会議開始
まだまだ冬の只中だけど、今日はなかなか穏やかな日和。
風も少ないし、…いや森の真ん中の広場だから元々ここに風殆ど吹かないけど。
だいぶ昇ってきたお日様の光が入り始めてて、暖かくなってきた。
そんな場所に作られた、翻訳効果のある魔法陣の上に、セロさんが大きな布を広げて敷いてくれた。本当にピクニックの様相。
その上に、ティリノ先生とセロさん、シオンさんが座る。
ルストさんは、立ったまま。いざと言う時に咄嗟に動くための、護衛役なんだろうね。そういう意味では、別に彼は会議中も必要ない訳じゃないんだと思う。
腰を下ろした三人の向かいに、僕もちょんと座った。そのすぐななめ右後ろに、アーラも。
途端にシオンさんが、口元をぱしっと抑えたけど、ほっとこう。
静かに悶えてろと言った言葉を、忠実に守っているようだし。
「本題に入る前に、だ。悪いがシス、先にお前たちの事情を聞かせて貰えないか? あ、まだ記録しないでくれ、セロ」
「うん? どうしてだい?」
「先に言っておくが、俺はハーピィ側につく。……というか、王宮のクソ野郎どもに目に物見せる」
「え。……えぇー…?」
どうやら先生は、僕との約束を護ってくれるようだ。
よっぽど、今までの扱いが腹に据えかね、そこにトドメをさされたんだねえ…
「考えてみれば、なーーーーんであいつらの利益の手伝いしなきゃならないんだ。命を頂いた事と養われた事は感謝せんでもないが、結果謀殺されかかるならチャラだ、知った事か。弓引かれないだけ、良いと思え」
「相変わらずこじらせてるねえ、ティリノ……」
「無理もないけどね…。僕ら住人や冒険者的には、悪い国じゃないんだけどなあ」
「一見平和…だが、それは――、内なる空間を殲滅しにかかる…悪鬼羅刹の地獄…。“ベヒーモスの肉”を好物とする輩であれば、リヴェロされても仕方ないだろうよ」
「…………ぴー」
「すいません、一見平和でも親族の謀殺や暗殺を考えるような国じゃあ、身内に反逆されても仕方ないかな、って言ってます」
そーですか……
本当に、その溢れる語彙はどこから生まれているのか……。あ、それってつまり頭は良いって事なのかしら。
そして即刻翻訳出来る、セロさんの慣れてる感、すごい。
「一瞬、このまま死んだら王国滅亡レベルの悪霊になってやろうかと思ったが、生きられるならあいつらの思い通りにならず、だが排除は出来ない立ち位置を確保して遠巻きに指差して嘲笑ってやろうかと思って」
「あたし、ティリノのそういう所、ほんと好き」
「……いいのかな…」
「心配するな、ある程度の蜜は吸わせてやるし、毒も混ぜない。あいつらの利益以上に、ハーピィの利益を考えるだけだから」
「わーい! ありがとティリノセンセ!」
「言っておくが、王子を裏切る事があれば、ただでは済まさないからね!」
「一部腹立つのも居るが、解りやすいって意味ではこっちのがマシだしな」
とりあえず威嚇しあうの、やめて頂けませんかね。
すぐに話を脱線させるんだから。まったくもう。
「でも、なんでぼくらのおはなし、さきにするの?」
「今までお前たちがしていた、一応の配慮……オスを年に1人だけ浚って使う、ってルールを、シスがやめようとしてるのは解った。でも、シスは単にハーピィの群れを大きくする為にそうしたい、って訳じゃないよな? それくらいなら、普通のメスだって考えそうなもんだ」
「うん。あのね、ぼくら、すっごくかずがへってるの。さいきんは、ぼくら3羽いがいのヒナ、ずっとうまれてないの」
「今、何羽の群れなんだ?」
「んっと……23羽」
「え、この森全体で、ですか?」
「うん。そうだよね、アーラ」
「はい。そのうち、雛は王子達3羽、それ以上の若鳥は4羽。卵を産める私達適齢期のハーピィは、9羽です」
「残り7羽はもう老鳥か……。思った以上に、少ないな。そんな事じゃないかと思ったが、想像以上だ」
森の覇者、を名乗るにはちょっと恥ずかしい数だと思う。
こんなに広大な、豊かな森なのに、僕らの数は少なすぎる。
餌や環境の問題じゃない。純粋に、卵が産まれない。新しい世代が生まれないのが、全ての原因。
「そんな事じゃないか、って? どゆこと?」
「年に一度の繁殖期に一匹のオスで問題ないなら、シスが賢かろうがわざわざ人間を誘い込む事は無かったんだ。だが、自分達の住処である森をある程度代償としてでも、危険を推してオスを確保する理由があると思ってな?」
「あの……。毎年繁殖期に、男性は確保できてたんですか?」
「んー、いちおう」
「では、何故ここ数年で、シス君達しか生まれてないって事に?」
「きょねんは、ゴブリンだったの。こうびできたの、二羽だけで。卵も、ひとつはかえらなくて、ひとつはかえったけど、しんじゃった」
「王子達の前の年は、オークだったわ。生まれたのは3つで、2つ孵ったけど1羽は悪い物を食べすぎて生きられなくて、1羽は冬を越せなかった。その前はコボルト、生まれた卵は1つだけで、孵ったけれどそもそも食べる事自体出来なかった」
「……。…あの、魔物でも可能なのは解りましたけど、どうしてそんなに卵が少ないんですか? 卵を産めるハーピィは、9羽いるんですよね?」
「交尾前に、オスが死んでしまうの」
「えっ」
本当に、順番に平和的にしてくれればいいんだけど、……いやそれでもオスには酷い災難だろうけど、それが心底ネックなんだよねえ……
苦い顔をするアーラに、僕もため息をつく。
質問してきたセロさんは、口元を引きつらせた。
「私達ハーピィに、長以外の序列はないの。一応、確実に一つは卵をという事で、捕獲してきたハーピィが一番という決まりはあるのだけど、その後は……」
「すっごいむらがっちゃって、とりあいしてるあいだに、オスをころしちゃうの」
「……順序良くという発想はないのか、お前らには」
「思った事はあるけど……どうしても、その時期って気が高ぶるのよ。今年こそ、今年こそって思ってるのもあるんでしょうね。抑えが利かなくなるの」
アーラの言葉に、他のハーピィ達もこくこくと頷く。
殺そうと思って殺している訳ではない。鋭い爪と怪力を持った足を使用した取り合いの結果、死んでしまうだけで……
「でも、順序良く9羽に回されんのも、結構地獄絵図よね」
「殺されるよりは……マシじゃないかな…」
それはそうなんだけどね!!
それはそれで、なんか別の理由でオスが死にそうな気がしないでもない。
「で、そんなことするから、オスがけいかいして、もりにこなくなったの」
「まあ、その時期森に入って、帰ってきた奴がいないからな。事実を知らなくても警戒はするだろ……」
「でも、それでももりにまよいこむまものからって、あんまり良い卵、うまれないの。だから、ニンゲンさんのおてつだいするから、ぼくらもたすけてほしいの」
「人間なら、良い卵生まれるのか…?」
「……しらない」
「卵が孵る可能性は高いのだと思うわ。私やシャンテの年の卵のオスは、人間だったそうだもの。2つ生まれて、両方孵って今もこうして元気よ」
え、そうだったの。
でも、生まれたのが2つってあたり、色々お察し……
「オスのかずがふえて、みんなでとりあいしなければ、卵もいっぱいうまれるし、きょうりょくしてくれたオスも、ころさなくてすむから」
「ほ、本当に安全です…?」
「王子が殺すなと仰るのなら、というか焦らなくても良いのなら、私達だってわざわざ殺したりしないわ。その後の処理だって美味しくないし」
「処理」
「殺してしまったのだから、無駄にする訳にもいかないもの」
「……いや、その辺はいい。詳細に話すな」
「ちなみに、男の人の数が揃わなかったらどーなるの? また取り合い?」
「それはね、ぼくががんばるからね、だいじょうぶ」
まだ試してないけど、頑張れるような気がするから、大丈夫。きっと。
はーい、と片方の翼を上げて言ったら、4人がぎょっとした顔をした。
え、なあに?
「そ、そうか……。顔に似合わず、意外と…」
「というか、複数頑張れるのなら、別に僕らはいらないのでは……?」
「ぴ? みんながおちつけるよーに、おうたをうたうんだよ?」
なんの誤解してんの、あなた達は。
僕は雛なんだから。まだ交尾できるわけないでしょ。
かくんと首を傾げる僕に、誤解に気付いたのかバっと男性陣は視線をそれぞれ別の方向に向けた。
思春期ですか、君達は。
「あー、ごほん。あれだな、なるほどお前たちの事情は分かった。……つまり、お前たちにとっても卵の確保の為に、他の種族とどうにか手を組みたいんだな」
「うん!」
「それくらい、切迫している。…分かった。シス、いいか。これからの交渉で、その辺りは絶対に口にするな」
「ぴぃ?」
「交渉ってのは、弱みを見せた方が負けだ。より必要としている方に、重い条件がのしかかるものなんだ。だから、ハーピィ達にとっては別に困っていないし、場合によっては他の交渉相手が居て俺達でなくても構わない、という姿勢で居ろ」
「……それって、ウソにならないの? セロさん、こまっちゃうよ?」
「嘘にならないさ。ちょっとこれを見ろ」
先生が荷物から、また大き目の布を取り出して、僕らの間に広げた。
そこには、黒い色で絵や文字が書かれていた。
文字は、僕にはわからない。
ただ、その絵のうち、ここだと先生が指差した個所の形は、なんとなく知っていた。
「ここ、ぼくらのもり?」
「そうだ。三方を高い山に囲まれていて、こちら側だけが平地で、一番近い村はここになる」
「うん」
平地になるのは、南東側。やや南より?
村はその平地の幅の、丁度真ん中あたりになるかな。
「ここが、俺が来たカタラクタだ。で、南側には、アバリシアって国がある」
「ぴぃ! おっきいよ?!」
「そう、うちより大きな国があるんだ。更に、山の向こうになるが北から西にかけて、シンセって国があるんだ」
「もっとおっきい……」
縮尺はかなりあいまいなものなんだろうけど、この大きな森を中心にして、3つ国があるらしい。
国境を示す線は、僕らの森と、囲む山から少し離れた所に引かれている。
目測で比較するに、南にあるというアバリシアは、カタラクタの1.5倍。そして北側のシンセは、そのアバリシアのおよそ2倍だ。
「分かるか? この森は、俺達よりも大きな国とも接してるんだ。まあシンセの方は山が阻んで行き来は難しいだろうが、山にトンネルを掘るような事も、出来なくはないだろう」
「すごく、たいへんだよね、それ?」
「お前たちと手を結べるなら、それくらいしたって良いって思える程度には、この森は魅力的なんだよ。木も石も獲物も豊富で、しかもまだ見ぬ魔石の鉱脈が期待できるんだから」
「ぴ?」
「ああ、魔道具の材料に出来る、こういう石の事だ」
先生が、自分のマントを止めている青いブローチをつついた。そっか、それも魔道具の一つだったんだね。
詳しくどういう事が出来るのかはまだわからないけど、凄い技術で、凄い効果を生み出せるというのはなんとなく分かる。
その原料が宝石、貴重な貴石を使うのならば、それを安定して手に入れられるという事は、かなり大事な事なのでしょう。
「最近は、俺の国の魔石採掘量ががくんと減ってる。元々国土も他に比べて狭いしな。でも、他の2国も決して大量に採掘できるわけじゃない」
「なんで? きたのくには、やまがいっぱいだよ?」
「魔石は、魔力が多く宿る場所に出来るものだ。で、魔力が多ければ、そこには魔物が多く住む」
「……キケン?」
「そうだ。特にこの北側の山には、オーガの巣があるってもっぱらの噂だ。腕利きの冒険者だって、一匹ならともかく群れで相手取るのは至難だから」
「ぼくのときのオス、オーガだったよ?」
「…………まあ、森の中なら、ハーピィのほうが強いだろうけども」
あと、多対一だったからだろうね。
そして、やっぱりオーガは向こうの山から下りてきたんだー……
「そういう意味では、本当にシンセが介入してくる可能性は低いが、アバリシアは別だ。あっちからも、そのうち俺みたいな交渉者が来るだろ」
「ティリノは無事が考慮されなかったから、速攻で派遣されただけよね」
「普通はハーピィの繁殖期を過ぎるのを待つだろうな。危険すぎる」
ど、どんまい先生……
おかげさまで、森にいるだけでは解らない、周辺の状況を教えて貰えて、僕は本当にラッキーです。ありがとう。
「正直、うちの国の様々な資材の調達、特に魔石を輸入に頼る事になりそうなのは、かなりマズイ事態だ。魔道具生産がうちの国のウリだけど、原料が無きゃ作れないのは分かるだろ?」
「うん」
「で、アバリシアはそこまで困窮してないだろうが、この森の資源を手中に収めてうちの国に輸出出来れば、そりゃあボロ儲けだ。だから、絶対に来る」
「ついでに、魔道具輸出の優先権とか言われそうだし、場合によっちゃあ技術者の引き抜きも来るでしょうねー」
「カタラクタにとっても死活問題なのに、どうしてティリノ君の謀殺メインになっちゃったかなあ……」
「あわよくば成功すればいい、というのはあるだろうな。あと、浚うのが一人だと知ってるんじゃないか? 俺かお前らの誰かが捕まれば、あとは安全になる」
「闇と混沌に支配された世界の為の犠牲―――と言えば聞こえは良いが、あまりにも“絶望”を与える考え方だな」
「…………お前、もう少し解りやすく話しなさい。王子を煩わせないで」
「それについては、素直にすまん」
「い、いーよ? 今のはなんとなく、わかったから…」
まさかの、先生謝った。
とりあえず、ティリノ先生が人身御供にされた事を、とても不快だと言っている事はなんとなく察した。
何はともあれ、死んでも惜しくない……そんな人を放り込んで、それから改めて交渉に来ようとしてたんだ。自分からやれば、繁殖期の終わりを見計らうよりも、確かに確実だよね。
ただ、僕としてもあまり気分の良いお話じゃない。
人間って、汚い。それだけじゃないことも、知ってるけど。
「更に踏み込んでぶちまけるとな、うちの国よりもアバリシアの方が、対価を気前よく払うかもな。あっちは鉱脈が少ない代わりに食料生産が優秀で、金はある」
「……ふうん?」
「ちょっと。ライバルを持ち上げてどうするのよ」
「いいんだよ。俺が欲しいのはこの森の資源というより、シスの信頼だ」
なるほど。
信頼は、お金では買えない。そもそも、僕らにお金は必要がない。
だからこそ、先生は包み隠さずこの森の周辺状況を教えてくれている。僕らの不利となる発言が出ないように、あらかじめ情報を渡してくれてるわけだ。
自分達と同盟を結ぶのが、最も賢い選択だ、とはあえて言わない。
ただ、僕らを騙す事もしない。更に言えば、先生は僕らよりの立ち位置として、有利な交渉内容に持って行ってくれると言う。
なら、断る理由はないのだ。だいたい、国の大きさは別に僕らにとってはどうでもいい。最大数で9人、男性を貸して貰えればいいだけだもの。
「わかったよ。あ、でももういっこ」
「なんだ?」
「このもりは、どこかのくにのりょーちに、はいってるの?」
「いや、ここはどの国にも属していない。そもそも容易に入ることが出来ないし、ハーピィの支配が絶対的だからな」
「シスちゃん達が棲みつく前は、入ったら決して出られないってもっぱらだったからね。むしろ、ハーピィ達が来てくれて、助かってるくらいなのよ」
なるほど、リスクはあれど、案内人が出来てワンチャン出来たからか。
しかし、僕らが棲みつく前って、いったいどれくらい前なんだろう。そして、何故それをシオンさんが知っている体で話してくれるのかしら。
「こんなものでいいか。俺達がしたのは、事前情報の摺合せだけだ。セロ、何か不正に繋がるものはあるか?」
「……いいえ。むしろ、公平性は保たれたと思う」
ちょっと複雑な顔をしたけど、セロさんは今のやりとりを前提とした交渉会議を不正とはみなさなかった。
これで僕らが他の国の事を知っていて、別に君達との交渉に拘らなくても良いと言った所で、嘘ではないし演技でもない。
知らないのが原因でカタラクタ側に一方的に言いくるめられるよりも、よほど正当性が高まったとさえいえるよね。
……ま、僕らお互いに、カタラクタ側に利益たっぷりにする気がないけども?
それは、そもそもそっちの都合だし??
「不正は無いけど、限りなくグレーよね。カタラクタにとっては、騙されてるのも同じじゃないの?」
「っハ、自分達の息がかかった神官をつけなかったあいつらの落ち度だ」
わあ、先生の笑い方が完全に悪人だあ。
あわよくばはあったけど、成功すると思ってないんだろうなー、国のヒト。
「では、ここからが本番だ。セロ、記録頼む」
「はい。正義と公正の神、エーレの名の元に、嘘偽り無い言葉を記載する事を誓います」
それは、魔法の一種なのだろうか。
両手を組み、祈りを捧げるポーズでセロさんは誓いの一文を口にする。
先生やシオンさんのような、発動語となる部分がなかったけど……そういうものなのだろうね。
神様とかよく解んないから、そういうものだと理解しておこう。
お話する前に、参加者となるこの場の皆の名前を、セロさんは書いていく。
まだハーピィ達皆の名前は言って居なかったので、アーラを始めこの場に残ったハーピィ達の名前も書いてもらった。フレーヌ達は含まない。
代表者は勿論、カタラクタ側がティリノ先生、ハーピィ側が僕。
「先ずは、互いの要望からだな。カタラクタ側としては、この森に自由に入る為の許可と、ハーピィ達による道案内。それから、森の資源の採取を求める」
「ぼくらは、はんしょくきにきょうりょくしてくれる、オスがほしいの。もちろん、あんぜんはかくじつにおやくそくするよ。……あと」
「あと?」
「ぼくらはまだ、ニンゲンのぎじゅつをよくしらないから。だから、ぼくらがほしいといったモノを、ゆずってくれるやくそくがほしいな。もちろん、ぜったいじゃなくてもいいよ、でもかんがえてほしいな」
例えば魔道具とか、服とかだね。
要求を一つにするつもりはない。少しは、緩みを作っておいて貰わないと困る。
じゃないと、ちょっと公平じゃないよね? そっちの要求は、多すぎる。
にこっと笑うと、先生もにやっと笑う。OKらしい。
「了承した、俺達が手にした資源の価値に見合う物であれば、前向きに検討する」
「ありがとー」
「では、次に質問だ。その要求する男性の、条件はあるか?」
「ニンゲンは、決まったつがいと生きるんだよね。でも、ぼくらはつがいをもたないの。だから、すでにメスとつがいになっているかどうかは、といません。オスとしてののうりょくがあれば、だれでもいいよ。かさねて、オヤであるせきにんもいらない。ヒナはぼくらがそだてるから」
「あくまでも、卵を産むための協力者以上の事は求めないという事だな」
「うん。それと、こうびのときにハーピィにひどいことするヒトは、いりません。……まあ、1たい1で、おうたをききながら、どうにかできるとおもえないけど」
くすくす笑うと、確かにそうだとハーピィ達も笑い出す。
あくまでも、僕らは魔物なのですよ。忘れて貰っては困ります。
きちんと、恐怖とまではいかずとも、森の支配者であるという畏怖は感じて頂かなければ。
…という意図は伝わっているようで、先生は笑い、セロさんは苦笑する。
「かずは、むれで卵をうめるメスの、さいていでもはんぶんのかず。おおいぶんには、ぜんぜんかまわないよ」
「了解した。冒険者が良いとか一般人でも構わないとかはあるか?」
「んー、それでどれくらいちがうか、わかんないから、今のところは、どっちでもいいや。こんごようきゅうがふえるかのうせいは、あるよ」
「わかった。重ねて問うが、命の保証は確実だな?」
「もちろん。このむれのおさ、おうじのぼくの名にかけて」
大きく、しっかりと頷く。
いくらなんでも、毎年数人の命を奪われるという交渉は通らない。そこは、確実に僕らが護らなければいけないところ。
「こんどはぼくから。あなたたちがほしいもりのしげんは、どれくらい?」
「…正直、まだ未知数だな。森の中に、正確にどれだけの鉱脈があるか解らない。最初の数年は資源を手に入れるというよりも、調査になるだろう」
「あるていどは、あんないできるよ」
「なに?」
「アーラ。ちょっと、ぼくのたからもの、もってきて」
「え?! よ、よろしいのですか?!」
「この日のためにあつめたの。もってきてー」
「…かしこまりました」
複雑そうな顔をしながらも、アーラは一度立ち上がり、長老木の方へと飛んでいく。
単に、僕が綺麗なものが好きで集めてるって思ってたかな?
確かに詳しく話してなかったもんね。それはごめんなさい。
少しして、アーラは大きな葉っぱにくるまれた僕の宝物を持って戻ってきた。
着地前に僕が翼で受け取る。それから、先生たちの前に広げた。
「あらかじめ、すこしだけさがしたの。これは、あなたたちがほしいもの?」
「……、…す、ごいな。原石とは言え、これだけ美しい色の瑠璃は初めて見る」
先生が以前アーラが見つけてくれた石を手に取り、胸のポケットから虫眼鏡のようなものを取り出して、じっくりと眺める。
あれも、魔道具なのかな?
「すごーい、砂金も結構あるわね! そんなホイホイ拾えるの?」
「このような場所で、探し求めた黒きマテリアに邂逅するとは…! っく、だがまだ……この手にする時ではない……か」
あっ、今回解りやすい。動揺でカオスティック・スペル率が落ちてる。
そして、すっごい欲しいけど自重しますをわざわざ口にするとか、面白いなあルストさんて。
「ハーピィにとっては、魔石は無用の物だろう。なぜあらかじめ?」
「きっとほしいと、おもったから。ほしいのでしょ?」
にっこり笑う。
ほら。僕らは、君達が欲しいものが解っている。それは、君らにとって価値があるものだと知っている。
……だからこそ、持ってけ泥棒なんて言うつもりはないですよ?
「ごきぼうなら、見つけたぶんはあんないするよ」
「…確かに、鉱脈をわずかでも教えて貰えるならば、その分調査の為の時間が減ってこちらとしては好都合だ」
「でも、ほりだすためのどうくつに、ぼくらのつばさでははいれないから。なので、そのなかでのあんぜんのほしょうは、ぼくらにはできないよ」
「ハーピィの案内と、そちらからの命の保証は森の中限定か。そうだろうな」
「くわえて、もちろんもりをこわされるのはこまるから。いちねんにとって良いすべてのしざいのかずは、せいげんさせてもらうよ」
必要ならば、欲しいものの場所まで案内しましょう、教えましょう。
ただし、大量に採ってよしとは間違っても言わない。
貴方達にとっては、のどから手が出る程のお宝の山でしょう? ですが持ち出す事は、一度にほんの少しだけ。
「きっていい木のばしょは、いちねんごとにかえようとおもうの。木だって、そだてなければいつかなくなっちゃうから」
「そうだな、それはこちらとしても困る」
「木と、ませきいがいの石は、つきにひとつのいえがつくれるていど。これはぼくがきじゅんをしらないから、かずをすこしふやすことはかんがえてもいいよ」
「石に関しては運搬が困難だからな、外で家を作る為と考えると、運ぶための道として木を切り倒さないといけない。……その為の道を作る事は?」
「だめー。あるきやすいみちをつくることは、ぼくらにたいするきょういとみなします。…ただ、かこうのためのきょてんはいいよ」
「! ……森の中に、集落をつくる事は許すと?」
「うん。ニンゲンはじめんをあるくから、はこぶのもらくじゃないでしょ? そこらで火をたかれて、もりをやかれるよりはマシ」
「その拠点を作る為の資材は、この森から採っても?」
「それはきょかするね。ただし、たいざいできるヒトのかず、でいりできるかず、どちらもせいげんするからね」
道も無く、切り出したっきりの石を森の外に出すのは難しい。
ただ、レンガやブロック程度に加工して、小さな荷台で運ぶくらいなら、まあ道を選べば何とかならない事もないと思う。木も同様に。
その加工場所くらいは、融通しても良いでしょう。
「ませきにかんして、みつけたのはあんないするけど、ぼくらのしらないこうみゃくもあるとおもう。そのちょーさは、…まあかえりはあんないするよ」
「ああ、しらないものはどうしようもない。採掘の量は?」
「これも、まだぜんたいりょうがわからないから。なので、ひとつのしゅるいにつき、ひとつきに……」
これくらい? と、無言で両翼で、抱えるくらいの量を示してみる。
すると、先生はふるりと頭を横に振った。多い、という事らしい。
次に、だいたい人の両手でこんもりくらい? のジェスチャーをすると、少し考えた後に頷いた。
それを勿論セロさんは見ている訳だけど、苦笑しながら何も言わない。
なるほど、『発言』しか記録していないんだ。確かに、さっき神に誓ったのは嘘の無い言葉を記載する、だから間違ってはいない。
「……ひとつきに、りょうてにひとすくい。それから、こんごはまたかんがえる」
「さすがに少ないな。確かに全体量がまだ解らないが、これは鉱脈の外、川から採取したものだろう? この大きさが零れてるならば、最低でもその倍以上は見込めると……」
「ふまんなら、べつにいーよ。あなたたちではなくて、おとなりとおはなしすることにするから」
自分で頷いたのに、先生は口では不満を表明した。しかも、笑いながら。
僕も察して、笑いながら不満なら別にかまわないけど? と返す。
完全に出来レースです。本当にありがとうございます。
そして、やはり『発言』しか記載しないセロさんは、苦笑している。お互いに嘘はついていないのは間違いないから、突っ込むに突っ込めないみたい。
「……了承した。だが、調査が進み、その結果次第では、もう一度考えて貰えるようにお願いする」
「うん、ばあいによって、じょうきょうはかわるから。おはなしあいは、なんどでもするよ」
にこにこ。にやにや。
どうやら、僕の判断とやりとりは、先生のお気に召すものらしい。
うふふ、伊達に前世の記憶を半端に持って無いのですよ! ……とは、そういえば別に誰にも言ってないけど。
さて、もうちょっと詰めて行かないとね。
不正一歩手前。
が、謀殺目的半分で送り込む方が悪い(ついでに、それに乗ってしまえるシスが居る辺り、運が悪い)
書いてる人間がおばかさんなので、あんまり深く考えず、薄目でぼんやりとお楽しみいただけると幸いです!!
いつだって、深く考えたら負け!!(…
まだまだ会議は続きます。




