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おすはぴ!  作者: 美琴
16/64

会議・休憩中



「―――あー、ごめんティリノ。そろそろ、休憩させて」

「と、そうだな。すまないが、シオンの魔力がきついようだから、一端区切らせてくれ。セロも記録一時停止で」

「うん、わかった」

「はいはい」


 お日様が真上に来た辺りで、シオンさんがちょっと辛そうに休憩を申し出た。

 そうだよね、冷静に考えて、この魔法陣凄いよね。種族関係なく、お話しできるとか。それの維持って、どれくらいの魔力を使うんだろう。

 とんっとシオンさんが杖の先で地面を突くと、途端に地面に敷かれていた光の線が粒子になって消え失せた。これはこれで、綺麗。

 ずっとそれを追って遊んでいたフレーヌ達が、ぴゃっと声を上げて飛び上がる。驚いたみたい。

 そして、何で消えたの? どこいったの? とばかりにきょろきょろする。


『あー、マジで幼女ベリプリ……癒されるわー』

『オネーサン、メス、スキ? ナンデ?』

『女の子が好きな訳じゃないわよ。ちっちゃい女の子が好きなの。あ、いや今はちっちゃい男の子も行けるけど』

『……ナンデ?』

『それはもう、ぷにぷにふわふわのボディーライン! まだ世界の穢れを知らないキラキラの瞳! 決して邪気のない、けれどどこか残酷な思考回路! しかして他への気遣いも見せ始めるという、このギャップ!! ほんの僅かの間だけのものだからこそ、ちっちゃいこは……尊い……っ!!』


 そ、そうですか。

 魔力の使い過ぎで疲れてるとは思えない、熱い主張が来た。


『もう自分が幼女とは遠いから、憧れるのかもな』

『シャラップ、ティリノ。それ以上いけない』

「ぴぃ?」

『シオンは姿こそ若い禁断の果実と言った所だが、その実は子供の頃より復讐の刃を研ぎ続けた、この俺よりも遥かにごふあっ!?』

『遥か言うほど年喰ってないわぁっ!!!』

『あと、ルストが冒険者になったの、3年前でしょう』


 時間が時間なので、休憩と一緒にお昼にするらしく準備していたのだけど、ルストさんのカオスティック・スペルにシオンさんのかなりキツイ突っ込みが入った。

 ハーピィ達の前で、火はまずいって思ってくれてるみたいで、水筒からカップにお茶を注いで、保存食らしきパンと干したお肉を取り出す。

 僕らはお昼を食べるという習慣がないので、会議参加ハーピィは体勢を崩し、羽繕いを始めてるのがちらほらと。

 アーラは、気を抜かない様子で、先生たちを観察してるけど。というか、他のハーピィは人間語が解らないから、その辺をアーラに任せてるんだろうな。


『シオンオネーサン、ニンゲン、チガウ?』

『似たような物ではあるんだけど、あたしは魔女だからね』

『マジョ?』

『うーん、見た目は人間と同じなんだけど、魔力の量が倍以上なの。何故か女性しか魔法適正がなくて、男性も生まれるけどそっちは普通の人間なのよね』

『魔力の量と適正は、人間以上エルフ未満といった所だな。高い魔力のせいか寿命が長い者が多く、殆どが人里から離れた場所に集まって暮らしてる』

『面倒も多いからねー。でも、嫌われてるっていうよりは、魔法オタクが多いから実験の為に場所が欲しくて離れてるだけって感じよ』


 へえ、魔女って言うから魔法使いの女性版で、職の事かと思ってたけど、種族の事だったんだ。

 見た目は同じなら、魔力が高いが故の突然変異とか、亜種的なものかな?

 でも、女性だけに特徴が現れるってのも、不思議。だから『魔女』なんだね。


『さっきの魔法陣も、魔女特有の……というか、あたしが生まれた村で発明された特有の魔法でね。そういう一族ごとに変わった魔法技術を編み出してるのが、特徴といえば特徴かな』

『本当に、独自の技術を作り出すからな、普通の人間では魔女の魔法は扱えない』

『シオンオネーサン、スゴイ!』

『そうよ、希少価値なの、ステータスなの! 凄いのよ!』

『これで性癖が普通なら、引く手数多なんだがな』

『引く手数多な研究施設とかに入ったら、ちっちゃい子と遊べないでしょ?!』

『せめて嫌みを嫌みと受け取ってくれ』


 強い……

 なんというか、自分の趣味に、全く悪びれも躊躇もない辺り、本当に潔いというか凄いなあ、いっそ清々しい。

 まあ、浚ってくわけじゃないし、実害は無いからいいんじゃないかな。


「ごはん?」

「ごはんー?」

「あ、こら、二羽とも!」


 お昼をもぐもぐしている先生たちに、遊んでいたものが無くなってうろうろしていたフレーヌ達が近づいていく。

 まだまだ、二羽には警戒心というものが無い。

 何かを食べている、という食欲への興味だけで近づいていく二羽に、慌てて羽繕いしていたハーピィが止めに入った。


『はああー可愛い子が近づいてきますよこれが醍醐味ですよー、いいのよお姉さんの食べる? 食べる?』

『無闇に動物に餌を与えるな、懐かれたらどう、』

『責任もって面倒見ますから!!!』

『野良猫じゃないんだよ?』

『……喰い慣れない物を食わせて、体調を崩したらどうする。ハーピィ達が激怒するぞ』

『あう、それはぐうの音も出ない正論、略してぐう正』


 シオンさんはブレないなあ……

 でも確かに、大人ならまだしも、まだ雛の僕らが人間の食べ物に手を出すのは、少し怖い気がするから、やめた方がいいんだろうなあ。

 食べたいけどねー……生肉以外のごはん……


『ぐすん、幼女に囲まれておやつ食べて癒されたかったのに…。いいもーん、お菓子だけだって心と魔力が癒されるもーん』

『俺の倍近く生きてる奴の発言とは思えないな……』

『なんか仰りまして?! 心はいつだって15歳ですしおすし!!』


 せ、先生の倍近く?! じゃあ、実年齢は40近い……?!

 ……これは、口に出さない方が良さそうです。女性に年齢の話はタブー。

 現に、さっき激しい突っ込みを喰らったルストさんが、まだみぞおち抑えて蹲ってるし。がんばれ。


『…マリョク、ヒナ、イルト。イヤサ、レル?』

『癒されるわよ! 結局、魔力って精神力だからね! 休んだり美味しい物食べたり、可愛いものを愛でたりしてると、急速回復するの!!』

『休む以外の要素の信憑性は、同じ魔法使いとして疑問を投げかけたい』

『っはん、魔法のエキスパートの魔女子さんの言う事を信じないと。ほんとだもーん、だからシスちゃんー、ちょっとおねーさんのお膝でふかふかしない?』

『完全にそれ目当てだろう』

『下心しか見えない……』

『失礼ね野郎ども。本当に癒されると回復効率良いのよ。早くあたしの魔力が回復すれば、会議もすぐ再開出来るわよ。悪い事ないじゃない』

『シスが嫌がったらアウトだな』

『ぴぃ。イーヨ?』

『天使がここに居たっ!!』


 お膝に座るくらい、構わないよ。抱っこされるのも撫でられるのも、愛でられるのも慣れてるし、嫌いじゃないもの。

 よいしょと立ち上がり、とてとて歩いてシオンさんのところまで行く。腰をあげそうになるアーラに、お座りと命じてから。

 既にとろっとろにとろけそうなだらしない顔で、両手広げてカモン状態のシオンさんにちょっと躊躇いを覚えたけど、気付かなかった事にしてお膝に後ろ向きにぽすっと座った。

 うん、やっぱりハーピィと違って普通に足だから、ふかふか具合は負ける。


『はー、やばかわゆす、ぎざかわゆす……。しかもちっちゃい子可愛いだけじゃなくて、ふわふわのケモ属性まで兼ね添える……ハーピィ最高……』

『おい、第三の性癖の扉まで開けかけてるぞ、あいつ』

『そのくせ、ケモノ臭さとかそんなにないのよねえ。何故なのかしら、肉食獣特有のあの臭みがないの……完璧生物かよ……、…すーーーーーー』

『髪に顔埋めて深呼吸まで始めたぞ、完全に変態以外の何だ』

『……オマエラ。…ドウシテ、ソノメス、…ナカマ、シテル?』

『ハーピィに言われるほどだぞ、大丈夫か』

『……返す言葉もありませんが、日常ではごく普通……、かどうかはともかく、とても思いやりがあって気遣いも出来る、良い人なんです……』


 あの、セロさんが顔覆っちゃってるんですけども。しかも、普通かどうかはともかくって。

 一応アーラも危険ではないと理解はしたみたいだけど、別の意味で危険なヤツだという認識が生まれてしまったみたいです。


『……今気づいた』

『今度はなんだ』

『これから、ハーピィとの交流が始まる、ハーピィの卵が生まれやすくなる……、つまり、ハーピィのベビーラッシュが来る!!』

『……あー』

『よし、どうあがいても同盟締結させて、たっぷり種馬ここに連れて来てねティリノ! ひゃっほーい、幼女天国じゃーーー!!』

『お前、言うに事欠いて種馬……』

『…………』

『あっ、ねえねえシスちゃん、ここの集落に滞在するのが男限定はやめてね! あたしここにもう永住するからさ!!』

「ぴ、ぴぃ……」

『おい、そろそろセロが泣き出しそうだ。いい加減静まれ』


 気の毒に……。リーダーの心労、いかほどのものか。

 それにしても、そうか、そういえば僕らが欲しいのはオスだから、加工用の集落を男性用にするというのはありえるんだ。

 うーん、でもこれから何度も国を行き来するであろうティリノ先生の、道中の護衛は今後もセロさん達になりそうだし、そうなると女性出入り禁止は不自然。

 そもそも、僕らの繁殖期は年一回。健全な男性に、それ以外は禁欲っていうのは無理だよね。

 いやそもそも、どれくらいの滞在期間・滞在人数を限定するか…。長期間にわたるなら、ある程度自活する為の畑とかは必要になるし、でもあんまり豪快に切り開かれるのも困る。

 そして簡単に出入りされて、先ほど懸念したように繁殖期だけそっと逃げ出される、とかされても困る。入るだけじゃなくて、出るのにも制限を設けるべきかな?


『……時に、疑問があるのだが』

『なによ、ルスト』

『先ほどからの、シオンの閃光の如き幻想の言の葉を、天舞う鳥人の長は聞き届けているのか?』

「…………ぴ?」

『少なくとも、あんたの言葉は聞き届けてないと思うわ』

『つまり、先ほどからシオンはかなり早口で訳の分からん変態発言を繰り返しているが、シスはそれを理解出来ているのか? と言ってる』

『ウン。ワカル』

『高性能エンジェル…っ! つまり、あたしとシスちゃんに、隔てるものは何も無いってコトネ!!』

『結構心は隔たってると思うぞ』


 アーラは怪訝そうな顔をしてるから、半分くらいは理解出来てないんだろう。ただ、行動と表情が、うん、その、凄いからさっきの言葉になるだけで。

 とりあえず僕は、解った上で大人しくしている。

 回復効率の話が本当かはさておいて、好かれてる分には、そして僕に被害が無い分にはこれくらい、特に問題ないです。


『深淵の如き謎だな……。我らの言葉を理解するならば、何故その口から紡がれる詠唱は不安定なノイズとなるのだ』

『……。…キク、デキル。イウ、ムズカシ、イ』

『おい、シスがルスト語に慣れ始めたぞ……』

『オスのハーピィの賢さって、そういう所にも適用されるんだね……』


 いや、でも今のは解りやすい方だったし。

 たまーに、本当に解らない単語が混ざると聞き取れないから反応できないだけ。


『うーん、頭で解ってても、発音が難しいってこと?』

『ウン。オト、マッスグ。ダス、ムズ、カシイ』

『ああ、片言になってるのは、発声が出来なくて端折ってるだけなのか』

『そうだよね。さっきまで……ハーピィ語だと、かなりすらすら難しい事も喋ってたから。聞く事は出来てるなら、もう少しすらすら喋れそうな気はする』


 出せればね! 難しいから、やってないだけ。

 それが出来れば、もっと楽だと思ってる。まあそうだとしても、他のハーピィ達もアーラも会議に参加してるから、やっぱり翻訳陣はいるけどね。


『ならば……、本来あるべき言葉ロゴス、その白き鳥の鎮魂歌レクイエムであるかの如く、奏でてみれば良いのではないか?』

「…………ぴ?」

『ルスト、読み仮名言語を連打しないでよ。さすがに通じてない』

『む……。少々、闇の波動を強め過ぎたか。今ならば共鳴をするかと思ったが』

『ええと、ハーピィ達の言葉は、鳥の声で歌うように喋っていますよね? それと同じ要領で、歌みたいに抑揚をつけてみたら、喋りやすいんじゃないでしょうか』


 ああ、なるほど。

 歌うみたいに、か。うーん、普段の言葉が歌ってるつもりではないけど、やっぱり人間にとっては歌みたいに聞こえるんだろうね。

 実際、本当に人間の言葉って、平坦で凄く喋りづらいし……

 シオンさんみたいに、抑揚をつけて喋ってくれると、かなり聞き取りやすいのは確か。


「ぴーーー……、ぴぴっ、ぴゅるりー♪」


 どう歌うか考えると同時に、練習がてら適当にさえずる。

 うん、まあ適当でいいんだよね。考えたらおかしくなるんだろうし、いつも木のてっぺんで歌ってるみたいに、思うままに、好きなように。

 それを、僕らの言葉ではなくて、人の言葉に変換して、喉から出せばいいだけ。


『ひとのコトバはむずかしーの♪ とってもひらべったっくーて、こえにだすのがたいへんなーの♪ あ、でもうたってみたらいけるかも♪』

『!! ……本当に、お前の適応力は、異常だな』

『へんなこと? おかしなこと? だれかにとって、こまること?♪』

『いや……変かもしれないが、少なくとも俺達やお前たちは、困らないな』

『だったら、ぼくはぜんぜんかまわなーい♪ ルストさん、ルストさん、しゃべりやすくしてくれて、あーりがと♪ しっこくのソードマスター、すごーいね♪」

『フっ……。闇雲に剣と舞い、悪魔を下すのみが闇の剣士ではない…。また俺の真なるソルジャーを知らしめてしまったか……』

『この通り、ちょっと言葉がこじれてるだけで、根は良い子なんです』

『実家の母親みたいなこと言うのやめてくれるか?!』


 ……セロさんは、お母さんポジションなんだね?

 ともあれ、確かにルストさんがこじらせてるのは、ポーズと言葉だけみたい。

 シオンさんに比べたら、極々普通の真人間に見えるから、なんかもう凄い。

 どうでもいいけど、黒とか闇とかなんでそっち方向に行きたがるんだろう。


『おはなししやすくなったかーら♪ かいぎのまえに、センセにききたいの♪』

『ん、なんだ?』

『さっきのおはなし、あれでいーの? ほとんどぼくのいったとーり、ぜーんぶうけて、だいじょうぶ?♪ ませき、さすがにすくなくなーい?♪』

『ああ、それか。いいんだ、お前が見せてくれた原石を見たら、あれで充分、多いくらいだな。判断基準を示してくれて、助かった』


 いくらなんでも、月に人間の両手ひとすくいは少なくない? 大事な国の特産の原料なんでしょうに。

 聞いてみたら、先生はぱたぱたと手を振り、あれでいいと答えた。


『魔石というのは、質によって等級がある。ざっくりだが、S級を一番上として、A・B・C・Dの5段階だ。まあその中でもピンキリだが、この瑠璃なんかはS級の中でも、更に高ランクだな』

『すごーいの?♪』

『相当凄い。まあ、本当にこの質が全てではないだろうが、これならA級B級も充分に見込める。そんなものが月に一抱えも入ったら、逆に問題だ』


 んんー?

 あればあるだけ欲しいんだと思ってたし、だからティリノ先生も量を絞ったんだと思ったけど、そうでもないみたい。


『目安ではあるが、D級に1の効果があるとして、等級が上がる毎に効果がD二つ分、三つ分と上乗せされていくイメージでいい。勿論、加工した技師や刻み込んだ術師の腕にも左右されるが』

『じゃあ、Sのませきは、Dのませきの5こぶんのこうか♪』

『おおよそな。……だが、値段はそれに準ずるとは限らない』

「ぴぃ?」

『要するに、産出量がB辺りから、がくんと減るんだ。うちの国の場合だが、魔石産出量全体の8割が、DとCになる』

『じゃあっ、Dの5ばいのこうかでも、Sのませきは5ばいのねだんじゃない♪』

『少なくとも、S級の魔道具なんて一般人は勿論、一介の冒険者が手を出せる値段じゃない。原石なら勿論加工品よりは価値が下がるが、それでもそんなものが一抱えなんて量入ってきたら、市場が大混乱する』


 なるほど、ごもっとも。

 あればいいってもんじゃない、の典型例。下手に放出すれば、変なインフレが起こりそう。


『そもそも、こんな良い魔石を魔道具に加工するなら、腕の良い職人に任せたいものだしな。決して一朝一夕で出来るものじゃない、原料ばかり溢れて、闇に流されても問題だから、こんなもんでいいんだ』

『さすがセンセ♪ おべんきょーになったよう♪』

『……それはいいんだが。お前、何気に貨幣制度についてもう理解してないか?』

「ぴぃ?」

『お前たちに、物を金銭で以て売り買いする、という習慣はないだろう。必要な物は自分で手に入れるもので、せいぜい現物の交換か。なんで金のやり取りや、市場についてまですんなり呑み込んでる?』


 あっ。

 しまった、そういえばそうだ。ハーピィは基本、野生動物。『お金を使う』なんていう感覚、あるはずがない。

 ましてや、僕は外の世界を知らない筈の雛。予備知識なく理解する事としては、ちょっと過ぎている。

 うーん、単純に賢い子、という事で流してくれない辺り、先生も決して一筋縄ではいかないおひと。

 先生が、僕の信頼が欲しいと自分の国の不利益までもを流したくらいなんだし、僕もきちんと応えないと、だめだよね。これは。


『んー、んー♪ ……なんでだろう?♪ でもうまれたときから、ぼくのなかにはぼくじゃない、べつのだれかのおもいでがあるの♪』

『うん……? どういうことだ?』

『ぼくのまえに、だれかがいたの♪ ぼくのまえのぼくが、だれだったかは、わかんなーい♪ わかんないけど、ちょっとだけおぼえてーるのー♪』

『…ふうん。成程、シスちゃんは転生者なのね?』

『てんせーしゃ?♪』

『極稀に、生まれる前の自分の事を覚えてる人が居るの。はっきり前世を覚えていたり、本当に薄ぼんやりとだったりで、あんまり一定しないけど』

『聞いた事はあるが、眉唾物だぞ?』

『魔女の集落には、大抵一人や二人居るわよ。そういう人たちのトンデモ発想で、あたし達は新しい魔法開発してるようなトコ、あるもん』

『なんだと?! では、やはりシオンこそが、探し求めていた俺の相棒、漆黒の翼の片割れ……!!』

『残念でした、あたしは極優秀なだけの魔女さんよー』


 ルストさんは、カオスティック・スペル仲間が欲しいみたいです。

 もとい、そーか、別に一切前例がない訳じゃないんだね。

 隠してた訳じゃないけど、どういう立ち位置になるか解んなかったのが、ちょっと解消されてよかった。


『なら、シスは昔は人間か、それに連なる種族だったかもしれないって事か』

『チガウ!』

『…突然なんだ、赤いの。というか、聞き取れてたのかお前』

『オウジ、ワレラノ、アルジ! イマ、ムカシ、ズット!』


 え、ちょっとアーラさん、何を言い出したの。

 当然だろう! とばかりに鼻息荒く、そして自信満々に言うから、どうしたらいいのか解らなくなってしまった。

 えーと、つまり?


「アーラ、ぼくがむかしのおーさまの、うまれかわりだっていってる?」

「それ以外の何がありましょう!!」


 わあ、誤訳は何も無かった。

 いったい、なんでどうしてそうなったのか……


『……良いな。赤いの、その設定貰ったぞ』

「ぴ?!」

『ジジツ!』

『ああ、事実って事にしていい。シスは、かつての森の王の転生者だ。今そう判明した、そういう事だ』

「ぴいーー?!!」

『落ち着け、全て覚えてる訳じゃないって事でいいんだ。ただ、お前が異常に賢いことや、賢いだけでは説明がつかない人間の習慣や金銭の扱い方、それを知っているという事の、良い理由づけになる』


 えーーーーーー?!

 僕の前が誰だったのかは解らないけど、少なくともハーピィでは無かったと思うんだけど?! 人間だったと思うっていうか、そもそもこの世界じゃなかった!


『これ、うそになーりませーんか?♪』

『……どう、ですかね。けれど、言い回しを工夫すれば嘘にはならないかと』


 正義と公正の神官さんから、まさかの抜け道発案ですか?!


『シス君が、自分から森の王の転生者です、と言い切ってしまえば、シス君自身はハッキリ覚えていないから嘘になるよね。でも、アーラさんは完全に信じきっている。そして、そう思える程、シス君はやっぱり凄く頭が良いし、僕ら人間の事をよく理解してますから』

『そもそも、人間を誘い込む一手を打ったのも、お前だろう?』

『んー、うん、それはそう♪』

『自分達の森の豊かさを理解し、それを人間が欲しがると予測し、更に自分達には価値の無い物でも俺達には価値があると最初から知っている。オスで賢いからというのでは説明がつかない。何故と俺が問うて、赤いのが信じている事実を答え、シスがこいつらはこう言って信じている、程度に抑えれば……』

『嘘はなくなるわね。うーわー、更なるグレー文書が出来ちゃうわー』


 それでいいのかしら!!

 …うーん、でもまあ、おかげでただの賢いオスハーピィ、からかつての森の王の再来、ただものではない印象は国のヒトに与えられるかな?

 使えるものは、別に何使ったっていいか。王様はもう、ずっと昔に死んじゃってるから、怒るヒトも居ないだろうし。


『ねえねえ、もりのおーさまって、きらわれてたりしなーい?♪ ぼく、みんなにいっぱいにこわがられるのは、ちょっとやーだな♪』

『……流石に、遠い昔の伝承だからな。ただ、森の王が人間を一方的に支配したり襲って来たりした、という話は聞かないぞ』

『おとぎ話として残ってるくらいだし、割と友好的な交流はあったんじゃないかしら? 勿論、シスちゃんの名の元に、新たな国家がこの森に出来るとなったら、どうしても警戒はするでしょうけど』

『ただ、お前の排除は考えてもしないし出来ないな。お前は森から出ないだろう』

『でなーいよー♪ ぼくらはきがないとね、やすまらなーいの♪』

『ならば、安全は約束されたも同然だ。王国的には、お前を害してハーピィ全てを敵に回す事に、メリットなんぞ一つもない。自由に開発出来ないという意味では邪魔だろうが、もうここに居るんだから、嫌なら全てを諦める以外ないからな』


 んー、とりあえず森を出なければ安全?

 それこそ、魔物絶対殺すマンにさえ出会わなければ、問題はないんだ。

 どんなに制限したりなんやかやしても、居る所には居るだろうから、それは気をつけなきゃいけないね。


『んー、そろそろおっけー。続き行けるよ』

『はやっ?! 1時間も経ってないよ?!』

『だから、シスちゃんの癒し効果で急速回復するって言ったじゃない』

『……信じがたいが、まあいいとしよう。今の設定を踏まえて、続きをやるぞ』

『はーい♪』


 もう設定って言っちゃってる辺りが、笑える。

 かくして、更なる出来レースが再開されるのであります。






 設定(断言)。


 一応断っておくと、シスはかつての森の王の生まれ変わり、ではありません。本人が言っている通り、異世界のどこかの人間です(性別不明)。

 魔女の村に居る転生者もそんな感じでしょう。

 シオンの村に生まれた転生者は、魔法陣にロマンを見出す人間だった様子。

 あと更に断っておくと、ルストは転生者ではありません(笑)




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