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狐に嫁入り~恋愛成就を願ったら、神さまに求婚されました~  作者: 遠野まさみ


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神さまと交際!?(2)

その言葉に周りの女子社員が悲鳴を上げた。光月も内心、別の意味の悲鳴を上げる。

「いっ、許嫁え!?」

「えっ? 竹村さん、今までそんなこと、ひと言も言わなかったじゃない!! 竹村さんって、実はどこぞのお嬢さま!?」

「どういうこと!? どういうこと!?」

わあわあとわめく人だかりからの質問に、違うの違うの! と光月は弁解する。

「振られ続けてた私を憐れんだ父が、お酒の勢いでそんなこと言っちゃっただけ! 全然本気の話じゃないの!!」

本当は沢口の話だったが、この場を乗り切るために活用させてもらった。人だかりの面々は、なあんだ、お酒の席の話だったの、と幾分テンションが落ち着く。しかし弧之善を取り巻くざわめきはそのままだ。

「取り敢えず、迎えに来てもらってるし、今日はおにーさんと一緒に帰るわ。蒼依、ごめん! また明日!」

蒼依の驚きの眼差しもなんとか説き伏せて、光月は弧之善たちを連れてオフィスビルから脱出した。ずんずんと腕を引っ張って会社のビルが見えないところまで来ると、くるっと弧之善を振り向いて、眉を吊り上げた。

「もうっ! 確かに弧之善様を好きになれるかどうか試してみようとは言いましたけど、みんなに対して許嫁宣言はないと思います! っていうか、私はまだ、弧之善様に恨みを持ってますからね! そこんとこ、分かっててください! それから、そのカッコ、どうしたんですか? 弧之善様、洋服なんて持ってたの?」

光月の言葉に弧之善は、ふふふ、と手を口許に充てて笑みを浮かべた。笑う時に口許を隠すなんて、やっぱり昔の人だなあ、などと思う。

「城を落とすならまず外堀から、と言うではないか。私の所為で辛い思いをさせてしまった光月殿に、少しでも喜んで貰いたいと思って、村人の装いを真似てみたのだ。今はこのような軽装が一般的なのだろうか? 少し気分が変わってよいな。今という時代を生きている気がするぞ」

あー、だからシンプルなTシャツにデニムなのか。村のおじいちゃんたちを真似た服装が、こんなにも高級ブランドに見えるあたり、洋服はデザインではなく着る人なのだなあと痛感する。

「しかし、あそこには多くの人が居て驚いたぞ。月湧の何倍の人数だっただろうか。まあしかし、光月殿はその中でも一番輝いていたがな」

十把一絡げの凡人である光月を輝いていると評するのは、きっと弧之善くらいだろう。でも、未だかつて言われたことのない台詞で、光月は照れつつも気をよくした。

「うーん、恨みは忘れてないけど、そんな風に言ってくださってありがとうございます。なんか嬉しい」

「光月殿が喜んでくれるなら、いくらでも言おう」

そう言って煌めく光の粉を飛ばしながらやわらかく微笑む弧之善にどきどきしながらも、それだと言葉が軽くなりますからね? と光月はくぎを刺した。本当は、この顔面でそんなことを言われ続けたら、自分が簡単に折れてしまいそうな気がしたから、っていうのは内緒だ。弧之善は、そういうものか、と光月の言葉を真面目に受けて、了承した、と頷いた。

殊勝な様子で頷いた弧之善に、胸をなでおろす。おだてられ続けて、弧之善の悪行の報いも受けさせないままにほいほいと祭り上げられて交際、なんてことになりたくないし、もし仮に弧之善が本当に光月を嫁に欲しいと思っているなら、それと同じくらい光月が弧之善のことを好きにならなければだめだと思う。そうなるにはまず、弧之善の罪を償ってもらわなければならない。光月が自分で自分に自信が持てるようになったら、その時には弧之善とのことを真面目に考えても良いと思っている。何故なら。

(だってだって!! こんなイケメンが私を好きなんて、もう金輪際ないかもしれないんだもん!!)

……まあ、人の印象は八割が視覚情報だと言うから、仕方ないことなのである。

そんなわけで、改めて帰路に就こうとした時、弧之善がいきなり光月の手を握った。大きな手。光月の手なんてすっぽり包んでしまう。

「ふぁ!? な、なななんですか!? 急に!?」

驚きすぎてパッと手を振り解くと、弧之善が前を歩く二人のカップルを指さす。

「ほら、あそこの睦まじい男女を見よ、光月殿。二人で手をつないで歩いているではないか。手を繋ぐなど、童と母親がすることかと思っていたが、今は違うのだな」

言われてみれば、寂れた月湧村の住人達は年かさもいっていて、手を繋ぐことなんてしない。山すその小さな村では、子供は大学進学と同時に都会へ出てしまうし、Uターンして新しい家族と月湧で暮らすような奇特な人はいなかった。自然、カップルが自然に行う行動のあれこれを、弧之善は村が寂れ始めてからアップデートできないままで生きてきた。そういうギャップの中に、いま弧之善は居るのだな、と感じた。それにしたってしかし。

「いやあ、付き合ってもいないのに手を繋ぐとか、どうなのかなあ?」

零した光月の呟きに、弧之善は即座に反応する。

「いっそ、恋人の真似事をしてみぬか、光月殿。恋には頭で考えるより心で感じることが肝要。光月殿にも私への恋心をはぐくんで欲しい」

「えっ、弧之善様、私の恋路を邪魔してきた反省はどこへ?」

「反省しているからこそ、光月殿を幸せにしたい。私では役不足であろうか……?」

しゅん、と垂れた耳が見えるようだ。それだけで恨みを許してしまいそうになっているのに、更に背後から物騒な声もかかる。

「お前、弧之善様がこのように仰ってくださってるのを、ありがたく思えよ。弧之善様への不敬は許さねーからな。なんなら喉笛掻っ切るぞ」

煌だった。煌は牙をむき出しにしそうな勢いで光月を睨んでいる。更に弧之善への援護射撃は続く。

「弧之善様の想いが叶えば、月湧村もまた栄えるでしょう。これは人助けでもありますよ」

こちらは穏やかな微笑みを浮かべた瑛。弧之善の傍に影武者のように傍に侍る二人も、弧之善と同じようにラフないで立ちながら、実にファッション誌のストリートスナップから抜け出てきたような雰囲気だ。イケメン強い。しかし、その論に飲まれるわけにはいかない。

「そんなことしなくてもいいように、今、考え中です。要するに、月湧にひとけが戻ればいいんでしょう?」

光月の言葉に、やや目をみはった弧之善が次の言葉を待っている。光月は続けた。

「今年の村祭りの集客の目玉を作ろうと思ってるんです。それをきっかけに月湧に少しでも観光客の人が来てくれるようになったら、弧之善様の恋に頼らず村を元気づけられるでしょ。まずはそこからスタートしないと」

村の過疎対策と光月の恋を一緒にしてるからいけないのだ。過疎対策は過疎対策として策を打ち、それとは別に、光月が弧之善を好きになれるかどうか、という事だと思う。そうでないと、光月が村の犠牲になる形のままだ。

光月がそう言うと、弧之善はなるほど、と頷いて、ならば私も協力したい、と申し出てきた。

「月湧村は私そのもの。そこに心を尽くしてくれる光月殿を、ありがたいと思っている」

微笑む弧之善が、私そのもの、と言って一度胸に手を当てて目を伏せると、次に慈愛の瞳で光月を見る。ああ、弧之善はこの目で村を見守って来たのか。振り返ってくれない村人を、それでも粘り強く支え続けて。

光月も月湧が好きだから、弧之善の気持ちが少し分かるような気がする。好きだから、自分そのものだから、消えて欲しくない。そういう気持ちは、弧之善と共有できるな、と思った。

思いを共有したことで、気持ちよく並んで帰ろうとすると、駅前で結構化粧がケバめな、派手な女性三人組と出会った。彼女たちはこちらを見て目を開くと、何かを三人で相談した後、その中の一人がこちらに寄って来た。

「おにーさん、めちゃくちゃカッコいいじゃないですか。私たち、これから飲みに行こうって言ってるんですけど、一緒に行きません?」

ぎゃ、逆ナン!! 初めて遭遇したけど、弧之善様たちの見た目に惹かれるのは分かる気がする!!

光月がびっくりしていると、弧之善は言い寄って来た女の人に冷たい目を向けると、光月の肩をぐっと抱いた。急に体温が近くなって、心臓が跳ねる。

「光月殿が目に入っていないのか。私はおぬしたちの軽薄な心よりも、光月殿の純真な心を好く。分かったら即座にね」

女の人は一瞬、鳩が豆鉄砲くらったような顔をして、それから顔を赤くして怒った。

「はっ! こんなチンチクリン捕まえて満足するような男、こっちから願い下げだわ。行こ行こ」

三人組はそう言って去って行った。光月は弧之善に肩を抱かれたまま、女の人が言った言葉を反芻する。

(そうかあ。普通に見て、私みたいなド平凡な女が美の塊の弧之善様と一緒に居るのは、釣り合わなく見えて当然なのか……)

蒼依しか見て居なかった文庫の君を思い出して、ちょっとしゅんとする。

俯いた光月に弧之善が気付いてくれる。どうしたのだ、と問う弧之善に、なんでもないですと苦笑する。

「何でもないようには見えぬ。光月殿の心を曇らせることがあるなら、私はそれを払いたい」

「……、……今わかったんですけど。……っていうか、最初に煌さんにも言われてたけど、そもそも私って、弧之善様や煌さん、瑛さんと違って、ただの人間ですし、なんの特徴もない女ですよ……? 蒼依みたいにきれいじゃないし、あの女の人も言ってましたけど、こんな平凡な私じゃあ、弧之善様には相応しいって、みんなが思いませんよ……」

まだ弧之善のことを好きだとは思っていなかったが、こうもあからさまに否定されると一応傷付くわけである。弧之善が口の端を引き上げた。

「それだと光月殿は私に対して少しは好意を持ってくれているのか、と期待するな」

は? この神さま、自分の都合のいい所だけ聞いてるな?

「違いますよ! そもそも釣り合わないんじゃないか、って話の方です!」

光月が噛みつくと、なんだ残念、と弧之善は全然残念じゃなさそうに笑った。ううむ、こういうのが余裕ってやつなのかな。

しかし、自分で言っておいてなんだが、そもそもずっと生きてきた弧之善と光月とでは、人生経験なんかも比べ物にならないくらいに釣り合わないんだろうな。弧之善にしてみれば、ほんのこの前生まれたばかりの人間だと思うのに、そんなちっぽけな人間に、なにうつつ抜かして仕事疎かにしてんだか。

光月は半分呆れながら、三人と歩いて行った。



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