丈夫大丈夫。

 オジサンっていうあたり、知り合いではなさそうなんだけど、シオンさんのこういうボーダーレスな感じ、大好きだよ。

 さてさて、無駄口たたきながらだけど、足取りは皆さましっかりしてるし、想定通りに最初の広場で野営出来るかな?

 そしたら僕らはいったんおうちに帰るけどね。






 ちびハーピィはわくわくしている!!


 何か不憫さんが生まれた気がしないでもないですが、たぶん気のせいです。

 残念ながら、今後彼がお話に絡んでくる事ないのであった……





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