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第2章 世界を知る者

 ダイは一瞬眼を疑った。

 その眼の先に広がる景色が、自分の知っているそれではなかったのだ。

 どんなに遠くまで見渡しても、眼に入るのは熱気で時折形が歪んで見える砂の山のみ。ところどころに今ダイが住んでいるような岩の塊があるくらいで、以前の記憶と共通していることと言えば、相変わらずヒトがほとんど見当たらないことくらいであった。


(…単に僕の記憶違いか?でも確か―)


 ダイはどうしてもその光景に納得がいかず、両眼をひそめ口元に右手を添えながら必死に以前の記憶を探る―。




 それはダイが部屋にこもることを決める直前のことであった。

 確かにもともと部屋にこもり気味であったダイは、それでも日に日に勢いを増す寒波に負けじと、食糧を求めて吹雪の中を定期的に巡回していた。とはいえ、見つかるモノといえば小さくて得体の知れない木の実や果実ばかりであった。


 この不毛の地で贅沢などしている余裕はない―、そう考えざるを得ない状況下のダイは、至極小食であることも助けてなるべく食べられそうなモノを根気よく集めながらそれらを少しずつ消費するという生活をしていた。そして、ダイは苦労の末手に入れた食糧が他のヒトに見つかることのないよう、自然と人目を避けるようになっていた。


 ある日、猛吹雪による寒波と栄養不足による衰弱で知らず知らずの内に体力を奪われていたダイは、部屋のベッドの上で瞼を開くことさえできなくなっていた。そして彼は微かにあった意識の中で考えていた。


(…僕は…、何の為に…この世界で生まれてきたのだろうか………?)


 ダイが脳裏でそう呟くと、まるでその問いに答えるように彼方から幼い声が聞こえた。



「…兄ちゃん、どうかこの世界を正しい形に―。」



 その声を聞いたダイはハッと意識を取戻し、華奢な上半身を起こしながら辺りを見回す。

 そこはなぜか元いたベッドの上ではなく、氷と岩に包まれた天然の冷蔵庫であった。さらに、どういうわけか衰弱しきっていたはずの身体は妙に動きが軽く、体力が戻ったというより今までのことが夢であったという方が納得のいく感じであった。

 そして、その場に立ち上がったダイは左足元に違和感を覚え、その形を捉えた。


(…大きな………本?)


 それを手に取ろうと、ダイの細い右手が古本の表紙に触れた瞬間、ダイの頭の中に何かがものすごい速さで流れ入ってくる感覚を覚えた。



(………吹雪…怪物…氷の…城………?)



 それは誰かの記憶のようであった。

 まるでダイ自身がつい最近体験したことを思い出しているかのように、脳裏で不可思議な景色が再生される。明らかに支離滅裂とした夢にしか思えないはずなのに、なぜかその状況を徐々に理解し始めている自分を不思議に思うダイ。

 もっと続きを知りたい―純粋にそう思ったダイは、迷わずその右手で古本を開く。彼の眼の前に広がるのは見たことのない文字と絵。後者はともかく、ダイはなぜか謎の文字列に戸惑うこともなく一気に読み進めていく。

 そんな彼が最も始めに眼に留まった言葉は―。




「―ダイにーやん?どしたの??」


 砂漠の果てを見つめながら過去の記憶を絞り出していたダイは、背後から聞こえる褐色の少女の声によって我に返る。


「…あ、お前のこと忘れてた。」

「うにゃあ~!ダイにーやんはキチクなのだ~!!」


 ビャクは砂まみれの小さな身体を左右にくねらせながら、なぜか喜びを表現する。



 ―



 それからダイは「着替えタイ!」と駄々をこねるビャクの相手が面倒で仕方がなかったが、延々と騒がれるのもこの上なく嫌だったので、しぶしぶ部屋にあった自分の服の余りをビャクに差し出した。


「わぁ~ありがと!ダイにーやん。」


 ダイの服は細めとはいえ、ビャクの身体には全体的に丈が大きく、彼女の手足の先が見え隠れしていた。その姿を見て一瞬顔をニヤけさせたダイであったが、すぐにビャクから顔を背け、ため息をつきながら言い捨てた。


「…その服はやるから、さっさと帰ってくれ。」

「ガーン!ひどいにゃ~!!」

「僕はここで静かに暮らしたいんだ。お前がいるときっとロクな目に遭わない。それに…僕にはこの本があれば他に何も―。」


 そう言いかけたダイが古本をとろうとしてビャクのいる方へ振り返る。するとそこにはダイの古本の上に右手を添えたビャクがいた。


「で、でもでも…、あたいはね、きっとこの本よりもっと面白いことを知ってるヨ!だって…あたいは”この世界の全てを見たことがある”んだモン!!」


 ダイは幼い少女の大それた発言に口をあんぐりとさせた。

 しかしすぐに戯言だと言うように鼻で笑ってみせる。


「…はっ、まだ寝ぼけてるのか?そんなこと子供のお前にできるわけないだろう?」

「そ、そんなことないモン!アタイならできるモン!!」


 これまでダイの冷たい言葉に対して否定をしなかったビャクが、突然強情な態度を取り始める。そして彼女はその場で両手を床につけながらしゃがみこみ、その身体を燈色の光が包みこみ始めた。


「…え―?な………これは!?」


 ビャクの異変に驚きを隠せないダイ。そんな彼に構わず、ビャクはさらに口元を蒼く光らせながら低くうなり始める。


「うぅ~~~!!」


 彼女の持つ特徴的な左八重歯が蒼い光を強めながら伸び始める。かと思いきや、さらに下の左右2本の歯も彼女の顔を包むほどの長さにまで伸び始めた。それらは歯というよりも牙であった。

 変わり果てたビャクの姿を見て、ダイは古本に書いてあった言葉を1つ思い出した。




(ほ、本当にいた………。蒼い遺伝子を持つ者―”グレゴリアン”が………!)

続きます。

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