着せ替え
冬は過ぎ去り、森にはちらほらと桃色の花が咲きだした。
あの花が咲いたら、僕らの繁殖期の始まり。
まあ、今年は僕のお歌でみんなは落ち着いて過ごしている。不幸なオスが犠牲になることもないわけだね。今年は。
来年以降は、平和的な繁殖期になると思いたい。っていうか、なってくれないと困る、いろいろと。
さて、春になったということは、ティリノ先生達との会議からおよそ2か月は経ったということ。
ここから王都までどれくらいなのか、僕にはわからないけど、さすがにとっくに帰り着いて話をつけて、そろそろってトコまで来たのかな?
そんな事を考えながらいつも通りシオンさんを迎えに行く。
森の傍で迎えを待っていたシオンさんは、いつになく真剣な顔つきをしていた。
「ぴ? どしたの、どーしたの?♪ シオーンさーん♪」
「まあまあ、お話は森に入ってからにしましょ」
挨拶もそこそこに、今日も一緒にお迎えに来てくれたアーラによる空中ブランコで、シオンさんを僕らの森にご案内する。
初めの頃はちょっと寒そうだったけど、もうすっかり暖かくなって、風を切る移動も薄手の上着一枚で大丈夫みたい。
飛ぶために翼を動かしてる僕らは、裸でも暖かくなるんだけどね。あんまり寒い日は長時間飛びたくないけど。
「今日は大事なお話がいくつかあります!」
「ネーチャ、オヤツハ?」
「ネーネ、オイシーノチョーダイ!」
「ひゃああああ幼女サンドじゃーーー!! 今日はドライフルーツのパウンドケーキよ、お姫様達ー!!」
「「ぴゃーーーーー!!」」
シオンさんの真面目な顔は、5秒しか持たなかった。
来訪と同時に寄ってきて、ぴたりと左右に貼りつき上目使いでおねだりする、フレーヌ達の可愛さに鼻血を垂らさんばかりのでろでろ笑顔になった。
うん、僕の姉妹可愛いからね。しかし、数か月単位で毎日会ってても、全くブレないなあシオンさんは。
ところで二羽はやっぱり子供特有の学習能力の高さがあるのか、発音はたどたどしいものの、かなり人間語を喋れるようになっています。
ついでに言えば、シオンさんが二人に超絶甘く、かつ可愛らしくおねだりすればたいてい通ると学習してしまってもいるわけで。
うん、教育に悪い気がするけど、僕らはハーピィ。それくらい計算高くても、特に問題はないでしょう。たぶん。
「どうかしら、美味しいー?」
「オイシー! ネーチャ、アリガトー!」
「アマーイ! ネーネ、ダイスキー!」
「ふあひゃああああもうほんとたまりませんわー、この瞬間の為に生きてる!!」
「シオンさーん♪ だいじなおーはなーしはー?♪」
「っは! そうだったそうだった」
いつまで経っても話が始まりそうにない。
ただ、シオンさんの幸せタイムを積極的に邪魔するのも気が引けたので、二羽の美味しい顔を堪能するまで待つ僕でした。
あと、僕にもあとでちょーだいね!
「ティリノから手紙が来たんだけど、おおよそ方針が決定したみたい。で、それに際して、あらかじめいくつかお願いがあるの」
「ぴ? なーぁに?♪」
「まず一つ目、運搬護衛を除いた滞在人数が15人って話だったけど、増やさしてほしいみたい。まあ元々初期人員で調査・探索・測量と大工系で多めに入らせてねとは言ってあったけども、もうちょっと」
「んー? 他にひつよーなヒトが、でーたの?♪」
「それが、ギルドが常駐したいみたく言い出したらしくて」
ギルド?
ギルドって言えば、僕がシオンさんから聞いて知っているのは、冒険者を統括している組織を指す言葉。
大抵の団体はどこかの神殿が大元締めみたいなんだけど、冒険者に関してはその限りではない。彼らは彼らの独自組織を作っている。
もちろん、所属者がどの神様を信じていても、それは関係ない話。運営に、神殿や国がかかわってないってだけ。
「このもりに、ギルドのしてんがほしーいの?♪」
「そうみたいね」
「んー、もりにまものはぼくらだけー♪ たいじする気じゃ、なーいよねー?♪」
「それはもちろん! 冒険者って言っても、一口に魔物退治だけがお仕事じゃないわよ。薬草や素材の採取とか、獲物の狩猟とかの方が多いくらい」
むしろ、魔物との斬った張ったの方が珍しいのかな?
まあ確かに、戦えない人が護衛を雇って歩いて採取に行くよりも、依頼を出して持ってきてもらった方が、安全だし早いかもしれない。
「つまり、ギルド支部を置いて、探索調査を冒険者メインにやって貰って。その情報の纏めをする人員と、拠点を作る職人を多くして、早く森の中に安全なベースを作りたいってことよね」
「んんー……」
ちょっと考える。
冒険者さんは、護衛運搬役に含まれるだろうから、森の出入りは自由な立ち位置ってことになる。
そんな自由かつ戦力になる人を増やすことで、滞在調査で歩き回る非戦闘員を減らして、拠点を早く作り上げる。
で、冒険者の数を増やすってことは、統括する支部があった方が円滑。
うーん、別に構わないかなあ。旦那さん候補になる滞在要員が、決して減るわけじゃないというのなら……
繁殖期の協力者は、最低でも適齢期ハーピィの半分とあらかじめ要求してあるのだし。
「じゃあー、ギルドのうんえいにんずーあわせて、20でどーお?♪」
「うん、良いんじゃないかしら」
「ちゃーんと、ルールを守るようにって、ぼーけんしゃさんにつたえてねー♪ でいりじゆうといっても、やくそくをやぶったらぼくらは守ってあげないよー♪」
「そこは、ここに派遣されるヤツには口をすっぱくして言い聞かせて貰う事にする。それでもやらかすなら、ソイツは大成しないわ。現地のルールを知らないならまだしも、知った上で則らないようなのは自然淘汰されるもんよ」
あら、シビア。
うんまあ、剣と魔法と危険な魔物がいる、ファンタジィな世界だもんね。人命は大事だろうけど、そこまで厳格に守られてるわけじゃないのかな。
森の中でやらかしたら喰っちゃうぞ☆ とか言ってる僕が思うことじゃないかもしれないけれどね。
「ところで、森の地図を作るコトは許可してもらえるの?」
「いーよ♪」
「あれ、あっさり」
「だってみちはうごかないけどー、ちずを見てあるいたって、ほうこうをみうしなえばいみがなーいもん♪」
「なるほど、それもそうね」
むしろ、地図があった方が僕らにとっては便利です。
だってどこに行きたいか、案内する場所を把握しやすいからね?
まあ地図を作る間、ハーピィが張り付いてないといけないだろうけど、それは後の便利のためだから、担当者を割り当てても良いよね。
「で、二つ目。これはティリノ達三人からのたっての要望というか、お願いなんだけどね」
「なーあに?」
「ハーピィ達に、服を着させてほしいって」
…………ああ、うん。
僕が冬越しの為にって、夏を過ぎたころに言おうと思ってたことが、あっちからやってきましたか。
よっぽど、シャンテの揺れが視覚的に、オス的につらかったのね……
「滞在者には女性もいるだろうけど、たぶん大半が男性になるわ。そうなると、まあね、ハーピィちゃん達はみーんな美人揃いだし、嫌でも気が散っちゃうというかなんというか……」
「前にも思っタけド、人間のオスにとッテ、私たちの何が気になるノ?」
「うん……。なんというか、大半の男にとってはね、女性のお胸は、性的に感じるものなのよ…」
「胸……??」
アーラが自分の胸を見下ろし、また首をかしげる。
ハーピィにとっては、そこは完全に使用することのない部位だから、大きいも小さいも特に関係ない。
強いて言えば、大きすぎるシャンテは激しく動くと痛いとかなんとかで、だから狩りの腕前はアーラの方が上とか、まあそういう差。
「こないだも言ったけど、基本人間って常に発情期みたいなトコあるから……」
「ぼくらのはつじょーきいがいでさかられてもー、こまっちゃーうね♪」
「そういうものナノ…」
「うん。だからまあ、必要ないときは隠しといてくれってことよね。建築作業中についつい視線が行って、事故になっても問題だし」
それ、すっごく問題だね……
大工さんとかの職人さんこそ、男性率ほぼ100%だろうし。
「んー、ぼくらでもきられてー、とぶのとか、かりにジャマにならないなら、ぼくはかまわなーいよー♪ いいよねー?♪」
「はイ、王子」
「ありがとー! で、とりあえず色々用意してみたのね」
ごそ、っとシオンさんは背負っていた鞄から袋を取り出す。あれは、たぶん見た目以上に物が入る、魔法の袋。
で、僕らが見ている前で袋から、出るわ出るわお洋服の数々。
基本かわいい系が多いと思いきや、革のジャケットとかそういう、ちょっとハード系のものも結構ある。
「下はともかくしていいと思うんだけど、上をひとまず隠さないとね。袖なしでゆったりめで、合わせを紐で巻くか、簡単にボタンで留められるタイプがほとんどなんだけど、ハーピィちゃん達の趣味的にどうかしら?」
「私たちに、そういう趣味は解らないワ」
「デモ……、これハ、ツマリ、…かざるコト、ヨネ?」
集まっていたハーピィ達のうち、シャンテもひょいと入ってくる。
おしゃれという概念は僕らにはまだ無いけど、女性としての何かこう、何かが刺激されたんだろうか?
なんだかんだ、興味津々の目をしてる。服を着ること、に関して拒否感はないようで、そこはよかった。
「そうね、つまり着飾るコトになるわよね。せっかくみーんな可愛いんだもの、飾った方が素敵になって、ハーピィおっけいの野郎も増えて良い事よ!!」
あ、それは確かにいいかも。
世の中、あけっぴろげに出してるよりも、いざという時まで隠していた方がそそるという……、…そんな事考えるあたり、やっぱり元々僕は男の子かしら?
単に繁殖期用というだけじゃなく、ごく普通に交流して仲良くなれたらその方がいいし、その為にも外見を整えるというのは大事なのかも……
「だったラ、シオン!」
「はーい?」
「先ずハ、王子をお願イ!」
……うん?
広げられたお洋服をうろうろして見回ってたら、しばし何やら相談していた皆がシオンを見つめ、真剣な顔をしている。
え、先ずはって、え?
「それはもちろん、あたしのまいベストプリティーシスちゃんには気合を入れてコーディネートさせて貰うけど、一応名目上は女の子たちの……」
「ダメ! 王子からヨ!!」
「オウジよりモ、ワタシたちが、カザル、ナンテ」
「オウジガ、イチバン!」
「飾るべき、だかラ!!」
え、あれー…?
どうしてそうなったの? 着飾るのって、普通女の子がすることじゃ?
一瞬戸惑ったけど、ふと気づいた。
そうだった。僕らはハーピィ、ハーピィは鳥。
鳥の世界では、派手なのはオスの方であるのが基本なのだと。
「…まあ、リーダーであるシス君が一番綺麗じゃないと、始まらないわね!」
「ぴー…」
「任せて! とびっきり可愛くしてあげるからね、シス君!!」
「宜しくネ、シオン!!」
オスらしく、かっこよくなる未来が見えない。
というか、そもそも候補の服の中に、男性ものが明らかに無いわけなんですが、最初から僕に男の子っぽい服を着せる予定はなかったのかも。
うきうきと広げた服を吟味しだすシオンさんに、応援するアーラ達。
明らかに自分の服よりも、僕を飾る服を選ぶ方に興味津々である。
……良いんだけどね? だって、僕可愛いから、似合うだろうし。
しばらくして、シオンさんコーディネートの僕のお洋服が決まった。
白いひらひらつきのブラウスに、腰に大きなリボンと、三段にフリルのついたチョコレート色のスカート。
肩にピンクのケープをかけて、胸元でポンポンつきの紐をちょうちょ結びにして止める。
最後に、青銀の髪を綺麗に梳いて、濃いめのピンクの大きなリボンを飾って、出来上がり。
控えめに言っても凄く少女趣味です。本当にありがとうございました。
「どうですか! どうですか奥さん!! おたくの王子、可愛いでしょう!!」
「ええ、ええ! とっても可愛いワ! ありがとう、シオン!」
『王子、お似合いでいらっしゃいます!!』
「シスチャ、カワイー!」
「ニーチャ、カワイー!」
わーい、みんなから大絶賛だよー。
あ、だいぶ皆人間語でしゃべれるようになってるんだけど、敬語は難しいみたいで、僕に話しかける時はアーラとフレーヌ達以外はだいたいハーピィ語。
別に普通に話しかけられたってかまわないのになー。
ていうか、隠すの上だけじゃなかったのー? 普通にスカート穿いてるのは、何故なのシオンさーん。
なお、パンツは穿いてません。というか、穿けません。下半身、もっふもふですから。頑張ればかぼちゃパンツくらい穿けそうだけど、ジャマだから無し。
「でもこれ、ぼくじぶんできれなーいよ?♪」
「いつでもお着換えの際はご用命ください!!」
簡単に着やすいものって言ってたのに、どうして紐でちょうちょに結ぶタイプとか、ぱちんと止めるんじゃないボタンとかの服なの、これはー。
でも、シオンさんが物凄い良い笑顔でお着換え手伝いを申し出てくれて、本当にそれでいいんですかシオンさん。
「にあうー?♪」
「超似合うわよシスちゃん!!」
「かーわい?♪」
「めっちゃベリプリです!! 正に世界に舞い降りた美の天使!!」
「うふふ♪ じゃ、いっかー♪」
だがしかし、割と僕もまんざらではないのでした。
可愛がられるのは好き。シオンさんが袋から出した鏡を見てみたら、ほんと可愛い恰好似合ってるし、似合ってるなら別にいいやって気になった。
仕方ないよね? だって、僕可愛いんだもん。
男らしい恰好なんて、大きくなって男の子っぽくなってからすればいい。
人間っぽい、男らしく! という意識は結構薄いのです。あと、思ってたよりも着飾るのって楽しいや。
これは、やっぱり僕は女性だったのかな? それとも、鳥としての綺麗にしたい本能かしら。まあどっちでもいいや。
「それじゃー、アーラたちのばんだーね♪」
「最初はあたしが着せてあげるからね! どういうのがいいとかは……ないんだっけか」
「ええ、シオンに任せてテいいかシラ」
「おっけー! 着心地悪いとか、他のが良いとかあったらいくらでも言ってね! 一応、丈夫で汚れにくい素材で出来てるからその辺は大丈夫だと思うけど」
え、そーなんだ。普通の綿とかウール的なのじゃないの?
実は結構お高い服だったりするのかしら……
ていうか、そういえばどこから大量の服を用意してきたんだろう。シオンさんが用意したのか、それとも先生が送ってきたのか……
「アーラはカッコいいタイプだから、ハードなのがいいわね! これなんてどうだろ、かっこいい!」
「そ、そうかしラ? どう、あの吊り目にナメられナイ?」
「どしてそこ行くのかしらー。でも似合ってないって言われるコトだけはないと思う、あたしが保証する!!」
ほんと、どうしてそこに行くんだろー。
さておいて、アーラが羽織ったのは黒茶色の革製の上着。は、裸革ジャンというコアなジャンル??
まあでも、お胸の下着は自分たちじゃあつけられないだろうし、いやそもそもそれがあるかも時代的にちょっと怪しい気がしないでもない。気にしない。
置いといて、元々アーラは性格も顔つきもちょっと勝気な感じだし、僕みたいなふりふり可愛いのより、ちょっとかっこいい系のが似合うのは確か。
「どう? きつくない?」
「大丈夫そうヨ。むしろ、余計な揺れがなくなっテ、いいカモ!」
余計な揺れ=胸のコトなんだろうな。
一瞬、シオンさんの笑顔がひきつった気がするけど……
そういえばあんまり気にしてなかったけど、シオンさんのお胸はかなりの控えめサイズで……いや、よそう。
「ンー、ちょットこレハ、くるシイ、ワ」
「ううん、シャンテさんのボリュームを受け止めるキャパは、なかなか無い…」
さくっと決まる他のハーピィ達と引き換え、シャンテの服選びは難航。
あんまり伸びる生地は少ないようで、大きめサイズだと他の部位がゆるゆるで飛び辛くなっちゃうし、肩回りや胴回りを優先するとやっぱりお胸が……
最終的には、深い青のジャケットみたいな服の、ボタンを外し紐をつけて、鋲に巻き付け調整できる仕様に直してくれて、やっと収まった。
ざっくり胸の部分が開いてる状態なんだけど、うんまあそのまま出してるよりは多少マシ、……うん、…マシかなあ?
余計男性向けになった気がしないでもない。
「アラ、ほんとネ! マエよりモ、うごキヤスイくらいダワ!」
まあ、ばいんばいん動いて飛び辛かったらしいシャンテも、アーラと同じ感想で嬉しそうだったので、とりあえずいいんだろう。
そういうあたり、ハーピィ達も積極的に服を着ようと思ってくれたようで、何よりです。
ちなみに、フレーヌとグリシナには、色違いでお揃いっぽい、のフードつきの服が選ばれたわけなんだけども。
「ガオー!」
「ウニャー!」
そのフードが、くまさんとねこさんを模して作られているため、幼女二羽は楽し気にそれをかぶって、くまさんとねこさんごっこをしているのでした。
さすが、幼女マイスターシオンさん。子供ごころをくすぐるチョイスを、ばっちりしてくる。
この世界にカメラとかがあれば、喜んで撮影しまくりそうな、よだれ垂れそうな顔で眺めているシオンさんに、今日も平和だなあと思うあたり僕も慣れてきた。
尚、ババ様用に、黒くて楽に羽織れそうなローブも貰っておいた。ババ様が人間の前に姿を現すことはないだろうけど、来る秋冬の防寒とかに良いから。
「だいじなおはなし、これでぜーんぶ?♪」
「あとは、シスちゃんの魔法の特訓開始ってことくらいかな!」
「ぴぃ! がんばる、がんばるー♪」
「……あー、あと、蛇足かもなんだけどさ。シスちゃんちょっと、口調とか変えてみる気、ない?」
「くちょー?」
はて。おかしい口調をしているかしら。
かくんと首を傾げると、シオンさんは一瞬でれっと表情を緩めてから、いやいやと頭を振って真面目な顔になった。
どうやら、僕のこの仕草が結構ツボなようです。
「いや、可愛いのよ! めがっさ可愛くてあたしに不満はないんだけど!! シスちゃん子供だから当たり前だけど、ちょっと子供っぽいのよね」
「ぴぃ?」
「要するにリーダーらしくないというか……。うーん、ここに来るのは基本人間の大人の男がメインだと思うのね。それでハーピィのリーダーがお子ちゃまって思われると、ナメてくるバカがいくらか出る可能性がありそうで」
「んー♪ でも、ヒナであることはー、かえられなーいね♪」
「そ。だから、口調だけでもぴしっとというか、ナメられない感じにして、その数を減らした方がいいのかなって」
うん、解らないでもない。
なぜか世の中、子供というだけで自分より下に見る大人っている。
いやそりゃまあ、人生経験という意味では子供の方がどうあがいたって大人に勝てる訳はないから、その点はわからないでもないんだけども。
だからって相手の能力や力を理解する前から、自分よりも下だと見る人が居るんだよね。どうしようもなく。
まあ別に、それで失礼がすぎないようなら、ほっとくけども。
「くれぐれも、ハーピィのリーダーに失礼の無いようにと言い含められるとは思うんだけどね! それでも、なんだ子供かーで不必要なあたりまで気を緩めるヤツも居ると思う。それで阿呆やる程度なら追い出せばいいけど、その間の人員交代の手間を考えると、少ない方がいいし」
「そんなもーの?♪」
「そんなもーの♪ で、あたしらの方の手間を減らす為にも、ハーピィ達に嫌な気分をさせないためにも。ちょっとでもナメられない感じにしたいなって」
「ぐたいてきにーはー?♪」
「チビっ子の敬語キャラとかグっとくるんだけどどうだろう」
それはシオンさんの趣味ではなく?
ちょっと突っ込みたかったけど、でも確かに小さい子供なのに礼儀をわきまえ発言する姿というのは、ちょっと『おっ!』てなる気がする。
「慇懃無礼とまで行かなくて良いけど、それでも魔物できちんと礼儀正しくするような子なんてそうそう居ないわ。それだけ、かしこいってわかるわよね」
「敬語を使われテ、勘違いするバカは、いないカシラ?」
「敬語だけで勘違いするほどのバカは、さっさと追い出すわよ。シスちゃんなら、礼儀正しくすることと遜る事の差は、解りそうだし」
「んー♪ やってみてもいーいよー♪」
笑顔で威圧するなら、敬語の方が威力ありそうな気がする。
いや、僕のビジュアルでの威圧になんの効果があるのか、ちょっと僕わかんないけども。どう見ても美少女です、本当に(以下略)
「セロさんみたいにー、はなせばいいんだーよねー♪」
「あ、そんな感じね。細かいトコは、ティリノ達が来るまでに直してあげる」
「はーい♪ よろしくおねがーいしまーす、おっししょーさまー♪」
「師匠! 初めて呼ばれた!! これはなんか、萌えというよりは……燃え?!」
あれ、そっちの属性もいけるの??
とりあえず、うーん敬語にして話すくらいなら、たぶん大丈夫だけど。
どうしても見た目で和まれちゃうだろうし、単に愛でられるなら特に問題ないとはいえ、僕は群れのリーダー。締めるところはしっかり締めると、理解されるように努めなければね。
「……あと、旦那さんになる特典として、雛に『パパ』って呼んでもらえる権とかつけたらどうだろう……」
「ぴゃ?」
「いや、だって卵から生まれるのって、全部ハーピィなんでしょ?」
「ええ、そうネ。ハーピィ以外が生まれたトコロを、見たことナイワ?」
「だったら、確定して皆可愛い女の子! それに『パパー☆』とか『お父さん♪』なんて呼ばれたら、女性に縁のない野郎とか、娘に冷たくされる寂しい男とか、クリティカルヒットするわよ?!」
……それ、後者にクリティカルヒットしたら、おうちに帰らなくなっちゃわないかな。それはそれで、ちょっと心配なんだけど。
「んー、ぼくらはタマゴ、まとめてあっためてそだてるかーら♪ どれがだれのタマゴなのか、わかんなーいよー♪」
「え、そうなの? じゃ、シスちゃんもママが誰か、解らないの?」
「そうネ。あまりそこにはこだわらないワ?」
「ムレの、ミンナガははデ、ムスメミたいナ、モノだかラ」
そして、パパは大概食べられちゃってるしね……
強いていうなら、同時期に生まれた雛は、母や娘ではなくて、姉妹感があったりするくらいだろうか。
「……パパって呼ぶこと自体に、抵抗はない?」
「まあ、別ニ」
「じゃあ、好きな子にパパ呼びして貰えるってコトネ! むしろ良いわ!!」
一気に援助交際感が増したんですが、それは。
……まあ、それで積極的にかかわってくれる人が増えるなら、別にいいんだけども。でもハーピィにパパ扱いされて、本当にうれしいんだろうか。
私なら嬉しいですが←
というわけで、パソコンが瀕死になっておりました。
お待ちいただけていたら幸いです。
今日もシオンは元気です。
ハーピィ相手でもって思えちゃう人なら、ハーピィに可愛らしくパパ☆呼びされてもおっけーな気がしないでもありませんがね。実際。




