第8話「量産型天使兵」
戦場に投入された新戦力は、静かだった。
白い装甲。
無駄のない動き。
それは一見すると、かつての“彼女”と同じ存在に見えた。
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だが主人公は、すぐに気づく。
違う。
これは彼女ではない。
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動きは完璧だ。
判断も、射線制御も、戦術処理も正確。
だがそこに“揺らぎ”がない。
いや、正確にはこうだ。
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「揺らぎを削除された存在」
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無線が流れる。
「量産型天使兵、展開完了」
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主人公は息を呑む。
(量産……?)
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戦場が動き出す。
だがその動きには、圧がない。
敵を圧倒しているのではない。
ただ“処理している”だけだ。
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敵軍は一瞬で異常に気づく。
しかしその反応は早すぎる。
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「……違う」
敵司令部の通信が途切れかける。
「これは“彼女”ではない」
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その判断は正しい。
そして、致命的に遅い。
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戦場の空気が変わる。
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敵側に“本物”がいる。
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それはまだ出ていない。
だが誰もが理解している。
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この戦場には、まだ終わっていない“中心”がある。
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量産型は崩しきれない。
戦況は均衡する。
いや、正確には——
押され始める。
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主人公は後方でそれを見ていた。
(負けてる……?)
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そう。
初めて、この戦場で“敗北”が発生している。
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敵は学習していた。
量産型の限界を。
天使演算体という“現象”の不完全な再現を。
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そしてその先にいる。
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“本物を超える何か”を。
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通信が乱れる。
「前線崩壊!押し返されている!」
「再編間に合わない!」
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量産型が倒されていく。
静かに。
確実に。
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主人公の胸が締め付けられる。
理由は分からない。
だが理解できてしまう。
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(これが……“違う彼女”の死か?)
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違うはずなのに。
同じ形をしているだけなのに。
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痛みだけは本物だった。
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戦場は崩れ始める。
軍は劣勢に回る。
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そしてその瞬間。
主人公は理解する。
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この戦争はもう“勝てる構造”ではない。
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彼女がいた頃だけが、
唯一の均衡だった。
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今は違う。
敵の方が、強い。
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だからこそ——
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彼女の“本体”が必要になる。
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だがそれは、もう存在しない。
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あるいは、まだ存在しているのかもしれない。
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戦場は崩壊へ向かう。
そして主人公は気づく。
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(俺は……ここで初めて“使う側”になる)
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その瞬間から、
記憶はさらに削れ始める。




