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狐に嫁入り~恋愛成就を願ったら、神さまに求婚されました~  作者: 遠野まさみ


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神さまからの求婚!?(4)

「使命……?」

神さまの使命、というものがピンとこずにおうむ返しすると、瑛が、願い事のことだよ、と柔和な顔で言った。

えっ、願い事は勿論、次の恋が成就することだ。でもその願いは弧之善によってゆがめられている。だったら、それ以外の……?

「えっ、でも、一番のお願いを聞いてもらえない時点で、使命を果たしてないも同然じゃない?」

二十七年もの間、どんな異性にも見向きもされず、寂しい思いをしてきた。小学校の友達の顔がそばかすだらけだった奈津子ちゃんにだって、仲のいい男の子が出来たというのに。

「色々落ち込んだのに……。人並み以下の見た目だからだとか、笑い方が良くないんじゃないかとか、くせっ毛なのが女らしくないんだとか、あとは……、ええと……」

兎に角、いっぱい自分を責めた。そう言おうとしたら弧之善が、そんなことはない、と低くてきっぱりとした声で言った。

「光月殿は、美しい。笑った顔は、より可愛い。光月殿が生まれてからずっと見てきた私が言うのだから、間違いない」

え……っ。

初めて自分という女性を認めてもらった瞬間。今まで誰も振り向いてくれなかった、光月という人間を認めてもらえた。

「……って、貴方の所為なんでしょ! そんな告白なんかに騙されないんだから!」

そう言ったら、煌が鋭い目つきを光月に寄越した。

「ああ? 勝手な事言ってんじゃねーよ。お前がどんだけ今まで神頼みしてきたか、こっちは知ってるんだよ。都合の良い時だけ神頼みして、いざ神様が邪魔だとなったら拒絶するって、そんなこと、お前が生まれてからずっと見守って来た弧之善様に言えることか? ああん?」

だから俺は、こんな小娘、弧之善様には似合いませんよって言ったのに。煌は不満層にそう言った。

そう言えば、受験や就活の時には願掛けに来たっけ。祖父母が信心深かいから、年始の健康のお願いも此処でしたし。それにしたって、神様が願いを叶えるどころか邪魔をするなんて、やっぱり前代未聞では?

「だって本人だって認めてるじゃない、悪いことしたって。それに私、本当に男の人と恋をしたことがなくて……」

思い出すに悲しい失恋の連続。その時々の哀れな気持ちが蘇ってきて項垂れそうになったところで光月の言葉を継いだのは、瑛だった。

「異性に好かれない代わりに、男女問わず友達には恵まれたでしょ? それって、弧之善様の愛情だと思わない? 流行りの疫病にも罹らず……、いや、ただの風邪だって罹患せずに過ごせてるのは、神様が見守っていてくれたからだとは思わない? それに、さっきの事故だって、弧之善様が走らせた子狐を見たから君の歩みが止まって、事故に遭わずに済んだでしょう?」

そう言えば、光月の自慢は健康なことだった。学生時代は皆勤賞で、保健室とも縁がなかった。就職してからも頭痛や生理痛に悩まされることなく、有休は旅行の時にしか使っていない。それに、さっきの子狐のことを言い出すなんて、やっぱり何か守ってくれているのだろうか。でもまさか、自分にそんなことが……?

「光月殿が誰かと番うこと以外の各方面については、心を尽くさせもらったよ」

深々と頭を下げる弧之善様もそんなことを言う。……じゃあ逆に、二十七年間分を感謝しなければいけない?

「そんな些細なことは、良いのだ」

弧之善はそう言うが、二十七年間一度も病気怪我事故無く、異性以外での人間関係も良好、進路も希望通りの学校・会社に通えてるこの人生を助けてくれたのが弧之善だとしたら、それはそれで感謝しなくてはならないことのような……。

「え……っと、あの……、……色々と、ありがとうございます……」

「礼など、良いのだ」

弧之善様は首を振るが、お礼を言わずにはいられなかった。

「そうは言っても、本当に色々してくださったようなので、それを無碍になんて、出来ませんよ」

「違うのだ。感謝しなければならないのは私の方なのだよ、光月殿」

「えっ?」

どういうことだろう。光月は弧之善に何かしたわけじゃないし、勿論番う話も受けていない。

「私たちは呼ばれて応じるだけの存在だから、何かに『捕らわれる』ということはなかったのだ。人のように言えば、自分の心を持った、とでも言うのか、そういう新しい感覚を教えてくれ光月殿には感謝しているのだよ」

心を持った……。それはつまり、これまでは何事にも執着せず、淡々と時間を歩んできた弧之善のことを光月に知らせていた。

……神さまって、全て満たされているのかと思いきや、寂しい所もあるんだな。

人間に当たり前のように与えられている、恋情、愛情。それが全て抜け落ちている存在の神様。それは長い時間を生きていくために必要なことかもしれないけれど、それ故、その長い時間はつまらないものだろうと思う。

「……私が、弧之善さま以外と恋愛することは、本当に不可能なの……?」

「申し訳ない。光月殿が私の求婚を受け入れてくれたら、全て丸く収まるのだが……」

無理難題振って来たな!?

「会って間もない人の求婚を受け入れたら、それこそ愛情疑いませんか!?」

光月の困惑に、弧之善は微笑んで、それでも良いのだ、と応える。

「光月殿のこれからの時間を、私にもらえたら、後は何も贅沢は言わぬと誓おう」

もともと神は、人の願望を受け入れるものだから。

そう言って嬉しそうに目を細める。でもそれって、契約結婚の偽装夫婦みたいで、なんか嫌だ。

「……私だったら、好きになった相手には、好きになって欲しいって思うけど、神さまはそうじゃないってこと?」

「そもそも神とは、人の為にあるもの。だから、自分の為の『なにか』というものを持っていないのだ。光月殿は私に『友達』として接してくれた。私は幼き光月殿から『友情』をもらったのだ」

じゃあ、友達で良くない? 結婚する必要なくない?

光月の疑問が顔に出たのか、弧之善はふふ、と微笑んだ。

「カラカラに干からびていた畑に、光月殿の『友情』はあっという間に染みわたったよ。乾いていたことを理解していなかった私が、光月殿の友情という呼び水に、もっともっとと思ってしまうことは、いけないことだっただろうか。私に、是非、光月殿を幸せにする使命を貰いたい」

「欲深神さまって、聞いたことない……」

光月がぽつりと呟くと、弧之善は流石狐と言わんばかりに、見えない耳をしゅんと垂らした。もともとコンちゃんと遊んでいただけあって、光月は家で飼えなかった動物……、つまりモフモフに凄く憧れがあり、ぶっちゃけ大好きだ。そんな、しゅんと気落ちするモフモフの化身、それも規格外のイケメンを前にして、光月がそれ以上弧之善を責めることが出来るわけがなかった。

それに、正直自分に魅力がないと思っていたから、さっきの弧之善の言葉は嬉しかった。理由はどうであれ、光月を女性として認めてくれた、初めての人なのだ。

「うう~ん……、それじゃあ……」

恋路を邪魔された恨みは大きいけど、一方で光月を好きだと言って貰ったという弱みがある。何よりイケメン。光月は折衷案を編み出した。

「私が弧之善様を好きになれるかどうか、一度試してみませんか?」

光月は神さまに対して、そんなことを提案してみた。



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