第2話「隣に立つ資格」
彼は軍に志願した。
理由は、たった一つだった。
——彼女の隣に立つため。
それ以外に説明できる動機はなかった。
正義でも、義務でもない。
ただ、あの光景の中にいたいという衝動だけが残っていた。
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軍への登録は淡々と進んだ。
適性検査。
戦場履歴の照合。
精神安定性の確認。
どれも形式的なものだった。
結果はすぐに出る。
「前線配属」
それだけだった。
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配属先は、すでに“完成された戦域”だった。
そこには、例の存在がいる。
天使演算体。
正式名称は記録されていない。
呼称も、部隊によって微妙に違う。
だが誰もが同じ意味でその名前を使っていた。
——戦争を終わらせる存在。
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初めて同じ部隊に入った日。
主人公は、彼女を遠くから見た。
白い装甲。
静止したような立ち姿。
戦場の中心にいるはずなのに、
彼女の周囲だけが異質な静けさを持っていた。
誰も近づかない。
近づけないのではなく、
近づく理由が消えているような空間だった。
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出撃命令は簡単だった。
「前進。敵拠点の制圧」
それだけ。
だがその言葉は、もはや意味を持たない。
結果は最初から決まっている。
彼女がいる戦場では。
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戦闘が始まる。
いや、正確には“始まる前に終わっている”。
敵の砲列がこちらを捉える前に、
射線が逸れている。
包囲網は組み上がる前に崩れる。
銃弾は飛ぶ前に軌道を失う。
そのすべてが、彼女の存在の影響だった。
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主人公は遅れていた。
走っている。
必死に。
だが戦場は、彼を待っていなかった。
「また遅れてる」
背後から声がした。
振り返ると、彼女がそこにいた。
まるで“移動した”のではなく、
最初からそこにいたかのように。
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その瞬間、空気が裂ける。
敵の狙撃。
一発。
明確な殺意の軌道。
それは主人公の胸部に向かっていた。
避けられない。
考える前に、終わる距離。
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だが次の瞬間。
視界が反転した。
彼女が、そこに割り込んでいた。
銃弾は空中で逸れる。
理由はない。
ただ“そこに到達できなかった”という結果だけが残る。
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戦況は一瞬で終わった。
敵部隊は撤退すらできなかった。
戦場そのものが“解かれた”ように崩れていく。
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静寂。
その中で、主人公は立ち尽くしていた。
彼女は彼を見ていない。
ただ前を見ている。
戦場の先を見ているのか、
あるいは何も見ていないのかも分からない。
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「……また遅れてる」
彼女は淡々と言った。
責めているわけではない。
事実の報告だった。
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主人公は拳を握る。
何もできなかった。
守られただけだった。
自分は戦場にいるのに、
戦場に参加できていない。
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そのとき理解する。
彼女は特別ではない。
ただ“異常に完成されている”だけだ。
戦場に最適化された存在。
それ以上でも以下でもない。
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帰還命令が出る。
部隊は移動を開始する。
彼女はすでに歩き出していた。
誰よりも早く。
誰よりも正確に。
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主人公はその背中を見ながら誓う。
——いつか。
いつか必ず。
守られる側じゃなくなる。




