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ライダーハウスの怪

作者: 遠山枯野
掲載日:2026/10/07

 大学生の夏休み、私が北海道を1カ月かけてツーリングで巡っていた時の話だ。


 貧乏旅なので宿泊はキャンプかライダーハウスであった。特に、雨の日はできるかぎりライダーハウスを借りることにしていた。


 その日、富良野の近辺に差し掛かったころ、夕方から雨が降り出した。次第に強くなる雨脚に不安を感じながらも、雨合羽を着て、視界の霞む林道を走り続いていると、街が見えてきた。日は暮れかけており、雨は相変わらず降り続け、街の街灯の明かりもぼんやりと霞んでいた。


 ライダーハウスの位置はある程度あたりがついていた。街に入ってすぐに、目当ての場所は見つかった。裏通りに地元の人が通うような小さな銭湯が建っていて、それと同じ敷地内に設置された小屋であった。


 銭湯の受付にいた管理人のおじさんに格安の宿泊料500円を払って、鍵もついていないその小屋に入った。6畳ほどの畳の部屋にその日は私一人であった。部屋の壁際に立てかけられたラックにバイク雑誌が数冊と旅の書き込みノートが並んでいる以外は何もなかった。


 90年代は賑わったと言われるライダーハウスだが、近年のバイク離れからすれば、こんなものだろうか。私はコンビニで買った弁当を食べて、ビールを飲み、読書をしているうちに夜の10時過ぎになったので、そろそろ眠ろうかと、寝袋を出した時だった。中年の男性が入ってきた。ライダースーツを着ており、ヘルメットを脇に抱えていた。


 私たちは二人で話をした。現在、乗っているバイクがお互いに同じ車種であることが分かった。色も同じである。違いと言ったら、私の方が年代の新しいモデルであることぐらいである。男性も同じように旅をしているらしい。


 バイク歴や訪れた土地の話、当たり障りのない身の上話がほとんどであったが、男性が、一時期、犯罪を請け負う闇のバイトをしていたことがある、という話が印象に残った。


 男性も明日の朝が早いというので、1時間ほど話をした後に消灯して、寝袋に入った。


 次の朝、目を覚ますと、男性はいなくなっていた。窓から指す日の光で外はすでに明るくなっているのが分かった。雨はすっかり上がっているようだった。


 男性のヘルメットがある。まだ出かけていないのだろうか。最初はそう思ったが、私のヘルメットが無くなっていることに気付いた。まさか、間違えて被って行ったのか。そんなことは考えづらい。


 外に出るとさらに驚いた。私のバイクがない。


 確かに私のものと色・形のよく似たバイクが一台だけ目の前にあるのだが、よく見ると違うのだ。


 ポケットに手を入れると、鍵がなかった。まさか、あの男性だろうか、何を考えているんだ。


 バイクをよく見ると、カウルの一部が欠けている。ミラーも割れていた。そして、ブルーの車体に赤い液体が付着していた。


 ヘルメットにも赤い血痕が付着しているではないか。


 まさか、恐る恐るナンバープレートを見た。私の相模原ナンバーであった。ボルトでしっかり止まっていた。

 私は夢を見ているような心地になり、足元がふらついた。


 銭湯の方から管理人のおじさんが歩いて近寄ってきた。


「おはよう。昨晩はよく眠れたか。」


「おはようございます。」

 私は返した。


「そうそう、昨日の夜中にさあ、この近くでひき逃げ事故があったんだってよ。被害者の傷のつき方からして、犯人は大型バイクだとさ。ブルーのバイクを近くで見たって、目撃情報もあったんだ。物騒だなぁ。あんちゃんも気をつけなよ。」


「あの、昨日、もう一人、宿泊してましたよね。」


「はあ?受付に来たのはあんただけだったぞ。さては、無断宿泊者か。あまり遅い時間だと出られないんだよ。まあ、ボランティアみたいなもんだから、多めにみてっけどな。」


 私は怖くなって、荷物をまとめ、そのバイクで走り出した。もしかしたら、自分が見知らぬうちに人をはねてしまったのでは、という錯覚に陥った。


 パトカーのサイレンの音が鳴り響く中、町を出てしばらく走ったが、パトカーに止められて、逮捕された。


 事情を話すと、ヘルメットに着いた髪の毛から、DNA判定をしてもらい、なんとか無実を証明できたが、一度、逃げてしまった印象は悪かったようで、こっびどく叱られた。


 私が乗っていた犯人のバイクは、ナンバープレートのみ返してもらえたが、当然のごとく押収された。足の無くなった私は、その日の取り調べで遅くなったこともあり、ライダーズハウスまで送ってもらい、そこでもう一泊することになった。


 その日も宿泊者は私一人であった。私は何気なく、部屋に置かれていた旅のノートを開いた。昨日の日付で書き込みがあった。ある住所が書かれていた。


 次の日、私は鈍行列車を乗り継いで、2時間以上かけて、ノートに書かれていた場所にたどり着いた。石勝線の無人駅で下りて、50mほど歩いたところにある草むらの陰に私のバイクが停まっていた。私はナンバープレートを取り付け、バイクで苫小牧の港まで走った後、フェリーに乗って戻ってきた。警察にこのことは知らせていない。


 あれから15年たったが、犯人が捕まったという知らせを聞いていない。

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