第3章 追う蒼 追われる蒼
そこにいたのはもはや1人の少女ではなく、1匹の獣か何かであった。
蒼い牙と燈色のオーラを纏ったそれの両眼は、驚嘆の表情を隠せないダイの両眼をはっきりと捉えていた。
腰を抜かしたダイとは対照的に、ビャクが据わった様子で口を開く。
「…アタイにこのチカラがある限り、アタイは誰よりも速く、どこまでも遠くにいける―。」
そう言いながら、ビャクは獣のように両足で地面を蹴る仕草をとる。
ダイは放心状態であったが、ビャクの言葉を聞くと同時に我に返り、首を横に振りながら言葉を振り絞る。
「な、なぜ…お前がその力を…!?」
「…それは、アタイにもわからないのにゃ…。」
(まさか…伝説が本当だったということなのか…!?)
「今のアタイが知ってるのは、なぜかアタイはこんな姿になってしまうようになったことと、この世界には砂漠以外のモノがないということ。それと…ずっと前に見た変な夢―。」
(夢…?まさか―)
「…どんな夢だ?」
ダイが息をのみながらそう訊くと、ビャクはできれば思い出したくもないかのように身震いをしながら言った。
「―か、怪物に襲われる夢なのダ…。」
「―――プッ。」
期待していたダイは、見た目が既に怪物と化しているビャクの口からそのような言葉が出るのを聞き、思わず吹き出してしまった。
「な、なんで笑うのだ~!?ホントにコワい夢なのにゃあ~!!」
「だ、だって…。今のお前ならその怪物を返り討ちにできるだろ?ましてや夢なんだから―。」
ダイは笑っていたが、ビャクの眼はあくまで真剣であった。
「その怪物は今でもアタイの夢に出てきて、絶対に真っ暗闇の中でアタイのことを殺しちゃうのヨ…。逃げたくてしょうがないはずなのに、夢の中のアタイはその怪物の方に向かっていっちゃうのダ―。」
そう言いながら、ビャクは獣のような自分の身体を見つめる。
「きっとその怪物のコワさから逃げる為に、アタイはこのチカラを授かったのダ…。そしてこの地を逃げ回っているうちに、ここでダイにーやんと会うことができたのにゃあ~。」
「怪物ねぇ…、……怪物……?」
ダイはビャクの話に違和感を覚え始めていた。そのニュアンスにはダイにも心当たりがあった。
「ちなみに、夢に出てくる怪物はどんなヤツなんだ?」
ビャクはブルッと身体を震わせたかと思うと、蒼い光と燈色のオーラが徐々に弱まっていき、次第に元の姿へと戻っていく。そして思い出したくないことを思い出そうとすることで表情がさらに険しくなる。
「…腕が6本あるのが1匹と、アタイの後ろにもっと大きい腕があるのが1匹必ずいるのダ。…うぅ、思い出すだけで漏らしそうなのにゃ~。」
「!!」
ダイは話の違和感の正体に気づき、今度はダイの方が恐ろしさに身を震わせた。
「ビャク、お前の話をもっと聴きたい。その6本腕の怪物は銀の髪に金の腕を持っていなかったか?」
「うにゃ!?確かにそんな感じだったのダ…。ダイにーやん、なんでわかったのダ?」
(やはり…!)
後者の多腕の怪物には覚えがなかったが、どうやらビャクは自分と同じモノを夢で見ているらしい―。ダイは自分の仮説が正しいとすれば、これが偶然の出来事とは思えなかった。
「僕達…ひょっとすると―。」
―ヒュンッ!!
「あぶナイ!ダイにーやん!!」
「…え?って、うわ!?」
ダイはビャクに突然抱き着かれ、またも床にダイブする形となってしまった。
「な、なんなんだ―って、こ、これは…!?」
ダイが床に両手をつきながらふとベッドの方を見ると、何やら蒼い光を放つ物体がベッドの中央付近に突き刺さっていた。
「ゆ、弓矢…?って僕の本がぁぁぁ!!??」
その1本の蒼い矢は、ダイの古本を完全に貫通した状態で深くベッドに食い込んでいた。まるで即席の墓標を立てたかのように。
「こ、この矢は…も、もしかして”アイツ”がもう来たってことなのにゃ…!?」
「そんなことはどうでもいい!クッソ…僕の本が…!」
ダイはとにかく蒼い矢を古本とベッドから引き抜こうと試みる。
「―うあっち!!ぬ、抜けないどころか、触れないじゃないか!」
「それはムリなのダ…、”アイツ”の矢はそう簡単に折れないのにゃ…!」
「―その通り。意思の弱き者が、我の“梵弓”に対抗し得るはずがない。」
その声は半壊したダイの家の岩屋根の方から聞こえた。
陽光を背にしている為、2人には影しか見えないが、その大きさと声の低さからしてどうやら男性のようだ。そして明らかに普通のヒトにはない特徴が2つあった。影全体を燈色のオーラが纏っていたのと、バランスを損なうほど巨大なその右腕は蒼く輝いていた。
「もう1人の…、グレゴリアン!?」
ダイがそう呟くと、影の主がその蒼くて巨大な右腕をビャクの方に向け、言った。
「―我の名は南波ジロウ。そして孫君ビャク、今度こそ貴様を討ち取る!!」
続きます。