ふとした時に思い出す
お忙しい所ご足労頂いてありがとうございます。わたくし、こういうものでございまして。
「む、これは痛み入る。令和、歴史、新聞……でござるか。それがし、松平伊豆守信綱と申す」
はい。伊豆守様は島原の乱鎮圧の功績が後世にまで残る偉業として語られておりまして、この度は是非、乱についてのお話をお聞かせいただければと思いまして。
「左様でござるか。まぁ某は隠居した身、老中職も退いておるゆえ、そう堅苦しくなさらずとも結構。左様か、あの、島原の一揆の話でござったか」
はい、島原の乱についてです。
実はあの島原の乱、ただの百姓一揆やキリシタンの反乱ではなく、裏でスペインとオランダが絡んでいるのでは、という見方をする者がおりまして、伊豆守様にそのあたりの真偽も含めてお話を伺いたい、とそう思った次第でして、はい。
あぁそうそう、伊豆守様のお口に合いますかどうか、こちらはYOKMOKのバターロールという、西洋の菓子でございます。
「む、これは痛み入る。……なんとも面妖なる菓子でござるが……ほほう、これは美味。うむうむ、キシャどの、と申したか。先日の文にあった件、島原の乱に『いすぱにあ』と『おらんだ』が絡んでおるやもしれぬ、とのことであるが、これは正しくもあり、誤りもある」
正しくもあり誤りもある、とおっしゃいますと?」
「もう一国、『いんぐらんど』も絡んでおる。かの国の女王、『えりざべす』とその後継たる第六代『じぇいむず』なる王、それにいすぱにあの王第四代『ふぇりぺ』、おらんだの総督『へんどりっく』も絡んでおる。実のところを申せば、あの戦は我が日の本の戦だけではない。いすぱにあとおらんだ、いんぐらんどの代理戦争の側面もあったのだ。……記者どの、この『ばたあろおる』なる菓子、もう一本頂いてもよろしいか」
えぇえぇ! もちろん、そちらにある分はすべて差し上げます!
その、そんなに多くの国が絡んでいたんですね?
「左様。ことの発端は、織田信長公の時代にまで遡る。信長公は『るいす・ふろいす』なる宣教師を重用しておられたが、これはひとえに南蛮の軍事技術、知識、武器を手に入れんがため。その路線を継承したのが、秀吉公ということであるが……秀吉公と信長公は、いすぱにあと強固に繋がっておった。特に秀吉公の明国攻略の野望は、いすぱにあの王ふぇりぺの野望と重なるところもあった。いすぱにあ王は、日の本の武士達を傭兵として雇い入れておったこともある」
信長と秀吉のバックに、スペインがついていたんですね? それに侍が傭兵だなんて、知りませんでした……。
それじゃあ、家康様のバックにもスペインが?
「対する権現様、神君家康公に近づいたのは、いすぱにあと犬猿の仲であったおらんだといんぐらんど。切支丹も大きく二つの派閥に別れておったようでな。特におらんだは、いすぱにあとの戦争で手痛い目に遭ったようで、犬猿どころか不倶戴天の仇同士のようなもの。おらんだの商人は神君家康公に、いんぐらんど製の最新の武器を卸す話を持ちかけたのでござる。賢しいことにおらんだは商人の国でな。いすぱにあと違い切支丹を増やさぬ故、日の本において急増しておった切支丹に頭を悩ませておられた権現様、大御所様、上様にとって実に都合がよかったのだ」
オランダは布教をしなかったんですね?
そう言えばイギリスとオランダはプロテスタントの国で、スペインはカトリックでしたか……。
「いすぱにあの王は、この世の国すべてを切支丹の信徒にして、『でぃおす』なる神に捧げるという野望があったようでな。そのために明国の攻略を最終目標としていたようじゃ。明国、今は清国であるが、かの国の攻略のための足がかりとして、この日の本を我が物にせんとしておった」
そ、そんな事考えてたんですね……スペイン、っていうかハプスブルグ家、怖いですね……。
「左様。して、島原の乱は……あれは松倉長門守の失政に端を発するものではあるが……実をいうと、旗頭となった益田四郎時貞が豊臣秀頼の落胤という噂があってな。これに激怒されたのが春日局様、上様の乳母であられたお方だ。あのお方は明智光秀の縁者ということもあってな、山崎の戦いで光秀を討ち取った豊臣に対してはひとかたならぬ恨みを抱いておられた。故に、これこそ明智光秀の仇とばかりに、一揆軍を鏖殺せよとのお下知をくだされてな」
えッ!?
いや、あの、益田四郎時貞って、その、天草四郎、ですよね?
天草四郎が、豊臣秀頼の子供だったんですか?
「いやなに、そういう噂があった、というだけの話じゃ。真偽の程はわからぬが、まぁ大阪の陣の後にも『花のようなる秀頼様を、鬼のようなる真田が連れて、退きも退いたり加護島へ』なる歌まで流行る有り様であった。大阪の陣で秀頼の首を穫れなんだのは、大御所様、秀忠様にとっても痛恨であられたようだの」
真田……あ、真田幸村の子供の、真田、えっと……そう、真田大助?
「真田信繁の子、幸昌であるな。まぁ、ただの噂じゃ噂。じゃが、いすぱにあにとっては噂で充分。かつて昵懇の仲であった豊臣家の遺児を担ぎ上げる、という機会があれば、かの強欲の国が逃すわけがない。一揆軍の切支丹を密かに支援しておったようじゃ」
スペインが、一揆軍の、その、天草四郎を支援してた、と?
「左様。島原半島の突端にある原城から、いすぱにあの軍艦で益田時貞を逃がす算段もあったようじゃな。この情報はおらんだより上様にもたらされてな。天草と島原の間、角力灘におらんだの艦船を配置したのも、おらんだの提案よ」
ひえええ、島原の乱にスペインとオランダが、そんな形で絡んでたんですか。
「切支丹は捨て置けぬ。かつて肥前の大村純忠が、許しも得ずに肥前の長崎を『ろおま教皇』なる切支丹総本山に寄進した事件もあった。肥前の百姓どもも多く奴隷として売られておった故、切支丹どもを日の本より追い出さねばならぬと、某が上様にそう進言した」
伊豆守様が、ですか。
「板倉内膳殿は乱の鎮圧に失敗。某が直接島原へ赴くことになった。我らも大阪の陣の二の轍は踏まぬ。益田時貞の首を取って、いすぱにあの属国であった、ぽるとがる商館の前に晒したのじゃ。長崎の出島にぽるとがるの毛唐どもがいたが、切支丹どもの一揆を幕府がねじ伏せた事で、いすぱにあの野望もついえた、というのがことの顛末じゃな」
い、いやぁ……予想もしなかった展開で、びっくりしました……。
その、天草四郎が秀頼の落胤で、実はスペインとオランダの代理戦争で……って、まさか島原の乱にそんな世界の大国が絡んでるなんて。
「この日の本で起きておった事の多くに、南蛮の列強どもが絡んでおる。なんじゃ、令和の世には伝わっておらぬのか」
幕府の弾圧に苦しんだキリスト教徒が武力蜂起をした、っていうくらいしか教わらなかったですね。
「左様か……島原一揆についてそれがしが語れるのは、せいぜいこれくらいじゃ。しかし、益田時貞、か……忌々しくも懐かしい者の名を思い出させてくれたものよな。」
あ、あの、すみません、その、なんと言いますか……知らないことばかりでした……。
今日はその、お忙しい所ありがとうございました。
今回は、歴史IFものです。
「知恵伊豆」として知られる松平伊豆守と島原の乱、その背後にあった世界規模の陰謀とは? という、陰謀論っぽいものに挑戦してみました。




