怖いから・・・
今日僕たちが通っている小学校で夏恒例の肝試し大会があるとか・・・。
(肝試しかぁ・・・。あんまり気が進まないなぁ・・・。)
僕は半強制的に萌に連れてこられたのだ。
「なぁ・・・。」
僕の気が進まないのはほかでもない。ちょっと前に「きたぐに」の救出劇のテレビを見て、深夜まで全く寝付くことができないことがあったからだ。
「怖いんでしょ。」
「・・・べ・・・別に怖くなんか。」
「無理しなくていいよ。怖いんでしょ。」
「・・・。」
僕は目をそらした。まぁ、これをやったら萌は即決めつけるだろう。まぁ、決めつけられても、間違っていないから何とも言い返しようがないのだが・・・。
「萌ちゃん。」
そう呼ぶ声で僕たちは振り向いた。そこにいたのは二ノ橋美萌だった。
「美萌ちゃん。おはよう。」
えっ。時間的におかしくない。今こんばんわだよ。そう二ノ橋が言ったのを聞いて、僕も初めて変だと思った。あれ。僕ってバカ・・・。まぁ、バカだからしょうがないかぁ・・・。
「ねぇ、ちょっと萌ちゃん話があるんだけど・・・。」
二ノ橋は萌の耳元でそうささやいて、萌をどっかに連れて行った。ねぇ、ちょっと。僕一人にしないで・・・。
そのあと萌がどういう話をされたかというと、
「ねぇ、一度に入ることができるのは二人まで何だって。ねぇ、萌ちゃん一生のお願い。ナガシィ君と一緒に入っていい。」
「えっ。いいけど、ナガシィ大変だよ。男の子のくせにこういうこと弱いから。」
「よわしていいよ。むしろ、私のほうがこういうこと強いから。」
「・・・。それだったら私と一緒に入って。私も弱いから。」
「へぇ・・・。ナガシィ君の前じゃそういうこと分からないようにしてるのに・・・。」
「いや、ナガシィにはもうばれてるから・・・。」
過去形だった・・・。まぁ、そこはいいかぁ・・・。
「で、いい。」
もう一度聞かれた。
「別にいいよ。でも、なんでナガシィ君なわけ。智香ちゃんは今日来てないの。」
「智香、バテちゃったらしくて。だから、一緒に入る人がいなくてさぁ・・・。夏紀とか思ったんだけど、夏紀も来てないでしょ。綾とは入る気ないし。萌とはなんか嫌だし・・・。」
「なんでよ。」
「・・・だっていっつもいっつもずるいじゃん。いつもあんなに仲良くナガシィ君と話せて。少しはあたしにも話させてよね。」
「・・・えっ。ナガシィのこと。」
思わず大きな声が出た。それを阻止しようと二ノ橋はあわてて萌の口をふさぐ。
「萌ちゃんがナガシィ君のこと好きなのも知ってるけどさぁ、うらやましいのよ。ナガシィ君と話せて。あたしなんかあんまり話したことないじゃん。だから今日だけ。ホント。今日だけでいいから、ナガシィ君の隣あたしでいい。」
「・・・はぁ。分かったよ。でも、ナガシィのこと取らないでよね。後、ナガシィはさっきも言ったけど、大変だよ。」
「取らないって。扱いは萌ほどうまくないと思うけどねぇ・・・。」
すぐに戻ってくると、
「ナガシィ。美萌ちゃんが一緒に入らないだって。」
「えっ。萌は。」
「私は綾と一緒に入ることにするから。」
「あっ。ちょ・・・。」
(もう・・・。半強制的に連れてきてここに来たらこれかよ・・・。萌のやつ。いったい何考えてるんだ・・・。)
「ナガシィ君。怖いならあたしが守ってあげるよ。」
「別に怖くなんかないよ。」
でも、心配してくれているのはありがたい。ちょっと飛びつきたい気分にもなったけど、それやったら萌が許さないよねぇ・・・。ていうか、後でなんかやらされそう。
さて、二人ずつ順番に並んで、中に入ろう。使っているのは普段使っている学校校舎。だけど、夜の学校っていうのはここまで変貌するものなんだなぁ・・・。本当にお化けでも出るんじゃないかなぁ。そう思えて心配になる。グリーンベルトの入り口から後者の中に入って、まず最初の突き当りを左に曲がる。一回は理科室とかっていう教室があるところだけど、まだ使ったことがないから、どんなことをするのかはわからない。でも今僕が興味を持っている恐竜も出てくるのかなぁ・・・。できるだけ二ノ橋にしがみつかないでおこうと思っても、しがみつきたくなる。その気持ちを押し殺して、二ノ橋のすぐ後ろを少し小さくなりながら、歩いていた。
「ナガシィ君。そんなに怖い。」
「・・・う・・・うん。」
「怖かったらあたしにしがみつくぐらいいいからね。」
(むしろしがみついてもらいたい・・・。)
「いいよ。別に・・・。」
本当。しがみつきたい。僕は本当にこういうものが苦手なんだなぁ。遊園地に行った時にお化け屋敷に入ろうとしないのも、心の中でお化けを怖がっているからかなぁ・・・。入らない理由が今やっとわかった気がする。
理科室の中に入って、最初の迷路みたいなところ・・・。
「ハッ。」
声を立てえてうずくまる。何かがあたった。
「ナガシィ君。そんなに怖い怖いって思ってるから怖いんだって。怖くないって思えば怖くないよ。」
「そんなのできるわけないじゃん。どこどうやったらそう思えるわけ。」
半分泣きそうになりながら二ノ橋に問う。
「・・・できるって。だから、ファイトファイト。まだまだ先長いよ。ここで泣き崩れてるの萌ちゃんに見られたくないでしょ。」
確かに・・・。萌に見られるのだけは嫌だ。でも・・・。
「なぁ、二ノ橋。これ絶対に言うなよ。」
「分かった。萌ちゃんにも綾ちゃんにも言わないよ。」
二ノ橋が手を差し出したので、その手に甘える。今本当に自分の中で甘えたい気持ちマックス。初めて握る女の子の手だった。ギュッと握りしめて、次の区画に回る。
しばらく歩いて、歩いて。また別の教室。もう本当に嫌だ。ときどき先生たちが脅かすために出てくるけど、本当に嫌だ。いくら先生の変装と分かっていてもなかなか慣れない。ねぇ、誰か助けてよ。ガサッ。その音で足が凍ってしまった。何を必死になっているのか知らないけど、二ノ橋を手で探る。何かをつかんだので、ギュッと握る。
「ちょっ。痛いな。」
「あっ。ごめん。」
下に目をやると二ノ橋の前に誰かが立っているのが分かった。恐る恐る上に目をやってみると、
「・・・イヤァァァァァァァァァァァァァァァァァ。」
目を閉じて、二ノ橋の抱きついた。怖くて自分でも何をしているのか半分分からない。でも、抱きついたのは分かった。
「・・・。カワイイ。」
二ノ橋がそう言ったのが耳に入って来たけど、すぐに忘れた。今はそんなこと覚えられることではない。
何か二ノ橋から離れることができなくなってしまった。しかし、このままでは二ノ橋が歩きづらいから、離れる。そして、また別の区画。
「ナガシィ君。ここが終わったら最後だよ。」
「あ・・・。早く行こう。」
ここは何もないのかなぁと思って通り抜けようと少し小走りになる。でも、何もないのもちょっと不気味・・・。そう。もう何もないと思っていた自分がバカだった。暗がりに目が慣れていたけど、周りなんか気にならなかった。もうちょっとで出口ってところで、何かにぶつかった。
「えっ・・・。」
「ナガシィ君・・・。ッ。」
後ろから来た二ノ橋が僕があたったものに懐中電灯を向けた。そこにはとても言葉じゃ表せないものがあった。
「う・・・。」
もう泣く。二ノ橋がこのあと萌に言っちゃうかもしれないけど、関係ない。もう我慢の限界。
「イヤァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァッ。」
「キャアァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァッ。」
このあと何が起こったんだろう。二ノ橋は僕の手を握ると一目散に走りだした。でも、僕が足が全くいうことを聞かない。すぐにずっこけて、二ノ橋の上に折り重なるようにして転んだ。
「・・・。ナガシィ君・・・ちょっと。どいてよ。」
僕にはその声が耳に届いていない。僕が覚えている限りそのままだった。
ガバッと起き上がるとそこは布団の上だった。なんでここにいるのかなぁってことを考えてみた。昨日肝試しをやって、それからどうしたんだっけ・・・。はぁ、なんか何も思いだせない。誰か昨日のこと知ってる人いないかなぁ・・・。
「ようやっと起きたの。」
そう言って、僕の部屋に入って来たのはお母さんだ。
「もう。泣き疲れたなんて・・・。もう平気。悪い夢でも見てたんじゃないかなぁ。」
「夢・・・。」
「そう。うなされてたよ。すごくね。夜中にキャアなんて叫ぶから飛んできちゃったじゃない。」
ふと変に思って時間を見てみると時間はすでに朝6時。あれ。あれって本当は夢だったんだろうか。夢にしては結構リアル感があったような気がしたけど・・・。
その頃、
「フフフ。ああ。ナガシィ君があたしに抱きついたり、手を握ってくれたり、しまいにはあたしの前でたくさん泣いたり、眠っちゃったり。ホント。ナガシィ君ってカワイイんだから。ますます好きになっちゃうじゃん・・・。」
(あんなにカワイイ男の子・・・。他にいるかなぁ・・・。)
二ノ橋にとってはとってもいい夏の思い出であった。
このあと永島のことが萌たちに伝わるのは時間の問題でした。そんなにものが怖い永島君ですから、これもまたいじられる要因の一つになりましたよ。
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