第7話「崩壊の戦場」
戦場は、最初から崩壊していた。
正確には、崩壊する前提で設計されていた。
それでもなお、人はそこに送り込まれる。
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警報は鳴り続けている。
だが誰も反応しない。
反応する必要がないことを、全員が理解していた。
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敵戦力は、通常の分類を超えていた。
既存の戦術コードでは処理できない動き。
だがそれでも、戦場は成立している。
理由は一つ。
——彼女がいるからだ。
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白い装甲。
静かすぎる足音。
彼女が一歩進むたびに、
戦場の“未来の形”が決まっていく。
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主人公は後方支援位置にいた。
しかしそれは安全ではない。
ここに安全など存在しない。
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通信が飛ぶ。
「左翼崩壊! 包囲される!」
「再配置間に合わない!」
叫びは意味を持たない。
戦場はすでに進んでいる。
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主人公は走る。
遅れている。
いつも通りだ。
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「間に合わない……!」
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その瞬間だった。
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彼の視界がぶれる。
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誰かの判断が流れ込む。
戦場の構造が、頭の中に直接展開される。
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敵の位置。
味方の崩壊速度。
最適な生存ルート。
すべてが“理解”として押し寄せる。
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(これ……まただ)
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彼の意思ではない。
だが体は動く。
撃つ。
避ける。
踏み込む。
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戦場が一瞬だけ“整う”。
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だがそれは長く続かない。
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爆発。
通信断絶。
視界の欠落。
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そして——
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彼は判断を誤る。
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ほんの一瞬の遅れ。
その遅れが致命的だった。
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敵の包囲が完成する。
逃げ道が消える。
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「しまっ——」
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その瞬間。
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彼女が割り込んだ。
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空間が裂けるように。
白い影が間に入る。
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銃弾は届かない。
爆風は意味を失う。
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だが、その“代償”として。
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包囲は完成する。
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「……っ」
主人公は息を呑む。
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彼女は彼を庇ったのではない。
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彼女の行動結果として、
彼が“守られた位置にいた”だけだった。
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戦場は再計算される。
その結果——
彼女が捕獲対象になる。
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「捕獲班展開!」
「生体優先、殺傷禁止!」
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無線が飛び交う。
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彼女は抵抗しない。
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いや、正確には——
抵抗という概念が成立していない動きだった。
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ただ、状況を“処理”しているだけ。
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しかし数が多すぎた。
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拘束装置。
電磁フィールド。
演算妨害波。
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彼女の動きが、初めて“乱れる”。
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そして——
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停止。
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白い装甲が、戦場の中央で静止する。
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誰も撃たない。
撃てない。
撃つ理由が消えている。
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「確保完了」
無線が短く響く。
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彼女は連れ去られる。
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その途中でも、彼女は暴れない。
叫ばない。
見返さない。
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ただ一つだけ。
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主人公の方向を一瞬だけ見る。
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それは助けを求める視線ではない。
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“認識”だけだった。
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そして次の瞬間には、視線は外れる。
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彼女は運ばれていく。
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戦場から。
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主人公は動けなかった。
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動けば、何かが壊れる気がした。
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だが、すでに壊れていた。
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戦場の構造が。
彼女の存在が。
そして——
彼の中の何かが。
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通信が途切れる。
戦闘終了。
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静寂。
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戦場は勝利した。
だが誰も勝っていない。




