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片翼の堕天使  作者: ハオ
10/12

第10話「真実」

戦場は、もはや戦場ではなかった。


それは“検証空間”に近いものへ変質していた。


敵は戦うのではない。


理解し、崩し、最適化する。



量産型天使兵はすでに限界を迎えていた。


戦線は押し返されている。


いや、正確には——


“押し返され続けている”。


じわじわと、確実に。



敵軍は学習していた。


彼女という現象の“再現物”ではなく、

その外側にある構造そのものを。



「戦術モデル更新完了」


「対象の予測誤差、収束」



もはや量産型は意味を持たない。


戦場は“模倣”を拒絶している。



主人公はその中にいた。


後方。


だがもはや安全な場所ではない。



(このままじゃ、全部終わる)



理解している。


この戦争は“負ける側”に傾いている。



そして、その理由も。



彼女だ。



いや、正確には——


彼女が“分解された結果”だ。



軍は彼女を解析した。


敵も解析した。


そして両方が同じ結論に至った。



“彼女は個体ではない”



現象。


構造。


戦場そのものの歪み。



量産型はその“断片”にすぎない。



そして今。


敵はそのさらに奥に触れている。



「追加解析」


「未登録戦闘ログ発見」



スクリーンが切り替わる。



そこには“本来記録されていない戦闘”が映っていた。



彼女が単独で戦っていたはずの時間。


だがその動きは違う。



誰かがいる。



彼女の隣に。



主人公は息を止める。



(……俺?)



映像は不完全だった。


だが確かにそこに“影”がある。



彼女の判断に干渉している存在。


戦場の揺らぎの中心。



それが——


主人公だった。



「観測不能領域あり」


「記録欠損ではなく“非記録領域”」



司令部は沈黙する。



そこは、戦場として成立していない。



“存在しなかったことにされている戦闘”。



主人公は気づく。



(俺は……そこにいた)



だが思い出せない。



思い出そうとすると、

周囲が消えていく。



戦場の音。


彼女の声。


空気の重さ。



すべてが抜け落ちる。



残るのはただ一つ。



名前。



彼女の名前だけは、確かにそこにある。



それだけは、消えない。



その事実が、逆に恐ろしい。



なぜなら——



他が消えるほど、

その“名前”だけが浮かび上がっていくからだ。



司令部は結論を出す。



「彼女の再定義が必要」


「戦力としてではなく、構造体として扱う」



つまり。



彼女はもう“個体”ではない。



戦争の中核。


戦場の演算そのもの。



そして同時に——



主人公は理解する。



(俺は、それに“触れられる唯一の存在”だ)



だから記憶が削れる。


だから戦えば壊れる。



彼女に近づくほど、

世界が減っていく。



戦場が再び動き出す。



敵はさらに強くなる。


もう“量産型”では止められない。



そして軍は決断する。



「本体接触フェーズへ移行」



それは、最後の段階だった。



彼女そのものに触れる戦争。



そして同時に。



主人公が“使われる側”から、

“使う側”へ強制的に移る瞬間。



(もう逃げられない)



彼は理解する。



この戦争は、

終わらせるためではない。



“彼女を正しく扱うため”に続いている。



そしてその正しさの代償が——



彼の崩壊だ。


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