朝、花咲く大地を踏みしめて──
私はどこから来て、どこへ行くのだろう──
そんな、ありふれた、誰でも一度は考えたことのあることを、考えはじめただけで夜は眠られなくなる。
私は、誰?
なぜ、世界に私が存在するの?
そして、どこへ行くのか──
この世は絶望に満ちている。
存在しているだけでそうなのに、今年の夏はあまりにも長かった。
スイッチを切り替えたように冬が来た。
ロボットの操縦席から世界を見るように、私はただ黙って、傍観するように、世界が緩やかに変化していくのを引き止めようと願いながらも手を伸ばす。この世界で私にできることは、それだけだった。
行かないで、世界──
ずっとあのまま、あの場所にいて
小さな花が咲き乱れていた、あの丘に
笑顔で立っていた、オーバーオールの少女
彼女が見ていた世界はもっと──
ずっと、美しかったはずよ?
4リットルのウイスキーを20日で飲み尽くす生活の中で、私はもはや、眠ることにしか救いを見いだせない。
いつか王子様が、白馬に乗って、私をどこかへ連れ出してくれるだなんて、そんな子どもじみた妄想は、くだらないとしか思えなくなっている。
もし、このまま死ねたなら──
それが最後の救いになるのだろうか?
朝、目覚めると、花咲く大地に自分が寝ていたら──
風邪をひくだろうか?
それとも──
白い風が吹き抜けていった。
虹色の角の立派なユニコーンの背に跨って、彼が微笑んでいた。
一目見て、私にはわかった。これは悪魔だ。遂に、悪魔が私を唆しにやって来たのだ。
それでもよかった。
「おいで」
彼の綺麗な口元が、笑った。
「あの場所へ連れていってあげるよ」
不自然に白い、整った彼の歯並びを見つめながら、私は立ち上がる。
そして彼の手を取り、彼の背中に捕まって乗ると、白いユニコーンは絹の上を走るように、音も立てずに走りだした。
ほんとうに──連れていってくれるのだろうか?
何も考えなくてよかった、あの場所へ──
キラキラと輝く風が私たちを取り巻いて、後ろへ流れていった。




