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第4章 覚悟と決断の一矢

 突然現れた謎の男は、その巨大な右腕を小柄なビャクの身体に向けたまま、半壊した石屋根の上で立ち尽くしていた。


「あ、アンタ…その腕は!?」


 ダイが見たその容姿は、蒼い遺伝子の発現者だからこそ納得のいく、常人とはかけ離れたものであった。

 朱く燃えるように逆立つ髪、自分が悪者に思えてきてしまうほど透き通った両眼が放つ鋭い眼差し、ダイとは対象的に隆々とした筋肉のみで構成された体躯とそれを覆う空色の背広(スーツ)。そして巨大な右腕だと思っていたものは、男の身体と一体化した異形の(ボウガン)であった。


(―ビャクが夢で出会った、もう1匹の怪物か!?)


「…結構引き離したと思ってたのに、もう追い付くとはオドロキにゃ…!」


 ビャクはまるでこうなることを予測していたかのように呟いた。


「お前…もしかしてずっとこの男に追われて…!?」

「―そうだ。我の予知が正しければ、その娘は大変危険な存在なのだ。この世界に影響が出る前に殲滅する必要がある。」

「にゃ………。」


 ジロウと名乗った男は、あくまで自分のしていることが正しいというように、大変落ち着いた様子で語る。そしてビャクも、彼の言葉を否定することなく立ち尽くしていた。


「ビャクが…危険だって!?で、でもそれは予知なんだろ!?証拠もないのにそんな―。」

「証拠は―その娘がお前と会ってしまったことだ。伊集院ダイ。」


 そう言いながら、ジロウは石屋根からベッドの傍へ飛び降り、その右腕をベッドの上に向ける。ダイはまだ名乗ってもいないのに突然フルネームを呼ばれたことに、驚きを越えて恐怖すら覚えた。


「な、なぜ僕の名前を…!?」

「…お前はまだ自分が何者なのか気づいていないのか?その予言書を所持しているお前は―。」

「おしゃべりが過ぎるのダ!!」


 ジロウの話を遮って、これまでにない怒声をあげたのはビャクであった。


「―アンタが何を知っているのかは知らないけど、アタイは何も悪いことなんて考えていないモン!」


 そういうや否や、ビャクの身体は再び燈色のオーラを纏い、蒼い牙を携えた獣へと姿を変える。その表情は怒りを伴い、その足は床を蹴りながら臨戦状態となっていた。


「…もうアンタから逃げるのをやめル。代わりに、ここでアンタを八つ裂きにしてやるのダ!!!」


 ビャクは蒼い牙を強く光らせながら、ジロウに向かって突進をかける。


「“梵牙(マイトレーヤ)”!!!」


 ジロウの胸元に向かって牙を突きつけたビャクであったが、それは寸前のところでジロウの巨大な右腕によって防がれた。


「…確かに追い詰めたはいいものの、こうも接近されると逆にやりづらいものだ。」


 冷静に戦況を把握しながらジロウは呟き、ビャクの突進の反動を利用しながら大きく跳躍し、陽光の差す宙を華麗に舞う。


「待つのダ!―うぅっ!?」


 慌てて相手を捕捉しようと上空を見上げるビャクであったが、陽光を直視することで眼が眩み、その動きをわずかに止めてしまった。その瞬間―。


「もう逃がさぬ!―“梵弓(マンジュ)”!!!」


 陽光を背に宙で右腕をビャクに向けながらジロウが叫ぶと、弩に翼のようなものと3つの銃口が形成された。そしてその全ての銃口から、蒼い矢の嵐が無慈悲に放たれた。


―ドドドドド!!!


 その瞬間、ダイの目の前でビャクがいたと思われる空間が蒼い粉塵で覆われ、彼女の姿が見えなくなった。同時にその衝撃で半壊していたダイの部屋がさらに崩れ、もはやヒトの住める状態ではなくなっていた。


「ちょ…!や、やめろぉぉぉ!!」


 ダイは部屋や古本のことも構わず、真っ先にビャクがいたと思われる場所を探った。すると蒼い粉塵が次第に掃われていき―。


「…うにゃ…、今のは…結構効いた…のダ…。」


 その蒼い牙に何本か蒼い弓矢を刺されたままの状態で横たわるビャクの姿を見つけた。ダイはビャクの傍にしゃがみこみ、状態を確認する。

 相当ダメージを受けてはいるものの、急所は外していたようでまだ健在であった。


「…ふぅ、とりあえず無事か…。」


(つか、なんで僕はコイツの心配をしてるんだよ…!?)


 一瞬安堵を覚えた自分に戸惑うダイを余所に、ビャクに攻撃を加えた張本人がいつの間にか彼女の頭部に弩の先端を突きつけていた。


「―さて、遊びは終わりだ。」


(で、でも…これではあまりにも理不尽じゃないか…?)


 ジロウがビャクにトドメを刺そうとしたその時、一部始終を見ていたダイは既に行動に出ていた。


「―ま、待てよ…。」


 やせ細ったダイの身体がその場でゆらりと立ち上がり、剛腕の持ち主の前に立ちはだかる。


「アンタらがどんな理由でオニごっこをしているか、僕には関係ないし、知りたいとも思わない。…でも、何の根拠もなしに、ソイツが何の為に生きてきたのかも知らずに命を落とすのを見るのはいい気分じゃない。何より、僕自身がそうなることを一番恐れているから―。」

「…そう、確かにこれは我々の問題だ。お前に全てを話すのはこの後でも遅くは―。」

「ましてや!突然ヒトの部屋と日常を壊され、平穏を奪われた身として、こんな事態を黙ってみていることなんてできない…!」


 やり場のない怒りをあらわにするダイを見て、ジロウはその身を1歩後退させた。


(…こ、これが導かれし者が放つオーラ…!?)


 ジロウがダイの表情をうかがっている間に、ダイの身体が真紅のオーラに包まれ始める。彼が無意識に右手を上空に掲げると、上空から一筋の蒼い光が降り注ぎ、その光の先から何かが高速で降ってきた。


―バシッ!


 ダイの右手には、蒼く輝く歪んだ形状の槍のようなものが握られていた。全体的に蛇のようにうねっているが、その先端はビャクの牙よりもさらに鋭利で、指先が触れただけで真っ二つにされそうな形状をしていた。

 そんな恐ろしい形状の槍を軽々手にし、その矛先をジロウの首に向けさせながら、ダイは静かに且つ高らかに宣言する。




「…僕は、僕の世界を取り戻す為に、僕の手で僕の邪魔をするヤツらを…倒す!!」

続きます。

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